キョン100%(2)
キョン100%(1)の続き
ある日の夜、妙に寝つきの悪かった俺は何気にテレビをつけた。こんな時間だ。大して目を惹くような番組はやってない。俺はテレビをつけたままにして先日のハルヒとの井戸落下事件のことを思い出していた。そう、俺はあの日ハルヒと二人で廃墟に幽霊騒動の真相を確かめに行き、ちょっとした不注意から井戸の底に落下してしまった。後に古泉に聞いた話では幽霊騒動自体が機関のでっちあげだったらしく、不覚にも俺たちは古泉の用意した罠にまんまと引っかかっちまったらしい。そういえばあのとき古泉は手違いが発生したとか言ってたな。俺はまだその理由を聞いちゃいない。第一俺たちをわざわざ井戸の底に閉じ込める必要はあったのか?ハルヒの退屈しのぎなら廃墟内の探検だけで十分じゃないか?まぁいい。いずれ古泉に聞くとしよう。俺がそんなどうでもいい回想をしてるとテレビで深夜アニメが始まった。観る番組もないので俺はそのアニメを観ることにした。始まってみれば優柔不断な男がたくさんのヒロインに囲まれて翻弄されるくだらない恋愛ストーリーだった。そういえば前に谷口がそんなアニメがあるようなことを言ってたがこれのことか。確かにヒロインたちは可愛い。おとなしめの清純派ヒロインだったり、明るめの清純派ヒロインだったり、巨乳のツンデレや妹キャラまでいやがる。どうやら宇宙人や未来人が好きな女は出てこないようだ。このアニメの主人公がうらやましいね。しかし途中から観てもいまいち話がよくわからんな。明日谷口に聞いてみるか。テレビを観ていると俺の体は徐々に睡魔に襲われていった。気がつくと窓からの光が部屋を照らしていた。どうやら俺はテレビをつけたままリモコンを握りしめて眠っていたようだ。時計を見るともう7時。今日は妹のエルボードロップをくらわずに済みそうだな。俺は昨日のアニメの内容を思い出しながら学校へ向かった。最初はつらかったこの坂道を登るのにも慣れてきた。今日は少し早く来すぎたかな?そんな後悔をしてると背後から声がした。「よう、キョン!」谷口か…朝っぱらからこいつの声は耳に障りやがる!「珍しく早いな谷口。」「昨日はアニメ観てたからよー。ずっと起きてたぜ!」アニメ?ああ、あの妙なアニメね。「キョン。先週も言ったがあのアニメは面白いぜ。いっそあの主人公と生活入れ替えてーよ!」「なぁ谷口。そのアニメ俺も観たんだが何が面白いんだ?」「何言ってんだお前!ヒロインがあんなにも可愛いアニメは稀だぜ!たくさんのヒロインが主人公を巡って争う。それは男のロマンじゃねえか!」要するにこいつはハーレムがいいのか…俺にはよくわからん。「特に俺は東城さんが好きなんだよ。ウブな娘は可愛いぜ!」東城さんとはそのアニメにでてくるおとなしめで巨乳の清純派ヒロインである。若干朝比奈さんとだぶるところがあるな。「悪いが俺はその手の話を朝から聞くほど元気じゃないぜ。」横で東城とかいうヒロインの魅力を延々と語っている谷口の話を聞き流しながら俺は教室へ向かった。教室に着くとすでに見慣れた顔の女が座っていた。「よう。ハルヒ。」「ん、キョン・・・」振り向いたハルヒの目の下には隅ができていた。「どうしたハルヒ。隅ができてるぞ。体調でも悪いのか?」「別に。・・・ちょっと夜更かししただけよ。」夜更かしかねぇ…ハルヒのことだからSOS団絡みのことでも考えていたんだろう。また幽霊退治に行こうとか言わださなきゃいいが…「そうかい。ほどほどにな。」俺は自分の席に座り一息ついた。すると再び谷口が寄ってきて、「なぁキョン。お前はどの娘がタイプだ?」一瞬ハルヒが反応したような気がした。