家出少女
夏休みも中頃にさしかかったある日、俺はいつものように団員全員分の喫茶店代を奢らされた。太陽が照りつける中探索も終わった後、俺は軽くなった財布の代わりに重くなってしまった足を引きずって帰宅した。 晩飯も食い終わり、部屋で一息ついていると玄関からチャイムが鳴る音が聞こえた。誰だ夜遅くに、少なくとも俺には関係ないだろう、いやそうであってくれ。 「はーい、どちらさまですかあー」 一階から妹の声がする。ああ恥ずかしい。何でうちの親は妹に行かせるんだ。誰かは知らんがすみませんね、言っておくけどそいつもう小六になるんですよ。 「わあー、お姉ちゃん久しぶりー」 なに、お姉ちゃんとな。それに久しぶりとは、きっと俺にも面識のある奴と考えて間違いない、だとすると余計に恥ずかしい。俺は読み飽きた漫画を放り投げ、一階に降りた。 「キョン、すまないね」 …ああ、もういいさ。それにお前の頼みとなると断れん、中学のとき散々世話になったからな。ああ、誰がいるのかって?今俺の部屋に佐々木がいるんだよ。 「お前何やってんだ?」 これは今から30分前の俺のセリフだ。 「久しぶりに再会した友人にその言葉はないんじゃないかな」 ククッと独特の笑い声をあげながら、佐々木は続ける。 「急に君の家に訪れた僕も悪かったよ。だが理由を聞いてもらいたい」 「どうしたんだ、また例の奴らに会えなんて言うんじゃないだろうな。いくらお前の頼みでもそれだけはごめんだぜ」 「そういうことではないよ。なに僕個人からの頼みだ」 お前個人の頼み?珍しいこともあるもんだ。俺ができることならやってやるが。 「じゃあ話は早い。しばらくキョンの家に泊めてくれ」 なんだそんなことかよ。遠慮するな、好きなだけ泊まr―――――、は? 「ん、聞こえなかったのかい。僕を君の家に泊めてくれ。実はね──」 佐々木の言うところによると、親と喧嘩して家出してきたらしい。キチンと荷物も持ってきてやがる。だが何で俺なんだ、高校の友達とか中学のときの友達とかの女友達の方がなにかと都合がいいだろうに。 「残念だが、高校にはこんなことを告げることができる友人がいないもんでね、中学も然りだ」 そんなことを言われると断れるはずもなく、佐々木は俺の家に居候することとなった。 そして俺の部屋での会話に戻るわけだ。ああ、何か知らんがうちの親は異常に物わかりがよく佐々木がうちに居候する事になったのに二つ返事でOKを出した。本当にいいのかうちの親よ、逆にウェルカム状態になっていたぞ。 「本当に僕はいい友人をもったよ、キョン」 お前に言われると何か気恥ずかしいね。俺もお前のことはそう思うけどよ。 佐々木は既に晩飯は食ってあると言っていたが、風呂には入ってないらしい。 「佐々木、先に風呂入れよ。うちの家族のことは気にするな」 佐々木はすまない、とだけ残して風呂に行った。 しばらく経っただろうか。やっぱり女の子ってのは風呂が長いんだな。そんなことを考えていると風呂場から声がしてきた。 「どうした佐々木?」 「キョン、すまないが僕の荷物の中から下着と着替えを持ってきてくれないか」 「い、いや、お前いくら何でもそれは問題が…」 「大丈夫だ、今は不問に処しておくよ」 部屋に戻った俺は佐々木の荷物の前に座った、もちろん正座だ。 ジーーッ チャックをあける音が妙に響く。その後のことは割愛させてくれ、恥ずかしすぎて保たん。この暑さは夏の気温のせいだけではないだろう。しかしこれだけは言わせてくれ、佐々木の下着は白だった。 佐々木に着替えを渡した後、しばらく放心していた俺はいつの間にか部屋に戻ってきた佐々木に気が付かなかった。 「キョン、どうしたんだい?僕はいいから君もお風呂に入ったらどうだ」 「……ああ」 くそ、佐々木のことまともに見れねえ。こいつさっき俺が渡したやつきてんだよな、佐々木は白がよく似合いそうだ……………変態ですみませんね。俺だって健全な一高校生なんだからしょうがねえだろ。