涼宮ハルヒの深淵 第一話 長門有希の憂鬱
今の状態がまたとんでもない事になってるのは、今までの経験で解っているのだが……。これはまた、今まで在った中で強烈な状態だ。常識のレベルを遥かに超えている。まったくもって悪夢としか言い様がない。 こんな時は早くあのお方に相談するしかないので、おとなしく昼休みまで待つしかない。 まあ、おおよそ張本人は誰か解っているのだが、なぜか今日はその張本人はまだ出席していない。休みなのか?だとしたら、また長門のエラーか?いや、長門ならもう少しまともな改変世界になるはずだ。このなんともしがたい混沌とした状態はどう考えても涼宮ハルヒのしでかした事だろう。 さて、昼休みになった。早速、文芸部の部室にやってくる、ココの主に相談しなければならないことが山程あるからな。 しかし、部室の扉を開けるのを少し戸惑うことになった。扉に霜がついている……?それになんだ?異様に寒いぞ。中はどうなってる。 「長門、いるのか?」ノックをしながら訊いてみた。「あなたは中に入らないほうがいい」珍しく無言じゃない長門の返事がきた。どういうことだ! 「現在の部室内の温度は氷点下ほど、 今のあなたの服装では適さない環境」おまえは大丈夫なのか?「心地いいくらいの適温として感じている」て、ことはおまえもなんか変な属性が付け加えられてるんだな?「そういうことになる、今の私は雪女という架空の生物である思われる」ユキオンナ……って、駄洒落かよ! あーもう朝からツッコミ入れたくてしょうがなかったんだ、もちろん、この世界すべてだ。と、それは言い過ぎか、この学校内のすべてに言い換えとく。
まず最初に谷口が狼男になっていた。月を見て変身するのかどうかはまだ解らん、頭部はいつもと同じなのだが、体には体毛がびっしり生えていて、手足には肉球があった。最初はコスプレかと思ったんだが、触ってみたら本物だった。
お次は国木田だ。なんか知らんがこいつは忍者になっていた。天井に張り付くな、窓から飛び込んでくるな、手裏剣投げんな、分身するな。
他のクラスメイトも似たような感じだった。角や触覚が生えてたり、目が三つになってたり、耳が異様にとがってたり、肌の色が人類にありえない色だったり、改造人間だったり、下半身が馬だったり、羽や翅が生えてたり、見た目が普通でも超高速で動いたり、すごい怪力だったり、古泉と違ってわかりやすい超能力を使えたり、と、多種多様なお祭り騒ぎ状態だ。
そして担任の岡部先生は二刀流の剣豪のような姿だった。かんべんしてくれ。 「…………」長門は部屋の中で俺の愚痴を黙って聴いていた。ここにきてやっと突っ込みをしまくったからか、少し冷静になれた。「長門、訊いていいか?」「部室内の温度を適温に戻した、もう入ってきても大丈夫、話は中で」そういやもう寒くなくなっていた。それじゃ中に入らせてもらうとするか。 あー、解っているんだ、解っているんだが、やはりここはあえて突っ込みを入れておこう。長門の周り、半径一メートルくらいに雪が降っていた。どういう理屈だ。そして制服以外の姿の長門はこれで何度目くらいだろうか、確か数えれるくらいだったよな。どんな服かといえば、雪女定番の白の着物だ。 色白の肌に白の着物、そして妖しげな雰囲気、ちょっと見とれてしまっていた俺がいる。いや、魅せられていたのか?「なに」声をかけられて我に帰る、そうだった訊きたい事があったんだ。「えーとだな……」話しながら、わざと長門から視線をはずす。 まあ、この騒ぎの原因はやはりハルヒなのだろうってのは大体予想できる。で、俺のクラスに朝倉がいるのはどういうことなんだ?なんか知らんが世界が改変されると朝倉が復活するのが定番か? 「今回の朝倉涼子に関して、情報統合思念体は関与していない、 それに、私と同じインターフェイスを元に改変されてる状態ではなく、 普通の人間を元に改変されている、したがって、 あなたに襲い掛かった記憶すらない状態であるといえる、 よって、あなたに危害を加える可能性はほぼ皆無」 長門がそういうならまあ、そっち方面は安心していていいのだろう。しかし、あの朝倉の姿にはまいった、目のやり場に困る、鬼のような角が生えてるのはまだいいとして、いいのか?虎縞のビキニはありゃなんだ?、どこの星のやつらだ。それに、あの太ももは驚異的な威力……。などと考えてたところで長門の冷ややかな視線に気づいた。やべ、思考を読まれたか? 「それ」と言って長門は俺の頭部を指差した。そっちか、そういや忘れてた。いま、俺はクリスマスの時のトナカイの被り物を着けているんだった。なぜか? というとこれは俺にもよくわからんが俺の席においてあったのだ。谷口や国木田がいうには俺は学校でいつもこれを被っているそうだ。まあ、普段ならこんなもん被るわけないんだが、周りが仮装パーティー状態なので逆にこれを被ってる方が目立たないからだ。
まあ、そういうこともあって今回の馬鹿騒ぎの原因はハルヒである、と俺は確信している。ハルヒぐらいだからな、こんなもの俺に着けさせようとするのは……。 それで、その張本人の団長が今日、来ていないんだが、どこにいる? なにがあってこうなった?そしてどうすればもとにもどる?毎度毎度困ったことになるとお前を頼っちまってすまんが、解るか、長門。 「かまわない、私もこの状態を良く思っていない……」と言って長門は机の上にある一冊の本を見つめた。いつも長門がよく読んでるタイプのハードカバーの分厚い本である。その本が凍り付いていた。 今までどんな状況になっても割と平然としていた長門でも、今回ばかりは困惑しているようだ。いつものように部室で本を読もうとしたが、数ページも読まないうちに持っている本が凍り始めてしまい、ページをめくる事が出来なくなってしまったのだ。その事実を知ったとたん部室の温度が急激に下がってしまったそうだ。 吹雪の舞う部室で、凍り付いて読めなくなってしまった本を片手に持ったまま、暫らく呆然と立ちつくし、その後、ふらふらと椅子に座り、真っ白な灰の様に燃え尽きた長門の姿を想像してしまった。その時の長門の表情は想像できなかったがな。 飼っていた小動物が死んでしまった時のような視線で本を見つめてる長門。そんなにショックだったか……、なら早く元に戻さなきゃな。
挿絵
つづく
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