プログラム『涼宮ハルヒ』 中編
自室兼研究室となった部屋で、キョンは一人パソコンに向かい合っていた。
「流石だなハルヒ。もう集めたのか。」
パソコンの画面には、元機関のメンバーの居場所が一人残らず羅列されている。そして、得意げにそのリストを見せている涼宮ハルヒの姿も写っていた。
『あたしは世界中のネットワークと繋がってるのよ?この程度ワケないわ。』「ははは、そうだったな。さあハルヒ、コイツらがお前を殺したんだ。どう思う?」『ハラがたつわね。懲らしめてやりたいわ!』「そうだ。じゃあ懲らしめてやろう。作戦はもう考えてある。」『へえ、やるじゃない。キョンのくせに。』「くせには余計だ。さあハルヒ、やってやろうじゃないか。お前にはその力がある。」
そしてキョンは一人笑った。十年以上かけて作り上げた、コンピュータ人格プログラム『涼宮ハルヒ』を眺めながら……
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僕、古泉一樹は今、街を歩いています。そこでの出来事を話す前に、涼宮さんが死んでからのことを振り返りたいと思います。
彼は宣言通り、僕らの前に姿を見せなくなりました。ほどなくして、朝比奈さんが未来に帰り、長門さんは情報統合思念体の元へ帰りました。よってSOS団は自然解散という形となったわけです。
僕はあの事件のあと、きっぱりと機関と縁を切りました。当然ですね、もう愛想はつかしていましたから。何よりあの中に涼宮さんを殺した人間がいると思うと、もう彼らとコミュニケーションを取ることは不可能です。その後の僕は平凡な大学に入り、平凡な会社に勤め、平凡な生活をしていますこんな姿、涼宮さんに見られたら怒鳴られてしまいますね。「それでもSOS団なの!?」ってね。
さてそんな平凡な僕が、すっかり平凡とは程遠い存在になった彼と出会ったのです。彼は既にコンピューターサイエンスの権威となっていました。僕とは大違いですね。彼の様子は昔と変わりませんでした。話し方も外見も対して変わっていません。もうあの事件のことは吹っ切れたのかなと少し安心していたのですが、彼は信じられないことを口にしたのです。
「ハルヒが、待ってるんだ。」
……僕は自分の耳を疑いました。彼女は間違いなく既にこの世を去っています。精神を病んでしまっているのかとも思いましたが、彼の様子はいたって普通です。結局その言葉の真意を確かめることが出来ないまま、彼は去ってしまいました。
そんな出来事から数日後、自宅に居た僕に電話がかかってきました。発信者は……森さんです。
『もしもし?古泉。久しぶりね。』「お久しぶりです。僕はもう機関とは縁を切ったはずですが?」『分かってるわ。でも聞いて。これはあなたにも関係のある話なの。 ……元機関のメンバーが、次々と事故死しているわ。』「……事故死?」
彼らは訓練をつんだ人間のはずです。そんな方々が……事故死?