俺は暴走する頭を一振りし風呂場に向かった。佐々木を待たせるのも悪いしさっさと入るか。と、服を脱いだところで気付いた。 「おい佐々木、さっきまで着てた服はどうした?一緒に洗濯しとくからもってこい」 ガチャッ 「ああ、すまないねキョ――」 佐々木はここまで言葉を発すると、俺に平手打ちをかまして逃げた。そしてようやく気付くわけだ、 ――ああ俺服着てねえや。 落ち着いて風呂に入ることができなかったのは当然のことだ。風呂から上がり部屋に戻るなり佐々木に謝られた。 「す、すまなかった、キョン。動揺を隠しきれなくて、つい」 「いや俺こそすまん。さすがにお前でもあんなの見せられたらな」 すると佐々木はみるみる顔を赤くした。熱でもあんのか、いや冗談だ。 「きょ、今日はもう寝よう」 佐々木はそれだけ言うと俺の布団に入った。俺はどこで寝ればいいんだよ。さすがに佐々木と一緒に寝ることはできないので、一階のソファで眠ることにした。 また1日目だが凄かった、というかあいつはいつまでいるのかな。あはは、もうどうでもいいや。 佐々木が俺の家に来て次の日の朝。夏の暑さと昨日の出来事でまともに寝ることが出来なかった俺は6時前に目が覚めてしまった。もう一眠りするかなどと考えていると、佐々木が二階から降りてきた。 「あ、キョンおはよー」 朝早くで寝ぼけているのか佐々木にしては妙に舌足らずな喋り方をしていた。昨日はよく見なかったがやけに可愛いパジャマ着てんな、それに加えて髪がボサボサになっている佐々木は何かくるものがある。それにしても佐々木は朝が弱いのか足元がおぼつかない。 「佐々木、顔洗ってこい。風呂場の横に洗面台があるから」 佐々木は首を縦に傾けるとフラフラと風呂場の方に消えていった。意外な一面が見れたな、後でからかっておこう。 佐々木とのやり取りですっかり目が覚めてしまったのでテレビでも見ていると、携帯電話がいきなり震えた。 着信 涼宮ハルヒ おいおいマジかよ。まだ7時にもなってないぜ。無視してもいいが後が怖いからな……。 『あら、起きてたの』 「起きてたのじゃねーだろ、自分から掛けて着といてよ。何の用だ、用がないなら切るぞ」 『随分態度が悪いわね。団長の怖さを後できっちり教えてあげなくちゃならないみたい。というわけで7時半に駅前集合、遅れたら罰金だから』 ブツッ はあ、朝っぱらから疲れるな。だがまだ時間まで充分余裕があるし飯でも食うか。ソファから立ち上がると佐々木が制服に着替えて二階から降りてきた。いつの間にまた二階に行ったんだろうなあいつは。起きたばかりのときと比べて髪も整っているし、足元もしっかりしている。 「僕が朝食を作ってあげるよ。お世話になってばかりだと悪いしね」 「そうか、悪いな。というか何でお前制服なんだ。今は夏休みだろ」 「残念ながら、夏休みにも課外というものがあってね。昼まで、というのが唯一の救いだよ。」 そう言いながら佐々木はキッチンに入っていった。佐々木はやたら手際がよく、凄いペースで料理を作っていた。この頃になると母親も起きてきて、佐々木さんがお嫁に来てくれたら嬉しいとかなんとか妄言をはいていた。少しは佐々木の気持ちも考えてやれと言いたいね。 ところで佐々木が作った料理だが結果から言うととても美味かった、店に出てきてもおかしくないくらいだ。感想を訊かれた俺が素直にそう言うと、佐々木は安心したようにほっと息をついた。佐々木の隣ではまだ母親が妄言を言っているのが聞こえる、やれやれ。 飯を食い終えた俺は着替えをすませ駅前に行こうとしたとき、荷台に人が乗るのを感じた。 「すまないが駅まで送ってくれないかな。ちょっと遅刻しそうでね」 「遠慮するなよ、俺なんかでよけりゃいつでも送ってやる。別に遅刻するとかしないとか関係なしにな」 俺がそう言うと佐々木は本当に嬉しそうに笑った。 「本当にありがとう、キョン……」 俺の背中に顔をうずめている佐々木に中学の頃の元気の良さを見て取ることはできなかった。