SOS団プレゼンツ 第一回 涼宮ハルヒ争奪戦 ―最終試練(前編)―
最終試練の準備とやらが結構かかるとのことで、俺は独り暇を持て余していた。だが、これからする内容を思い出し、反芻すると意気消沈してしまう。最終試練の内容は、参加者が俺と一対一の勝負をすると言うものだ。何を勝負するかは参加者が任意に決めることができ、その勝負に勝ったものがハルヒに告白できる、ということになるらしい。だが、なんでハルヒはこんな大一番を俺に任せたのだろうか?その気になれば、俺がわざと負けてさっさとハルヒの彼氏を作り上げることも可能なのに。鶴屋さんが言ってたように、俺を信頼しているというか?…うーむ、わからん。なんで俺がこんな大事な場面を任されたのか…「そんな理由は簡単だ」―谷口!?いきなりなんだ?何を言いやがる!?「いきなりなのはお前だ。突然ぶつくさ喋り出しやがって」うをっ!俺は独り言を喋っていたのか!しかもそれを谷口に聞かれていたとは、何たる不覚!「全く、毎度毎度けったいなイベントに参加させやがって。それもこれも全部お前が悪いんだ」なぜ俺が悪いんだ。考え付いたのハルヒだ。俺じゃなくてハルヒに言ってくれ。「お前がさっさと涼宮とくっつけば涼宮はこんなけったいなイベントを考え付かなかったんだ。だから全ての責任はお前にある」なんでそうなる。それに俺はあいつの彼氏でも配偶者でもない。「ハタから見る分にはそう見えないぜ。いい加減付き合っちまえよ。もっとも、北高生でお前らが付き合ってないと思ってる奴はいないんだがな」何だと!?どうしてそうなるんだ!?「…お前まさか自覚ないのか?お前らはクラスだろうが部活だろうかいつも一緒にいるし、休みの日も一緒に出かけているという噂は周知の事実だ」 いつも一緒ということで男女の関係にされるなら、俺と朝比奈さんをその対象にしてもらいたいものだ。そして休日いつも一緒に出かけているというのは、不思議探索を目撃した北高生からの噂が曲解したものだろう。事実は違う。それに、何故俺とハルヒなんだ?お前の言ったことが真実なら、古泉とハルヒという図式だって成り立つはずだ。「ハタから見てるとな、涼宮の対応はお前とあいつでは全く違うんだよ。ったく、お前は物事を主観的に見過ぎだ。もっと客観的に物事を見るようにするんだな」谷口に物事を客観的に見ろと言われるのはかなり腹立たしい!しかし、どう見られようが、俺とハルヒはそんな関係ではない!「いいじゃねーか。くっついちまえよ。涼宮も以前ほどの奇人変人振りはなくなったんだ。寧ろ羨む奴の方が多いくらいだぜ?」俺があいつとそんな関係になる動機が微塵も見つからないわけだが。「ほう。じゃあ俺がアタックしてもいいわだ。実は中学の時から狙ってたんだよな。性格がアレなせいで未遂に終わってたんだが。最近まともになりつつあるし、俺のストライクゾーンに突入しつつある。お互い知らない仲じゃないし、脈はあるかもな」………勝手にしやがれ。谷口は古泉のようなニヤけ面を俺に向けていた。「…へっ、お前の態度を見てるとヘドが出るぜ。お前の態度を改ませるためにも言ってやる。お前が疑問だった、何でこの最終試練に涼宮がお前を使うことを決めたのかをな。あいつはな、彼氏候補を打ち負かしてもらいたいんだよ。あのキザ野郎じゃなく、お前にな。涼宮はな、お前に護ってもらうことに憧れてんだよ。間違なくお前が好きなんだ。あいつは素直じゃないからそんなことはおくびにもださないだろうがな。だからよ、お前から告白しちまえ!」……………。俺は三点リーダを残し、沈黙していた。「…ちっ、何を悩んでるか知らないが、タイミングを逃したらも一生後悔することになるぜ?俺からの忠告だ。果報は寝て待てじゃないぜ。掘り起こしてでも探すもんだ。そうしないと、誰かが掘り起こしてしまうぜ?ああ、あとな、お前にその気がないってんなら、俺は本気で狙いに行くことにするわ。涼宮のことをな。不抜けたお前じゃ、俺様の足下にも及ばないだろうからな。じゃあな、参加者集合の時間だ。せいぜい頑張ってくれ」谷口は以前ハルヒが言った言葉と同じセリフを言い残し、去って行った。同時に、俺の心の中に苛立ちと焦燥感が込み上げてきた。…くそっ!「さあさあ、いよいよ最終試練、キョン君との最終勝負だよ!一番手は何と!キョン君の友人でもあり、SOS団団外協力者、天下無敵の忘れ物ボーイ、谷口君っさ!」鶴屋さんは朝からのテンションを保ち続け、谷口のイントロデュースを行っていた。俺はさっきの谷口の発言から、何やら苛立ちが抑え切れてない。今なら谷口をコテンパンに伸すのは感情が痛まない。「へっ、一番手とはお前も不運だったな。