「タイプってなんのことだよ?」「さっき言ったアニメのことに決まってんだろ?で、お前は誰が好みだ?」誰が好みと言われても昨日少し流しながら観ただけで俺は毎週観てるわけじゃない。「好みもなにも俺は少し暇つぶしに観てただけだからそこまで詳しくねーよ!」「そうなのかよ。つまんねーな。」そう言うと谷口は廊下の方へ歩いて行った。谷口が去ると後ろの席に座っていたハルヒが真剣な顔で、「好みのタイプって何のこと?」「谷口に聞いてくれ。俺にもわからん。」ハルヒは少し表情を崩し、「・・・あっそ」そう一言だけ言って机に前かがみになり顔を伏せた。それはいつもと変わらないように感じたが何か引っかかった。ここまでは俺にとってごく普通の日常の風景だった。だがここから俺に再び災難がふりかかろうとしていた。今にして思えば災難は先週から続いていたのかもしれない。その日の昼休み。俺はメシのあとの散歩がてら校内を歩きまわっていた。廊下の角にさしかかると見慣れた二人組が話していた。一人は巨乳清純派ヒロインの朝比奈さんだ!改めてみるとやっぱり天使の生まれ変わりのようにしか思えないくらい美しい。あのアニメキャラたちなんかより朝比奈さんのほうが100倍いいね。俺は。そして朝比奈さんの隣にいたのは元気印の頼れる先輩鶴屋さんだ!「朝比奈さん。鶴屋さん。どうも。」俺が話しかけると二人は俺に気づいたようだ。「・・あ、キョン君。」「キョン君今日は一人かい?珍しいねー!」「ええ、ちょっと散歩をね。」鶴屋さんはポケットからなにやら紙きれを取り出すと、「ちょっどいいとこに来たっさー♪これあげるにょろ♪」鶴屋さんが差し出した紙を見ると『〇×記念パーティー招待状』と書いてある。「なんですかこれ?」「実はさー今日そこでパーティーがあって私にも招待状が届いたんだけど私は今日用事があって無理なんだよねー!ほんとはみくるにあげようと思ったんだけどみくるも今日は無理だってー!だからキョン君にあげるっ!」 「なんのパーティーですこれ?」「そこの会社の記念パーティーでさ、今回は船上の豪華客船で壮大にやるらしいんだよねー!うちも株主の一つだから招待状が来てるのさっ♪」さすが鶴屋家だ。鶴屋さんは一体何者なのだろうか?「豪華料理食べホーダイさっ♪あっ、そうそう。私の名前で招待されてるから私の変わりに女の子連れて行かなきゃだめにょろよ♪」女の子か…「ありがとうございます鶴屋さん。」すると鶴屋さんはいつもの笑顔で、「いいっさいいっさ♪じゃあねキョン君♪」隣にいた朝比奈さんが、「じゃあキョン君。またあとで。」そう言って二人の先輩は行ってしまった。さてと、女の子か…誰と行くかと言われれば俺が残ってる選択肢は少ない。ハルヒか長門だ!そう言えば長門には先週映画に誘ってもらったな。そのお礼に誘ってみようか。日頃あいつには何かと助けられてるしな。幸い今は昼休みだ。長門はおそらく部室にいるだろう。そう考えながら俺は部室に向かって歩きだした。部室のドアを開けると椅子に座ってる長門を見つけた。「長門。今日の夜、空いてるか?」長門は俺を見ると無言で頷いた。俺は鶴屋さんからもらった招待状を長門に見せた。「実は鶴屋さんからパーティーの招待状をもらったんだが鶴屋さんの変わりの女の子を連れてかなきゃいけないんだ。長門一緒に行ってくれるか?」長門はしばらく招待状を見ていたが再び俺を見ると、「・・・・・わかった」「ありがとう長門。じゃあまた放課後にな。」俺は部室をあとにした。その後俺は教室へ戻りパーティーのことを考えながら授業を受けていた。ハルヒは夜更かしが堪えたのか授業が始まると俺の後ろの席ですぐに寝息をたて始めた。