ふと思う、こいつは高校に入ってずっと独りだったんだな…。と、 「なあ、佐々木」 「何かな、キョン」 「……俺にはいつでも頼っていいからな」 「……うん」 佐々木を駅まで送っていく間、俺達は何も話さなかった。その代わり佐々木はずっと俺の背中に抱きついていた、とても力強く、まるで俺の存在を確かめるように。吹き抜ける夏の風がやけに涼しく感じた。 佐々木を駅まで送った俺は、帰りも迎えにくるからな、と約束し集合場所に向かった。 集合場所に着いた俺が見たのはやたら笑みが怖い団長様、オロオロしてる朝比奈さん、絶対零度の視線を俺に向ける長門、そしていつもよりニヤケ面が堅い古泉だった。 「よ、みんな朝から早いな。んで何かあったのか?様子がおかしいが」 場の空気が一気に張りつめるのがわかった。何だ、地雷踏んだのか俺。その異様な空気を引き裂いたのはハルヒである。 「朝っぱらからお楽しみだったようねえ、佐々木さんと一緒に」 そのときのハルヒの顔は一生忘れないだろう。もし俺の身にコンピ研の部長でいうカマドウマ事件が起きるときは間違いなくカマドウマはハルヒになっている確信が持てるね。 「黙ってないで何か答えなさいよ!」 助けを求めるように辺りを見渡すが誰も目をあわそうともしない。薄情な奴らだ、俺だけじゃ絶対この場は乗り切れないぞ。古泉でもいいから、いつものようにハルヒに何か話しかけてくれ。 「涼宮さん、そのことは後で聞くとしてまずは目的地に向かいましょう。もうすぐ電車も出てしまいますよ」 ナイス古泉!俺はこのときほど古泉に感謝したことはない。 「フンッ、後できっちり話してもらうからね」 ああ、と曖昧な返事をして一つの疑問をハルヒにぶつけた。 「今日はどこ行くんだ。電車なんか使ってよ」 「街に出るのよ、人の多い所に案外不思議は転がってるかもしれないしね」 「ふーん、できれば昼までには帰りたいんだがな」 「どうしてよ」 「いや、佐々木を迎えにこなきゃならんのでな」 夏の暑さにも負けず、再びその場が凍りついた後気付いた。あ、やっちゃった。すまん古泉、お前の努力は全て泡となって消えちまったようだ。 「何であんたが佐々木さんを迎えにいくのよ!もういい、今から全部聞き出すから。目的地変更、みんなでキョンの家に行くわよ!」 ハルヒは一気に唇を動かすと、朝比奈さんと長門を引っ張って歩き出した。 「僕個人としても興味がありますね。楽しみにしてますよ」 いや、楽しみにしてるって顔じゃねえだろお前、いつもの笑顔じゃないぜ。やれやれ、どうしたもんかね。 さて、俺の家に行くこととなった我らがSOS団だが、何で俺の自転車の後ろにハルヒが乗ってんのかね。ほかの奴らは新川さんのタクシーに乗って行っちまったのによ。 「お前もみんなと一緒にタクシーで行けばよかったじゃねえか。なぜ俺の後ろに乗る」 「…」 はあ、こいつ昼までにしてくれって言ったことまだ怒ってんのか。 「俺が悪かったって。街へは今度またみんなで行こう、な」 「…」 お前は長門かよ、まったく。ここらへんで機嫌なおしてもらわねえと、また古泉にイヤミ言われるしなあ…… 「ハルヒ、ちょっと待っててくれ」 ハルヒを自転車に残して近くの公園に入った。えーっと、お、あったあった。まあ一本ずつでいいだろ。 「…何してたのよ」 「ほら、これでも飲んで機嫌なおせ、俺のお気に入りだ」 「…ふん」 俺はコーヒーをハルヒに渡した。少しは機嫌なおったみたいだな、ちょっと口元緩んでるぜ。 「よし、行くか」 汗だくになりながら家に着くと、古泉達が待っていた。さすがにタクシーは早い、新川さんの運転なら尚更だ。 「待たせたみたいだな」 「いえいえ、構いませ―― 「おじゃましまーす!」 おい、さっきまでの態度はどこで落としたんだ。ホントに機嫌がころころ変わる奴だな。んなこと言ってる間もハルヒの進撃は止まらない、既に階段に差し掛かっていた。