涼宮ハルヒの邁進 その1
まぶしい。目の奥がきゅっと締まるような痛みに、俺は苦痛ではなく懐かしさを感じた。同時に全身の感覚が回復し始める。手を動かし、指を動かし、足を動かす。やれやれ。どうやらどこか身体の一部が無くなっているということはなさそうだ。 俺はどうやらベッドに寝かされているらしかった。右には――あー、映画か何かでよく見る心電図がぴっぴっぴとなるような機械が置かれ、点滴の装置が俺の腕に伸びている。「病院……か、ここは?」 殺風景な病室らしき部屋に俺はいるようだ。必要な医療器具以外は何もなく、無駄に広い部屋が俺の孤独感を増幅する。窓から外を眺めると、空と――海のような広大な水面が広がっていた。ただ、その窓自体が見慣れたような四角いものではなく、船か何かにありそうな丸いものだった。「ここはどこだ……?」 寝起きの目をこすりつつ、俺は立ち上がる。幸い点滴の器具は移動式のようで、それとともに移動すれば点滴の針を抜かずにすみそうだった。本当はこんな得体の知れない液体を体内に注入されているなんて精神的に良くないから引っこ抜いてしまいたくなるが、万一のことを考えてこのままにしておくことにする。 俺は円い窓のそばまで行き、そこから外をのぞき込む。青空の下に広がっているのはやはり海だった。広大な海原におとなしめの波が沸き立っている。 ――と、背後で扉の開く音が聞こえた。俺が反射的に身構えながら振り返ると、「……やあ、どうも。ひさしぶりですね」 そこにいたのは、妙に大人びた古泉一樹らしき人物。少し顔つきが引き締まり、背も高くなっている。「古泉……だよな?」「ええ、そうです。あなたが憶えている僕に比べて少々成長しているでしょうけどね」 くくっと苦笑を浮かべる。その口調と苦笑でようやくそいつが古泉であることに確信を持てた。しかし、その成長した姿は何だ? 朝比奈さん(大)みたいに未来の古泉が現れたなんていう話は勘弁だぞ。「まあ、話せば大変長くなるわけでして。とりあえず、医師による検査を受けてもらえませんか?積もる話はその後でも十分にできますから。なにせ、あなたは2年もずっと眠っていたんです。身体のどこにもおかしなところが無いという方が無理があるでしょう?」「2年……だって?」 あまりに唐突な話に俺は視界が再び暗転しそうになる。確かにさっきまで眠っていたようだが、俺はそんなに寝ていたのか?まるで三年寝太郎だな。それだけ長い間眠っていたらさぞかしたくさんの夢を見ていたんだろうと思うが、いまいち思い出せん。夢って言うのはそんなものだろうけどな。 気がつけば、白い服を纏った医者らしき人間数人が病室の入り口から俺の方を見ている。どうやら結構注目を浴びている存在のようだ。ならとりあえず、お言葉に甘えておくかね。 おっと、でも一つだけ聞いておきたいことがある。「ここはどこだ? 外には海原が広がっているが、まさか三途の川を渡っている最中って事はないよな?」 俺の言葉に古泉は肩をすくめて、「ご安心を。あなたは死んでいません。僕が保証します。で現在僕らがいる場所ですが……」 わざとらしく古泉は一拍置いてから、あのニヤケスマイルを浮かべ、「ここは米海軍空母ジョージ・ワシントンの中ですよ」 古泉の言葉に、俺は「はあ、そうですか」としか答えられなかった。 ◇◇◇◇ 結局、医師に囲まれて数時間に上る検査を受けさせられたあげく、ようやく解放された俺は寝ていた病室で黙々と夕食のスープをすすっていた。隣には古泉がパイプ椅子に座り、俺の検査結果の容姿をパラパラとめくっている。「驚きましたね。ずっと寝たきりの生活だったというのに身体的にも精神的にも全て良好。それどころか、2年前のあの日から何一つ変化がないとは。通常、成長的な変化は存在しているはずなんですが、それもない。医師たちもこれは奇跡だとうなっていましたよ」「へいへい」 俺はさっきから医師達に同じ台詞をバカになるまで聞かされたおかげでうんざり気分100%だ。奇跡と崇めてくれるのは結構だが、人を人外の化け物のようにいじくるのは止めてくれ。「不愉快にさせてしまったのであれば謝罪します。ですが、これが医学的にどれだけとんでもないことであるかその辺りにもご理解をいただきたいですね」 わかっているさ。俺がこうやって2年ぶりに目を覚ましたとか、気がついたらアメリカの空母の中にいるとか、普段では考えられないような奇跡が連発しているだ。もう一つや二つ起きても今更驚かん。 しばらく、俺たちは各々の作業――俺は飯を食って、古泉は書類を眺める――を続けていたが、やがて同時にそれが終わる。 俺は肩をもみほぐして、これから始まるであろういろいろとめんどくさそうな話に備えた。「あまり肩に力を入れなくても良いですよ? 結構長い話になりますからね、リラックスして聞いて貰わないと」「わかったよ。で、まず何から話してくれるんだ?」 その問いかけに古泉はすっと俺の方に手を伸ばして、「僕の方から説明し始めると、あなたを混乱させてしまうかもしれません。この2年でとても世界は変わりましたからね。まずあなたが知りたいことを言ってください。それに僕が可能な限り答えていきますから」 そうこっちにボールを投げ返してきた。そうかい、なら遠慮無くきかせてもらうぞ。「まず最初にだ。SO――」 俺のその言葉に古泉の表情が一気に曇った。そして、俺の心にも強烈な引っかかり感が生まれる。 ……どうやら、それを聞くのはまだ早そうだ。もっとどうでもよさそうなことから聞いていくか。「あー、えっとだな、機関ってのはある意味秘密の組織じゃなかったのか? それが堂々とアメリカ軍の空母の中にいていいのかよ? それとも身分を偽って入り込んでいるのか? でもそれじゃ、俺がここで寝ていた理由にはならないが」「機関の立場はあなたが寝ていた2年で大きく変わりました。以前のように水面下で動く組織ではなく、今では国連の承認を得た公式組織ですよ。名目は国際連合の一部とされていますが、実際には独立していて、国連はその支援をしているという状態ですが」「また大出世じゃないか。おまえのアルバイトも国際的公務員の仲間入りだ」「怪我の功名みたいなものですから、手放しには喜べませんけどね」 そう寂しげな表情を浮かべる古泉。俺は構わずに続ける。「で、何でまたそんな大躍進を遂げたんだ?」「そうなる必要があったからです。閉鎖空間というものが、もう機関という一部の非公開組織だけの中の存在として扱えなくなった。やむ得ず、僕たちはその存在を世界へ公表し、同時に閉鎖空間というものについて情報を提供しました。そうでなければ、全世界の混乱は収まらなかったでしょう。原因のわからない異常事態が拡大する一方では人々はより猜疑心を抱き、混乱が助長されます。そこで僕らがその原因についての情報を伝え、また対処法を伝えることによって安心感を与えました。おかげで元通りとは到底言えませんが、世界情勢はある程度の平静さを保ち続けています」「……何があったんだ?」 俺は核心に迫った質問をぶつける。