遠距離恋愛 第十七章 閉鎖空間
第十七章 閉鎖空間 月も星もない、灰色の空。
がばと跳ね起きて、あたりを見渡す。見覚えの無い灰色のビル街、ホテル。直行する道路。俺はそのど真ん中に仰向けになっていた。 ……閉鎖空間。 やれやれ。 またここに来ちまった。通算3回目……いや、橘のアレも含めると4回目か?いい加減にして貰いたいね。とりあえず、自分の服装を確認する。ブレザー、ネクタイ……って、あれ?これ北高の制服じゃねーか。ああ、そっか、ハルヒは今の高校の制服は知らなかったんだっけか。だから俺今、北高ブレザーなのな。 次に場所の確認だが……ここ、どこ? 以前住んでいた場所じゃない。もちろん、今住んでいるところでもない。あっちにはこんな高いビルとか、こんな豪華なホテルとかはないからな。 豪華なホテル……?? そうか。アレは確か、ハルヒや国木田達が投宿していたホテルだ。古泉が手配したとか言う、ハルヒが打ち上げパーティを開いたホテル。 なるほどな。俺が今、どこに行けばいいか分かったぜ。 ホテルの入り口をくぐり、フロントに向かう。もちろん、対応する人などいないことは分かっている。目標はフロントの中のPC端末だ。アレには、今日行われたパーティのデータがあるはずだ。 4階の「鶴の間」か。早速俺はそこに向かった。 「鶴の間」とやらは、それほど大きな宴会場ではなかった。クラッカーの中身や倒れた紙コップ、テーブルに置かれた食事……だったものが散乱している。いかにもパーティ終了直後って感じだ。 正面に掲げられている大きな垂れ幕に俺は「第一回!SOS団受験終了記念パーティ」とある。 第一回て。アイツの考えることは、一般人たる俺には未だによく分からん。 しかも重大発表だって?何を発表したんだ?ハルヒは古泉とラブラブ?だそうだし、同じ大学へ行くんだろ。多分、長門も同じだろうな。朝比奈さんは……大学は違うけどあの人のことだ、何だかんだで一緒にいるだろう。 ……で、何故俺がまたこんな所に呼ばれなければならんのだ? もうSOS団には俺の居場所は無いってのにさ。 それはともかく、ハルヒが居ないのは何故だ?多分ここだと思っていたんだが。色々と会場内を探し回ってみたものの、ハルヒは見つからなかった。参ったな。 そう思ったとき、胸ポケットの携帯が震えた。聞き慣れたメロディが物音一つしない閉鎖空間に響き渡る。 ……携帯の電源は切っていたはずだが。 着信:涼宮ハルヒ「……もしもし」「……」「ハルヒか?」「……やっと出てくれた」「……ああ」「どうしちゃったの?どうしてパーティに来てくれなかったの?」「……メールした通りさ」「ウソ!だって、発車時刻まで3時間もあったじゃない!」「……」「そんなに佐々木さんとデートしたかったの?まあいいわ。今日は大事な発表があったのよ。それなのに」「ハルヒ。今どこにいる?」「……一番上の階」「スイートルームか」「うん」スイートルーム。各国のVIPや金持ちの芸能人、もしくは新婚さんが泊まる部屋。VIPでも新婚さんでもない俺が、足を踏み入れて良い部屋ではないな。「そうか」「……来てくれないの?アタシ、キョンのこと待ってるんだよ?」「ハルヒ」「……何よ」「何が不満なのかは、今の俺には分からん。だから、今の俺が言えるのはこれだけだ……少しは古泉のことを信用してやれ」「な……」「おめでとう。お幸せに『涼宮』」「キョ」 俺は携帯を切った。それと同時に、強烈なめまいが俺を襲い……
ガタン。 気付くと、夜行列車の簡易ベッドの中だった。時間を確認すると、もう20分もすれば地元の駅に到着するような時間だ。俺は大きく伸びをして、カーテンを開けた。 「おはよう、キョン」向かいのベッドには、既に出発準備を整えた佐々木が腰掛けていた。 「……酷い顔だ。まずは顔を洗って、その涙の跡を消してくることだな。一緒に歩いていたら、僕が誤解されかねない」涙のあと?俺は寝ながら泣いていたのか? 「キミは気付いていないようだが、一晩中うなされていたようだ。おそらくはその名残だと思うけどね。さあ、もうすぐ到着なんだから、早く行った行った!」佐々木に背を押されて、俺はタオルと歯磨きセットを持ったまま廊下に押し出された。 確か昨日は閉鎖空間でハルヒの相手をして……その後は覚えていない。多分、何か夢見が悪かったんだろう。やっとあのことにも整理が付いてきたところだからな。車両備え付けの洗面台の順番を待ちながら、俺はそんなことを考えていた。
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