涼宮ハルヒのダメ、ゼッタイ四章
「ど、どうしたの?キョンくん?」下駄箱で春日が俺をその大きな瞳で見ていた。その時の俺が普通じゃなかったのは言うまでもない。「クソ!俺はハルヒを!!バカだ!最低だ!なあ、春日!明日から俺はハルヒにどう接すりゃいい?!」突然激昂した俺に、春日は動揺したように言った。「ちょっ、待って!話は聞くから取り敢えず落ち着いて!場所は…公園でいい?」ここは公園。俺と春日はベンチで並ぶように座っている。事情を知らない人が見たらカップルに間違われるかもしれない。ここで俺が春日の肩に手など回せば完璧だな。だが生憎、俺にそんな余裕はない。「どうしたの?涼宮さんと何があったの?」春日とは朝の挨拶以外はほとんど話したこともなかったが、話は本気で聞いてくれるようだ。俺は今までのことを呼吸をするのも忘れてぶちまけた。ほとんど話したこともない女子に、こんな長々と話すのは俺のキャラじゃないんだがな。今はとにかく誰かに話を聞いて欲しかった。春日は俺の話を真剣な目で黙って聞き、俺がたまに同意を求めると目を優しくさせ、「そうだね」と相槌を打ってくれた。「どう思う?!」その最後の言葉を俺が吐き終えると俺の興奮は冷めていった。が、代わりにいいようのない虚無感が襲って来る。何もやる気が起きない。ふう、と俺が久々に肺に酸素を運んでいると、春日は俺の質問には答えず、ベンチからすっと立ち上がった。「ねえ!今からうちに来てみない!?ほら!いーから、いーから♪」
ハルヒにも負けないような笑顔を見せながら俺の手を引っ張る。「お、おい、どういうことだよ?」言葉ではこう言ってるが、俺は大した抵抗もせず、フラフラと春日のあとを付いていく。正直、どういうことかなんてどうでもいい。全てが色褪せて見えていた。春日の家につくと、すぐにリビングに通された。両親はいないようだ。「それじゃ、早速あたしの意見をいうね?明日にでも涼宮さんに謝って?あたしは今までのキョンくんの頑張りを教室でいつも見て来た。だからキョンくんがその反動で、涼宮さんについ当たっちゃった気持ちもわかるよ。でも男の子から殴られるってことはあたし達女子にとっては、とても耐えられないことなの。好きな男の子からなら尚更…きっと今涼宮さんは泣いてるよ?お願い!涼宮さんを元気づけられるのは、あなただけなの!」いつもなら『好きな』の所で何らかの反応をして見せるんだろうが…当然、どうでもいい。わかってる、わかってるんだ。俺がこれから何をしなければならないのかくらい。「だけど…俺は自分が怖いんだ。あいつに会ったら…またあいつを殴っちまうんじゃないかって…」今の俺は誰がどうみても、とてつもなくヘタレなんだろうな。さすがにこれは春日も愛想を付かしてしまうか。と思っていると、「ちょっと待ってて!」と言ってリビングから出ていってしまった。「おまたせ!」戻ってきた春日の手には小さな怪しく光る注射器が握られていた。夕日の逆光のせいでシルエットになっている春日と注射器はシュールで、とても気味が悪い。「おい、それ何だよ。」「ん?かくせーざい♪」力なく問い掛ける俺の質問に、特に悪びれる様子もなくそう答える。その態度と質問に対する答えは、俺を動揺させるには十分だった。今日一番の揺れの観測だ。これはさすがに力なく「そうか」で済ますことは出来ない。「な…な……何を言ってるんだよ!馬鹿らしい!それをどうするつもりだ?!俺にヤク中になれっていってるのかよ!」「何言ってるの?たった一回だけだよ!今のキョンくんは自暴自棄になっちゃって、自分に全く自信がない状態なの!そんな、どうしたらいいか分からない時のための、一生で一度だけの切り札!これさえあればどんどん自信がついてくるんだよ?まるで自分がスーパーマンにでもなっちゃったみたいに!」いやいや、まてまて、おい。WHY!?いやマジでWHY!?「覚せい剤だぞ?!そんなもん一度やったら、二度と抜け出せなくなっちまうことくらい俺でも知ってる!悪いな。邪魔した。俺はもう帰る。」ここにいちゃいけない!そう警告している本能に言われるまま、俺は部屋を出ようとした。「また涼宮さんを傷つけるの?」
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