こいつも黙っていれば朝比奈さんに劣らないくらい可愛いのに、この破天荒な性格のせいで人生の半分は損してるだろう。授業が終わり、その日も早々と部室に向かった。部室には椅子に座った長門、一人でボードゲームをしている古泉、パソコンとにらめっこしているハルヒがいた。だが、この日のSOS団部室にはマスコットキャラクターである朝比奈さんの姿がなかった。「珍しいな、朝比奈さんはまだなのか?」「みくるちゃんなら今日は大事な用事あるからってもう帰ったわ。」ああ、そう言えばさっき鶴屋さんがそんなことを言っていたな。だが朝比奈さんがSOS団より他を優先するなんて今まであったか?朝比奈さんが部室に来ること拒否するほどの大事な用事といったら時間絡みのことくらいしか浮かばないな。また面倒くさい時間遡行とか俺はもう御免だぜ。「今日は朝比奈さんは無しか・・・」するとハルヒはニヤニヤしながら、「キョン。やっぱみくるちゃんがいないと寂しい?」寂しい?あの方は俺の疲れた体と心を癒やしてくれる団員唯一のオアシスだからな。「今日は朝比奈さんのお茶が飲めないのが残念だ。」ハルヒは立ち上がって、「いいわ!今日はあたしが特別にお茶を淹れてあげる。光栄に思いなさい!」ハルヒが自らお茶を淹れる?どういう風の吹き回しだ?寝不足でとうとうおかしくなったのか?「キョン!なによその顔。あたしが淹れるのになんか不満でもあんの?」「いや、おまえが自分から他人のために働くなんて珍しいと思ってな。」「あたしだってお茶くらい淹れてあげるわよ。文句があるなら飲まなくてもいいのよ!」そう言いながらもハルヒは俺の前にお茶の入った湯のみを置いてそっぽを向いてしまった。「飲むよ。」ハルヒの淹れたお茶は正直朝比奈さんには及ばなかったがそれなりにうまい。飲んでる俺をハルヒは横目で見ながら気にしてるようだ。「うまいぜ。ハルヒ。」俺がそう言うと、「ふん。当たり前じゃない!団長直々に淹れてあげたんだから。味わって飲みなさい!」再び団長椅子に腰かけてパソコンとにらめっこし始めたハルヒ。俺の隣で古泉が、「さすがは涼宮さんですね。お茶の腕も結構なお手前で。」とかいつもの微笑を浮かべて言っている。まぁ朝比奈さんがいないながらも適当に時間をつぶした俺たちは下校時間の予鈴が鳴ると帰ることにした。時間はまだ5時。パーティーは7時からだ。まだ十分に時間があるな。帰ったら長門に電話しなくちゃならないな。下校中坂道を下るとき俺の隣を歩いていたハルヒが、「ねえキョン。あんたみくるちゃんが悪い男たちに囲まれたら守ってあげられる?」いきなり何を言い出すんだこいつは?朝比奈さんが迷惑してたら助けるに決まってんだろ!「なんだよ藪からスティックに。」「藪からスティックって何よ。あんたバカじゃない?それより質問に答えなさい!」「朝比奈さんみたいなか弱い女性をほっとくわけないだろ!」「そう・・・じゃあ有希だったら?」長門か…どう考えてもいつも俺が守られてる立場だがここはこう答えておいたほうがいいだろう。「朝比奈さんと同じだよ。さっきからなんなんだ一体?」ハルヒは少し悲しげな表情をして、「別に・・・聞いてみただけよ。」以降沈黙してしまった。相変わらずよくわからんやつだ。家に着くとパーティーに備えシャワーを浴びることにした。シャワーを終えて出てくると携帯電話に不在着信が入っていた。ディスプレイを見ると古泉とハルヒの二人から来ていた。なんの用だ?俺はとりあえず古泉に電話してみた。「もしもし、古泉。何の用だ。」「いえいえ、たまには僕からみなさんをお誘いしようと思いましてね。