1.35倍
俺がいつも通りドアを開けると、そこには超能力者と未来人の姿はなく、読書マシーンと化した長門とハルヒが居た。「お前と長門だけか」「あたしたちだけじゃ不満?」いや・・・別に・・・俺がそう言い終わる前にハルヒは告げた「みくるちゃんなら今日は来ないわよ、何か用事があるんだって 古泉くんは・・・知らないわ」「そうか」などと一通りいつもの掛け合いを終え、俺が何気に窓の外を眺めていると、『それ』は不意に訪れた。そして、体に違和感を覚えたときには既に重力に負けて床に突っ伏していた。「キョン、何の練習?文化祭は当分先よ」人がマジに倒れているというのに暢気な奴だ。
そして、俺の体はどうなっちまったんだ、全く動かんふと読書少女のほうに目をやると、ページをめくる手を止め、こちらを見ている。長門が読書を止めるということは俺にとってちょっとした恐怖だった。すると、長門はすっと立ち上がりこちらに近づいてきた、そして耳元でこう囁いた。「非常事態」「あなたの体内に悪性と思われるプログラムが侵入している可能性がある」何だって?俺がまだ状況を理解できずにいると「ちょっとキョン?大丈夫なの?」流石のハルヒも心配し始めたようだ。だが、まだこちらに来る様子はない。そして、俺がこの次に聴いた言葉は幾度か長門の口から聞いたものだった。「対抗処置を施す」この言葉に少し安堵した俺だったが、それはすぐに消えた。なぜなら、長門は俺の腕ではなく、顔の方に自分の口を近づけてきたからだ。
「おい、長門・・・」落ち着け・・・俺は今長門に・・・俺が酷く狼狽していると、ハルヒの怒声が鳴って我に返った。「ちょっと有希!何してんのよ!!」長門はその問いに何も答えず、さらに俺との距離を縮めていく。「有希!?あなたどうかしちゃったの?」「どうしてあなたがキョンにキs・・・そ、そんなことしようとしてるのよっ!?」ハルヒの顔色がみるみる変わっていく。無理もない、俺も同じ気持ちだ。長門はハルヒの方を一瞥すると何かを高速詠唱したかと思うと、視線の先に居た人物は床に崩れ落ちた。「長門、お前・・・」「心配ない、気絶しているだけ」「彼女がわたしの行為を見た場合、予測できない事態が発生する可能性がある」行為!?俺はこれから長門がするであろうことを思い、激しく動揺した。「あなたを助けるため」そう言った長門からは『ハルヒ消失時の長門』のような微々たる感情をほんの少しだけ感じた。刹那、長門の唇の感触を確かに感じたとき、俺の視界はブラックアウトした。
翌日授業を恙無く終え、俺はいつも通り部室に向かった。そこには無言で読書に勤しむ少女が居た。「よお」思っていたとおり無言だがこちらを見たので俺は続ける。「昨日はありがとうな、俺危なかったんだって?」「そう」「でも、なんだ・・・その口に処置する必要があったのか?」「・・・」少しの沈黙、そして「実験的に行った。腕より処置効果が1.35倍高い」「そうか」余りにロジックな意見に俺は肩透かしを食らった気分だった。
・・・
「今のは冗談」
さらに十分な間を空けて言った
「好奇心」Fin
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