夏合宿『1日目』
季節は夏。空は雲一つなく目の前には海が広がる。海といっても砂浜ではなく、防波堤の上である。何をしているのかわかりやすく言うと、SOS団の夏合宿の最中だ。今日は防波堤で釣りをしているのだが、なかなか大変だ。もっとも大変なのは俺と古泉なのだが……針に餌をつける所から、投げて、釣れた魚を取るまでほとんど俺達の仕事だ。餌となるイソメを見るや否や、朝比奈さんはもちろんハルヒまでもが気持ち悪がって、餌付けは俺の仕事になった。ハルヒなら平気かなと思っていたので、イソメなんぞにびびるハルヒがかわいく見え……ゲフンゲフフン長門はじーと眺めた後、近くにいた古泉を見た。どうやらさわる気はないらしい。まぁ投げてしまえば、しばらく待つ事になるので、その間に湾の中の小魚を釣ったり、話しながら過ごしていた。冬につづき今回も鶴屋さんと妹が一緒に来ている。先程、鶴屋さんは湾の中を回遊している小アジを大量に上げていた。妹はその辺を走り回っている。頼むから落ちないでくれよ。 「なかなか来ないわね~餌悪いんじゃないの」まぁ落ち着け、海は広いんだ、ゆっくりかかるのを待とうぜ。SOS団の活動でこんなにゆったりとした活動はあまりないしな。「それもそうね。それにしてもほんとにそんな餌で来るの?」けっこうメジャーな餌だと思うんだが、イソメは…その時、長門が読んでいたハードかバーを閉じると、竿を手に取りまき始めた。上がった魚を見ると、鰈が釣れていた。大きさは手のひらより一回り大きいくらいで余り大きくはない。古泉に魚を取ってもらい、餌を付けてもらってそのまま古泉が投げる。長門はそれをじーっと見て古泉が置いた竿の隣りに座りハードカバーを開いたなんかあの二人、最近いい感じじゃないか、とハルヒに言うと「そうね、有希が古泉君に懐いてるみたいに見えるわ」たしかに古泉は変わらん様にみえるな。だんだんみんなの竿も反応を示して来た。幸先いいんじゃないか。 とりあえずなぜ合宿で海釣りをしているかを軽く説明しておこう夏休みに入る前に、いつもの活動をしていたSOS団の部室に鶴屋さんがやって来た 「やっほー!ハルにゃんにみんな元気かい~」鶴屋さんがすばらしいハイテンションで部室のドアを開け放つ「あら鶴屋さん、どうしたの」ほぼ同じテンションを発揮してるハルヒが答える。「今年の夏も合宿はやるのかい。おっみくる、ありがと」朝比奈さんからお茶をもらいつつ話す。行くことは決まっていますよ。ただどこに連れて行かれるかはわかりませんけど「まだ場所までは決まってないのよね。去年の孤島でもいいけど、できれば違う所がいいのよね」そうハルヒが答えると「おやっさんの知り合いに田舎で民宿やってる人がいて、夏休みになったら来ないかって言われてたのさ。ハルにゃん達も一緒に行かないかい?」「へー、どんな所なの」ハルヒは少し興味を持った様だ。余り変な事は言わないで欲しいのですが…「小さい港町の民宿らしいっさ。海のそばだから新鮮な魚介類がたくさん出るし、静かでゆったりできると思うさ」ハルヒがいれば静かにもゆったりもできない気がするが、俺には決定権はない 「それはいいですね、いつがいいですかね?」古泉が聞くと「夏休みに入ったらすぐはどうだい?お姉さんは受験勉強の息抜きしたいっさ。どうにょろ?」「ええ、それでいいわよ。決定ね」鶴屋さんが提案して、ハルヒが即決する。鶴屋さんが一緒なのは規定事項らしい。「詳しい場所と時間は、古泉君と相談してちょうだい。まかせたわよ」「承りました。お任せください」がんばれ、副団長兼イベント係「じゃ詳しいことはまた後で言いに来るよ。じゃねっ」そう言うとドアを開ける、そこで振り返り、「そうそう、近くに海岸があるから水着忘れちゃダメにょろ~」言葉を切ると、俺と古泉を見て「めがっさ期待してるにょろよ~」と言い残して笑いながら帰って行った。言われなくとも期待するしかない。それに、今年は鶴屋さんの水着姿も拝めるとは。こんな事を考えてると「マヌケ面。どうせ水着姿でも妄想してたんでしょ」ハルヒに突っ込まれる。たしかに妄想していたが、顔に出てたか「出ていた」と、長門にまでダメだしを食らう。 夏休みに入り、初っ端から合宿に出発となったわけだが、家を出る時、妹に見つからず出れたことに安心していた。だが集合場所に行くと、なぜか妹がいてビックリした。