無限の輪舞(ロンド)Ⅰ
(アンリミテッドブレイドワークスの一つです)
―――、紅い荒野に人影三つ―――
「ぐっ―――!」
―――、一人が人で二人が情報―――
「「防戦一方だね、お兄さん♪」」
―――、一人の腕には双剣が―――
「っは、はぁはぁ…っだあ!」
―――、二人はそれぞれ片手に太刀を―――
「「あはははは!息も絶え絶えじゃないか!」」
―――、そして終焉は来たる―――
「「やあっ!」」
目の前から双子(という設定で今まで過ごしていた待機モードの)急進派兄弟は同時に振り下ろす形で白銀の刃を俺に振るった。
「っぐ!」
それを、愛双刀干将莫耶を顔の前で交差させて防ぐ。
カキーーーン!
「「もう終わりだよ、お兄さん。最初から二対一なんかで勝てるわけ無かったんだよ」」
まだ年端もいかないように見える容姿、しかし剣戟はとても重い。
「ったく、言うじゃないか…。うちの妹もこれくらい饒舌なら兄として文句も無いんだがな…」
ギリギリ、と剣同士のこすれあう音。…くそ、限界が近いな。
「「でもまあ、人間にしては頑張ったほうなんじゃない?他の人間とやりあったこと無いけどそう思うよ」」
ギリギリ。
「そりゃどうも…」
もって後三十秒か…。
だが―――。
「でもまあ、簡単なことだよな」
―――三十秒時間稼ぎすれば、きっと助かるはずだ。
何故なら今回は―――。
「「…?何がだい?」」
俺の発言を不思議に思う双子。
「二対一の状況を覆す方法さ」
残り、二十秒程度―――。
「「…そんなの片方を倒して一対一に持ち込むって答えに決まってるじゃないか。まあ、今回は多分出来ないだろうケド」」
正論。
「概ね正解だ。…多少間違っているがな」
そこまで言ったところで双子の後ろに小さな人影が見えた。…うん、計画通り。
「「どこが間違ってるの?」」
「簡単な話だ」
一呼吸置いて、
「俺なら、一対一ではなく―――」
その人影はすでに斧を振りかざし―――。
「―――二対一に逆転する…!」
「?…っぎゃぁぁぁあ!」
「!?」
振り下ろされた斧は片方の頭を吹き飛ばした。勿論、今度ばかりは言葉が重なりはしない。
そして俺の負担も軽くなった…片手で防げるくらいに。
ならば、もう片手は攻撃に―――。
ザシュッッッ!!
「うぎゃあああああ!」
片方に引き続きもう片方も首が飛んだ。…そりゃ余所見なんかしてりゃあなぁ…。
最早日本語には聞こえない断末魔をあげる双子を見ながら、
「あんたらのしゃべり方はまあ、妹に授けてやりたいぐらいだが…それでも、あいつは目の前の危機から眼を逸らしはしないだろうな。単純だし」
そこで、最後の最後の一かけらが砂になり、双子は消えた。
「…まあ、何にせよ」
俺は目線を前に向けて、
「アリガト、長門」
と言った。
もう何回来たのかも判らないが、俺は長門の家にお邪魔していた。
長門は二人分入れた緑茶のひとつを飲んでいた。
さて、俺はといえば、机に突っ伏していた。
「つ…疲れた…」
情けなくも力が入らないし、泣き言を吐いていたのだが、長門は何も言わなかった。
「全く、このところどんどん来襲の期間が短くなってきやがる…俺の精神力が回復するのが追いつかん…。俺にはメーデーとか勤労感謝の日とかないのか…」
愚痴るように言葉をつむぐ。…つーか、事実、愚痴っている。
それに対して、長門は、
「そう」
とだけ言った。
「…冷たいなぁ」
「…私の回答としては、良くあること」
「…一般的な回答としては…良くないと思うぞ…」
「…そう」
俺はテーブルに頭を乗っけたまま喋り、長門は正座したまま話を聞く。
まあ、何回もこのシチュエーションは過ごしてるけど、嫌いじゃない。
長門が泪を流したあの日から、俺は長門と一緒にあいつらを倒している。
長門なりの恩返し…らしいが、恩返ししたいのは俺のほうなんだよなぁ…。日ごろからお世話になってるし。
まあ、それでも大いに助かっているので何も言うまい。
長門のマンションを出てすぐに、
「「あ」」
…ハルヒと出くわした。…最悪だ。
「………」
えーと…。
「…あのな、ハル」
「キョン」
言葉を遮られた。
「何で有希の家から出て来たの?この間といい今日といい、やっぱりキョンは有希のことが好きなの?」
うつむきながら聞くハルヒ。
「…ライクならイエス。だがラブならノー、だ」
「嘘」
うつむいたまま即答…と言うか反射するハルヒ。…くそ、逆光でハルヒの輪郭がやけにはっきりしやがる。
「この間ここで抱き合ったてたのもそうなんでしょ…?ごめんね、迷惑だったでしょ?私みたいな有希みたいにおしとやかじゃない女の子相手してて…」
おいおい!何を勘違い…するよな、こんな状況じゃ…。
だがな、
「それは違う!」
俺は―――叫んだ。
「え…?」
「確かに俺は今長門の家から出てきたが、バイトのことで話があったからだし、この間のあれも長門が説明したことが十全だ!」
抱き寄せて、
「でもやっぱ、誤解されちまうようなことやった俺が悪いんだろう…。だから、謝るよ。…ごめんな、ハルヒ」
背中に手を回して、
「キョン…信じて…いいの…?」
泣き声交じりの声聞いて、
「勿論だ」
背中に手を回されて、
「キョン…」
少しばかり泣き崩れてもやっぱり愛おしい彼女を顔を見たら、
「ハルヒ…」
近づく顔は止められなくて、
「…ん…」
現実世界で初めてキスをした。
「ん…ふぅ…はぁ…んむ」
それは初めてなのにどこまでも貪るよう深くて、
「んん…はっ」
離した唇をつなぐ銀の糸がやたらと光ってて、
とろけた瞳のハルヒを見たら、
背中の手が強く愛おしくハルヒを抱いていた。
そして―――
「…今日、うちの親出掛けてていないの…。だから…あたしんち、来る…?」
朝が来た。
「…ふあ」
とりあえずあくびをする。…うう、眠い…昨日は頑張りすぎたかな…。
時刻は七時。昨日寝たのは三時ごろだったから…四時間寝たわけか。
さて、とりあえず何をしようかと考えていると、背中のほうで何かが動く気配がした。
…まあ、ハルヒしかいないんだけどな。
「…おはよう、ハルヒ」
とりあえず挨拶。当たり前だ。
「…バカ」
とりあえず罵声。当たり前か?