古泉はすっと目を細めて俺の方を見ると、「あなたはどこまで憶えていますか? 眠りにつく前のことです」 その逆質問に俺は後頭部を掻き上げながら、しばらく脳内の記憶をほじくり返し、「ハルヒの奴に、ジュースを買ってこいと言われたことまでは憶えている。その後、横断歩道を渡って――そこからはわからねえ」「……わかりました。では、時系列で何があったのかを説明しましょう」 古泉はパイプ椅子に背中を預け、目をつぶって話し始める。「あの日、あなたは大型のダンプカーに追突されました。ちょうど横断歩道を渡っているときにです。一応、あなたの名誉のために言っておきますと、信号はきちんと青でしたよ。トラックの運転手が居眠りをしていたのが原因みたいですね。そのトラックはそのまま近くの電柱に激突し、運転手の方も亡くなっています」「マジかよ……」 俺は全身をぺたぺたとさわり始める。実は指が一本ないとか、身体の一部が機械仕掛けになっているとかというオチはないよな?「ご安心ください。あなたは全くの無傷でした。いえ、現実的にそんなことはあり得ないんですが。実際にあなたはこれ以上ないほどに血まみれになっていましたからね。しかし、その後やってきた救急隊員も首をかしげていました。どこにも大量出血するような傷がない。この血はどこから出てきたんだと混乱していました。一時は僕らによるイタズラなんていう疑惑もかけられたほどです」「そりゃそうだろ。というか、相手が大型トラックなら全身がバラバラになって即死していそうなもんだが」「長門さんが何かをしたと思いましたが、彼女は何もできなかったと言っていました。となると、後は涼宮さんしかいません。衝突した瞬間は重傷を負っていたんでしょうけど、その後傷ついたあなたを修復したんでしょうね」「全くハルヒ様々だ。危うくこの若さで天に召されるところだったぜ」「ですが、問題が発生していました。涼宮さんの修復に何らかの問題があったのかわかりませんが、あなたが一向に目を覚まさないのです。あらゆる検査をしましたが、全く異常なし。以前階段から落ちて意識不明に陥ったことがありましたが、あれと同じ状態でした。当然、原因がわからないので対処の仕様もなく、ただ僕たちは見守ることしかできません。最初は涼宮さんもあの時と同じようにすぐに起きると思っていたみたいでしたが、一週間経っても目を覚まさないあなたに少しずつ罪悪感を募らせていきました。自分の責任だと。自分があなたにジュースを買ってこいと言わなければこんなことにはならなかったと」「んなことで悩んでも仕方ないだろ。どうみても不幸な事故だったとしか言いようがない。それがどこかの悪の組織の仕業でもない限りだれのせいとも言い切れない」「あの事故は本当に偶然起こったものでした。どこかの誰かが仕組んだものではありません。ただの事故。だからこそ、何の対処もできていなかったのですが」 そう嘆息する古泉。ハルヒの奴、そんなに悩んでいたのか……ん、何だっけ? どこかでそんなハルヒの言葉を聞いたような…… ダメだ。思い出せねえ。「どうかしましたか?」「いや……何でもない。続きを話してくれ」 額に手を当てて思い出そうとしたが、結局思い出せず、古泉の話を続けさせる。「事故が発生してから一週間が過ぎたころ、涼宮さんの様子がおかしくなり始めました。授業出ず家にも帰らず、ずっとSOS団の部室にとじこもるようになったんです。同じ団員である僕たちも部室から閉め出されてしまいました。それまではずっとあなたの病室に泊まり込んでいたんですが、それ以降見舞いにも行かなくなっています。その間、僕や長門さん、朝比奈さんでどうにかあなたを目覚めさせようと努力しました。しかし、僕がどんなに優秀な医者を連れてきて検査して貰っても、朝比奈さんの未来の技術を使っても、長門さんのTFEI端末としての全能力を使っても、あなたは決して目覚めなかったんです。理由はわかりません。長門さんに言わせれば、涼宮さんがあなたを修復した際に何らかのバグのようなものが混じってしまったのではないかと。涼宮さんの能力は情報統合思念体でも解析できていませんからね。対処できなくて当然なのかもしれません」「……いろいろ手をかけさせちまったみたいだな。すまねえ」「いえ、これも――SOS団の仲間として当然のことしたまでです」 にこやかな古泉の笑顔に、俺は感謝と気色悪さが入り交じった微妙な感覚に困ってしまった。 そんなことにはお構いなしに古泉は続ける。「そして、事故発生から2週間後、ついに恐れていた事態――いえ、恐れていた以上の事態が発生してしまいました。閉鎖空間の発生です。ただの閉鎖空間ではありません。いつもは通常空間とは異なった灰色の世界で神人が勝手に暴れるだけですが今回はその通常空間に神人が現れたのです。もちろん、そこには一般人が多く住んでいますが、そんなことはお構いなしに神人は暴れ回りました。それも数十体もの数で。しかも、北高周辺だけではなく全世界規模でね」 古泉の言葉に俺は心臓がつかみ出されたような痛みを憶えた。ハルヒがそんな大量虐殺のようなマネを?嘘だ。いろいろ変なことをやる奴ではあるが、人が目の前で死にまくるようなことを望むはずがない。「なぜ、閉鎖空間ではなく通常の空間で暴れたのか。これに関しては機関内でも意見が分かれています。僕としましては、涼宮さんに長らく触れていますからね、閉鎖空間を発生させるつもりが何からの問題により、神人だけができてしまったという不慮の事故という解釈を持っていますが」 ――古泉はここでいったん口を止めて、肩がこったというように腕を回す――「その時の光景はもう特撮映画の世界でしたよ。最初は警察が応戦していましたが、やがて歯が立たないとわかると、今度は自衛隊が投入されました。航空機やら戦車やらが神人と武力衝突です。滅多に見れるものではありませんでしたね。しかし、やはりあの化け物には歯が立ちません。そこでついに正体が知れることを覚悟の上で、機関の能力者達が神人を撃退するために動きました。さすがにあれだけの数を片づけるのに数週間を要しましたが、何とか制圧しています。そのことがきっかけとなって機関は全世界に公表されることになりました。同時にその存在意義と神人というものについて情報を公開しました。そのおかげか、一時大パニックに陥った世界情勢が平静さを取り戻したことは先ほども話しましたよね」 古泉の説明で俺ははっと気がつく。「おい、まさかハルヒのことも言ったんじゃないだろうな? まだあいつがやったと決まったわけじゃないってのに」 俺は思わず古泉の肩をつかんでしまう。万が一、そんな大惨事を引き起こしたのがハルヒだと公表すれば、犠牲になった人々やあの白い怪物に恐怖した人々の恐れや憎しみを全てぶつけられることになるんだぞ。 古泉は俺の問いかけにしばらく黙ったままだったが、やがてすっと視線を落として、「……言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、これだけは言っておきたい。