涼宮ハルヒの本心-第三章-
今までにも、谷口にはいろいろとおかしな事を言われていた。「お前には涼宮がいるんだろ?」とかな。しかし・・・・ハルヒが俺のことをなんてよく言ったものだ。有り得ん。地球が逆回転を始めようが、天地が逆転したところで有り得ない話だ。俺は単なる団員その一にすぎない・・・いや、「その他雑用係」のような扱いすら受けているのだ。ハルヒが俺のことを好いてるんだとしたら、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか。せっかくの休日だというのに野球大会に参加させられたり、孤島までひっぱりだされたり、荷物持ちさせられたり奢らされたり、冬の雨の日に駅二つはなれた電気街までおつかいさせられたりしたんだ。こんなことさせるか? 普通。いや、あいつに普通とか日常やらを求めること自体愚かだということは理解しているが。「有り得ないと思うぞ、谷口」という俺の反論を谷口は否定する。「いやぁ、何も無いって方がおかしいだろう? キョンよぉ」おかしくも何ともない。普通の毎日だと思うぞ、俺は。「毎日朝にイチャイチャしながらおしゃべりして、」イチャイチャは余計だ、イチャイチャは。「二人とも放課後は必ずと言っていいほど部室に向かう」サボったらあいつが怒るだろうからな。仕方あるまい。「あいつが『寂しがるから』じゃねぇのか?」・・・・だめだ。付き合いきれん。 ハルヒを一般的女子高校生と同じ視点で捉えてはいけないんだよ。お前の常識が、あいつに通じるはずは無いんだ。「アホなこと言うなよ。じゃあな」弁当箱をナプキンに包み、カバンに放り込む。「おい、キョン!!どこ行くんだよ」・・・放っておいてはくれないのだろうかね。適当に返答しておこう。「腹ごなしの散歩だ」まぁ散歩というのは半分嘘である。行き先は一応決まっているのだ。SOS団アジトもとい・・・文芸部室に向かうことにする。昼休みを静かに過ごすにはちょうどいい場所だ。おそらく部屋の中には長門しかいないはずだ。しかし、万が一のこともあるので(特に朝比奈さん関係)一応ノックしておこう。コンコン・・・と軽く音をだし、ドアノブに手をかけようとしたとき。聞いたことがあるような、しかしそう何度も耳にしたものではない・・そんな声が俺を招いた。「どーぞー」この声は、長門のものではない。いや、そもそも長門はこんな発言をしない。ハルヒの声でもない。あいつにしては高い声だ。朝比奈さんか? いや、朝比奈さんのものとも違うようだ。女子の声なので古泉説は即却下である。いつかのように声マネでもしていたら殴ってやろうか。・・・・そんな思考を頭の中でぐるぐるさせつつドアを開ける。するとそこには、パイプ椅子に座る、今朝あったばかりの人物の姿があった。「あ、キョンさん。こんにちわ」
渡が、すぐ目の前にあるパイプ椅子に本を手にして腰掛けていた。その本は、長門がつい最近まで読んでいたもの。哲学系やミステリ系の物ばかりよんでいたあいつが最近良く手を出す種類の本。恋愛小説だ。ケータイ小説を本にしたものらしい。「長門に借りたのか?」分かりきってはいるのだが、一応聞く。あいつが他人に本を貸すところを見たことはあまりないからだ。「はい。何かおすすめの本とかありますか?って聞いたらこれって」長門のおすすめがこれ・・・ねぇ。意外としかいいようが無いな。と呟いたら、渡に怒られた。頬を膨らませて、「失礼ですよ。長門さんだって年頃の女の子です」本当は宇宙人製のアンドロイドなんだがな・・とは言えるわけがない。ここは素直に同意しておこう。「あぁ、そうだな。ただ、長門がこういうのを読み始めたのはつい最近だからさ」俺は単に、哲学物を読むのには飽きたのだろうとしか思っていなかったのだ。好んで読んでいるとはな。やはり、ユニークなのだろうか。・・・それより、何でお前が部室にいるんだ?「校内を探検してたんですよ。その途中で来たんです」校内回りを探検と称するのは小学生とかせいぜい中学生ぐらいだと思うが。まぁ、さして気にしないほうがいいのだろうな。
とりあえず、俺も椅子に座ろう。そう思い歩きだそうとした瞬間・・・さっき開けたばかりのドアが開かれた。思い切り開け放たれたそのドアは、目の前にいた俺の背中を直撃し突き飛ばした。不意打ちを受けた俺は前のめりになって倒れこむ。それだけならよかった。痛いだけで済む話だ、だが。現実は違った。「きゃっ!!」「うぉっ!!」・・・目の前にいた渡を押し倒すような感じ(実際そうだが)になってしまった。床で仰向けになって倒れている渡の上に、俺が覆いかぶさっている。四肢で体を支えているので、密着しているわけではないが・・・。顔が近い。気色悪いときの古泉と同じくらいに。急な状況に驚き、思わず息が止まっていた・・・しかし、ずっと息を止めてるわけにはいかない。吐息がもれる。互いの息遣いが聞こえる。妙に荒い自分の呼吸に気がつき、俺は飛び上がるようにして起きた。ドアを開けた人物に文句を言ってやろうと振り返って、「何するんだこの野郎!!」と威勢良く発言したのはいいが、そこにいた人物を見てすぐに後悔した。その人物は・・・眉間にしわを寄せ、拳をつくった手をわなわなと震わせていた。「この・・・エロキョン!!!!!!!」涼宮ハルヒがそこにいた。ハルヒは俺をエロ呼ばわりしながら襟首をつかみ、ゆさゆさと揺らし始めやがった。「このエロキョンが!!何で後輩を襲ってんの!?そんなのあんたには100万年早いのよ!!」
苦しい・・・苦しいから離せ、ハルヒ。そろそろ三途の川が見えて来ちまうぞ・・・・。「何言ってるの。あんたが悪いんでしょ?神聖なる我がSOS団の部室でこんなことして!!」「こんなことになったのはお前がドアをいきなり開けるからだろうが・・・」俺の言うことは正しい。真実だ。神に誓おう。なぁ、お前からも言ってくれよ渡・・・・と言いかけたところで気づいた。渡が放心状態になっていることを。仰向けのまま、ボーっと天井を眺めている。非常事態というやつに、俺ほど慣れては居ないのだろう。「そんなの関係ないわよ」いや、あるだろ。「この子をこんな状態にさせるほど・・・あんたは・・・あんたは・・・」まて、ハルヒ。話せば分かる、なぁ。話そう、一時間くらい。な?「そういうこと・・・したいわけ?」・・・・は?
「そういうこと・・・したいんでしょ」
「い、いや、そういうわけじゃ・・・」
曖昧な口調で話す俺。そんな俺に、ハルヒは爆撃をしかけた。正直、世界中どこをさがしてもこの破壊力をもつ物は見つからないだろう。それだけ衝撃的で、しかも唐突だった。
「そういうことしたいんだったら・・・・」
正気の沙汰とは思えない、こんな言葉を。あいつは、俺に投げかけた。
・・・・というか投げつけた。
「・・・あ、あたしにしなさい!!!!!」
全世界が、停止したかのように思われた。
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