涼宮ハルヒの用事
4月のある日曜日、俺は自宅近くの公園でバスケをしている。何故唐突にバスケなんぞをやっているのかと言うと、実は中学2、3年の頃バスケをやっていたからだ。言っておくが、部活でやっていたのではなく、当時俺の学年でとあるバスケ漫画が爆発的に流行り、 それまでバスケをやったことのないやつらも休み時間にバスケをするようになったので、ご多分に漏れず俺もバスケをやり始めたのだ。バスケ部の連中にドリブルやシュートのテクニックを教えてもらい、受験の為に塾に入らされるまでずっとやっていた。 そして今日。暖かな春の陽気に誘われて、物置からすっかり埃をかぶったボールを引っぱり出して、20分ほど前からシュートを打ち続けている。2年近く運動から離れていたにも関らず、意外にも体はスムーズに動いてくれる。いや、この1年間は酷使してきたのか?あいつに出会ってから。 なんて考えたのがいけなかったのか、 「あら、キョン。珍しいわね。バスケ?」 向こうからハルヒがやってきてしまった。 「おまえが今日、SOS団を休みにしたことよりは珍しくねぇよ」 「今日はちょっと用事があるのよ」 ここの近くでか?と尋ねると、ハルヒは顔を右に逸らし、 「そ、そうよ。あんたの家の近くに用事があっちゃ悪い?」 と妙に早口で言った。しかし、俺の家の近くで宇宙研究員によるアールグレイ身体解剖展覧会でもやっているのだろうか。 「あんた、あたしを何だと思ってるわけ?」 ハルヒは渋面をつくり、俺を睨んでいた。光線でも出るんじゃないのか? 「そんなことより、キョン。あたしと勝負よ!」 何の勝負だよ。 「それに決まってるじゃない」 そう言って、俺が小脇に抱えたバスケットボールを指し、 「もちろん、負けた方がジュース奢りよ!」 笑顔で罰ゲームを決めた。別にかまわんが、何点先取だ?俺がそう問うと、ハルヒはフフンと鼻を鳴らし、 「相手が参りましたと言うまでっ!」 団長様のご好意により、俺の先攻になった。ハルヒは余裕そうな表情で、 「あ、もちろんあんたはポストアップ無しよ」 わかってるさ。だがな・・・ 「ハルヒ」 「なによ?」 「俺は結構うまいぞ」 試合開始。 もう何本目かわからない俺のシュートがネットを揺らす。 「もーっ!セコい!ペテン師!卑怯者!」 そうハルヒが喚いているが、それに当たるプレーはなにひとつやっちゃいない。運動神経抜群のハルヒが相手なので、多少本気は出したが。 「もう疲れた!キョン、何か飲み物買ってきてちょうだい。甘ったるくないヤツね」 罰ゲームはどこいった。それに俺だって疲れたし、喉も渇いた。 とは言わず、へいへいと平返事をして自販機で適当なスポーツドリンクを2本買ってきた。 お互いにべンチに座ってそれを飲んでいると、 「あんた、バスケできるのね。意外だわ。天動説が実は地動説だったことよりも意外よ」 後半の感想はわかりかねるが、前半だけなら納得だね。 「いい汗かいたし、そろそろ帰るわね」 そう言って立ち上がるハルヒ。 そういえばハルヒ、なんか用事があったんじゃないのか?ハルヒはギクリという擬音が見事にハマりそうなリアクションをして、 「あ、えーっと・・・うん、そう。そうなのよ!この用事、本当は来週の予定だったのよ!」 おいおい、しっかりしろよ。その歳でボケて年金生活をどう乗り切るつもりだ。しかも明後日の方を向いて、妙に挙動不振だし。 「何でもないのよ!じゃあ、また明日ってことで!」 最後まで挙動不振だったな、なんてハルヒの行く末を心配しつつ空きカンをゴミ箱に投げ入れた。 結局ハルヒの用事が何だったのかは、次の週になってもわからなかった。
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