なぜいるかを聞き出すと、どうやら休み前に今年も合宿があると予測した妹がハルヒに電話して一緒に行っていいか聞いたらしい。ハルヒが断るわけもなく、了承を得た妹は、親を説き伏せ俺が起きる前に家を出たらしい。「キョン君に言ったらダメって言うと思ったから、ハルにゃんに言ったの~」ハルヒに抱き着く妹。「いいじゃない、去年も行って今年はダメとは言えないし、一緒のほうが楽しいじゃない」妹とじゃれあいながらハルヒは言った。ここで抗議するだけ無駄なのであきらめるとする。去年にも増して行動力がパワーアップしているな。ハルヒの影響か?そんなこんなで出発となったわけだが、電車で揺られること数時間、目的地である民宿に着いた。電車に乗ってる時からハルヒに鶴屋さん、妹はハイテンションだった。妹よ、今からそんなんだと後で疲れるぞ。 民宿に着いたのは、昼過ぎで、とりあえず民宿のオーナーに挨拶する。「こんな田舎まで、よく来てくれたね。嬢ちゃんにその友達達。歓迎するよ」「嬢ちゃんはやめてほしいっさ~めがっさ照れるにょろ」一通り挨拶して部屋に案内してもらう。民宿なので、一人一部屋とはいかず男と女で分れる事になった。結構広い部屋なんだこれがハルヒはさっそく海水浴をする気まんまんだったらしい。が、ここで古泉が「海水浴は明日にして、釣りなんかどうです?近くの漁港でなかなかいいのが釣れるみたいですよ」釣具一式を持っていた。どっから出したんだ?「民宿のオーナーさんに貸していただきました」ニヤケ顔で答える。「それもいいわね。じゃキョン、古泉君荷物よろしく」そう言って、先頭をきって歩き出す。ちょっと待て場所わかるのか「すぐそこに見えるじゃないの。さぁ行くわよ」「おー」鶴屋さんと妹が張り切って声を上げて、ハルヒに着いて行く。その後を朝比奈さんと長門がつづき荷物を持った俺と古泉が最後尾だ ここで冒頭の話にもどるわけだ。 みんなの竿に反応があり、結構な量が釣れた。日も沈みかけ、月が出て来た。日本海側ではなく、太平洋側なので水平線に沈む太陽は拝めない。内湾になっているので波もなく静かな海だ。「なにか飲み物でも持ってきましょうかね」古泉がそう言い歩き始めると「おやつも持って来る」と言って長門もふらふらっと古泉に着いて行く。さっきまで勢いよく走り回っていた妹は、朝比奈さんに寄り掛かって寝息を立てていた。やっぱり思った通りになったすいませんね、朝比奈さん「うふふ、あれだけ元気よくハシャいでたもの。疲れちゃったみたいね」やさしい笑顔で妹の頭をなでる。「このままだと風邪引くかもしれないっさ。夜になると寒くなるからね。部屋に寝かせて来るよ」いや、俺がつれていきますよ「キョン君は竿を見てて欲しいっさ。妹ちゃんはお姉さん達に任せなさい。みくる、いくよ~」すいません、お願いします。朝比奈さんと鶴屋さんは妹を背負って部屋に戻って行った。 ハルヒと二人っきりになってしまったが、ハルヒは特に意識するまでもなく普通だ。二人並んで座り、いつもの様にたわいない話をする。やばい、段々緊張して来た。はっきり言おう。俺はハルヒのことが好きだ。この気持ちに気がついたのはだいぶ前だが打ち明けられずにいた。そこ、ヘタレとか言うな。自分でもわかってるから。古泉は意図的にいなくなったんだろうが、せっかく二人きりになったんだ。今がチャンスだろ。「ねぇ、聞いてるの」ハルヒが俺の方を向く。「なんか、ぼーっとしてない。もっとシャキッとしなさい」ああ、そうだな。俺も男だ。ここで決めてやる。「ハルヒ」ハルヒの顔を見て、「お前の事が好きだ。付き合ってほしい」ここは敢えて直球で勝負だ。すると、ハルヒは「やっと言ってくれた」と、ほほ笑みながら答える。俺が呆気にとられてると、「今までどれだけチャンスを作ってあげたと思ってるの」あきれ顔でハルヒが言う。やれやれ、自分のヘタレっぷりにため息がでるな。 今までにも言おうと思った事は何度かあるけどな。「じれったいからあたしから言っちゃおうかと何度思った事か。我慢してたのよ」そんなに言わせたかったのか「言って欲しかったの」照れた顔で答えるハルヒ。そんな顔も可愛いぞ。「バカッ、浮気しないって誓いなさいよ」こんな可愛い彼女がいるんだするわけないだろ。ハルヒの顔を見て答える。そのまま見つめ合い、ハルヒが目を閉じる。去年の閉鎖空間みたいな不意打ちのキスじゃない。俺も目を閉じ顔を近づける… パシャ 唇が触れそうになった瞬間、シャッター音がする。