柔い痛みに絆創膏
次のページをめくろうとしていたときだった。鋭利な刃物が肉を切るような感触が左手の人差し指から伝わる。左手を確認。伝わった感触どおり、指には赤い筋が出来ていた。紙で指を切ってしまったのだろう。今読んでいる本は紙が薄く上質のものであり、新品。「うかつ」わたしは自分のミスを確認し、そう呟いた。「おい、長門。どうした」今の呟きを聞きとがめたのだろうか。彼が古泉一樹としていたゲームの手を止め、こちらを見ている。「長門さん?」古泉一樹も彼につられ、不思議そうにこちらを見た。わたしは2人に対し、否定の意を込めて首を横に振る。すると、――不意に左の手を引き上げられた。手を引いたのは、「ちょっと有希!怪我してるじゃない」涼宮ハルヒ。「大した怪我ではない」「駄目よ!小さな怪我でも甘く見ないの!」そう言うなり、涼宮ハルヒはわたし手を離し、自分の席へと向かう。「朝比奈さん、絆創膏はありませんか?」「あ、はい!確か……ひゃあっ」彼の声に応えた朝比奈みくるが救急箱を開けようとして、取り落とす。救急箱は盛大な物音を立て、その中身を床に投げ出した。怪我の程度からすると、皆のこの反応は大げさ。しかし、その光景を見たわたしの胸が、すこし、暖かくなるのを感じる。――嬉しい、と感じている。「有希!これ貼っておきなさい」「長門さん、指を出してくださぁい」涼宮ハルヒと朝比奈みくるがそう言ったのは同時だった。涼宮ハルヒは可愛らしいキャラクターのプリントされた絆創膏を差し出す。朝比奈みくるは絆創膏の裏地を剥がしながら持ってこようとしている。この場合は、既に貼る準備を整えつつあるという点から、朝比奈みくるに頼むべき。だけど…………「両方貼って貰えばいいじゃないですか」散らばった救急箱の中身を片付けはじめた古泉一樹が、そう言って微笑んだ。彼に目を向けると、「いいんじゃないか?」というニュアンスのこもる笑みを浮かべている。わたしの左手の人差し指の傷は、朝比奈みくるの持ってきた絆創膏と、涼宮ハルヒの持ってきた絆創膏によって丁寧に覆われた。「ちょっと大げさに見えちゃいますね」貼り終えた朝比奈みくるが、そう言って困ったように微笑んだ。わたしは首を横に振る。「これでいい」
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