僕は最後まで涼宮さんの名前を出すことに反対し続けましたし、今でも間違った判断だと思っています。あなたの言うとおり、これは涼宮さんの起こしたものかどうかまだわかりません。しかし、機関の大半は涼宮さんが引き起こしたものであると断定していました。それに次に言われた言葉はもっと僕を失望――そうですね、はっきりと言いますが失望させました」 古泉は両手を握り、そこに額を預け、「こういったんです。一連の破壊行動に対して明確な責任を持った人が存在すると名言しなければ、世界は納得しない。対処すべき原因を公表しなければ、人々は憶測を重ねて混乱するだけ。明確な『敵』が必要だと。あ、ご安心ください。あなたの存在については伏せています。『鍵』の存在を公表すればあなたにかかるプレッシャーは大変なものになるでしょうから」 寝たまま何もしていなかった俺のことなんざどうでもいい。問題はハルヒだ。なんだよそれは。まるで仕方が無くハルヒに原因を押しつけただけじゃねえか。ひどすぎるだろ、いくらなんでも。 古泉は苦悶の表情を浮かべたまま、「あなたの言うとおりです。しかし、僕はその時それ以上の反論ができませんでした。世界中規模で起きている政情不安、略奪、紛争勃発を見てそれを収まらせるために他の良い案が浮かばなかった。そして、そのまま全世界に公表されます。原因は涼宮ハルヒという日本人の一人の少女が引き起こし、彼女は現在北高の部室に閉じこもっていると。彼女の存在をどうにかすれば、この異常事態は収まるとね」「全部ハルヒのせいかよ……。いくら混乱を収まらせるためとは言え、あんまりじゃねえか……」 俺はがっくりと肩を落とす。と、ここで長門と朝比奈さんのことを思い出し、「長門と朝比奈さんはどうしたんだ? 二人とも宇宙人・未来人であると公表したのか?」「それはしていません。神人と機関はその力を間近に発揮したからこそ、受け入れられたんです。実体も不明な宇宙人・未来人ですと言っても、胡散臭さが増すだけですから」 そりゃそうか。そのタイミングでそんなことを発表したらかえって信じてもらえなくなりそうだからな。ならその二人は?「長門さんと朝比奈さんは現在行方不明です。二人ともSOS団の部室に向かっていったきり、何の音沙汰もありません。僕だけは神人の対処に追われたため、涼宮さんの元へはいけませんでした。今では北高周辺は危険すぎて侵入できない状態です。二人がどうなったのか、涼宮さんが今どうしているのかさっぱりわかりません」 ここで古泉はようやく顔を上げ、続ける。「それから2年間、神人は現れなくなりましたが閉鎖空間の浸食は続いています。現実の世界が閉鎖空間のように無機質な世界に作り替えられていっているんです。一番大きな発生ポイントは北高周辺を中心とした地域。それ以外にも世界中のあらゆるところで虫食いのように発生し、すでに世界の三分の一が閉鎖空間に飲み込まれました。。そこではどんな資源も採掘できず、食物も育たない不毛な世界で、そこに入った人間はひたすら消耗を続けやがて死に至る。この地球上を全て覆い尽くせば人類滅亡は必死ですね。機関がもっとも恐れていた事態が現実に進行しているんですよ」「もうスケールがでかすぎてついて行けなくなってきた……」 俺は疲労感から来るめまいに身体が揺すられる。突然閉鎖空間が発生し、全世界であの化け物が大暴れ。しかも、それを全部ハルヒのせいにされ、問題が解決することなく地球滅亡のカウントダウンは続いている。もうね、一体どうしろってんだと怒鳴り散らしたくなる気分さ。 と、古泉が急に俺の前に顔を突き出してきたかと思えば、「ですが! 僕たちはようやく解決の糸口を見つけたのかもしれません。なぜならば、あなたがようやく目を覚ましたから。この異常事態の発生は、あなたがあった事故による昏睡状態が原因だと言えます。ならば、あなたの目覚めにより何らかの情勢が動く可能性が高い」「俺が目を覚ましてから半日以上経つが、何か変わったのか?」「いえ、何も」「だめじゃねえか」 俺の失望の声に古泉は困った表情を浮かべて、「あなたが起きた=即座に解決になるとまでは思っていません。しかし、あなたの存在は確かに閉鎖空間に影響を与えていることも事実なのです。実はもともとあなたは日本の医療機関に入院していたんですが、より精密な検査を受けるために欧州へ移動させようとしたことがあるんですよ。その時は肝を冷やしましたね。あなたが北高から離れれば離れるほど、閉鎖空間拡大の速度が速まるんですから。あわてて日本国内に戻したほどです。ちなみに、今米海軍空母内に移転したのは、それが理由でして。できるだけ涼宮さんのいる場所の近くにあなたを置くためには、即座に移動できて、なおかつ医療設備や生活環境が維持できる場所が必要だったんです。それでもっとも適切な施設がこの空母だったと。おかげで予定よりも人類滅亡までの時間が大幅に長くなりましたよ」 俺一人のために、こんなばかでかいものを動かしたのか。やれやれ。VIP待遇にもほどがある。言っておくがあとで使用料を請求されても払えないからな。「ご安心を。その辺りはきちんと国連内で処理しますから」 そんな俺の不安に古泉はインチキスマイルで答える。「で、これからどうするつもりなんだ? ただ、ここで黙って見ているわけじゃないだろう?」「まだ機関内で検討中ですが、やれることは一つしかないでしょう」 古泉は気色悪いウインクを俺にかまして、「北高に乗り込むんです。機関の超能力者としての僕の力を使えば、閉鎖空間にも普段と変わらずに入れますからね」 ……どうやら、とんでもないことになっちまいそうだ。やれやれ。 ◇◇◇◇ 翌日オフクロたちが俺の見舞いに来た。ついでにミヨキチも来てくれたんだが、我が妹とますます差が開いていることに驚きを隠せない。このまま大人になったら一体どんな超絶美人になるんだ?それに比べて我が妹の幼いこと。もう中学生になっているのに、俺が憶えている妹の姿と寸分の違いもないぞ。一部の人たちには歓迎されるかもしれないが、そんな人気は兄として却下だ却下。しかし、ヘリコプターで送迎とは豪華だね。全く家族そろって某国大統領にでもなった気分さ。 とりあえず、オフクロ達が無事だったことには安心した。俺の住んでいた町も神人にど派手に破壊されたようだったのでその安否が気がかりで仕方なかったが、国の方が機関と連携し、素早く住民達を非難させていたようだ。現在は被害のあった場所に住んでいた住民は政府の用意した指定地域に避難している。そのおかげといっては何だが、妹も友人たちと離ればなれになることもなくそこそこ今まで通りの生活を送れているとか。ただ、今済んでいる場所は仮設住宅みたいなものだから、近いうちに引っ越しも考えているらしい。どのみち、長くは住めないようなところなのだろう。俺もとっとと帰って家のことについて手伝ってやりたかった。 ◇◇◇◇ その次の日、俺はようやく医療的束縛から解放されて自由の身となった。