早速ですが今からお時間ありますか?」「何の誘いかは知らんがあいにく今日は無理だ!ハルヒでも誘ってやってくれ。」「涼宮さんからは了解をもらいました。実は長門さんにも電話してみたのですが長門さんも今日は無理のようです。あなたなら承諾してくれると思ったのですが。」「悪いが今日は先約があるんだ。ハルヒと二人で行ってくれ。」「そうですか。それは残念です。ではまたの機会にお誘いしましょう。」「ああ、すまんな古泉。」「いえいえ、ではこれで。」俺は電話を切ると今度はハルヒにかけ直した。「もしもしハルヒ。何のようだ?」「古泉君から聞いたでしょ?さっさとでてきなさい!」やはりそのことか…まさか長門と会うなんてハルヒに言うわけにもいかないな。「実は今日は今から親戚の叔父さんのところに行かなきゃならないんだ。悪いが今日は断らせてもらう。」「そう。わかったわ。」ハルヒにしちゃやけに聞き分けがいいな。「すまんなハルヒ。今度奢るからさ。」「いいわよそんなの。あんたも大事な用事なんだから。」ハルヒがここまで素直だとちょっと後ろめたいな。「じゃああたし古泉君と合流するわ。じゃあね。」そう言ってハルヒは電話を切った。ハルヒの声はいつもより少し小さかったな。あいつも普段からこれくらい聞き分けが良ければいいのにな。時間はもう6時か…長門に電話してみるか。俺は長門の番号を押し発信ボタンを押した。「長門か?」「・・・・・私」「待ち合わせなんだが今から公園でいいか?」「・・・構わない」「じゃあまたあとでな。」「・・・了解した」長門との電話を終えると俺は部屋をでて自慢の愛車にまたがった。公園までの道のりを俺はさっそうと走りだした。公園に着くとベンチに座っている長門を見つけた。「長門。」長門は相変わらずの無表情だ。「行こうか。」「・・・・うん」パーティーの開催される埠頭までは駅を4つほど行ったところだ。俺は駅に愛車を停めると長門と共に電車に乗った。長門は電車の中でも無言のままだった。目的の駅に着いた俺たちは埠頭に向かった。埠頭にはたくさんの人だかりができていてどいつもこいつもいかにも金持ちですって面してやがる。「なるほどこれが会場か・・・」鶴屋さんの言葉どおりそれはとてつもなくでかい豪華客船だった。改めて鶴屋さんの偉大さを確認したよ。船の入り口を見ると女の係員が招待状のチェックをしていた。俺は招待状を取り出すと係員の女性に渡した。招待状を見ると係員の表情が急に笑顔になり、「鶴屋様とお連れの方ですね。ようこそおいで下さいました!こちらへどうぞ!」係員の女性に俺と長門は中に案内される。さすが鶴屋家だ。招待状もvip待遇のものらしい。俺としてはあまり目立ちたくないんだがな。パーティー会場に案内されると中にはたくさんの人がいた。あたりのテーブルには俺が今後ありつくことのないような豪華な料理が並べてある。なるほど。これの食べ放題か。これでこそわざわざ電車賃を使ってまで来た甲斐があるってもんだ。隣を見ると長門はもの珍しそうに会場内を見つめていた。しばらくすると主催者らしき人間がスピーチを始めた。「長門。あの人話が長くなりそうだからデッキにでも行かないか?」長門は無言で頷いた。デッキに向かうとき俺はとてつもない嫌な予感がした。俺の嫌な予感はよく当たる。デッキにつくとほとんど人はいなかった。まぁみんなパーティー会場にいるからな。長門は一度海を見てから俺を見て、「現在この時間軸において時空振動がおきている。」時空振動?世界改変のときのやつか?俺はもうあんな体験したくないぞ!「今は静観しているのが得策。情報統合思念体もそう言っている。」「やれやれ。