『そう。それも普通ではありえない死に方よ。 田丸兄弟は自宅にヘリコプターがつっこんできて、二人とも即死。 新川さんは乗っていた飛行機が突然ありえない落ち方をして、そのまま死亡。 その他にもたくさんの元機関のメンバーがどんどん死んでいっているの。 そして、共通している事実が1つあるわ。』「なんですか?」『事故原因のものを制御していたコンピューターが、全て何物かにハッキングされた形跡があったの。 普通に考えても、ヘリコプターが家に突っ込むなんておかしいでしょ? きっとその時も、ハッキングされて操作されてた可能性があるわ。』「そしてそのハッキングをした主は、元機関のメンバーを狙っていると……」『恐らくね。あなたも縁は切っているけど、元機関のメンバーであることには変わりないわ。 だから伝えておこうと思ったのよ。』「ご忠告感謝します。森さんもお気をつけて。」『ええ。それにしてもこんな高度なハッキング、普通の人間には不可能だわ。 きっとコンピューターのエキスパートよ。そして私達機関に恨みを持っている。 心当たりが無いかどうか、考えてみて頂戴。』「わかりました。では。」
僕は電話を切った。どうやらとんでもないことになっているようだ。そして僕自身も、殺される可能性がある。しかし僕は、森さんが言っていた「心当たり」が1つあった。コンピューターのエキスパートで、なおかつ機関に恨みを持っている人物……僕の知る限りでは、そんな人物は一人しかいません。
プルルルル……
とここで、更なる電話がかかってきました。また森さんからでしょうか?しかし先程とは番号が違います。
「もしもし、古泉です。」『古泉一樹?』「その声は……長門さん!?」
確かにその声に聞き覚えがあった。聞いた瞬間分かりましたよ。
『そう。』「何故あなたが?情報統合思念体の元に帰ったのでは……」『緊急事態につき回帰した。会って話したい。あの公園に。』
あの公園、とは北高の近くにあるあの公園でしょう。今僕の現在地とは少し離れていますが、そんなことを言っている場合でないことはわかります。
「了解しました。急いで向かいます。」
そして僕は、あの公園へとやってきました。あの頃とまったく変わっていません。楽しかった頃のSOS団を思い出します……
そして長門さんはベンチに座っていました。姿形はまったくあの時と変わっていません。
「お久しぶりです、長門さん。変わっていませんね。」「そう。あなたは変わった。」「15年も経っていますからね。今ではすっかり僕も平凡な人間ですよ。」「本題に入る。最近あなたの所属していた組織の人間が事故死する事件が多発している。 それを引き起こしているのは……おそらく彼。」「やはり彼ですか……僕もそう思っていました。」「しかしどのような方法を使っているかは不明。だから、彼の家に向かいたい。」「わかりました。あ、でも今はもう昔の家には住んでいないと思いますよ。」「大丈夫。彼の今の居住区は既に把握している。」「頼もしい限りです。では、行きましょう!」
本当にこの事件を引き起こしているのが彼なのかどうか。僕としては違うことを願いたいです。しかし、こんなことが出来るのは彼ぐらいなものです。……とにかく今は、彼に会わないことに始まりません。
そして僕らは、大きな一軒家の前に立っています。本当にここが彼の家なのですね?
「そう。間違いない。」
では……僕はインターホンを押しました。
ガチャ
ドアを開けて彼が顔を覗かせていました。意外な訪問者に、彼は少し驚いた顔を見せました
「古泉……それに長門!どうしたんだ、一体。」「ええ、少しあなたとお話したいことがありまして。」「そう。」「ああ……なるほどな。」
彼は何かを理解したように笑い、僕らに手招きしました。
「来いよ。あいつもお前らに会いたがってるぜ。」
あいつ……?あいつとは誰でしょうか。まあ拒絶はされずにすんだので、言葉通り招かれることにしました。
「しかし古泉は老けたが、長門は変わらないな。」「つい昨日回帰したばかり。それまでは情報統合思念体の元に居た。 だから歳は取っていない。」「なるほどな。おーいハルヒ、お客さんだぞ!」
え……?今彼は確かに彼女の名前を呼びました。まるで、そこに彼女がいるかのような。
『お客さん?アンタにお客さんなんて来るの?』
今の声は……!?僕の聞き間違いで無ければ、その声は確かに……
『あっ!有希に古泉くんじゃないの!!久しぶりね!!』
そしてその姿は確かに、涼宮さんそのものでした。……パソコンの画面の中にいるという点を除けば。あまりに驚くと声すら出ないと言いますが本当のようです。僕はただ、呆然と目の前にある光景を眺めるしかありませんでした。
そんな僕の様子は無視して、彼は自慢げに彼女を紹介します。
「紹介するよ。……と言ってもお前らはイヤというほど見知った顔だろうがな。 我らが団長『涼宮ハルヒ』。俺が蘇らせたんだ。」
続く
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