一生分の愛を、君に。
高校1年の春、ハルヒに閉鎖空間につれていかれ不本意ながらハルヒとキスをしてしまった訳だが、多分これがキッカケだったのだろう。あの時から少しずつだがハルヒのことが気になりだした。そして今は高校3年の夏休み、卒業まで半年を切って俺もようやく素直になろうと決意した。そう、この気持ちをハルヒに伝えようと思うのだ。
とは言ったものの、今まで生きてきて18年間まともな恋愛をしたことのない俺にとっては、なにをどうしたらいいのかサッパリわからない。かと言って古泉に相談してもどうにかなるとは思えないし、それにそれはなんとなくシャクにさわる。まして谷口に相談するなんともってのほかだ。そんなとき俺の頭に思い浮かんだのは…
「そうだ、朝比奈さんなら…」
あの優しく愛らしい人なら多分俺の悩みにも親身になって考えてくれるだろうと思い、携帯で連絡をとろうと考えた。ちなみに朝比奈さんはもう去年卒業し、地元の短大に通っている。なんでも看護関係だそうだ。卒業したといってもSOS団のメンバーであることには変わりがなく、不思議探検には必ず参加してくる。
「プルルル…プルルル…ガチャッ」
「もしもし~キョンくんどうしたんですかぁ?」
変わりない愛らしい間延びした声が聞こえてきた。
「実は、相談したいことがありまして、今から会えませんか?」
「どうしたんですか、急に?わたしも今は暇だから大丈夫ですけどぉ。じゃあいつもの喫茶店でいいですか?」
「すいません。じゃあ喫茶店に集合で。では、また。」
そう言って俺は電話を切り、急いで自転車をこいで喫茶店にむかった。着いてみると既に朝比奈さんが来ていた。
「すいません、お待たせして。」
「いえ、わたしも今来たところなんで気にしないでくださぃ。」
俺はアイスコーヒー、朝比奈さんは紅茶を頼んだ。
「で、今日はどうしたんですか?」
「あの実は…」
俺が話すのをためらっていると
「涼宮さんのことでしょ?」
「…!! どうして分かったんですか?」
「フフフ、やっぱり。分かりますよ、最近キョンくんいつも涼宮さんのこと見てますもんね。」
「そんなこと…」
確かに最近の俺は気がつくとハルヒを目で追っている。
「顔真っ赤ですよ。やっと素直になったと思ったら、まだ完全には素直になってませんね。」
そう言って朝比奈さんは可愛らしい笑顔を見せた。
「それで、ハルヒに告白したいと思うんですけど、どうしたらいいか分からなくて…。それにダメだったら今の関係が壊れそうで怖くて…。」
「ハァ~。キョンくんは何もわかってませんね。」
「え?なにがですか?」
「いいえ、なんでもありません。こっちのことです。」
「はぁ…」
「大丈夫ですよ、キョンくんと涼宮さんはきっと上手くいきます。わたしが保証しますよ。」
「そうでしょうか…」
「考えてもみてくださいよ、一昨年の春キョンくんはこの星で唯一涼宮さんが一緒にいてもいいと思われて閉鎖空間につれて行かれたんですよ。これがもう涼宮さんなりの告白みたいなものじゃないですか。」
「それは一昨年の話であって今はどうか…」
「大丈夫ですって。少しはわたしを信じて下さいよ。」
そう言ってまた可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「わかりました、朝比奈さん。俺がんばってみます!!」
「その意気ですよ。」
そのあと、胸の中のつかえがとれたようにスッキリした俺は朝比奈さんとたわいもないことを2時間も話してしまった。
「そろそろいきましょうか?」
「そうですね。今日はすいませんでした。いろいろと…」
「いいですよ。フフ、たまには先輩らしいことさせてくださいよ。それで、いつ言うんですか?」
「明日不思議探検があるんでその帰りにでも。」
「そうですか。がんばってくださいね。では、また明日。」
そう言って朝比奈さんは帰って行った。
夜俺は何を言おうか考えているうちに寝てしまったようだ。
次の日いつも通り集合場所にいくと、俺以外のメンバーがそろっていた。
「…やっと来た。早く来なさい!」