忘れてるかもしれんが、まだ9時にもなっていない。……頭いてえ。 そういや佐々木の荷物俺の部屋に置きっぱなしじゃねえか!ハルヒに見つかると絶対ヤバい、いや、もう手遅れか…ならば早く逃げないと―― 「キョーン、ちょっといらっしゃい」 ……短い人生だったな。 「……で、これはどういうことかしら?」 今、俺は部屋で尋問をかけられている。佐々木のやつは荷物だけでなく、あろうことかパジャマを脱ぎっぱなしにしていた。この状況を見て勘違いしない奴はまずいないだろう、いたとしたらそいつは相当な鈍感だね。……何か胸が痛んだな、俺は決して鈍感ではないと思うのだが…。 まあいい、それより今最大の懸案事項はこの場をどうやって切り抜けるかだ。 「いや、実はな―――」 昨日うちの親に説明したことと全く同じことを話したところ、俺が説明するにつれハルヒの眉がどんどんつり上がっていくのが目に見えて解る。おお、おもしれえ、人の眉ってここまで上がるもんなんだな。このとき、古泉の携帯に電話が掛かってきたが気にしないでおこう…、いやスマン。一度俺の部屋から出て電話にでた後、古泉は部屋に戻るなり、 「すみません、僕は用事ができてしまったので、これで」 そう告げて古泉はさっさと帰ってしまった。スマン頑張ってくれ。しかし、これで残りの戦力は朝比奈さんと長門だけか。正直役に立たない、自転車部隊でブラックホークに戦いを挑むようなものだ。しかも、長門はさっきからシベリアの永久凍土に来たんじゃないかと勘違いしてしまうくらいの冷たい視線を俺に送っている。涼しいのは良いが、さすがに恐すぎる。実質、俺と朝比奈さんのみでこの状況を乗り切らなくてはならない。うん、それ無理。などと、俺が思っていると、 「あの~、そういう事情なら仕方ないんじゃぁ」 なんと!朝比奈さんがまさかの助け舟を寄越してくれた。これに乗じない手はない。 「朝比奈さんの言う通りそういうことだ。俺はあいつに手を出す気もねえし別にいいだろ。それにお前には関係ないことだ」 ハルヒはさっきまでの威勢をどこへやら、すっかり押し黙ってしまった。長い沈黙の後、口を開いたのは予想外の人物だった。 「あなたは彼女のことをどう思っているの?」 辺りを凍らせるような冷たい声で発せられた長門の発言に俺は焦った。いや、長門が話すこと自体はいいのだが発言の内容が俺の考えの斜め上をいきすぎている。長門の言葉を聞いたハルヒは体をビクッとさせて、変にそわそわし始めた。忙しい奴だな、こいつは。それにしても長門の質問だ。俺が佐々木のことをどう思ってるかって?朝のこともあるしな、普通の友人という関係ではないだろう。ううむ、何と言えばいいか思いつかんな。まあ、お互いに信頼しきっているといった感じかな、あいつが今どんな状況にあろうと俺はあいつのことは守ってやる気だし、それはあいつも同じだろう。 長門にそう伝えると「……そう」と言ってまた俺に冷たい視線を送った。 その後、また暫くの沈黙が続いたが、今度は朝比奈さんの発言によって破られた。 「あああああの、私今日みたいドラマの予約するの忘れてたから……あの、その、な、長門さん一緒に予約しししましょう!」 朝比奈さんは訳の分からないことを一気にまくし立てて、長門を引っ張って部屋から出て行った。これは簡単に解釈すると逃げられたのか?いや、朝比奈さんはそんなことをする人じゃない、きっと本当にドラマが見たいんだろう。今度暇があったら借りるとするか、楽しみだな。なんて少し現実逃避しているとき―― 「……ねえキョン、佐々木さんはいつまであんたの家にいる気なの」 さあな、それはあいつに訊いてみねえとわかんねえだろ。まあ俺としては早く親とは仲直りしてもらいたいがな、あいつの寂しそうな姿は見てられん。 「そう……、じゃあさ、もしあたしも同じことになったら泊めてくれる…?」 お前には朝比奈さんも長門もいるだろ、ああ阪中とも最近仲良いよな。だからそいつらのとこに行けばいいだろ。 