また世界改変のときように過去に行ったりするのは嫌だぜ?」「・・・・・原因はおそらく・」長門がそう言いかけたとき背後から声がした。「キョン!?」振り向くとそこにはあいつがいた。そう涼宮ハルヒだ!なぜハルヒがここにいる?どういうこった。「なんであんたここにいんのよ!それも有希と!」ハルヒがものすごく怖い顔で睨んでいる。「お、おまえこそなんでここにいるんだよ!」「なんでってあんたが断ったから古泉君と二人で来たんじゃない!なのになんであんたがここにいるのよ!それも有希と!説明しなさい!」ハルヒはそう言って俺の胸ぐらを掴んできた。古泉が誘ってきたのはこのパーティーのことだったのか。しかしハルヒに本当のことを言わないと俺はこのまま海に突き落とされそうだ。「じ、実はな・・・」俺が正直に白状しようとしたとき長門がハルヒに向かって、「彼の責任ではない。全ては私の責任。・・・彼には私が無理を言って付き添ってもらった。」「えっ?有希、それは本当なの?」「私はここの場所を知らなかった。だから彼にお願いして案内してもらった。もし彼を責めるなら私を責めてほしい。」長門…すまん。俺は心の中で長門に謝った。俺が本当のことを言えばハルヒは誘わなかったことに怒りだすだろう。そうなればまたややこしいことになる。長門はそんな俺を庇ってくれてるようだ。ハルヒは俺の胸から手を離すと、「そう。ごめんね有希。早とちりしちゃって。」ハルヒが真面目に謝るとはな…だが長門のおかげでこの場はなんとか収まりそうだ。「・・・別にいい」長門はそう一言ハルヒに答えると海に顔を向けた。「やれやれ。」するとハルヒは再び俺を睨み、「なにがやれやれよ!あんたが嘘ついたことに変わりないのよ!?なんでわざわざ嘘までついたのよ!?あたしに知られちゃなんかまずいことでもあんの?」「すまん。長門と二人きりだと勘違いされると思ったからな。」「二人でいてなんかやましいことでもあんの?いやらしい!」「そんなんじゃねーよ。ただ勘違いされたくなかっただけだ!」ハルヒは少し沈黙すると、「まぁいいわ。今日は有希に免じて特別に許してあげる!その代わり今度奢りなさいよ!」「わかったよ。」なんとか収まったようだな。「そう言えば古泉はどうした?」ハルヒはやっと機嫌を戻したようで、「古泉君ならパーティーの主催者に挨拶に行ったわ。あたしは長いスピーチが嫌だからこっちに来たの。」「俺たちと同じだな。そろそろ終わるころだろう。会場に戻ろうぜ。」「キョン!何命令してんのよ!団長はあたしよ!」「はいはい。」そして俺たち3人は会場に戻ることにした。会場に戻るとスピーチも終わり開放的になっていた。俺たちは早速お目当ての料理に手をつけはじめた。「さぁキョン!有希!せっかく来たんだし高いものいっぱい食べるわよ!」ハルヒはそう言って高そうなものを見つけては手にとり食べている。さっきの不機嫌は直ったみたいだな。長門を見るとものすごい勢いで端からの料理を順番に口に運んでる。長門ならその気になれば全部食べてしまいそうだ。しかし長門の黙々と料理を食べる姿はなかなか面白いな。つい見とれて言葉を発してしまった。「長門。」「・・・にゃに」口で食べ物をほうばったままこっちを向く長門。にゃに?普段無口の長門からでてきた言葉に不覚にも萌えてしまった。「い、いやなんでもない!」そう伝えると長門は再び高速で食べ始めた。これは食べ終わるまで話しかけないほうがよさそうだ。俺はもう一度ハルヒを見る。ん?さっきまで隣にいたハルヒがいない。俺はあたりをよく見回した。ハルヒは少し遠くのほうでウエイターらしき人間と話していた。