おい涼宮!俺がこいつに勝ったら付き合ってくれるか?」谷口は特等席で傍観しているハルヒに問い掛けた。この勝負、勝ち負けは全てハルヒの一存で決定する。「………あんたが一番最初の挑戦者だし、あたしは一番が好きなのよね。そうね。キョンに勝てたら彼女になってあげるわ」ハルヒの宣言に、俺は更なる苛立ちを覚えた。「へっ!だとよ。悪いが俺は勝ちに行くぜ。お前との勝負で、絶対に勝てる題目を選んで来たからな」「谷口君、それじゃあ何で対決するか宣言して!」「おう!対決勝負はズバリ、『ナンパ勝負』だ!」……………この三点リーダは、俺だけのものじゃない。ここにいる全ての人のものだ。「鶴屋さんの家のメイドさん、可愛い人ばっかりでよ!みんなAランク以上なんだ!そこでメイドさんにお茶に誘って、OKしてくれた人数の多いほ…」「…谷口、あんた失格」「…は?なんでだよ!?」「いいから帰りなさい。あんたに期待したあたしが馬鹿だったわ。『いい案があるから任せろ』っていうから任せたのに。やっぱりバカはバカね。死ななきゃ治らないみたい」「おい!どう言う意味だ涼宮、俺は真剣考えて…」谷口は侍従達に囲まれ、ステージから遠ざかって行った。…正直、あいつの言動がカッコいいと思った俺もハルヒ同様馬鹿だったようだ。そして、さっきまで渦巻いてた苛立ちや焦燥感も綺麗さっぱり無くなっていた。谷口を強制送還するために暫くいざこざがあり、それまでまたしても休憩時間となった。「谷口はなかなかおもしろいことを考えてたのに、勝負が中止になって残念だよ」国木田はそう語りかけて来た。「あのまま勝負を続けていたらキョンはいいセンいってたかもしれないね。鶴屋さんとこのメイドのコソコソ話を聞いてたけど、キョンの評判はなかなか良かったよ」 そうかい、俺がそんなにモテるとは知らなかったぜ。「一番人気は古泉君だったけどね」ああそうだろう。俺だってそう思うさ。だが正直いってこれっぽっちも嬉しくない。「まあまあ、そんなに悲観することはないよ。キョンの評判が高かったのは事実なんだし。だから即座に谷口を失格にしたんじゃないかな?涼宮さんは」…どう言う意味だ?「涼宮さんもそのとき、僕と一緒にいたからね。メイドからの評判が高いのも聞いていたんだよ。涼宮さん、『…あのキョンがあんなにモテモテなのは不思議ね。何であんなのがいいのかわからないわ。今度の不思議探索は鶴屋家にしましょ』って、不機嫌そうに言ってたからね。涼宮さんも、キョンがメイドからの人気が高いのを知ってたんだ。だからナンパ勝負なんてしたら、その後どうなるか目に見えていたから、谷口を失格にしたんだよ」 俺の方が人気あったなら、谷口はその勝負に負けて、めでたしめでたしじゃないか?それとも、ハルヒは谷口と付き合いたかったとでも言うのか?でもそれならさっき失格なんかにはしなかったはずだぜ?「…キョン、やっぱり…まあいいや。それより、さっき涼宮さんから指令があって、『あんたもキョンに勝つよう真剣に勝負しなさい』っていわれたんだ。だから、悪いけど僕の有利な条件で勝負することにしたよ。内容は学術勝負さ」まて、お前と勉強の勝負なんかしたら勝てる気がしない!それにお前らサクラは最終勝負で負ける手筈になってたんじゃ?「そうなんだけど、涼宮さんが『気が変わったわ』って言ってね、そうなったんだ。だからキョンも、気合いいれて頑張らないとね。そうそう、既にそう言う勝負だっていうことは涼宮さんに伝えてあるんだ。そしたら問題は自分が考えるって言ってたよ。キョンの有利な問題にしてくれるかもよ?」…お前もハルヒの彼氏になりたいのか?「まさか。僕よりお似合いの人がいることを知ってるよ。けど、その彼があまりにもクラッシャー、いや、デストロイヤーだから困ってるんだ。ともかく、今回だけは真面目にやるつもりだよ。彼女のためにもね]そう言って、国木田は俺に柔和な笑みを見せて、去って行った。…先ほど消えたと思っていた、焦燥感と苛立ちが復活してきた。そしてそれは、国木田に恨みは無いが、負ける訳にはいかない、そんな気分にさせていた。「続いてー!第二戦!またまたキョン君の友人!天下無敵のベビーフェイス、国木田君さ!!国木田君、キョン君との勝負内容を宣言してチョ!」」「僕は彼に学術勝負を挑みます。実は既に涼宮さんの耳に入れています。そして、その問題を作ってもらいました。涼宮さん、お願いします」「わかったわ。今から配るから待ってて。最初の知能検査なんて目じゃないくらい難しいわよ!よーく頭を絞って考えなさい!」俺と国木田の前に、ハルヒが作成したプリントが手渡された。「制限時間は30分よ!