ハルヒの名探偵 事件編
事件は、梅雨まっさかりの放課後に起こった。 梅雨ってのはなんでこうムシムシするのかね、とハルヒに愚痴をこぼしたら、「ムシムシするから梅雨なのよ。」と帰ってきた。そりゃそうか。どう考えても不快指数80以上はあるだろうという中での地獄の授業を終え、ようやくクーラーの効いた家に帰れる……わけもなく、扇風機も無い部室へと行くことになる。 「キョン!早く部室に行くわよ!」 俺を急かすハルヒ。なんだ?いつもは部室まではバラバラに行くのに。 「悪いがハルヒ、今日は掃除当番なんだ。先に行っててくれ。」「そうなの?じゃあ待ってるわ。」 ……はい?今なんと言った?ハルヒが俺を……待つ? 「何よその顔。待ってあげるって言ってるの。」「なんの狙いだハルヒ。言っとくが待たせても罰金は払わないぞ?」「払わせるわけないじゃないの!純粋に待ってあげるって言ってるの!」 ……一体どうしちまったんだ?普段待つことが大嫌いで、1分でも待たせたら即罰金のハルヒが……まあ、これ以上口答えしても逆に不機嫌になるだろうし、待つと言っているんだから、素直に待たせておこう。 「終わったぞ。」「やっと終わったの?遅いわね。」 自ら待っておいてそれかい。俺は先に行ってくれと言ったんだぞ。 「つべこべ言わない。行くわよ。」「へいへい。」 そして俺達は部室の前にやってきた。ドアを開けようとするが、鍵がかかっている。 「おかしいわね。鍵はかけてなかったはずだけど。」「じゃあ、中で朝比奈さんが着替えてるんじゃないか?」「そうなのかしら。みくるちゃーん、いるのー?」 ハルヒが呼びかける。しかし中からは……返事が無い。 「しょうがないわね。確か職員室にもう一個鍵があったはずよ。取りに行きましょ。」「おい、まだ朝比奈さんが着替えてる途中かも知れないぞ?」「あたしの呼びかけを無視するなんていい度胸よ!だったらこっちも無視して入っちゃうの!」 メチャクチャなハルヒ理論だ。だがこのままでは中に入れるはずも無い。ハルヒに引っ張られながら、俺は職員室の中に入った。 「ほら見てよ。普段は2つあるのに、今日は1個しかないわ。」 本当だ。普段ならいつも使っている鍵とスペアキーの二つがあるはずだ。しかし今ここにはスペアキーしか無い。やはり誰かが鍵を持っているワケだ。 スペアキーを手にして、職員室を出た時、俺達はある人物と鉢合わせをした。 「あれえ?涼宮さんにキョン君、何してるんですかぁ?」 朝比奈さんだ。……ん?てことはあの部室の中に、朝比奈さんはいなかった? 「あれ?みくるちゃん、部室の中に居たんじゃないの?」「いいえ。ちょっとHRが遅れて、今から部室に行くところだったんですよぉ。」「部室に鍵がかかってたんで、てっきり中で着替えてたのかと思って。」「放課後鍵を閉めて、そのままだったんじゃないですかぁ? 鍵は別の誰かが持ちっぱなしとか。」 そうか。よくよく考えればそっちのが自然な考えだな。なんで俺は中に朝比奈さんがいると思ったのだろう。 「まあとにかく、部室に行きましょ!」 ハルヒが急かす。そうだな、話なら部室でも出来るからな。 「ほらキョン、さっさと開けなさいよ。」「分かった分かった。」 ハルヒに言われて、俺はスペアキ-で部室のドアを開けた。しかしそこには驚くべき光景があった。 「な、なんだあれ!!」「パソコンが!!」 団長様の机にあったパソコンが、床に落ちている!画面も割れてしまって、もう使い物にならないのではないかというくらい大破している! 「キョン、みくるちゃん、これ!」 ハルヒが床を指差した。そこには、部室の鍵が落ちている。ん?おかしいぞ。なんでこれがここにあるんだ。ここに鍵があってドアに鍵が閉まっていたのなら、中に人がいなければおかしいはずだ。 「だ、誰がこんなことを~?」「部室には鍵がかかってて、その鍵は中にあった…… ということはこの部屋は、密室だったということになるわ。」 ん?ハルヒの腕章がいつの間にか変わっている。……名探偵!? 「密室トリックなんて小ざかしい真似するじゃないの! いいわ!こんなことした犯人を、絶対見つけてやるんだから!」 はりきりだすハルヒ。今度の被害者は人じゃなくパソコンだからな。ハルヒも気がね無く探偵役が出来るってことか。……ん?俺はその時、真後ろに居た人物に気がついた。 「長門!来てたのか。」「そう。」「有希!あんたが遅れるなんて珍しいわね!どうしたの?」「……コンピ研の手伝いをしていた。」 なるほどな。長門もそれなりに学校生活を謳歌しているようで何よりだ。とここで俺はここに来ていないもう一人の存在に気付いた。あのニヤケ面だ。もうとっくに掃除も終わっている時間。長門のように何か用事があるわけでもなく、もしあってもよっぽどのことじゃない限りSOS団より優先させるとは思えない。ならば何故ここにいない? 「キョン!ちょっと聞いてるの!?」 ハルヒが怒鳴った。すまん、まったく聞いて無かった。なんだって? 「もう!こっち来なさいって言ってるの!」 ハルヒが俺を引っ張り、窓際に連れてくる。 「窓はね、開いてたのよ。逃げようと思えばここから逃げられるワケ。」「3階からか?無理があるだろ。」「でもほら!下を見て!」 ハルヒに促され窓から顔を出し下を覗く。よくよく見ると地面に何か落ちている。あれは…… 「ロープよ!どう見ても不自然でしょ?きっと犯人は、あれを利用したのよ!」「だがハルヒ。真下は人通りの多い場所だ。昼休みだってあそこで昼飯食うヤツらで溢れかえってる。 そんな中ロープで降りたりしたら、どう考えても一目につくだろうが。」「下に逃げたとは限らないわ。」 下に逃げたとは限らない?……なるほどそういう事か。あいつの考えてることが分かった。 「おや、これはどういうことでしょうか。」 とここでようやくニヤケ面の登場だ。随分と遅かったな、古泉。どうやら俺は長門だけじゃなく古泉の表情分析も出来るようになっちまったらしく、その俺から見ると、その顔はいくぶん疲労の色が強い。 その顔を見て俺の中で何かが繋がった。始めから感じてた違和感の正体、そしてこの事件の真相が。 「古泉君!遅いじゃない!」「申し訳ありません、少々クラスメイトに掴まっていたもので…… しかし、この惨状は一体……」「誰かがパソコンを壊したのよ。でも大丈夫よ。もうこの事件の真相は私の手の中にあるわ。」 自信満々に言うハルヒ。そして、高らかに宣言する。 「早速だけど、これからあたしの名推理を披露するわ!」 解決編に続く
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