涼宮ハルヒの夢現
「あなたもいっその事、この状況を楽しんでみては?」断る。俺は気が狂おうとも冷静でいるべきキャラなんだよ。 「キョン君~!これどうやって止めるんですか~?ひえぇ~~~」ハンドルを離さないと止まりませんよ。それがコーヒーカップというものでしょう。 「こんな古い・・・いえ、珍しいアトラクションは初めて体験するもので・・・とめてぇ~~~」む・・・?あいつら・・・ハルヒに長門、何回目だよそのジェットコースター。 「キョン!このジェットコースターは素晴らしいわ。なんたって何度乗っても飽きないんだもの!」あぁ、どうしてこうも俺からは日常がはるか彼方へ遠ざかっていくのか・・・やれやれ。
ここがどこかって?見りゃ分かる、遊園地だ。遊園地でハメを外すのがそんなに恥ずかしいかって?そんな訳あるはずがないだろう。俺だって、ここが普通の遊園地ならそりゃある程度箍(たが)を外して遊びまくるさ。しかし残念なことにここの遊園地は“普通”などではない。
この遊園地は──ハルヒの夢の世界なのだ。
古泉が言うにはここ最近のハルヒの退屈度の進行が原因なんだとさ。その退屈をどうにかするってのが課題じゃなかったのか。と聞けば 「えぇ、仰るとおりです。 ただ今まで退屈による不満で発生する閉鎖空間で判断してたんですが・・・ここ最近は全く発生していなかったんですよ。 言い訳に聞こえるかもしれませんが・・・その不満をこういった形で発散させるということは、何か涼宮さんに変化が起こりつつあるのかもしれません。」不満が原因でたまたま見てしまったこの面白おかしい(俺には面白くもなんともないが)夢を現実にすりかえようとしている最中なのだと。哀れ世界。俺が世界なら確実にビッグバン起こして怒りをぶつけてるところだ。
もちろんそのまま放っておくわけにはいかない。が。もうすでに現実世界とほぼ融合しているために、ハルヒに向かって「これは夢だ!」なんて無理やり理解させてしまえば現実世界もろとも完全崩壊の恐れ。もう今更なんだが・・・本当なんでもありだな、ハルヒ。
解決策はといえばハルヒに自力で夢だと気づいてもらうこと。そんなこと超簡単だろう?と思うだろう?考えても見てくれ。俺たちが夢を見ているとき、その状態で今起こっていることは夢なんだ!と気づけたことが何回あった?つまりはそういうことである。それに、覚めた後にはありえない夢だったと気づけても、夢を見ている最中には可笑しいなんてこれっぽっちも思わないだろう?そう。だからこそハルヒは乗るたびにコースの変わるそのジェットコースターに一つも疑問を持っていない。ちなみに朝になるまで待てば自然に起きるだろう、なんて解決策は真っ先に断たれたぜ?さっきも言ったが、もう現実とごっちゃになりかけ。現実の時間概念は今のハルヒには作用しない。(長門談)
どうにかハルヒに自力で夢だと気づいてもらう必要がある。運が悪ければこの世界はこの遊園地の敷地内だけになり、5人は一生をここで終えなければならなくなるのだ。だからな、みんな。遊ぶのもいいがもう少し真剣に考えてくれないだろうか。時間がかかればかかるほどこの世界の侵食は進み、元に戻れるかは困難になるって言ったのはお前だぞ、長門。・・・その長門はハルヒと33回目のジェットコースターを楽しんでいるが。
「いや~、参りましたね。」あのな古泉。笑顔でゴーカートをさんざ楽しんできて「参った」なんて、普通の人間なら言わないぜ。 「フフ。でもこんな経験、多分二度とできないと思いますよ?」無人のカートが勝負相手になってくれるゴーカートなんざ、二度も三度も楽しみたくはないね。朝比奈さんは・・・今度はメリーゴーラウンドか。白馬にお姫様のように座る姿が美しい。ハルヒ、どうせ創るならなら売店も組み込んで創ってほしかったぜ。ここにカメラが無いのが非常に惜しい。まぁカメラが存在しようと現実世界には持ち帰れないだろうという答えに3秒で到達したので諦めるが。しかしよく逃げないもんだな。あれ。 「メリーゴーラウンドって文献でしか見たこと無いんですけど、本物の馬なんて使ってるんですね~。私、びっくりしました~。」・・・どうしよう。本当のメリーゴーラウンドがどんなものなのか教えた方がよろしくないか?
アトラクションは全自動。俺たち5人以外誰もいない。ついでに出口も存在しない。もはや牢獄と言ったほうがいいだろう、これは。なんて考えながらジェットコースターに目をやると、それはもう何回転すればゴールに着くのか分からないような渦の塊になっていた。多分そろそろジェットコースターに飽きるだろう。
さぁて、どうやってハルヒに夢と気づいてもらうか。古泉と2人、バイキング形式で従業員のいないレストランフロアに入り、栄養を取りつつ頭を働かせる。無人ゴーカートを見ても、タイヤのついたコーヒーカップを見ても、実物仕様のメリーゴーラウンドを見ても、変幻自在のコースを持つジェットコースターを見ても何も疑問に思わないんだぜ?どうすればいいんだよ。
「逆に考えればいいんですよ。この世界は涼宮さんの退屈による不満で創られた世界。 ならば楽しませればいいのですよ。」誰が? 「勿論──あなたですよ。」気が滅入る。ハルヒと2人で本物の殺人鬼が出てきそうなお化け屋敷に行ったり、宇宙まで届いてそうなクレイジータワーに乗ったり、高速回転中の観覧車に乗らなければならんのか?その前にショック死すると思うぜ、俺。 「それもそうですね。あなたが死んでしまっては元も子もない。」笑顔で物騒なことを言うな。 「失礼。ですが・・・少しばかり危機が迫っているのかもしれません。周りを見てください。」いつのまにか夕日が差していることに気づく。
「説明していただこうか?」
笑顔のまま溜息をついた後、こんなことを喋りだす古泉。 「このまま夜になれば、恐らくあちらのホテルに泊まることとなるのでしょう。」指差す方を見てみると、敷地の中央に聳え立つ豪華なホテルがそこにあった。 「夢の世界で眠りにつく。ということはです。」普通の人間ならば寝て夢を見て、起きれば現実世界。だが・・・ 「次に目を覚ました時、完全にこの世界は固定されてしまうことでしょう。」・・・どうすればいい?
