リモコンとカルピスとあいつ
熱帯気候に属する日本の夏は基本的に暑い。 特に近年じゃ平均気温が30度を超えるのも珍しいことではなくなってきた。 厳しい太陽光だけなら室内に閉じこもっていればいいのだが、この国はご丁寧に湿度まで高い。 北高に入学してから二回目の今年とて例外ではなく、ことさら暑い。 その暑さの上に夢見も悪かったおかげで長期休暇恒例の寝坊大会も催されず、自分の体温に耐え切れずにベットから飛び起きて扇風機をフルパワーで稼動させた。 ・・・させたのだが、今日の暑さは扇風機ごときで俺を解放することはなく、じっとりと汗ばんでTシャツが汗で湿る。一体何度なんだ。 周りの環境はともかく、自分自身は健全な日本男児なはずの俺はあっさりと夏の猛威にひれ伏せ、エアコンを点けることにした。 ところがリモコンがない。 おいおい。 このままじゃ死活問題だ。Where are you リモコン? Come on! などとのたまってる場合じゃないぞ。 古泉でも呼んで機関に探させねば。 いや、朝比奈さんに過去へ連れて行ってもらってリモコンくんの最後の居場所を突き止めるか? いっそ長門を呼べばコンマ1秒で見つけてくれるはずだ。ってリモコンひとつに何宇宙パワー頼ろうとしてんだ俺は。 ここにハルヒがいたら「こんな暑さくらいどうってことないでしょ。少しは耐えなさい」って言われてるな。 そのくせ「キョン、喉乾いたわ。カルピス作って。3秒で!」とか言い出すんだ。 「あたしが何を言い出すって?」 だから「キョン、喉乾いたわ。あんたのカルピス飲まs・・・いやそうじゃねえだろ俺って・・・ええ!? 「ぶつぶつなに言ってんのよ」 恐る恐る振り向いてみると、やはりそこには普段着姿のハルヒがいた。 「お前なにやってんだ?」 「こっちのセリフよ」 「いや俺はリモコンを探しているんだ。で、お前さんは何故俺の部屋にいる?今日の団活は休みだと聞いていたが」 「まったくバカキョンね。あんたに用があるからここにいるんでしょ!」 そう言って人差し指を向けるハルヒの顔が赤い理由は、暑さのせいだけではないことを俺は知っていた。 今年の夏、あたしは遂に決心した。 あいつと出会ってから一年。いつからそんな気持ちになったのかなんて覚えてない。 とにかく、あたしはあいつに自分の気持ちをぶつけることにした。 昨日までは不安で緊張してなかなか寝付けなかった。 でも今は平気。 いつの間にか見ていた夢の中で予行練習したからね。 あいつは一人で「またか・・・」とかぶつぶつ言ってたけど、あたしは夢の中のあいつに言った。 そうしたらあいつはものすごく優しい表情でうなずいてくれた。 その上あいつの表情のせいで動けなくなってるあたしの肩を掴んで・・・ ・・・無理。これ以上は。 でも、現実のあいつもきっと同じ表情するんじゃないかって思うのよね。わかんないけど。 精一杯おしゃれして、親に適当な理由つけて家を出た。 本当はどこかで会って話そうと思ったんだけど、あいつ携帯出やしないのよ。充電切れてほったらかしね。 そんなんで中止したくないからあたしはあいつの家に直接行ってやることにしたわ。感謝しなさい! あいつの家に着くと、妹ちゃんが出てくれた。 ものすごく嬉しそうにあたしを家の中へ招く。ホント可愛い子ね。 そして遂に、あいつの部屋の前まで来た。 突然、緊張と不安の波があたしの心を襲う。 どうしよう。 断られる? 今なら帰れる・・・ ダメよ!なに弱気なこと言ってのハルヒ!しっかり、しっかり! 深呼吸。すぅ、はぁー・・・すぅ、はぁー・・・ よし。 ドアノブに手を掛けて、開ける。 「ここにハルヒがいたら・・・とか言い出すんだ」 机のまわりでがちゃがちゃ何かを探しながらぶつぶつ言ってるあいつがいた。 だけど・・・なんか拍子抜けしたわ。 あたしだけ緊張しちゃってバッカみたい。 だから、言ってやった。 「あたしが何を言い出すって?」 END...
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