ハルヒは何やらこっちを指差してウエイターになんか言っている。唇の動きと体のジェスチャーから俺はハルヒが何を言っているかわかった。「あそこにある料理全部包んで頂戴!」おそらくこう言ってんだろう。ウエイターも困った顔をしている。ほどほどにしとけよハルヒ。「おや?やはりあなたも来たのですか。」振り向くと古泉だった。「まぁな。それよりこれも機関とやらが絡んでるのか?」「いいえ、個人的なことですよ。機関は無関係です。」微笑面で古泉は答える。どうも信用できないな。「お前の言葉はあてにならんからな。」「まぁいいではないですかそんなこと。」古泉で思い出したが俺には古泉に聞いておきたいことがあった。「なぁ古泉。先週俺がハルヒと井戸に落ちたとき手違いがどうとか言ってたが何だったんだ?」「ええ、お話しましょう。あのときのことを・・・」すると古泉は真剣な顔になり話し始めた。「あの幽霊騒動が僕の所属している機関の流した噂っていうのは話しましたね。」「ああ、不覚にもお前たちの罠に俺たちははまってしまったわけだ。」「そしてあなたたちは中を探索し、井戸を発見し、その井戸を調査中にロープが切れ落下してしまった。」「そうだ。」「確かに僕たちは涼宮さんが井戸の底を調査するだろうと踏んでそばにわざとらしくロープを用意しておきました。ですがここで妙なことがあります。」「なんだ?」「あなたはロープが腐っていて切れたと言いましたね?」「ああ、だから落下したんだよ。」「それはおかしいんですよ。僕たちが用意したロープは新品のロープでした。もちろんあなたたちの身の安全も考えて何度も確認しました。なのにロープは腐っていた。これがどういうことを意味するかわかりますか?」 古泉そろそろ顔が近いぞ。頼むからそんなにくっつくなよ。「お前の話が嘘かロープを誰かがすり替えたってことだろ?」「まずは前者ですが僕たちの目的は涼宮さんの退屈しのぎですよ。わざわざあなたたちを井戸の底に閉じ込める必要はありません。そして後者ですが、あのとき僕たち以外にあの場にはいませんでした!つまりロープをすり替えるのは不可能ってことですよ!」 「じゃあどういうことなんだ?」「可能性があるとすれば一つだけです。」「何だ?教えろ!」「そんなに焦らないで下さい。」そう言うと古泉はテーブルのうえに切りそろえてあったリンゴを一切れつかむと俺の顔の前まで持ってきて、「どうです?あ~んしてください。」「ふざけるな。さっさと言え。」古泉はリンゴをテーブルに戻すと、「冗談ですよ。ではお話しましょうか。・・・ズバリ言うと涼宮さん本人の力の介入があったと思われます。」「ハルヒ本人の?」「ええ、実はあなたたち二人が井戸に落ちて間もなく僕たちは救出しようと井戸に近づいたのですが井戸の周辺を囲むように強力な力が働いていて僕たちは近づくことすらできませんでした。」 「それもハルヒがやったってか?」「そう考えると全ての辻褄が合います。これは僕の仮説ですが涼宮さんはあの井戸を見た瞬間に閉じ込められてみたいと思ったのでしょう。涼宮さんはしばらく助けが来なくていいと思っていたんではないでしょうか?」 「だからあの力を発生させたのです。あのあと涼宮さんが眠ったことによりバリアは解けましたが。」「なぜか理由はわからんが俺は不運にもそれに巻き込まれちまったわけか。」「不運?いえ、あなたにも十分関係がありますよ。」「買いかぶりだな。俺にはなんの力もないぜ。」「いずれわかりますよ」俺と古泉が話しているとハルヒが不満な顔して戻ってきた。「なによケチくさい!ちょっとくらい持ち帰ってもいいじゃない!」「当たり前だ。」