ひぐらしの憂鬱10章
「ん?……もう、夕方か…」どうやら俺は横になっているうちに眠ってしまっていたようだ。時刻は、、、そろそろ晩飯時といった頃合いだ。
未だに頭の中が混乱している。寝起きだからではない、それははっきりわかっている。そう、昼間の新川の話を聞いたからだ。あいつら、SOS団の連中の話ばかりではない。最後に新川さんはなんと言った?
『次に危ないのはあなたです』
俺が殺されるだって…?そんなもの…信じられるはずないだろ…だって、あいつらは………仲間だから。
「母さーん!……なんだいないのか?」今のテーブルの上に走り書きのメモが残されていた。どうやら妹と母は少し離れた街まで出かけているとのことだった。今うちにいるのは俺一人ということか、、、「ふぅ…」喉が渇いたので水を飲むことにした。蛇口を捻り水をコップに汲み一気に流し込んだ。
そのときだった
『ピンポーン』
「誰だこんな時間に…」時間帯を考えてもらいたいものだ。一般的な家庭はこの時間夕飯を食べているだろうに…まぁ晩飯にすらありついてない俺が言うのもなんだがな。『ピンポーン…ピンポーン』「はいはい、今開けますよっと…」ガチャっとドアを開けた先にいたのは、、、
「なんだあんた起きてたの?」「キョン君大丈夫ですか?」
「ッ!?…ハルヒ…朝比奈さん…」心臓が飛び跳ねた。さっきの話を聞いたからだろうか。「ど、どうしたんだよ…」「はぁっ!?団員が欠席したんだから団長として見舞いに来てあげたのよ!!」「え…?」「みんな心配してましたよ?」「そ、そうですか…すいません…」何をビクついているんだ俺は…いつものように話せばいいだろ俺!!「あの、これお見舞いの品です。はい、ちなみに中身はおはぎですよ♪」「あ…ありがとうございます」「あたしとみくるちゃんで作ってあげたのよ?大事に食べることね!!」「あ、あぁ…」いつもどおりの二人だ、、、「5個入ってるからどれがあたしが作ったやつか当ててみなさい!これは今日の宿題よ!出来なかったら明日学校で罰ゲームだからね!!」「おまえなぁ…病人にそんなもんやらせるんじゃねぇよ」いつものペースについつい流されてしまうが、こいつと話していると暗い気分も冴え渡っていくような気がした。「たいして具合も悪くなさそうだし見舞いに来ることも無かったわね」「ふふふ、そんなこと言って学校では結構心配してたんですよ?なんだかソワソワしちゃって」「そ、そんなわけないでしょ!?みくるちゃん!いらない事言わなくていいの!!」「ふふふ♪」二人の気持ちが素直にうれしかった。俺を心配してきてくれたというのが心に伝わってくる。「……ありがとな」そう言うと二人は微笑んだ。 ・「じゃあそろそろ帰りましょうか、あまり長居すると悪いですし」「そうね。あ!そうそうキョンあのさぁ」「なんだ?」このときはまだ何も違和感を感じなかった…はず、だった……
「あんた、『お昼』何食べた?」
!!!!????瞬時に二人の目つきが変わった
目つきだけではない
表情までもが変わり先ほどの笑顔は消え失せていた
以前見たことのある目が俺を見つめる
あの恐ろしい目
ハルヒだけではなく朝比奈さんまでもがその目をしていた
なぜ昼のことを聞くんだ!?まさか新川さんと一緒だったことを知っているのか?だとしたら危険だ、、、誤魔化さなければ…
「ねぇ…お昼に何を食べたの?」「そ、外で食った…」「キョン君、今日は外食だったんですか?おいしかったですか?」「な、なんでですか?べ、別にどうでも、、、いいじゃないですかそんなこと…」落ち着け俺!!二人が新川さんのこと知っているわけが無い!!今日は二人とも学校だったはずだ!!知ってるはず無いんだ!!!!!!!
「渋めの男の人と一緒にいたみたいだけど…誰?」
知ってる……?そ、、、んな、、、、、、
「へぇ……キョン君知らない人といたんですかぁ?…それ………誰ですか?」
「誰?」「誰ですか?」
「ひっ……」
声が……出ない……
「あら…答えられないの……?じゃあ、あたしが当ててみせようか……?」
「あ……う………」
「もしかして…この前車の中で一緒に話してた人かしら……?」
「な……なん、で……?」必死に搾り出せた言葉だった。
「なんで知ってるかってこと?ふふふ…」「うふふふ…なんでですかねぇ……」「一つ言えるのは…あたしたちには何でもお見通しだってことよ……ふふ」「うふふふ…それで、キョン君そのおじさんと随分必死に話してたみたいですけど………何を話してたんですか?」
やばい!?それだけは知られるわけにはいかない!!!「なっ、何も話してません!!!ハルヒとも、朝比奈さんとも関係の無い話です!!!」「なんで聞いても無いのにあたしたちの名前が出てくるの?」「そうですねぇ…不思議ですねぇ……なんでですかぁ?」
何だこいつらは…なんでその場にいなかったのに話の内容までわかるんだよッッ!!!!!!