俺とハルヒはビックリして音が鳴った方を見る。そこにはカメラを持った長門と真っ赤な顔した朝比奈さんにやれやれ顔の鶴屋さん、ニヤケ顔が3割増の古泉が物陰に隠れる様にかたまっていた。「有希っ、今、撮ったの?」真っ赤な顔でハルヒが聞く。俺の顔も凄いんだろうな。「0.27秒早かった…私としたことが…不覚」落ち込んだ様に言う長門。 「有希、そんな事は聞いてないの。そのカメラ渡しなさい」ハルヒが長門の方に駆け出す。「やだ」長門はハルヒから逃げながら答えた。そしてそのまま二人とも民宿まで走って行った。残った三人にいつから見てたのかを聞くと、「僕と長門さんは、一部始終見てましたよ。朝比奈さんと鶴屋さんは、十五分くらい前からですかね」ニヤニヤした古泉が言って「そだね、あたしらが戻って来たのはそのくらいだね」鶴屋さんが肯定する。「妹さんはちゃんとお布団に寝かしてきましたよ」ありがとうございます、朝比奈さん。どうやら妹はマジ寝だったらしい。朝からハイテンションでハルヒと居れば、体力がない分こうなるわな。この話はここで切り上げる、どうせ後からまたからかわれるだろうが。釣具を片付け、民宿に戻る。戻ってすぐ夕食の準備ができてると言われ、食堂に集まる。この時すでにハルヒと長門はいつも通りだった。ハルヒにカメラの事を聞くと「なーいしょっ」と言った。どうする気だ。 夕食は豪華だった。テーブルに所狭しと置かれた刺身の盛合せ、多過ぎないか。民宿のオーナーは「魚介類はたくさん入るからね。遠慮しないで食べとくれ」とのことだ。でも食欲旺盛な方々が居るから大丈夫か、なくなる前に取っとかねば。途中で妹が起きて来て「ずるーい、先食べてるなんて」そのまま朝比奈さんの隣りに座り刺身争奪戦に参加する。また騒がしいのが増えたな。ほとんど食べ尽くし、部屋に戻って一息つく、ほどなくしてハルヒが来て、「お風呂入って来るからね。覗いたら、海に沈めるわよ」それは勘弁だな。どうやら結構広い風呂らしくみんなで入る様だ。俺たちも行くとするか、古泉とだなんて、嬉しくも何ともない。言っとくが女風呂とは別だぞ「男同士、裸で語り合いましょうか」気持ち悪いこと言うな。俺にはそんな趣味はない。「でもこれで僕の肩の荷も少しは降りますかね」顔が近い、裸で寄るな。「なかなか告白しないから、また、ダメかと思いましたよ。今までにも色々策を考じてきたのですがね」悪かったな、ヘタレで。 風呂に入っている間、今までにもあーしただのこーしただの聞かされた。もういい、ヘコんでくるから。風呂から上がり部屋に戻ると、古泉がトランプを鞄の中から取り出し「どうです、一勝負」他にやることもないので、やってやるとする。二人だからな、ポーカーでどうだ。「いいですよ」トランプを配りながら、「本当は二人一部屋にしたかったのですが、他の宿泊客が入ってまして部屋がとれなかったんです、そうすれば僕と涼宮さんが入れ替われたのですが」入れ替わると言うことは、お前は長門の部屋に行くんだな。「おっと、ばれましたね」やっぱりか。お前らいつからだ。「三か月ほど前からですかね、二人の時は有希と呼ばないと怒られますが」軽くのろけやがった。ええいニヤニヤするな。女性陣が風呂から上がって、俺らの部屋に突入して来るまでに8回やったが俺の全勝だ。随分長っかったな。「いいじゃないの、お風呂ひろいからゆったりしてたの、古泉君あれ出して」 古泉はあれですねと、鞄の中から人生ゲームを取り出した。もしかして冬合宿でやったやつか。「違うわよ、これは夏Ver.」あまり違わないな。俺が疲れるための物には変わらないだろやっぱり俺が疲れるはめになった、一人で踊ったり、一人ブートキャンプ(鶴屋さん爆笑)やらされたり、四つん這いになって背中にハルヒを乗せ部屋一周とか、まぁ乗られるより乗る方が…ゲフン 色々やらされたが、順位を発表しよう。一位から、長門、ハルヒ、鶴屋さん、妹、俺、朝比奈さん、もちろん最後は古泉だ。ゲームが終わり、女性陣が引き上げる時に、「明日は海水浴だからね。寝坊したら罰金だからね」とハルヒが言い残して、帰って言った。おやすみくらい言ってけ。「明日が楽しみですね。ではおやすみなさい」そうだな明日のためにも、さっさと寝るか。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。