何故かそこには凄い不機嫌なハルヒがいた。一番最後だが、時間には遅れてないし、俺はなにもしてないぞ。俺は気になり朝比奈さんに聞いてみた。
「どうしたんですかハルヒは? なにかあったんですか?」
「わからないです…。来た時からこうでした。」
するといきなり古泉の携帯がなりだした。
「すみません。ちょっと急用ができました。申し訳ありませんが、僕は帰らせていただきます。」
そう言って古泉はそそくさと帰って行った。
「じゃあ、わたしと有希で北側を探すからあんたとみくるちゃんは南ね。」
「おい、ハルヒ、いつもみたいにくじ引きはしないのか?」
「そんなの必要ないでしょ!!!!」
なぜか俺はハルヒに怒鳴り散らされた。
「行くわよ、有希。」
そう言ってハルヒは長門を引き連れて行ってしまった。朝比奈さんはなにがおこったか分からず、ポカーンとしている。
「どういうことですか、朝比奈さん? 俺は何かしましたかね?」
「ふぇ~。わからないですぅ。」
朝比奈さんは今にも泣きそうな声で言った。
まったく、俺がせっかく告白しようと思ったのに、どうするんだよ…。
昼の集合まで俺と朝比奈さんはあの川のベンチで座って時間をつぶすことにした。昨夜のこともあり、俺は気づくと朝比奈さんの膝を枕にして眠っていた。
「大丈夫ですか? 今日のこといろいろ考えてねられなかったんですか?」
「すいません、俺いつのまに…。」
「大丈夫ですよ、きっと涼宮さんも今頃は機嫌をなおしていますよ。」
集合時間になり朝の場所に戻るとまだ不機嫌オーラをだしているハルヒがいた。
「今日はこれでおしまい。気分も乗らないし解散ね。」
ハルヒは怒りながら言うと、さっさと帰ろとした。俺はその手をつかみ
「何怒ってるんだよ。俺が何かしたかよ?」
ハルヒは目に涙をためたまま言った。
「何かしたかですって? 不思議探検だっていうのにみくるちゃんといちゃついて、SOS団の活動をなんだと思ってるの!! 昨日だって二人で楽しくデートしてるみたいだったし、もうキョンなんて嫌い!! 顔も見たくない!!」
そう言うとハルヒは走って行ってしまった…。俺が呆然としていると朝比奈さんが
「…キョンくんごめんなさいわたしのせいで…」
「いえ、朝比奈さんは悪くないですよ。俺がどうにかするんで気にしないでください。」
俺はそう言い残して、走ってその場から逃げ出した。
家に着いた俺は、深いため息をついてベットにねそべった。ハルヒの誤解をとこうと電話をかけてみるが、聞こえるのは呼び出し音だけだ。俺は段々腹が立ってきて携帯をほうり投げて、MDコンポの電源を入れた。聞こえてくるのはポップなメロディー、恋人のことを歌った歌詞。今の俺の気分を全く考えていない。嫌になり停止ボタンを押そうとしたとき、ある考えが思い浮かんだ。
「MDに声を録音して、ハルヒの家においてこよう。」
要するに少し前に流行った映画のMDバージョンだ。俺はすぐに空のMDを用意してコンポに話しかけた。
「えぇと…ハルヒ聞いてるか? 午前中のことだけど、あれは全くの誤解なんだ。昨日朝比奈さんとあってたのは、相談にのってもらってたからであって決してデートではない。今日のは昨日考えごとをしていたからあまり寝てなくて、気付いたら寝ていたんであって、つまり…」
自分でもなにを言っているのかよくわからなくなってきた。
「もうめんどくさい!! この際はっきり言うぞ!! 俺はハルヒ、お前のことが好きだ
。」
俺はなぜかコンポの前で告白を始めていた。
「初めてお前と話したときはなんでもないただの同級生に見えた。まぁ、少し変わってはいたが…。でもな、お前とSOS団を立ち上げていろんなことをやってくうちに、気付いたらお前は俺の中で欠かすことのできない存在になっていたんだ。えぇっと…もしよかったら俺と付き合ってくれないか?」
俺が停止ボタンを押すと部屋の扉のまえにハルヒ以外のメンバーがいた。古泉はいつもより3割増のニヤケ面を俺に向けている。朝比奈さんは顔を真っ赤にしている。長門もどことなく恥ずかしがっているようだ。もちろん一番恥ずかしいのは俺だけどな。聞けばほとんど最初から聞いていたそうだ。