「ふっ…まぁいいわ、あんたが何をしてんのか知らないけど…あたしらには全部お見通しって事だけは知っておいたほうがいいわよ?」
ビクッ!?
「キョン君、もう寝たほうがいいですよ?顔色が良くないみたい」「そうねわたしたちもそろそろ帰るわ」
ドアノブに手をかけゆっくりうちを出て行く二人。静寂が訪れr『バーン!!!!!!』
ドアを叩く音が聞こえ、少し顔の見える程度ドアが開かれた。そこに浮かぶ二つの目玉。
「あぁ…キョン……あんた、明日休んだらどうなってるかわかってんでしょうねぇ………」
そう言い終え…ハルヒは帰っていった、、、
「っ…はぁはぁ、はぁはぁ…」
長い間息を止めていた、いや…呼吸することを禁止されていたような気がした。あいつらは知っていた。俺が警察と一緒にいたことを。どうしてかは知らないが、する事なす事あいつらには全て知られている。あいつらは何が言いたかったんだ!?あそこまで俺を追い詰めるということは…つまり新川さんに、他の奴に余計なことを言うなと釘を刺していたということか!?
「そうだ……俺は、新川さんとは話しちゃいけない……いけないんだ…いけないんだ…だってあの警察は俺の仲間を疑っているんだ…俺たちは今までの生活を楽しんでただけなのに、あの人はそれを壊したんだ。新川さんがオヤシロ様の話なんかしなかったら…いや、そもそも裕さんがバラバラ殺人のことを話したせいで……そうだ裕さんがペラペラと話したから…みんながわざわざ内緒にしてくれていたことを俺なんかに話したから…」
ハッ!?だからか…?だから裕さんは…裕さんは………みんなに、『殺された』……余計な話をしたから殺されたんだ…ということは…新川さんもそのうち殺される
俺の中に一つの考えが浮かんだ、、、『オヤシロ様の祟りにあって殺されるべきなんだ』
「そうだ…あんな奴ら…あんな奴ら…殺されて当然だ!!!!!」
あいつらは余計なことを話したから…だが俺は違う……
そう、、、「俺は違う、俺はあいつらみたいにペラペラと馬鹿みたいに言いふらしてないしこれからも言いふらさない…全部忘れる…事件のことも、みんなの過去のことも、、だから…だから明日は元気に登校するんだ。そしたらあいつらもまた、いつもみたいに俺を迎えてくれるはず……」あいつらは悪くない。悪いのは全て俺。俺が忘れるならばあいつらも俺を許してくれるはず。
俺はあいつらの仲間だから
・ ・ ・気分を変えてあいつらの持ってきたおはぎを食べることにした。宿題だったからな。「ハルヒの作ったのを当てる…か」見たところ小さ目のが4つ、やけにでかいのが1つだけドンとおいてある。それぞれのおはぎの上にはアルファベットでAからEまで記号がある。
「ははは…どう見たってこのでかいのがハルヒ作のものだろ」
しかし見た目で判断するのは良くない。とりあえずAから順に食べることにした。「うん、うまい。これはお茶が良くあう」やはり和菓子にはお茶だななどと日本人らしい考えを張り巡らせていた。
「朝比奈さんの作ったものが食べられるなんて俺は随分幸せだな、
はは…………ん?」モグモグと2個目を食べていると口の中に違和感が感じられた。あいつらのことだ、というかハルヒのことだ。何かおはぎに入れたのであろう。やれやれと思った瞬間いやな考えが頭を横切った。あいつらの入れそうなもの…?先ほどの二人の行動を見る限り中にチョコのような生易しいものを入れるはずはない。むしろ俺を脅すような何か……
それはまるで舌を刺すような感覚だった。
口の中から赤い液体がポタポタとテーブルの上に零れ落ちる。
これは…『血』?
「…どっ、どうして……?……ッ!?」
手の上にも血が垂れていたが血以外の物体が見えた。
「裁、縫針…?」
おはぎに裁縫針が入れられていた!?あいつらこんな悪戯を、いや悪戯などというレベルではない。針など飲み込んだらどうなる?怪我ですむと思ってるのか?
つまりこれは、あいつらは、、『俺なんか死んでしまえ』と思っている……
「うぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
目の前にあるおはぎを掴む。壁に向かって投げる。グチャッ
掴む
投げる
グチャッ
グチャッ……
「…ああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁあぁぁ!!!!!
はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
居間の壁にベットリとおはぎが塗られる。
これはもう、脅迫の域ではない。俺の息の根を止めるつもりなんだ。
なんでなんだ!?殺人事件のことを聞いたからか?警察にみんなのことを言ったからか?
『次に危ないのはあなたです』新川さんの言葉が再びよみがえる。
「ちくしょう…畜生畜生…畜生!!!俺が何をした!!!こんなわけもわからず殺されてたまるか!!!俺は絶対死なない!!死ぬものか!!!!」
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