ハルヒは料理を一度睨みつけると俺たちを向いて、「キョン!古泉君!悔いのないようにあたしたちも食べましょ!ほら、有希を見習いなさい!」ハルヒに言われ長門を見ると長門は相変わらず高速で料理をつまんでいる。長門…お前の胃袋は宇宙か?思わずそうつっこみたくなった。俺たちはハルヒの指示でテーブルの料理をがっつき始めた。「ちょっとキョン!それあたしの肉よ!」「古泉君はもっと食べなさい!」「有希!その調子よ」ハルヒの怒号が飛び交う中俺たちはただひたすらに料理を胃袋に流しこんだ。この場に朝比奈さんがいないのは良かったのか悪かったのか…結局ハルヒの無茶に付き合わされた俺たちは2時間後古泉が倒れるまで料理を食べ続けた。「さぁもう10時よ!あたしたちもそろそろ帰りましょ!」ハルヒは満面の笑みで言った。テーブルの上の料理はハルヒと長門が一掃したおかげでほとんどなくなっていた。女ってのは強いね。「僕はもう歩けませんのでタクシーで帰ります。それではまた。」古泉は自慢のハンサムフェイスを崩しながらタクシーに乗り込んで帰っていった。「キョン、有希!あたしたちも帰るわよ!」長門はあれだけ食べたのに平然としている。もしかしたら長門の胃袋は本当に宇宙なのかもしれないな。駅に着き、電車に乗ると電車の中に入る。俺たちは窓際に立って電車は発信した。「今日はよく食べたから気持ちよく寝られそうね。それにしても有希があんなに食べるなんて知らなかったわ。今度SOS団で大食い大会にでてみるのもいいかもね。」 「俺はもう食いもんなんてしばらく見たくねーよ。」「あのくらいで根をあげるなんてだらしないわね。ちょっとは有希を見習いなさい!」長門を見習えとか無茶言うなよハルヒ!下手すると地球上の人間全てでかかっても長門の胃袋には勝てないぞ!長門はハルヒのほうを向くと、「・・・・・大会?」と一言呟いた。長門が自分からものを尋ねるなんて初めてみるぞ。確かに食べているときの長門の表情はいつもより生き生きしてる感じだ。口に食べ物をほうばったまま喋ったときの長門はかなり可愛いかった。ビデオに撮ったら谷口あたりに高く売れそうだな。そんなことを考えるといつの間にか目的の駅に着いた。「・・・・私は帰る。」長門は俺たちにそう告げると足早に走り去って行った。長門が見えなくなるとハルヒが、「有希ちょっと変じゃなかった?」変?確かに長門が足早に走り去るなんて見たことない。長門は帰りの電車の中でも一度も俺と顔を合わすことはなかった。ハルヒとは合わせていたのにな。「キョン、あんた有希に何かしたの?」「なにもしてねーよ。」「有希ちょっと怒ってるみたいだったのよね。何となくだけど。」長門が怒る?そんなばかな。「キョン、有希にちゃんと謝っときなさいよ!」長門が怒る理由なんて俺には予想もつかん。明日は土曜日だ。月曜日に学校で長門に聞いてみるか。「じゃああたしたちも行くわよ!」ハルヒは俺の手を引っ張って歩きだした。今俺は夜道をハルヒと歩いてる。俺にもなぜだかわからないがハルヒはずっと俺の手を握ったまま無言だ。第一ハルヒはいつまで俺の手を握ってるんだ?なんで無言なんだ?しばらく互いに沈黙したまま歩いているとハルヒが話し始めた。「ねぇキョン。先週のことだけど・・・」先週?あの幽霊騒動のことか?「なんだハルヒ?」「井戸に落ちたときのこと・・・」「ああ、ロープが腐ってて切れちまったやつか。あれは災難だったな。」ハルヒはうつむきながら続ける、「あたしあれからあんたに謝らなきゃって思ってたの。」「謝る?何をだ?俺は謝られるようなことをされた覚えはないぞ。」「あのときあたしが井戸の底がみたいなんて言わなければ落ちることもなかったじゃない。