ただし、オフクロ達のいる場所への移動は認められず、あくまでもこのナントカって言う空母の中だけの移動に限られてはいるが。古泉曰く、下手に出歩かれて、また事故にでも遭ってしまえば取り返しがつかないんですよ、だそうだ。警戒しすぎじゃないかと思うし、それだけの期待を俺みたいな凡人まるだし男にかけられていることに、いささかの違和感と窮屈感を憶える。 で、ようやく今後についての話し合いが始まったわけだが、「さて、これからの予定についてですが、ようやく機関内で決定されたのであなたに伝えておこうと思います」 古泉の野郎にどこかの会議室に連れ込まれた俺に数枚の資料が渡された。他には森さん・新川さん・多丸兄弟と機関おなじみの面々がそろっている。しかし、古泉は結構成長したように見えたが、この4人は全く変化がないな。変な改造手術でも受けているんじゃないだろうな? 古泉が続ける。「以前、あなたに話したように涼宮さんがいると思われる北高へ向かいます。そして、そこの状況に応じて涼宮さんを解放し、事態の解決を図るというものです」「おいおい、肝心な部分が曖昧すぎるんじゃないか?」 俺の指摘に、古泉は困ったように頬を書きながら、「その辺りはご勘弁を。現在、北高周辺が一体どうなっているのかさっぱりわからない状況なんですから。ついてからは全てあなたにお任せしますよ。それこそ、以前にあの世界から戻ってきた方法を使って貰ってもかまいません」 だから、それを思い出させるなと言っているだろうが。 そんな俺の抗議に構わず古泉は話を続ける。「僕たちはまず北高から100km離れた地点までヘリコプターで移動し、そこから目的に向かってひたすら歩きます。予定では一週間程度かけて中心地点である北高に到達できると予想しています」「100kmって……どうして一気に北高に行かないんだ? いくらなんでもそんな距離を歩く自信はないぞ」 古泉はすっと森さんの方に手をさしのべると、ぱっと会議室の明かりが落ち、正面のモニターが映される。そこには北高を中心としてとして大きな赤い円が描かれている地図があった。円の中には何重にも円が重ねられ、円とその中の円の間に、%を表す数値が書き込まれている。 ここからは古泉に変わって森さんが説明を引き継ぐ。「この高校を中心に大規模な閉鎖空間が広がっています。大体半径100km前後の距離ですね。この中には古泉のような能力がなくても侵入可能ですが、著しく体力・精神的に消耗することが確認されています。そのため、機関のサポート無しでは長時間の作戦行動を取ることは不可能でしょう」「その何重に描かれている円は何ですか?」 俺が地図に向かって指さすと、森さんは指し棒を持ちだし、円の部分を指しながら、「閉鎖空間といっても地域によってその危険度が違っていて、警戒度別に円を引いています。今まで機関のサポートの元、何度も特殊任務として閉鎖空間に侵入していますが、この%は生還率を示したものです。基本的に円の中心に近づくごとに危険度が高いことがわかっています」「ってことは、古泉みたいな連中はもう何人もやられてしまっているって事か?」「その通りです。僕の同志もすでに3人失いました。しかし、彼らの尊い犠牲によりこれだけの情報が得られています」 悲しげな声で古泉が答える。古泉たちも相当な負担を強いられているって事か。ん、ちょっと待った。「さっき森さんは中心に近づくほど危険といったが、一番外側の部分の生還率がその内側よりも低いのは何でだ?ゲームチックに第一関門が用意されているってわけでもないだろ?」「これはいろいろと原因がありましてね……」 古泉がリモコンらしきものを押すと、映像が切り替わる。そこに映し出されたのはどこかの戦争映画のワンシーンみたいに戦車やら飛行機やらがたくさん並び移動している光景だった。「今から8週間前に、一向に事態が進展しないことに業を煮やした国連安保理はついに武力行動の決議を出しました。規模は世界大戦勃発といえるほどのものです。国連軍10万人近い兵士が出撃し、一路北高に向けて進撃を開始しました。当初の予想では、最初は抵抗も緩く、中心部に近づくにすれて激しくなると考えていましたが、完全に予想を覆されます。閉鎖空間に侵入したと同時に正体不明の攻撃が国連軍に襲いかかりました。突然、兵器という兵器が崩壊し兵士達はバタバタと倒れていく。いかに最新兵器で武装しても戦っている相手が何なのかわからない状態では反撃のしようもありません。結局、損害だけが積み重なり、敗走することになりました。その時の結果がこの生還率に反映されてしまっているんです。このときの戦いで機関の超能力者一人失いました」 苦渋の表情を浮かべる古泉。相手は神人みたいな常識はずれな奴らだ。現実に存在している軍隊じゃ歯が立たないだろうよ。誰か止めればよかったんだと憤る自分がいるお一方で、こんな無謀な強硬策をとるしかないほどまでにもう他に打つ手が無くなっているんだろうと理解してしまう自分もいる。 と、無謀な強硬策でちょっとしたことをひらめき、冗談めいた口調で、「そんなにせっぱ詰まっているんじゃ、その内ミサイル――いかも核ミサイルとかが撃ち込まれたりするんじゃないか?」「それはとっくに実施済みです」 ……おい古泉さん。俺は冗談のつもりで言ったんだが、まじめに返すなよ。さすがにそのジョークは笑えないぞ。 だが、古泉は首を振って、「残念ながらジョークではないんですよ。某国が独断で核ミサイルを発射しまして」 そんなバカなことをやった国があるのか。あきれてものも言えん。しかし、その割には北高周辺は無事のようだがどういう事だ?「それがですね。ミサイルは正確に北高に落ちたように見えたんですが、次の瞬間、まるでビデオの巻き戻しをしているかのように北高に飛んできたのと全く同じ軌道で、某国のミサイル発射基地に直撃したんですよ。まるで途中でUターンしたみたいに」「なんだそりゃ。あの閉鎖空間の主はドクター中松だったのか?」 俺の言葉に古泉は苦笑するばかりだ。 森さんはぱんと一つ手を叩くと、話を進めましょうと言い、「わたしたちは最後の希望と言っても過言ではありません。そのため、少しでも危険のある地域には徒歩で入ります。ヘリコプターでは撃墜されてしまえば、助かる見込みはほぼありませんので。同理由により車輌などもしようしない予定です」 死ぬ可能性を少しでも下げるために、みんなでハイキングか。全くここは戦場か? 森さんは国連軍基地とするされている位置を指し、「そのため、まず航空機でここまで移動し、さらにそこからヘリコプターで閉鎖空間との境界線ぎりぎりまで移動し、そこから徒歩で閉鎖空間内に侵入します。あとは一直線に目的地までに進むのみになります」 そこからでもかなりの距離になる。森さん達みたいなエキスパートならさておき、俺みたいな一般高校生が歩いていけるのか? しかも、正体不明の敵の攻撃をかわしながらだ。 古泉はくくっと苦笑すると、「あなたの体力は一般的な高校生以上のものですよ。あれだけ涼宮さんに引っ張り回されていたんです。