隣に置いてあったリーフレットの束からチケットを取り出す古泉。 「ふぅ、やはりありましたね。」それは一体何なんだ。何故お前は既に知っているかのようにそれを手に取ったんだ? 「これはちょっとした賭けでしたよ。いえ、むしろ涼宮さんの賭けと思った方がよろしいかと。 今は僕が探し当てましたが、これは僕がいなくても必ずあなたの元に現れたはずです。」さぁ、とそれ以上何も言わずチケットを俺の手に押し込む古泉。
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やれやれ。ようやく現実世界に戻ってこれたわけだが。ああいった面白おかしな世界もまぁ全く楽しくなかったと言えば嘘になるが・・・あれから数日。今日は何度目になるのか忘れたがいまだ皆勤賞のSOS団不思議探索の日だ。
あれから結局どうなったかって?古泉も聞いてきたが特に何もないのだ。
あの後、手にしたチケットを見てみるとそこにはディナー招待券と書かれていた。ハルヒと食事をしてご機嫌を取れってことか。しかしどうやって誘うべきか・・・とベンチに座って考えていたら不意に後ろに現れたハルヒに奪い取られてしまったのだ。一部始終を語るとすれば・・・次の通りだ。
「何のチケットと睨めっこしてるのよ。一人で楽しもうなんて、そうはいかないんだから! なになに・・・?・・・ディナー券?」あぁ、一緒にどうかと思ったんだが。 「ふーん・・・まぁ、行ってあげてもいいわよ?このままじゃ券も勿体無いしね。 でも、他の3人はどうするの?食事。」夢の中では少しは気を回せる性格なんだな、お前。・・・それはともかく。 「古泉たちなら別のチケットで他のレストランで食事中だ、今頃は。」こんな誤魔化しかたでバレやしないかとは思ったが、流石夢世界ハルヒ。些細なことは疑問にはならない頭のようだ。・・・もしかしたら分かっているもののあえて気づかないフリをしてるのかもしれんが。
着いたレストランはそれは豪華なレストランだった。やはり人は誰もいなかったが。チケットに書かれていた席には既に料理が並べられている。 「演出かしら?斬新だわ。」と一人納得してしまうハルヒ。今さっき出来たばかりの料理のようで、全く冷めていないようだ。さぁ料理を食べようとさっさと席に着くハルヒと俺。何故そんなことを言ってしまったのか?と自問すれば、このままでは何も進展しないぞと思ったんだろうな、俺は。ハルヒに現実に戻ってもらうために、こんなことを口にしてしまったのだ。
「なぁ、ハルヒ。今日だけじゃなく、いつかまた2人で遊びに来たいな。 最近出来た海辺のテーマパークとか結構評判いいらしいぜ?・・・どうだろうか?」
次の瞬間、俺はまたもベッドの中にいた。夢だったのかといえば確かに夢だった。時間は・・・明日にはなっていなかった。紛れも無く今日の明朝であり、登校前のバタバタしなくてはならない時間までまだ3時間程余裕がある。携帯を確認してみると3件、すなわち、古泉、長門、朝比奈さんから1件ずつ着信が入っていた。おかしな事を言っていると自覚するが、その着信によってあれが夢だったと確信できたのだ。
「まぁ、何があったのかは知りませんが、とにかくあなたには感謝しっぱなしです。今回もありがとうございました。」よせよ。俺はただハルヒと飯を食っただけだ。・・・いや、食うことは出来なかったが。あぁ、しまったな・・・あの料理食べてからにすりゃ良かったな。勿体無いことをしたもんだ。
「ところで今日の活動は涼宮さんから聞いていますか?」いいや?どうせ今日もいつもの通り、なんのプランも無いまま街をうろつくだけだろう? 「そうでしたか。いえ、それなら涼宮さんから直接聞いたほうが良さそうです。丁度・・・ほら、やってきましたよ。」何のことだろうか。相変わらずハルヒはこの団員1号の俺には連絡をよこさないことが多い。
「あら、珍しいわねキョン。今日も遅刻してくるのかと思ったのに。」ここ5連続で俺の奢りだったからな。たまには早く来ておいて誰かに奢ってもらうのがいいだろう。・・・それよりも。 「今日は何をするんだ?俺以外全員知っているようだが何も聞いていないぞ、俺は。」 「あれ?言ってなかったかしら。手頃な場所にいるからまた伝えるの忘れちゃってたわ。まぁ、たまにはこんなこともあるでしょう。」いや、いっつもだろう。 「そんなことよりこれよ!ほら、みんな1枚ずつ取って取って!」
なになに・・・?シーサイドテーマパーク・・・?
遊園地のチケット・・・か。なるほどね。
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