「なによ…それ、佐々木さんはあっさり泊めたくせに、どうしてあたしのときはそんな風に言うのよ!佐々木さんばっかり優しくして、あたしも佐々木さんみたいに友達なんか作らなきゃよかった」 「おい、お前……、それ本気で言ってんのか?」 「当たり前よ、佐々木さんがうらやまし―― バチンッ ハルヒが全てを言い切る前に俺はハルヒに平手打ちをしていた。後悔はしてない、これで俺の存在が消えようとな。 「お前が本気でそんなこと思ってんのならこんなに不愉快なことはない。佐々木のことがうらやましいだと?あいつはずっと独りだったんだぞ、お前なら分かるだろ、ずっと独りきりなのがどんなに寂しいことなのか。高校に入って少し友達ができたらもうそんなことを忘れちまうのか?叩いたことは悪かった、だが早く部屋から出て行ってくれないか。今のお前と一緒にいたくない」 「キョ、キョン……」 「聞こえなかったか?早く出て行けよ」 なるべく冷静に言ったつもりだが自信はない。パタンという音がしてハルヒが出て行ったのを確認する。あいつが本気であんなこと言うわけ無いことは俺が一番知っている、だがあいつは軽々しく口に出し過ぎなんだ。 「ハルにゃんと喧嘩したのー?」 妹よ、今お前と遊んでやれる気分じゃないんだ。シャミセンなら貸してやるからあっちに行ってくれ。 「ハルにゃん泣いてたのに、可哀想なハルにゃん、ねーシャミ」 ハルヒが泣いてただと!?い、いや落ち着け俺、まだそんなことくらいで許すほど軽くはないぞ。ちっ、誰だよこんなときにメールなんて―― from 涼宮ハルヒ ごめんね メールを見ると同時に俺はハルヒを追いかけた。ここまでされといて許さない方がおかしいだろ、普通。 「ハルヒ――」 家を出て直ぐの曲がり角でハルヒを見つけた。 「キョン、ごめ――」 「すまんハルヒ!」 俺はハルヒが謝るのを防ぐように謝った。 「だから、あたしもごめ――」 「もう言わなくていい。お前の気持ちは…十分わかってるから」 「…うん」 その後、ハルヒと無事に仲直りした俺は、昼までハルヒに付き合わされることになった、まあ俺が悪いんだ、文句はない。 「ハルヒ、どこ行くんだ?」 「そうね、キョンはどこか行きたいとこはないの?」 「どこか行きたいってわけじゃないが……それじゃあドライブでもするか。つっても自転車だけどな」 俺は再び自転車を用意しハルヒに後ろに乗るように促す。顔を少し赤くして乗るハルヒは中々趣があった。まだ昼までは十分時間があるし、大丈夫だろう。目的地も無く自転車を漕ぎ始めた俺の背中に、ハルヒの手が回される。佐々木といいハルヒといい、そんなに俺の背中はいいもんか。俺ならこんな汗臭い背中絶対お断りだが。 「そんなことないわよ、とっても気持ちいいもん」 む、そんなこと言われると恥ずかしいな。 「もっと言ってあげようか?」 止めてくれ、これ以上は保たん。 ケラケラ笑うハルヒは太陽よりも眩しく、俺がさっきこの笑顔を曇らせてしまったかと思うと、心底自分が情けなくなった。 「――ねえ、キョン。さっき有希に佐々木さんのこと訊かれてたじゃない」 ああ、訊かれてたな。 「……あたしのことはどう思ってるの……?」 「……ハルヒも佐々木と同じさ。俺は何があっても絶対お前を守ってやる、お前だってそうしてくれんだろ、団長様。だから…、俺はさっきまでの俺が憎い。お前のことを守ることも、信じることもできなかった自分がさ。」 「――そんなことない、あたしだってあそこまでされなきゃわからなかった。それにね、嬉しかった、あそこまで怒ってくれる人なんてお母さんくらいだったから」 そう言ってもらうと助かるよ。お前のお母さんか…、会ったことないよな。 「今度あたしの家に来ればいいじゃない」 機会があれば、な。いくらなんでも男がヒョイヒョイ女の家に行くのは不味いだろ。 「…………別にあんたなら………」 「あー、何か言ったか?」 「何でもないわよ!」 