一年で動いた運動量は運動部ほどとは言えませんが、それなりの量になっているはずですよ。僕が保証します」「だがよ、そんな毛の生えた程度じゃ明らかに足手まといになるだろ」「確かにそれも事実です。だから、そのための訓練を受けて貰います。あなたの友人達と協力してね」 古泉が俺の視線を促すように、首を動かした。俺が振り返ってみると、そこには谷口と国木田の面影を持つ人物が居た。古泉と同じように成長しただけで本人なんだろうが。「よぉ、キョン」「ひさしぶりだね、キョン」 二人の声と口調は俺が知っているものと全く変わっていなかった。どこまでも軽い谷口とどこか丁寧な印象を受ける国木田。二人とも見慣れた北高の制服だったが、何でこの二人がここにいる?「ずっと前からあなたが目覚めたときのために準備していたんですよ。できるだけあなたに近い人間を集めて、そして、あなたとともに涼宮さんの居るところへ向かう。今のところ、それが唯一閉鎖空間に障害なく侵入できるはずです。あの閉鎖空間を作り出したのは涼宮さんであるかどうかわからないですが、そこに涼宮さんがいることは確かです。ならば少しでも彼女に近い人間であれば、少なくとも涼宮さんは僕たちを受け入れてくれる。拒絶する理由なんて無いはずですから。とくに事故の後遺症から立ち直ったあなたをね」 古泉の言葉に、俺はようやくこのばかげた現状を受け入れる気分になった。そして、同時に決意もできた。 やれやれ、行くか。ハルヒのいるあのSOS団の部室へ。 ◇◇◇◇ 翌日から俺の訓練が始まった。主に谷口と国木田が指導してくれた。二人とも結構しごかれているみたいで以前とは別人のように強靱な肉体ぶりを見せつけてきやがる。「ほら情けねえぞ、キョン! このくらいの壁、とっととのぼっちまえよ!」「無茶を言うな! まだ病み上がりなんだぞ、俺は!」 鬼教官、谷口のしごき毎日だ。一方の国木田はそんな俺たちを生暖かく見守るだけ。少しはこのアホをセーブしてくれよ。 訓練は一ヶ月間、この空母内に特設された場所で行われている。とは言っても、一ヶ月で劇的に体力がつくわけもなく、ならこの訓練の意味は何だと古泉に確認したところ、体力をつけるのではなく、いかに体力を使わずに効率よく動けるかを身体に憶えこませるためとのこと。おまけに、銃の扱いや手榴弾の使い方、軽傷ぐらいなら自分で直せる程度の医療知識まで頭の中に押し込めてくるんだからたまらん。全く傷病兵や病人まで戦場につぎ込む羽目になった戦争末期のドイツじゃあるまいしこんな突貫訓練で大丈夫なのか俺は? ちなみにそういった軍事知識まで詰め込まれるのは、そういった対応方法が必要になった事例が多他にあるからだそうだ。気分は戦争だね、もう。 結局、そんな調子で一ヶ月間散々絞り上げられる羽目になった…… ◇◇◇◇ いよいよ作戦実行の前日。俺は今までの疲れを癒すための全日休暇を満喫していた。 まずオフクロ達に今後の予定について話したわけだが、危険地帯に行くといったとたんに妹含めて泣いて泣いてこっちが涙ぐんでしまったぐらいだ。ただ、それでも行くなと引き留めなかったのは、現状を理解しているからだろう。物わかりの家族で本当に助かる。 その日の夜、俺はせっかくだからと水平線の上に浮かぶ満月の鑑賞を満喫していた。周辺に繁華街とかがあるおかげで、俺の自宅――元自宅からはいまいちぼやけ気味に見えていた月だったが、辺り一面が真っ暗で障害物も何もない満月は、この世のものとは思えないほどに美しかった。願わくば、もう一度これが見れればいいと本気で思うよ。「よっ、キョン。なに黄昏れているんだ?」 せっかく人がしみじみとした気分を味わっているってのに、無粋な声をかけてきたのは谷口の野郎である。「なんだよ、せっかくの満月がお前のアホ声で色あせちまったぞ」「……ひでぇことを平然といいやがるなぁ。でも……確かにきれいだな。みとれちまう気持ちはわかるぜ」 そう言って谷口も空に浮かぶ満月を眺める。 と、俺はずっと機構としていたことを思い出し、「なあ谷口、一つ聞いておきたいんだが」「なんだよ?」「……何で古泉からの要請を受け入れたんだ? こういっちゃなんだが、イマイチお前らしくないと思って仕方がないんだが」 俺の言葉に谷口ははぁ~とため息を吐いて、「キョンよー。おまえは俺をそんなにへたれと認識していたのか?」「違うのか?」「……おまえな」 あっさりと断言する俺に、谷口は口をとがらせる。まあ、そんなことよりもどうしてやる気になったんだ? 谷口は俺の方にぐっと手を突き出し、親指を立てる仕草をすると、「世界平和のために決まっているだろ! そして、救世主となってみんなから尊敬のまなざしを向けられ、女の子にもモテてウハウハっていう素晴らしき未来が俺を待っているのさ!」「…………」 あきれて開いた口がふさがらない。やっぱり谷口は谷口か。そっちの方が安心できるけどな。 が、谷口はすぐにそんないつものTANIGUCHI印のアホテンションを引っ込めると、「冗談だよ。理由はこれさ」 そう言ってポケットから一枚の写真を指しだしてきた。それにはお下げでめがねのかわいらしい少女が写っている。歳は俺と――谷口よりも少し年下ぐらいか? 清楚な感じが好印象だが、俺に紹介でもしてくれるのか?「お前のは涼宮がいるだろ?」 何でそこでハルヒの名前が出てくるんだ。言うなら俺の癒しのエンジェル、朝比奈さんだろうが。 そんな俺の抗議に谷口はハイハイと流して、「聞いて驚け。この写真の女の子は俺の彼女さ!」「なにィっ!?」 その大胆発言には俺もびっくり仰天で満月までジャンプしそうになる。以前に付き合っていた奴とはあっさり破局したってのにすぐにこんな可憐な女性を手に入れていたとは。くそー、俺がのんきに寝ている間に先を越されちまった。「あの化けモンが暴れ回って街に住めなくなっただろ? その後、避難キャンプに移ったんだが、そこで知り合ったのさ。きっかけは炊き出しの手伝いだったんだが、俺の献身的な働きに彼女が一目惚れしてしまってな」 絶対に、おまえが彼女の献身的な働きに一目惚れしたんだろ。「そのまま意気投合って状態だ。もう意思の疎通もバッチリだぜ! 絶対に手放したくねえ。だから――」 谷口はすっとその写真に目を落とすと、「……守ってやりたいんだよ。彼女をさ。そのためにはあの灰色の空間をなんとかしなけりゃならん。だから、あのいけすかねえ美形野郎の申し出を受けたのさ。お前相手だから言っちまうが、この混乱状態が収まったら結婚しようと約束しているんだ。平和な新婚生活を送るためにも何としてでも世界を正常にしなけりゃならねぇ」「そうか……」 何だかんだですっかり男らしくなっている谷口だ。全く……守るべき人間がいるってのは、あのアホをここまで変えてしまうのかね?「で、キョンはどうして行く気になったんだ?」 今度は谷口は同様の質問を俺にぶつけてきた。俺はしばらく答えに困りつつも、「世界崩壊の危機で、しかも全人類が俺に期待しているんじゃやらないわけにいかないだろ?」「あのな、キョン。