キョンの鬱憤
1年生になって、初めての冬休みの日だった。ハルヒの突然の思いつきにより、なぜか俺たちは焼肉を食っていた。
「キョン!そのお肉は私のよ!!」「これは俺が大事に焼いた肉だ!!」「まあまあお二人とも、喧嘩なさらないでください。」「そ、そうですよぉ。お肉はまだいっぱいあります~!」「……。」
ええい忌々しい!俺がたったこの一切れのためにどれほどの労力と時間を費やしたと思っているんだ!しかもハルヒは俺と古泉のおごりって事を忘れて好きなだけ食うわ食うわ。いい加減にしてほしいもんだね。俺だってたまにはわがままも言いたくなる!
「ったく、キョンはいちいち細かいのよ……このお肉美味しそうね。」「それは、あ、僕の…」
挙句にこいつ、古泉の肉まで食いやがったぞ。古泉、いまだけならお前に同情してやる。いつも笑顔を絶やさないから表情はよみとれんと思っていたが分かるぞ、その悲しさを隠した笑顔は。ポン、と肩をたたくと古泉は仕方がありません、新しく焼くことにいたします。と言った。神には逆らえないって普段からも大変そうだとは思っていたがおごりの食べ物まで遠慮しなくてはならん古泉をどうか助けてやってくれ、神様。あ、神は俺の横にいるこいつだっけか。なら無理だな。
そんな風に古泉に同情しかけていると、横に座っていた朝比奈さんが遠慮気味に話しかけてきた。
「あの、お野菜も美味しいですよ。」
朝比奈さんがにこりと微笑みながら言うので俺は笑顔でいただいた。それをみたハルヒがナスもかぼちゃも、焼いてあった野菜を口に放り込みやがった。なんだそれは、嫌がらせか。俺に対する嫌がらせなのか。
「あんふぁふぁひも有希をみならいなふぁい!」
黙々と少しこげた肉や小さい肉、野菜を食べている長門を指差すハルヒ。どうでもいいが口に含んだまま話すんじゃない、汚いから。だいたい俺たちに言うよりお前が見習え。肉しか食っとらんかっただろうが。しかも人の焼いた肉。やっとごくりと野菜を飲み込めたらしいハルヒは俺の焼いていた肉2号をまたもや横取りしようとしやがる。ペチン、と手を叩くとなんともまあブサイクな顔になって叫んだ。まあ普段からブサイクなんだがな。
「なによなによ!今日はあんただけがお金払ってるわけじゃないのよ!」
そうだな。ただお前じゃなくて俺と古泉なんだけどな。
「いいからその肉を私に渡しなさいっ!!団長命令よっ」
そんな理不尽な団長命令聞いたことがないわ。いやいつも理不尽だけど。俺の肉を取ろうと何度もこりずに箸を伸ばしてくるハルヒに俺は箸で手を叩くという行為を繰り返していたときだった。さすがにハルヒは諦めたのか、俺の肉に手をだすことをしなくなった。まあ不満げな顔はしているが。俺は肉をひっくりかえす作業を黙々と続けていたとき、ハルヒの箸が動くのをみた。
たまたま俺の手には肉をひっくりかえすアレがあった。まあずっと肉をひっくり返したりしてるわけだから結構熱くなってた。まだ懲りてなかったかと思って俺はそれでハルヒの手の甲を叩いてしまった。てか箸と間違えてつい。悪気はなかった。いやぁでもそのときのハルヒの悲鳴は今でも笑っちまうね。
「あっつhtれりあwせdrftgyふじpこ;@!?」
その悲鳴が面白くて思わず次はジュウッと押し付けてやった。さっきよりも長い悲鳴に俺は思わず笑った。古泉の笑顔が固まる。朝比奈さんはふえぇ~と気絶してしまった。長門はこちらを見たまま動かなくなった。そしてその後手だけじゃつまらんなぁと思った俺はそれをあいつの目にあててやった。
「キョッあsつhq○krp@pwp!・!?!?!」
やけどでハルヒの目は赤くなっていた。ハルヒは熱いのと怒りとワケが分からないといった状態で俺にむかって叫ぼうとした。うるさく怒鳴られるのは嫌だったから口に十分焼いた肉をつめこんでやる。熱くて小さい悲鳴をあげたあと、ろれつが回っていないハルヒは俺に抗議をする。
「ひーふぁふぇんにひなはいよ!!ふぁんああにふぃたかわふぁっふぇんの?!」「くくっ…!!ハルヒお前、それ何語だよ…くっw」
わけのわからん言葉を叫ぶから肉を(省略)アレで(いい加減名前分からんと鬱陶しいなおい。)ハルヒの舌をつかんだ。
「ハハハ!ハルヒのタンは美味しそうだなぁオイ。」「~~!!!」「ちょ、ちょっと!何してるんですか?!」
