涼宮ハルヒの深淵 第二話 古泉一樹の溜息
「やはりこちらに来ていましたか」そう言って部室に現れたのは古泉だった。ただし、見慣れた服装じゃなく、立てた襟が二十センチほどある真っ黒のマントをつけていた。もちろん裏地は血のように真っ赤である。いつものにやけた口から牙のようなものが見える。 「その姿からしてお前の付加属性は吸血鬼なんだな」「やはりそうですか、ほんとに困ったものです」全然困ってる表情に見えないんだが、それはまあいい。古泉、間違っても朝比奈さんや長門に噛み付いたりするんじゃないぞ。いや、他の誰でもそんな犯罪じみたこと許可できん。 「その点はご安心ください、確かに喉の渇きは感じていますが、 生血を求めるような衝動には至っていません、 そのかわり、求めてるのはトマトジュースの方なんですよ」そう言って古泉は鞄からトマトジュースの缶を取り出した。「先ほど機関の方に連絡して届けてもらいました、 自分で買いにいければよかったのですが、 どうも太陽の光を直接浴びれない体質になってしまったようでして…」 それはそれは…困ったことだな、て、ことはニンニクや十字架も苦手なのか?「試す気は起きませんが、おそらくそうでしょう、それに、 この現象は涼宮さんの思考や、思想を元に改変されていると思われます。 誰かが傷ついたりするような事を、彼女は望んでいないでしょうからね。 それにしても、ただ吸血鬼の弱点ばかり付加された感じがして、 どうにもやり切れません。 あと、鏡にも映らないのが地味に辛い状況ですね…」 さすがの古泉もいつもの覇気がなくなっていた。それにしても、長門も古泉も二人してダウナーな気を発しているせいか、部室がなんだかお通夜みたいになってるぞ。俺まで釣られて暗くなりそうだ。 さて、この情況を看破するには、マイエンジェル、朝比奈さんの登場を待たねばならないんだが、昼休みにココに来るかどうか解らんし、今頃、鶴屋さんと昼食中なのかもしれんしな。 さてと、俺も弁当を食べながら今後のことを考えるか。 さっき長門に訊いたことによると、ハルヒは現在、睡眠状態らしい。そして夢を見ているそうだ。その夢の世界が何故か現実世界に影響を及ぼしているって寸法だ。って、ことはハルヒが目を覚ましさえすれば、元に戻るはず。そこまでは解っているのだが、いかんせん、そこまでだった。 長門にも古泉にも肝心のハルヒの居場所は感知できなかったそうだ。あと、改変されているのはこの学校の人間だけで、他の人々は元のままだ。ま、ハルヒがこの学校の夢を見ているってことだろうな。なんてはた迷惑な夢だ、起きてる時はもとより、寝てる時でさえ、おとなしくしてられんのかあいつは。
たのむぜ、ハルヒ。そりゃ、夢くらい自由に見てもいいんだが、俺たちを巻き込むなよ。 昼食を食べ終え、長門ですら居場所を特定できないハルヒを探すには、どうすればいいか、てなことを考えてた時である。 突然、ガッシャーンと窓ガラスを割って何かが部室に飛び込んできた。と、同時に長門が俺の前に高速移動、そして高速呪文。その物体が俺にぶつかる直前で透明な壁に当たったように左にそれた。サンキュー長門。しかし、たしか俺の左側に誰かいたはずなんだが、「うわ」「きゃ」古泉の声がしたのは解る、さっきまでそこにいたからな、おーい生きてるか?で、『きゃ』ってのはだれだ? 「だ、だだだ大丈夫ですか」と言って古泉の上にシリモチをついているのは誰であろう、この部室の萌えキャラ兼、俺の目の保養のメイドさま、朝比奈みくるさんだった。「ご、ごめんなさい、まだこの体に慣れてなくて、 私とんでもないことを……、お怪我はありませんか?」 俺は大丈夫だが、と言って朝比奈さんの下敷きになっている吸血鬼もどきを指差した。とはいえ、古泉のことは正直どうでもよかった。それより俺は朝比奈さんの姿に目が点になっていた。 今回の改変世界は共通して頭部はほとんど普通なのである、朝比奈さんも例外なく、いつものかわいらしい表情なのはいいのだが。ついでに言うとプロポーションもさほど変わっていない、では何が変わっているのかというと、はっきり言おう、材質だ。 あのやわらかそうでぽわぽわした感じだった朝比奈さんの首から下の部分が、無機質な金属製で構成されていたのだ。しかもなにやらヒーローロボット風でかっこいいのだ。
つづく
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