「まったく、もっと気をつけて行動してくださいと言いにきたのに…その必要はなさそうですね。」
と古泉はニヤケながら言う。
「あぅ~。心配で追いかけてきたら…キョンくん凄いです。えらいです~。」
と朝比奈さん。
「……それを早く涼宮ハルヒのところへ持っていくべき。」
わかってるよ、長門。
さすがにMD一枚にこれだけというのも寂しいので、さっき止めた曲をダビングして入れてやった。このMDに俺の今後がかかっているわけである。
俺は急いでハルヒの家に行き、ポストにMDを入れてきた。ハルヒに気づかれないままだとどうしようもないので、メールにポストのなかを見るようにと送っておいた。
あとはハルヒの返事を待つだけだ。
俺は家に帰り、不安な気持ちで飯もろくに食べられず、部屋で横になっていると突然携帯が鳴りだした。俺は驚いて携帯を手にとると、ディスプレイには"涼宮ハルヒ"
俺は急いで電話をとった。
「もしもし、キョン?」
「あぁ、そうだぞ。」
「あの、今日はゴメンね。わたしの勝手な思い込みであんな事言っちゃって…」
「いいさ、気にするな。それで、MDは聴いたか?」
「うん…。そのことなんだけど、ちょっと外見てみて。」
「なんでだよ?」
「いいから早く!」
俺が窓から外を見るとそこには携帯をもってこちらを見ているハルヒがいた。
「あいつ何やってんだ」
俺は急いで外にいるハルヒのところにむかった。午前中の不機嫌オーラは消えていつものハルヒがそこにはいた。
「せっかく来てあげたんだから、お茶ぐらいだしてもいいと思わない?」
そう言ってハルヒは家のなかに入って来た。俺もハルヒを追いかけて家に入る。
「おじゃましま~す。」
挨拶もそこそこにハルヒは俺の部屋に入って行った。
「ハルヒ、来るのはいいがもう大分いい時間だぞ、こんな夜にひとりでくるなんて危ないじゃないか。なにかあったらどうするつもりだよ?」
時計はとっくに8時を過ぎている。
「へぇ~キョンは心配してくれるんだ~。もっともあたしのこと好きなんだし当たり前よね~。」
そう言って顔を近づけて来た。
そして何を考えているのか、コンポの前に行くとポケットからMDを出し、再生し始めた。
まさかコイツ俺がやったMD持ってきたんじゃないよな?
俺の予想は的中した。
「えぇと…ハルヒ聞いてるか? 午前中のことだけど、あれは全くの誤解なんだ…………」
「うわッ! 止めろハルヒ!」
MDを止めようとしたが、ハルヒに阻止され、背中に乗られてどうにも動けない。
MDは続いていていく。
「……お前とSOS団を立ち上げていろんなことをやってくうちに、気付いたらお前は俺の中で欠かすことのできない存在になっていたんだ。えぇっと…もしよかったら俺と付き合ってくれないか?」
ハルヒは俺の告白のトラックを聴き終わるとようやく俺から降りてMDを一時停止して、また俺のほうに戻ってきた。そして、向日葵みたいな笑顔で言うのだ。
「キョンはそんなにわたしのことが好きなのね。しょうがないから付き合ってあげるわよ。」
「まったく…言うの遅過ぎよ。わたしがどれだけ待ったと思ってんのよ。」
そう言うといきなり、唇を重ねてきた。
「これからもずっと一緒よ、キョン! 浮気なんてしたら死刑だからね!」
そう言ってもう一度キスをしてきた。さっきより少し長いキスを…。
不意にハルヒは立ち上がり一時停止していたMDを再生し始めた。あのときはあんなに嫌だと思った曲が今は俺たちにピッタリだ。
「これ、良い歌ね…。」
ハルヒは言った。
「ああ、そうだな。この歌みたいに、一生一緒にいような。」
それから俺とハルヒは、付き合うことになった。
夏休みがおわり、2学期が始まった。ハルヒはあれから、いつもMDウォークマンを持ち歩いて暇があると俺の告白を聴いている。まったく・・・。
「ハルヒ!そんなに聴いてて飽きないのか?」
ハルヒはいつもより100倍明るい笑顔で言った。
「飽きるわけないじゃん!大好きな人からの待ちに待った告白なんだもん!」
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