やっと正気に戻ったらしい古泉が俺の手から肉をひっくりか(ryを引き離した。俺は古泉をにらんだ。古泉が少しだけひるんだ。
しかしひるんだだけでまた俺の目をくそ真面目な顔で睨み返してきた。負けじと俺は古泉とにらみ合い、そして俺は口を開いた。
「せっかく今からタンを焼こうとしたのに…ぷっ」
しかしさっきのハルヒの悲鳴と顔を思い出して俺は噴いてしまった。
「どうされたんですかいきなり!!正気に戻ってください!」
古泉がうるさく感じた俺は箸で古泉の目をついた。そして思い切り力をいれてやる。うぁっと叫び、片目をおさえたままほとんど動かない。痛みに耐えているようだ。おさえた手の間からは血が垂れている。俺の横ではハルヒは泣いている。前の席で長門はまだ動かない。
「…あーあ、冷めちまった。おい長門、俺はそろそろ帰るな。」「……。」
長門は返事をしなかった。俺はむかついたので長門のめがねを網にのせてやる。ふと気絶したままの朝比奈さんを見て俺は何かしようかと思ったがやめた。マイスィートエンジェル朝比奈さんをいじめるなんて純情な俺にはできっこないからな。
次の日、部室に行くと目に包帯を巻いた古泉と、少し溶けためがねをかけた長門、そして俺にびくびくと怯える朝比奈さんがいた。ハルヒはその日、学校を休んでいた。そして、学校にこなくなった。俺には安息の日が戻ってきた。古泉はなぜかまだ学校にきている。長門もだ。朝比奈さんは知らないけど、多分まだいるだろう。なぜまだいるんだろうかと思ったが、きっとハルヒがまた学校にくるからだろう。あいつしぶといからな。そしてある日、ハルヒが学校にきた。そして放課後俺のネクタイをひっぱってきた。あんなことがあってからあの笑顔を絶やさない古泉でさえ俺をみるだけで顔をそむけるってのにコイツはこりないねぇ。そういえば古泉の目、治ってたな。失明しなかったのか。
「謝罪しなさい!!」「謝るだけでいいのか?」「ハァ?あんたがアイスなんか買ってくるから私はお腹がいたくなって3日も学校休むことになったのよ!?」「…アイス?」
俺は苦笑を浮かべた。なるほど、長門が情報操作や再構築(いや、再構成か?)でもしたらしい。だから古泉の目も戻ってたわけだ。さしずめ俺がハルヒにアイスを買いにいかされて買ってきたらそのアイスで腹を壊して、俺が買ってきたから俺が悪い、と。だとしたらあの出来事は忘れているというわけか。
「…すまなかった。」「ふん!それでいいのよ。だけど罰として、ジュースをかってきなさい。あったかいのよ。もちろんあんたの奢りで。」「ちっ…わかったよ。」
変に逆らわないようにしたほうがいいだろうな。そう思って俺はジュースを買いにいった。
冬休みがせまっているある日。部室で古泉とほとんど無言でオセロをしていると、ハルヒがいきなりイスから立ち上がった。
「ねえあんたたち!冬はあったかいのが食べたいわよね!!」「唐突に何を言い出すかと思えば…。」「冬だし、焼肉でも食べに行きましょう!!」「そ、そうですね。それは…良い…考えです。」「………。」「けど…あの、焼肉は高いですし…」「ばっかねぇみくるちゃん!ここは頼れる男性人に奢ってもらいましょ!」「なんで俺が奢らねばならんのだ!!」「ねえ古泉くん!いいわよね?」「僕は…かまいませんが…」
古泉の笑顔がいつもと違う。神様のお誘い、断れないって悲しいねぇ。そこで俺は気付いた。何かがおかしい。1年生になって、冬休みは前終わったはずだ。しかもこの会話、前も…。
少し考えたあと俺は確信した。ハルヒだ。
なるほど、何でかは知らんがハルヒがそう望んだ。だから同じことがくり返されているようだ。とすると…古泉はこのあと前と同じことが起きたらと思うと気が重いだろうな。
「よし!それなら決まりよ!!それじゃあ明日の午後5時にここの校門前に集合!」「ちょっとまて!俺は奢るなんて」「遅れたら死刑だからね!!」
そうやって言うと朝比奈さんと話し始めるハルヒ。俺は笑顔で古泉のほうを向いた。また、あの快感を感じることができるのだ。古泉は俺の顔をみて、絶やさなかった笑顔をやめて顔を強張らせた。その後ろで長門は本を読んでいる。朝比奈さんはハルヒに話しかけられながらも俺をちらちらと何度も見ていた。
終
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