これから生死を共にする仲なんだぞ。こんなときぐらい素直に本音を言っても良いだろ?」 俺は痛いところをつかれて、ぐっと声を上げてしまう。やれやれ、今の谷口には建前は通じないみたいだな。「……二つある。まず一つはSOS団の日常を取り戻したい。ハルヒもそうだが、長門も朝比奈さんも取り戻して、またバカみたいに楽しい日々を送りたいのさ。外側にいた連中にはわからんだろうが、俺はすごく幸せ者だったんだよ。無くして――本当に無くして今それを実感している」 そして、もう一つ。これが最大の理由……「ハルヒの無実を証明してやりたい。どんなにぶっとんだ発想と行動力を持っていても、あいつはこんな世界滅亡なんて心から願うはずがないんだ。きっと何かおかしなことが起きている。俺はそれを見つけ出したい」「……そうか。なら大丈夫そうだな。中途半端な理由じゃなさそうだし……あ」 と、ここで谷口が何かを思い出したように手を叩き、「わりい! お前に用事があったのをすっかり忘れていたぜ!」 おいおい、本当に今更だな。 谷口はすまんすまんと手をひらひらさせつつ、「お前に用があるっていう奴が来ているぞ。しかもとびっきり魅力的な女性だ」 そう谷口はうひひと嫌らしい笑い声を上げて去っていった。女性? 今更俺に会おうとするなんてどこのどいつだ? ◇◇◇◇ 「やあ、キョン久しぶり」「……なんだ佐々木か」 俺の前に現れたのは、古泉と同じように+2年された佐々木の姿だ。こちらもすっかり女っぽさに磨きがかかっているな。「なんだとはずいぶんな言い方だね。これでも結構心配したんだよ」 いやすまん。全く予想していなかったんでな。少々面食らってしまったんだ。「まったく……前から思っていたがキミは結構薄情なところがあると思うんだ。高校に進学してからというもの、全く音沙汰が無くなり、ようやく連絡が来たかと思えば、年賀状という文面のみで受け取り側にその意味合いを依存するような意思の伝達方法を採用しているんだから。そして、今度は事故の後遺症から目覚めて一ヶ月だというのに全く連絡をよこさない。正直、君の出発が明日と聞いて突然地動説を主張された宗教学者達みたいに驚いてしまったよ。会いたいならヘリを手配してくれると言うんで、そのご厚意に甘えさせて貰ってここまで来た次第だ」「本当にすまん。そっちの方まで頭が回らなかったんだ……ん? その話は誰から聞いたんだ?」「キミの家の方に電話した際に教えてくれたよ。向こうとしてはいろいろと……いや、止めておこうか。すでにキョンはご家族の方と話を終えているようだからね。今更蒸し返すのは、国際的歴史問題をいつまでも引きずっていることと同じ愚行だろうから」 そう佐々木は空母の壁にすっと背中を預ける。しかし、月明かりに照らされるその姿は見れば見るほど大人っぽくなっているな。古泉が以前非常に魅力的だと表現していたが、2年眠った後でようやく実感できる俺の美的センサーにも問題があるぞ。 そのまま二人の間に沈黙が流れる。 どのくらい経っただろうか。やがて佐々木が口を開く。「キョン、行くなとは言わない。だが、聞かせて欲しい」 ――佐々木は俺の方に目を合わせずに――「……本気でキミは、本心から望んであそこに行きたいのか?」 佐々木の口調はいつもと変わらないはずだった。だが、それはまるで俺の内部に突き刺すように問いつめている言葉に聞こえた。 俺はしばらくどう答えようか迷っていたが、ま、正直言うしかないだろ。こんなシチュエーションじゃな。「ああ、行きたいと思っている。誰からも強制されているわけではないぞ。120%俺の確固たる意志だ」 正真正銘の本音。2年あまりの眠りから目覚めた時は正直余りぴんと来なかった。しかし、この一ヶ月間で集めた情報やオフクロ達から聞かされた話。谷口と国木田が遭遇した体験だ。それらを聞く内に、俺の意志が固められていった。無論、世界を救う救世主という役割なんかよりも、あのSOS団としての日々を取り戻したいと言うことと、ハルヒの無実を証明したいという気持ちを、だ。 気がつけば佐々木は俺の方をじっと見ていた。まるで俺の全身を品定めするかのように見ていたが、やがて軽くため息を吐くと、「そうかい。わかった。キミの意思ははっきりと確認させて貰ったよ。ありがとう。では、おじゃまものはそろそろ引き上げようかね」「何だよ。それだけを確認したかったなら電話でも十分だったんじゃないか?」 俺の指摘に佐々木はやれやれと首を振って、「あのね、キョン。人間ってのは声だけで判断できるような安っぽい作りはしていないんだよ。宗教にさして興味はないが、本当に神が人間を創造したって言うなら、神様というのは実に陰険で神経質だったと思うね。キョンの声だけ聞いても判断できないから――声帯を振るわした生声を直接鼓膜に当てて、全身の身振りを確認した上でその意思を確認したかったのさ。わがままとか欲張りといって貰っても結構。せっかくのご厚意だ。とことん甘えさせて貰ったさ」 それで佐々木が満足だって言うなら、別に俺はこれ以上どうこう言うつもりはねえよ。しかし、せっかく来たって言うのに滞在時間数十分では遠出してきた意味が無いじゃないか。「そうだ。ここから見える月はすごくきれいなんだ。せっかくだから堪能して行けよ。こんなチャンスは滅多にないんだからな」「キョン。キミって奴は本当に……」 佐々木の声に少しいらだちが入ったことに気がつく。「良いか、キョン。人間ってのはやっかいな精神構造をしているもので、たまに間違いを犯すんだ。それが正解だと思ってやってみたら間違いだったというのはまだいい。しかし、問題なのは間違いとわかっているのに、それを犯さなければ気が済まないという感情が発生することがあるんだ」 言っていることがよくわからないんだが…… 佐々木は困惑する俺に構わず続ける。「……そうだな。確かにキミの言うとおりこのまま帰るだけじゃ、後悔するだけかもしれない。ならば、これはキョンからのご厚意として受け取らせてもらうよ。最初に謝っておく。ちょっと間違いを犯すが許して欲しい」 ――佐々木は一呼吸置いてから――「僕はね、キョン。ふとこんな事を考えてしまうんだ。キミと一緒にエアーズロックの一番高いところで、沈んでいく夕日の如く終わる世界をただ眺めているってのも悪くないんじゃないかってね」 おいそんな人灰を巻かれてしまうような場所で、俺は若い内に人生の終わりを迎えたいとは思わないぞ。縁起でもないことは言わないでくれ。 俺の反応に、まるでそれを楽しんでいたかのように佐々木はくくっと笑うと、「そうだろうね。済まない。少し冗談が過ぎたようだ。許してくれたまえ」 そう言うと佐々木はくるりと俺に背を向けて、「さて、そろそろ本当に帰らせてもらうよ。これでも大学生の身でね。高校時代に頭の中に押し込まれた鬱屈した気分を解放するので大変なんだ。あとは周りの人たちに対する対応もしないとね。それに――何よりもこれ以上間違えるつもりもない」 そう言ってさっさと俺の前から立ち去ろうとする。 