「…バカって何でだよ」
俺、何かしたっけ?昨日。
「…イケナイ太陽」
ABC続かない?…ああ、いや、
「アツく奥で果てた…いたたた!!」
せ、背中をつねるな!
「うるさい、歌うなバカ!」
まあ、歌ったのは謝るが…。
「あれはハルヒがそうしろって言ったから…」
そうだ。珍しく『お願い』なんてつけてまで
「あれは、その…その場のアレで…」
その場の雰囲気で子供をねぇ…。
「うるさい!何にせよ出したあんたが悪いのよ!」
と言って背中を叩くハルヒ。…本能に文句つけられても困る。
「とにかく、出来たらちゃんと責任取りなさいよね!」
はいはい。…つーかハルヒ、子供は作るもんじゃなくて授かるもんだぞ?
まあ、責任なんざいくらでも取るけどな。
「数Ⅱ?」
「英語だけど…」
「ああ、そうだった」
これは俺と国木田の会話。お題『次の授業は何だっけ?』
「ハンドボール投げ?」
「いや、50m走だ」
「そうだったか」
これは俺と谷口の会話。お題『スポーツテスト、次の種目なんだっけ?』
「えーと…付き合ってから半年?」
「…七ヶ月」
「…スマン」
「…許さない、罰金」
これは、俺とハルヒの会話。お題『明日は何記念日?』
……いよいよヤバイな…。
俺の精神力は俺の人格とイコールで結ぶことが出来るし、むしろそれ以外ではどうしようも表せない。つまり、俺の記憶力とも密接に関係している。精神力が大幅に減っているとき、俺の記憶は恐ろしくあいまいになる。精神力は寝たりすればある程度は回復するが、失った記憶を取り戻せる確証はどこにもない。
さらに、これまた恐ろしいことに最近急進派の奴らが来ない。それも、もう一ヶ月近くだ。
ここまでくると、何か不安だな…。
「まあ、いいことではないですか」
と言って古泉は自分のルークを動かした。
「何にも無い普遍性の塊みたいな日々…それこそがあなたの望だったのでしょう?」
俺がナイトを動かす。
「…強がり言うなら収入源がほぼ無くなっちまったって嘆きたいな」
古泉はポーンを動かした。
「強がってもそんな事言わないでくださいよぅ…。私、いつも心配なんですよ?」
朝比奈さんが隣から言ってくれる。ありがとうございます。
「まあ、いつ来てもねじ伏せてやるだけだ…。こんな感じにな」
コトン、とクイーンを動かして。
「チェックメイト、だ」
「…お手上げです」
これでもう何回目の勝負で何勝目なのか忘れちまったが、それでも勝つのは悪くはないだろう。
―――まあ、つまり、俺はこの日常が―――
「!!??」
ガタッッ!!
「…どうしました?」
古泉は少し目を見開いてイキナリ立ち上がった俺を見ていった。
だが、そんなことはどうでも良い…否、どうあっても悪い。
「まさか…来たんですか?」
有り得ない。こんなこと今までなかったのに…否、なかったからこそ有り得るのか。
「答えてください!」
古泉が俺の肩を掴んでいった。
「…ああ、来た」
流石に無視も出来ないが、軽視しか今の俺には出来ない。
「そうですか…では、御武運を」
古泉は俺から手を離してそう言った。
「きょ、キョン君、頑張ってください…」
朝比奈さんがこんなこと言ってよかったのか判らない、といった感じに言ってくれた。
長門は無言だが、あとで援護に来てくれるだろう。
俺は部室を飛び出した。
「あ、キョン!」
途中、ハルヒとすれ違った。
「スマン!ちょっと用事だ!!」
俺はそれだけ言って玄関を目指す。
あの紅の空間へ―――。
早くしないと―――。
手遅れに―――。
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