そんなやり取りを繰り返していると、あっという間に昼前になった。 「もう昼になるな……。ハルヒ、お前んちどこだ?送ってくから」 「い、いいわよ。もうここまででいいから」 「遠慮すんなよ、ってこれ佐々木にも言ったんだけどな。よく考えるとお前らホント似てるよ。お前らならいい友達になれるかもな」 「ふーん、興味あるわね……」 ハルヒとの会話にも不思議パワーがあるのかは知らんが時間が経つのが本当に早く感じる。気が付けはハルヒの家に着いていた。初めて見るハルヒの家は奇想天外な形をしているでもなく、極めて普通の形をしていた。 「意外に普通だな…」 「どんな家想像してたのよ。それよりもうすぐお昼になるわ、早く行ってあげなさい」 「ああ、今日はホントすまんかった」 じゃあな、と言って駅に向かおうとすると最後にハルヒが 「あ、そうそうキョン。今度の探索には佐々木さんを連れてきなさい。――友達にもなりたいしね」 「――ああ、絶対連れてくるよ」 あと数分で電車が着く時間だったので急いで駅に向かった。駅に着くと佐々木が既に待っており、こっちに手を振っている。 「――すまん、待たせたか」 「いいや、僕も今着いたところさ」 「ならいいが…、お前、もう昼飯食ったか?」 「まだだけど………、え、きゃあ」 じゃあ喫茶店行くぞ、俺は佐々木の手を引っ張って歩き出す、可愛い声が漏れたのはあいつの愛嬌だろう。普段なら引っ張られてばっかりだからな、たまにはこういうことをするのもいい。 SOS団御用達の喫茶店に着いた俺たちは、これまたSOS団御用達の座席に座った。 俺のおごりだ、好きなもん食え。 「そうかい、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」 そうは言っても佐々木はやっぱり普通の女の子、食べる量はそこまで多くはない。これなら財布へのダメージも少なくてすみそうだな。それにしてもだ、俺は佐々木には聞かなきゃならんことがある…。…なあ佐々木、こんなこと訊くのは失礼かもしれんが、 「今更何だい、君と僕との仲じゃないか。それに君も言った、遠慮はいらないとね」 じゃあ訊く………何で親と喧嘩したんだ。 「ああ、そんなことか。ちょっと試験の点数が優れなくてね、それで言い争いになって飛び出したんだ」 へ、それ…だけ? 「それだけとはひどいな。僕にとっては中々重要なことだ」 俺なんかお前の悪いときの成績より絶対悪いぜ。なあ佐々木、俺も一緒に行ってやるから謝りに行かないか。お前がどうしても嫌だってんならいいけどよ。 「ふむ、キョンが付いてきてくれるなら気楽でいいね。わかった行こう、君の話を聞いたら僕も少々馬鹿馬鹿しいかなと思ってしまった」 昼飯を食べ終わった後、一旦俺の家に戻り、佐々木の荷物を取って佐々木の家に行くことにした。俺の母親は佐々木さんならいつでもうちの息子を任せられる、とか何とか言っていたが俺の空耳だということにしておこう。佐々木の荷物はある程度重いので俺はバスで行こうと言ったが、なぜか佐々木が自転車で行きたいと言ったので結局自転車で行くことにした。佐々木の家に行くまでの間、俺達の話が尽きることなく、むしろ話し足りないくらいだった。 さて、佐々木と佐々木の親との仲直りの話だが本当にあっさりと解決した。そしてこれからは仲直り後の佐々木の家の玄関先での話だ。 「キョン、この2日間本当にありがとう。とても楽しかったよ」 気にすんな、いつかお返しでもしてもらうさ。 「くっくっ、君は本当にいいよ、キョン。そうだね、今からお返しをしてもいいかな」 ああ、別に今じゃなくても―――― 「プハッ…、フフッ、じゃあまたね、キョン」 その日の帰り道、俺の頭の中には佐々木の別れ際の微笑み(特に唇)と、なぜかは知らんがハルヒの笑顔があった。 あ、探索に誘うの忘れたな―――― 終わり
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。