よーい、始め!!」俺はプリントを裏返し、問題を確認した―――――――――最終試練問題(キョンVS国木田)1.SOS団の設立経緯を、以下の言葉のうち三つ以上使用して書きなさい。(リケニウム、永仁の徳政令、本多・藤嶋効果、テニスコートの誓い、四面楚歌、ユーフォニアム、スジャータ、ODA)2.SOS団団長になるために必要な素質には何があるか、五言律詩の文法に従って、書けるだけ書きなさい。3.SOS団の未来繁栄を呼ぶ、近未来時間増圧縮方程式を、三次元ユークリッド空間内で示しなさい。 ただし、光の速さをc、共役複素数をc.c.とし、三階テンソル以降は存在しないことにします。4.不思議なものを呼び寄せる、SOS団的幾何学模様を図示しなさい。―――――――――なんじゃこりゃー!!!俺はジーパンが似合う刑事の断末魔のごとく、心の中で絶叫していた。……………。横を見ると、国木田も似たような顔をしていた。おいハルヒ、これのどこが学術勝負なんだ?「何よ。文句あるっての?ちゃんと学術を利用して解けるんだから、問題ないじゃない!」お前以外の誰が解けるかってんだ!こんな問題!「あんたそれでもSOS団の団員なの?団外協力者の国木田だって解いているじゃない!文句を言わないで、さっさと解く!」良く見ると、確かに国木田は問題を解き始めていた。…ペースは非常に遅いようだが。これ以上文句を言ったところでどうにもならないことを悟った俺は、仕方なく問題文を眺めていた。だが、頭からわき出るのは答えでは無く、ツッコミばかりであった。SOS団の設立に光触媒やフランス革命が関係してるのかとか、団長の資格なんていらないから燃えるゴミの日に丸めて捨てろとか、方程式は数学の時間以外見たくもないとか、幾何学模様は東中のグラウンドに好きなだけ書け、とか。―え?俺は今なんていった?東中のグラウンド?幾何学模様?…なるほど、あれを書けばよさそうだ。俺は去年、四年前のハルヒと一緒に書いた(何年前だが分かり辛いが正しい言い方だ)あの模様を思い出して書いていた。あの図なら、ハルヒが宇宙人を呼ぶために書いたあの図なら、不思議を呼ぶ図として認識してくれるかもしれない。ただし、そのまま書いただけだと、カンのいいあいつのことだ。ジョン=スミスのことを思い出してしまうかもしれない。微妙に図の大きさや形を変えながら、それは完成した。「しゅーりょーっ!! さぁー、ペンを置いた置いたー!!」制限時間が過ぎ、回答時間となった。「国木田、あんた学校の成績はいいけど、応用問題はなってないわね。こんなんじゃ大学なんて入学できないわよ!」お前は国木田をどこの大学に入学させたいんだ?私立SOS団大学とかか?絶対入学したくねえ名前だな。「全く…次!キョンのよ!、あんた、国木田のより輪を掛けて悪いじゃない!このままだと団員の資格剥奪よ!」そうしてくれ。その方が助かる。「あんたには補講が必要ね。みっちりしごいてあげるわ!SOS団の団章の書き取りから誓いの言葉暗読を毎日……………!?」ハルヒの口と腕が止まった。暫く俺の答案をまじまじ見つめた後、鷹の如き目と口を俺に向けていた。「…あんた、この図を説明しなさい」題意のとおり、不思議なものを呼ぶ模様だ。「…具体的には、何を呼ぶのよ?」うち…いや、そうだな、宇宙・銀河・世界にはびこるあらゆる不思議情報の本流さ。その模様は、情報を封じ込める器だ。「………」ハルヒ俺と答案用紙を交互に見つめていた。「…まだまだ荒削りね。やっぱり補講が必要ね。例えば、ここはこうよ…」ハルヒは、俺の図に赤ペン先生の如く修正を加えていった。「…最後にこの線とこの線の中点を結んで…できた!これならあんたの言ったとおりのものよ!」その図は、俺が覚えている図とは少し異なっていた。宇宙人を呼ぶものとは少し異なるようだ。「まああんたにしては良く書いた方ね。考慮してあげるわ!さあ発表よ!似たり寄ったりのできの悪さだったけど、最後の問題で若干リードしたキョンの勝ちよ!」ふう、何とか勝ったか。俺は何故か勝てたことに関して、安堵と喜びの念がわき出ていた。「でもキョン、この点数じゃあこの先SOS団としてやっていけないわ!やっぱりあんたには補講が必要ね!しかも毎日よ!これから!夏休みは無いものと思ってちょうだい!」 マジっすか。夏休み返上で毎日毎日ハルヒと勉強かよ!勘弁してくれ。
…だが、心の奥に、『それもまたいいな』という感情が芽生えていたが、その時は気付かなかったんだ、まだ。※最終試練(中編)に続く
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