正直、ここで引き留めるのも何だか気が引けたが、どうしても言っておきたいことがあった。「佐々木」 俺の問いかけに、振り向きはしないものの足を止める佐々木。俺は続ける。「せっかくだ。世界が正常になったらSOS団に入ってみないか? おまえとはちょうど話が合う奴もいるし、団長様も――こればっかりは話してみないとわからないが、多分OKしてくれるんじゃないかと思う。いい加減SOS団にも新しい風も必要な頃合いだ」 佐々木は俺の言葉をただ黙って聞いていただけだったが、やがて振り返ることなく答える。「……そうだね。せっかくのお誘いだ。でもいきなりっていうのも難しいから体験入団という形にとどめて欲しいな」「それでもいいさ。あとは佐々木が判断すればいい」 これにて俺の話は終了。あとは佐々木の見送りでお別れだ……ったが、佐々木は足を止めたまま動かない。そして、大げさにため息を一つついてから、腕を上げて指を一つということを表すかのよう人差し指を上げ、「帰る気になっていたのに、それを呼び止めたことへの報いだ。もう一つだけ。間違えさせてもらうよ。キョン、キミに言いたかったことは、それはキミがグースカ眠りこけている間に言わせてもらったよ。その様子じゃ、きっと憶えていないんだろうけど、この場でもう一度言おうという気持ちにはどうしてもなれないんだ。おっと卑怯者とか言わないでくれ。別に教えたくない訳じゃない。ただ、この場ではどうしても言う気になれないってことさ。じゃあ、いつ言うのか、という質問をしたくなるだろ? それはキミが帰ってきてからと答えよう。だから――」 そこで佐々木はすっと振り返り、軽い感じで俺の方を指差す。 その時見せた佐々木の表情、全身を見たとたん、俺はかつて無いほどに佐々木の魅力を見せつけられたと思った。いつか見せてもらった朝比奈さん(大)の表情にも負けないほどの魅力。「僕のかけがえのない親友に対する要望だ。必ず帰ってきてくれ」 ◇◇◇◇ 佐々木を見送った翌日。ついに俺の出撃の日がやってきた。目標は――北高。 俺は甲板から飛び上がる白いヘリコプター――シーホークって名前らしい――の中で緊張しきっていた。これから行く場所は見慣れた街のはずだ。だが、あの記憶に残る灰色の空間の中に、それも命を狙われることは確実とされる世界に足を踏み入れようとしているんだから、緊張ぐらいは許してくれ。おお、懐かしきマイタウンよ。 空母から飛び立って数十分。この時には緊張感なんてすっかり無くなっていた。なぜなら、「ヘリコプターって結構揺れるんだな……うぷっ」「エチケット袋なら完備していますよ。遠慮なさらずにどうぞ」 他の面々はまるで平気そうだ。ちくしょう、こんなに揺れるなら酔い止めを飲んでくれば良かった。 さて、ここらでメンバーを確認しておこうか。 まず部隊長に森さん。あの何でもこなしてしまいそうなプロフェッショナルな女性である。 次に副隊長に新川さん。こっちも森さんに負けず劣らずプロの空気をビンビン醸し出している。 あとは、多丸兄弟・古泉・谷口・国木田、そして俺の総勢7名の部隊だ。人数の面で少々頼りなさを感じてしまうが、以前の10万人大侵攻で何もできずに逃げ出す羽目になったことを考えると、多ければいいってもんじゃないと思っておく。そして、全員迷彩服を着込み、手には自動小銃やら機関銃が握られている。 俺たちは閉鎖空間近くに作られている国連軍基地へいったん降りて、そこから別のヘリで閉鎖空間の目の前まで移動する。あとは俺たちが100kmに及ぶ道のりを行進しながら北高に向かうわけだ。やれやれ。 それから数十分後、古泉がヘリの外を指差し、「見えてきましたよ。あれが閉鎖空間です」 はっきりいってゲロゲロな俺はそんなものを見る余裕もなかったんだが、これから向かう場所ぐらい見ておくべきだと気合いを入れて外を見回す――「……こりゃぁ――すごい――」 その瞬間、俺の酔いはどこかにすっ飛んでいってしまった。透き通るような青空に、そして、その下に存在する海と陸。ちょうどその中間に位置するかのように黒いドーム上の空間が存在している。視界にはいるだけで強烈な拒絶感を感じるところを見ると、あの中にいる奴はあの領域に誰一人として入れたくないようだ。よっぽど人間不審な奴がいるみたいだな。 俺はしばらくその光景を睨んでいたが、やがてヘリが緩やかに降下を始める。「もうすぐ、国連軍基地に到着します。着陸に備えてください」 森さんの声とともに、俺は閉鎖空間の観察はいったん中止して着陸態勢を整え始めた。 ◇◇◇◇ 国連軍基地に到着後、次のヘリに乗り換えるまでしばしの休息を得ることができた。 到着後、俺が真っ先に言ったのは酔い止めの薬の確保である。またヘリに乗って移動する以上、閉鎖空間に酔っぱらって侵入するのでは格好が付かない。 何とか酔い止め薬をゲットして、胃を落ち着かせることに成功。それでももうしばらく時間があったので、国連軍基地内を散策することにした。地方の空港を接収して再利用しているらしく、空軍基地としても活用しているみたいで、たまにやかましい音を立てて戦闘機やら偵察機やらが離発着している。事実上の前線って事で、かなり基地内にいる人間はピリピリと緊張感をあからさまにしていた。古泉の話では、閉鎖空間の拡大に伴って近日中に撤収し、数百キロ離れた場所へ移設する予定だそうだ。確かにここから閉鎖空間までは15kmぐらいしかない。あと数ヶ月で飲み込まれることになるだろう。もちろん、基地周辺にある民家も全てだ。「ん?」 国連軍指揮所の建物の壁にやる気なさそうに寄りかかっている人物が目にとまった。どこかで見たことがあると目をこらして確認した結果、はっきり言ってそのまま無視しておこうかとても迷うような人物であることが判明した。とはいっても、あの野郎がいる以上、何らかの目的があることは明白であり、そいつを問いただしておかなければ、後々面倒なことになるかもしれないので、「おい、こんなところでなにやってんだ」 そこにいたのはあのいけ好かない否定後連発の未来人――自称:藤原だった。退屈そうに空を黒々と浸食している閉鎖空間を眺めている。 その未来人野郎はちらりと俺の方に視線を向けると、「ふん、やっと来たみたいだな。いつまで待たせれば気が済むんだ?」 ……敵意むき出しの発言に、やっぱ話しかけなけりゃよかったと後悔する。 あまり長い間話すと別の意味で俺の胃がムカムカしてきそうだったので、とっとと本題をぶつけることにする。「で、こんなところでなにをやっているんだ? まさかとは思うが、俺たちに協力しようってんじゃないだろうな?」「自分たちにそれだけの価値があると思っている時点で、傲慢に値すると評価してやるよ」 ますますむかつく野郎だ。ここまで挑発的な物言いばかり沸いてくるなんて、さぞかしゆがんだ環境で育ったんだろうよ。 藤原はまた閉鎖空間の方を見つめると、「僕はただ見に来ただけだ。この事態の行く末を見る。それが今の僕の仕事だ。介入するつもりはない」 ああ、そうかい。それなら好きにすればいいさ。