エピローグ~肯定~
(これは、無限の分岐の続きであり、アンリミテッドブレイドワークスの終章です)
―――会いたい。ハルヒに会いたい。抱きしめたい。キスしたい。一緒にいたい―――。
「…ハルヒに…ハルヒに、会いたい…!」
「…そう」
その声は、何処か満足そうだった。
後ろの女は抱きつくのをやめ、俺の前に歩いて来た。…俺には後姿しか見えないが。
…女って言うより少女だな。背はあまり高くなく、少し灰色の髪にはシャギーが入っている。…何故か、セーラー服を着ている。
その少女が何かを呟いた瞬間、足元から消え始めた。
「…!お、おい!」
「…大丈夫」
消えていくのに反比例するように、俺の記憶がよみがえってきた。
俺の妹の名前も、
俺の高校の名前も、
俺の年齢も、
俺の所属する団の名前も、
その仲間たちの名前も…?
…あれ、何でだ?一人だけ、思い出せない…?。
思い出せないそいつは目の前にいる―――!
もう足まで消えかかっている。
少女は動かない。
名前、名前、出て来い!頼む…!
早くしないと、■■■が!
「今まで…貴方には随分と助けられた」
■■■は振り向かずに言った。
「そして、感情もくれた」
■ガ■はもう腰の辺りまで消えかかっている。
どうでもいい事はほとんど思い出したのに、なんであいつの名前だけ―――!
「そして、私のために情報統合思念体も敵に回しても良い、と言ってくれた」
ナ■■!くそっ!早く、早く…早く!
そうしないと…■■トが!
「…貴方にはとても感謝している」
ナ■トはもう肩まで消えてしまった。
名前!…名前!
「だから言う。…ありがとう」
思い出した。本当に、名前だけど、思い出した
「…ゆき…ユキ…有希!有希!」
有希は―――こちらに振り向いて、
「初めて…名前で…呼んで、くれた…」
と、泣きながら、でも、満面の笑みで、
「ありがとう」
と、もう一度、優しく言った。
―――彼女が消えるその瞬間―――
―――彼女の本名が長門有希だと思い出した―――
「長門!!」
俺はガバッと起き上がった。
「はあ、はぁ、はぁ―――」
息が荒い。付けていた酸素を送るマスクを引っぺがす。
「キョン…?」
そこで、俺を呼ぶ、一番聞きたかった声が聞こえた。
「…ハルヒ…?」
俺のいるベッドの左側。
いつもの様に黄色いカチューシャをつけて、大きな瞳を更に大きく見開いて、恐らく見舞いの花であろう花を変えようとしていた。
「キョン…キョン!」
いきなり抱きついてきた。…いや、抱きついてきてくれた。
「キョン、キョン、キョン…!」
「ハルヒ…」
俺はハルヒと唇を重ねた。
とても懐かしい気がする。
凄く…幸せな気分だった。
「んふぅ、はぁ、ん―――」
いつかの夜のように、お互いの唇を貪り、抱きしめあう。
凄く…幸せだ。
俺がハルヒの胸に手を置こうとしたところで、
「あの~、そろそろ、止めていただけると…」
朝比奈さんが声をかけた。…顔を真っ赤にしている。
「あー…うん。離れようか、とりあえず」
「う、うん…」
俺もハルヒも顔を真っ赤にしている。…いやあ、やっぱりハルヒは顔の赤いほうが可愛いなあ…。
「えーと…お恥ずかしいところをお見せしまして…すいません、朝比奈さん」
「いえ…それより」
朝比奈さんはニッコリと笑って、言ってくれた。
「お帰りなさい、キョン君」
俺は、
「ええ。ただ今戻りました」
と答えた。
それからしばらく、三人で色々と話をした。
俺があの最後の戦いから二週間寝続けたこと。
この間行われたテストがやたらと簡単だったこと。
そして、
「…え?古泉が最近学校に来てない?」
この報告が一番驚いた。
「うん。学校側にも連絡来てないんだって」
「団活にも来ないんですよ」
「ふーむ…」
閉鎖空間でなんかあった、とか?
ピリリリリ…ピリリリリ…ピリリリリ…ピッ。
「もしもし?」
『やあ、どうも。古泉です』
「おお、久しぶりだな」
『ええ、ご無沙汰しております』
「お前どうしたんだ?最近学校に来てないそうじゃないか」
『いやあ、実はちょっとバイトでヘマをしましてね…』
「ヘマ?…お前が?」
『ええ…僕の身勝手な理由で涼宮さんの機嫌を損ねましてね…。閉鎖空間が生まれてしまったんです』
「…それだけ?」
『…実は、その閉鎖空間で何人もの仲間が亡くなりまして…』
「…?いや、嫌な言い方だがそんなの機関にとって日常茶飯事だろ?その度に閉鎖空間の原因作ったやつ咎めてたらきりないぜ?」
『まだあるんですよ。ヘマ』
「………」
『そのことに関して僕を咎めた森さんを殴り飛ばして、重体にしてしまったんですよ』
『それで、機関のほうから[オトシマエ]をつけろ、と言われまして』
「…!オトシマエってまさか…!」
『ええ、要は死ねってことです』
「おい!」
『で、最後に未練は無いかと言われ、こうして電話をしているわけです』
「古泉、今どこだ!どこにいる!」
『では、そろそろ時間なので、おいとまいたします』
「古泉!!」
『中々、楽しかったですよ』
ピッ。
「は?子供が出来た?」
「うん…」
俺は目が覚めたあの日から驚異的な回復力を見せ、三日後には退院していた。
そして、今ハルヒの家にいる。
「あの夜ので…出来ちゃった」
で、超サプライズニュースを聞いたってワケ。
「そうか…」
ハルヒと俺の子供か…。
「そのこと、両親には?」
「まだ、言ってない…」
ふうむ…。そっか。
「じゃあ、土下座の練習でもしとくか」
「え?」
「これからお前のこと貰いに、ハルヒの両親に頭下げなきゃいけないだろ?」
それから十年が過ぎた。
生まれた子は女の子だった。
少し背が低くて、シャギーが入った髪をしている。
趣味は読書。
名前は、有希。
「ちょっとキョン!休みの日ぐらい有希と遊んであげてよ!」
きっと長門が情報操作でもしたのだろう…。俺以外に、長門のことを知っているやつは誰一人としていなくなっていた。
そして、朝比奈さんは未来に帰った。まあ、月に一回か二回遊びに来るけど。
古泉は『行方不明』となっている。…生きてて欲しいがな。
そして、俺はハルヒと結婚した。色々と反対の声もあったが…まあ、そこはゴリ押しだったな。
「聞いてるの?キョン」
「…ママ、お父さん、疲れてる」
「有希、遠慮なんかしなくて良いのよ?」
「…でも…」
有希はいい子に育ってくれている。
無口だが、自分の意見はちゃんと言う。
「…有希、出掛けようか」
父親は、そんな子にはちゃんと応えなきゃな。
「お父さん…いいの?」
「ああ、構わん」
俺は有希の手をとって、玄関へと向かう。
「…どこ行くの?」
「そうだな。……まあ、とりあえず」
「図書館、かな」
Fin
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