そのせいであんたに迷惑かけちゃってごめん。」俺は言葉を失った!どういうことなんだ?迷惑?ごめん?素直に謝るハルヒなんて初めて見るぞ!これは天変地異の前触れか?明日で世界は終わりか?俺にとってハルヒが素直に謝るなんてことはそれほどのことだ!ハルヒは立ち止まり俺の手を握りながらこっちを見た、「なぁハルヒ。何を言ってるのかサッパリわからん。なぜお前が謝る必要があるんだ?別にあのとき俺は怪我したわけでもないんだせ?」「嘘よ。あんただってあたしのこと迷惑だと思ってるんでしょ・・・」ハルヒってこんな鬱な考えかたするのか?「お前らしくないぞハルヒ!お前はいつも団員の俺たちを振り回してりゃいいんだよ!俺たちは迷惑だなんて思ってねえよ!」ハルヒは再び下を向いて、「本当に?」「本当だよ!お前はいままでどおりにしてればいいんだ!」ハルヒが再び顔を上げたとき笑顔になっていた。「聞いたわよキョン!男に二言はないわね!」騙されたようだ。「てめぇ演技してやがったな!」「今日あたしに嘘ついた罰よ!これでチャラにしてやるわ!」ハルヒにはかなわんな。「キョン!明日からまた振り回してやるから覚悟しなさいよ!」そう言って再び歩き出した。もう言い返す気もなくなるね。再び歩きだしハルヒが前を向きながら、「ねえキョン。それより夕方の話の続きだけどさ、あんた有希やみくるちゃんが悪い男たちに囲まれたら助けるって言ってたわよね。」いきなり話を変えやがった。「ああ。だからなんだ?」ハルヒはこちらには顔を向けずに続ける、「も、もしよ。・・・もしそれがあたしだったらあんたあたしを助ける?」ハルヒだったら…か「お前ならその男どもを一網打尽にしそうだが、一応俺たちの団長様だからな。助けないわけにはいかないだろ!」ハルヒは俺の手を離すと、「団長だから・・・か・・・」「不満か?」「じゃああたしがもし平団員だったらどう?」「何が言いたいのかわからんが女を見捨てるようなことはしねーよ!それがSOS団なら尚更だ!」「まぁいいわ!今はそれでいいや。」ハルヒは一度だけこっちを向き、「じゃあね!」と言って走り去って行った。一体あいつは何が言いたかったんだろうな。女ってのはよくわからんね。それから3日経って月曜日。俺はいつものように学校へ向かった。クラスに行く前に行っておきたいところがある。そう、部室に行って長門に金曜日のことを聞いておかなければ。駆け足で部室に向かいドアを開けると。やはり長門一人だった。「長門、金曜日は付き合ってくれてありがとな。」長門は椅子に座ったままこちらを見ると一言、「・・・別にいい。」長門に特に変わったところはない。いつもの長門だ。「なぁ長門。」「・・・・・なに?」「金曜日の帰りなんで怒ってたんだ?」長門は少し考えたような感じ(表情は変わらないのだが)でしばらく沈黙すると、「別に怒っていない。」「だったらなんであの時俺と顔を合わせてくれなかったんだ?その後お前は足早に帰っちまったし。」「あのとき私の体はあなたの顔を見るの拒否していた。原因は解析不能。ただ涼宮ハルヒが私になんらかの影響を及ぼしていたような気がする。」「ハルヒの影響・・・か。とにかく怒ってはいないんだよな?」「・・・・・うん」よかった。もし長門が怒ってたら対処しようがなかった。その後俺はクラスに戻り授業を受け放課後になった。俺たちSOS団は今日も部室に集合していた。ただ一つ、いつもと違う光景。そこには朝比奈さんの姿がなかった。第2部 ━完━
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