じゃあな。 俺はとっとと未来人野郎の前から立ち去ろうとする。が、一つだけ確認すべき事を思い出し、「朝比奈さん――ああ、成長したでっかい方の朝比奈さんだ。あの人は今どうしているんだ?やっぱりお前と同じようにただ事態を見守っているだけなのか?」 俺の問いかけに、藤原はしばらくきょとんとしていたが、やがて苦笑するような笑みを浮かべ、「あんたの思考能力の薄さには敬意を表したいよ。少しは考えてみればどうだ? あんたと一緒にいた小さい方の朝比奈みくるが消失しているんだぞ? だったら、あんたのいうでっかいほうの存在がどうなっているのかすぐに答えが出るだろ?」 俺は――俺はしばらくその意味がわからなかった。だが、何度か未来人野郎の言葉を脳内リピートしてようやく気がつく。 この時代の朝比奈さん(小)は消えたままだ。そうなれば当然朝比奈さん(大)の存在も消える。つまり、今起きている事態は朝比奈さん(大)にとって規定事項ではない、明らかな想定外の状況であるということ。 なんてこった。事態は俺が考えている以上にひどいのかもしれない。少なくともこのままでは確実に世界が崩壊し、未来にも影響を与えている。どうにかしなくては……「おおーいキョンー! もうすぐ出発だよー! 早くこっちに集合してー!」 唐突に耳に入る声。見れば国木田が手を振って俺を呼んでいる。いつの間にやら出発時間を過ぎてしまっているらしい。俺は焦りに似た気持ちを引きずりながら、出発場所へと走った。 ◇◇◇◇ 俺たちを乗せたヘリが飛び立つ。今度はさっきのヘリの黒いバージョンだ。そのまんま、ブラックホークというらしい。どのみち、あと10分以内で降りるんだから憶える必要もないだろうが。 ヘリは山岳地帯の森の上をなめるように跳び続ける。辺りは快晴。雲一つ無い。こんな日に戦争か。やれやれ、やりきれない気持ちでいっぱいだな。 酔い止めの薬の効果は偉大なようで、国連軍基地に来るまでに味わされた車酔い――じゃないヘリコプター酔いも起きずにそれなりに快適に外の様子を眺めることができた。相変わらずの威圧感の強い閉鎖空間の黒い領域が目の前に迫るたびにその迫力で身震いさせられる。もうすぐあそこの中に突入するんだな。 気分を変えようと、下に広がる下界の様子を見回す。森の間に畑が広がっているのが目に入ったが、同時に農作業に従事する人たちや、作業用の軽トラックが走っていくのも見えた。なにやってんだ?もう閉鎖空間は目の前に来ているって言うのに、早く逃げろよ。 俺は国木田を捕まえて、「おい、何で逃げていない人がいるんだ? 時機にこの辺りも閉鎖空間に飲み込まれるんだろ?」「確かにそうだけど、それでも避難を拒否する人たちって結構いるみたいなんだ。何でも自分の生まれ育った土地を離れたくないんだって。どうせ死ぬなら、そこで一生を終えたいっていうインタビューをテレビで見たよ」 郷土愛って奴だろうか。確かに生まれ故郷を離れたくない気持ちはわかるが……死んでしまったらどうにもならねえだろうが。 俺はやりきれない気持ちを胸に、ただその過ぎ去ってゆく光景を眺めることしかできなかった。 ◇◇◇◇ 国連軍の最前線基地に降り立った俺たちの頭上を、ヘリがバタバタと飛び去っていく。 閉鎖空間から一キロ。まさに敵地と接した最前線だ。先ほどの国連軍基地とは桁違いの緊迫感に包まれていることが手に取るようにわかった。ただ、すでに撤収命令が下っているようで俺たちを送り出した後、この基地は即時閉鎖されるとのこと。無理もない。目の前には襲いかかる津波のように閉鎖空間の黒い領域が広がっているんだからな。ちょっと目を離したすきに俺たちに襲いかかってくるんじゃないかと不安になる。 しばらくすると、森さんが手続きを終えたようで指揮所から出てくる。「準備できました。これから目的地に向けて移動を開始します」「さあ、出発しますぞ。まだ閉鎖空間の外ですが警戒を怠らないようにお願いしますな」 新川さんも森さんに続いて歩き出す。それに続いて他のメンバーも歩き始めた。 ずんずんと俺たちが歩くたびに近づいてくる黒い空間。実際には俺たちの方が近づいているんだが、立場がひっくり返されるほどの威圧感だ。本当に入って大丈夫なのか?「大丈夫ですよ。今までも何度もやっていますから問題ありません。ここで閉鎖空間内に入ったことがないのはあなただけです。他のみなさんは全て経験済みというわけです」 見れば谷口が得意げに親指を立てている。国木田もひょうひょうとした表情でうなずいていた。やれやれ。じゃあ、経験者のみなさんを信じて勢いよくあの灰色空間に飛び込みますか。 数分後、ついに閉鎖空間から数メートルの位置に俺たちは立った。数歩先は未知の世界となる。 そういや、古泉の力を使わなくても、入れるらしいが……「ええ、その通りです。ちょっと試してみますか?」 イタズラっぽく言ってくる古泉に俺は即座にNOのサインを返した。そんな火山の噴火口に素っ裸で飛び込むようなマネはしたくないね。これから100kmのウォークラリーが始まるならなおさら無駄な体力を使いたくない。「冗談はここまでです。さあ……では行きましょうか。みなさん、僕の手に捕まってください」 古泉の指示通り、俺たちは一斉にその腕を手に取る。一人の人間に一斉にとりついている光景は端から見ればすごく異様な光景なんだろうなと余計なことを考えている間に、 ――特になにも感じずに俺たちは閉鎖空間の中に足を踏み入れた。古泉の方に見ると、もう話しても良いというサインを返してきたので、俺は古泉から離れてみる。 特になにも感じない。心身ともに閉鎖空間侵入前と変わっていないようだ。ほっ、とりあえず第一歩は完了だな。 俺の視界にはあの薄暗く灰色の世界が続いていた。以前に見たあの閉鎖空間と全く同じものであることがすぐにわかった。しかし、何度入ってもこの鬱屈した空気になれることはないだろう。「さあ、ぐずぐずしていられません。前に進みましょう」 そう森さんの合図が飛び、俺たちは目的地に向かって歩き出し―― ――キョン―― 一瞬、本当に一瞬だがはっきりと聞こえた。ハルヒの声だ。間違いない。 俺は立ち止まって、また聞こえないか耳を澄ませる。しかし、それ以上ハルヒの声が聞こえてくることはなかった。「どうかしましたか?」 様子がおかしいことに気がついたのか、古泉が俺のそばによってくる。その表情を見る限り、どうやらこいつの耳にはハルヒの声は届いていないらしい。「ハルヒの声がしたんだ。空耳じゃない。確かにあいつの声だ。やっぱりこの中にいるんだ……」「……行きましょう。まだ先は長いんです。立ち止まっている余裕はありません」 そう古泉に背中を押されるように、俺は歩き出した。 ハルヒ。やっぱりこの中にいるんだな。そうなれば、長門と朝比奈さんもきっといるはずだ。 待っていろよ。すぐにこんな薄暗い世界から出してやるから。
~~その2へ~~
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。