3・土の世界? > 停滞
「キョン君、何でささってるの~?」おお、わが妹よ。いい加減兄に対してお兄ちゃん、と呼ぶ習慣をつけなさい。「うん、それ無理」っておい、朝倉?何でお前がそこにいる。「最初からあたししかいなかったから」そうなのか?じゃあさっきのあれは幻聴?「そうかもね。とりあえず今から抜くからちょっと待ってて」そう言うと朝倉は俺の靴と靴下を脱がせた。「やっぱり臭いかぁ…」そりゃそうだ。人間の足ってのはなあ、そんなもんだ。お前たちは別かもしれんがな。「でも今は匂いを感じないように情報操作してるから平気なんだけど。それにしても、臭いなあ」同じことを二度言わすな。「ごめんね。それより、さっき長門さんと会ってきたんでしょ。彼女、何か言ってなかった?」ああ、言われたさ。色々とな。…まあとにかく、俺は必ずここから脱出してみせる。「…ふーん、がんばってね。それじゃああたしはこれで」ちょっと待て。俺の頭を抜いてくれ。首が痛い。背筋がつりそうだ。「キョン君、何でささってるの~?」おい、妹!いいからとっとと助けを呼べ!「助けならさっきの女の子が呼びに行ったよ?」嘘だ。今なら俺は断言できる。朝倉は敵だ!俺はこれから朝倉に説教しなくちゃならん!「…あ、戻ってきた。じゃあねキョン君。あとではさみ貸してねー」
朝倉は今度は裸足の俺の足に靴をはめると今度はその上から靴下をかぶせてきた。「何でこんなことをする?」「何でだと思う?」「質問に質問で返したら0点だって習わなかったのか?」「そうね、じゃああなたも0点なんだ」そうだな。俺も赤点だ。補習はどこで受けるものなんだ?「さあ。どこか探しに行こうかな」「その前に俺を抜け」「自分でできるでしょ?」嘘だッ!!…あれ?嘘じゃない。「あたしは本当のことしか言わないもの。ちょっとは信用してほしいなあ」どうかね。狼少年ぐらい信用できないんだが。「…最低じゃない?女の子に向かってそういうこと言うの」女を盾にしてそんなこと言うのもないんじゃないか?「そうかもね。だってあたし達、二人とも0点だし」そうか。なら仕方ない。「ところで俺達はどこに向かってるんだ?」「さあ、どこかなあ?」「質問に質問で返したら」「0点、でしょ?」Exactry.(全くその通りです。)俺、模範解答。朝倉、模倣解答。どっちが正しいんだ?「あなたも模倣でしょ」そりゃそうだ。模倣しない人間がどこにある。「だからあたしとあなたも同じよ」そうなのか?俺にはさっぱり分からん。
俺達はなにもない地平線を歩いていたけど地平線は歩いても歩いても歩いても近くならない。「…休憩にするか」「何で?」「疲れた」「それだけの理由で?単純ね」「そうか?」「人間が動くとか動かないとか、そういうのを決断するのにはもっと複雑なプロセスが必要だと思ってたの」そりゃあ間違いだ。腹が減ったから飯を食う。眠くなったから眠る。それで充分じゃないか。「…でも、簡単には死のうとしないのよね。おかしいな」「何か言ったか?」「ううん、じゃあ、あたしは先に行ってるね」「どこにだ?」「多分、あなたには来ることのできない場所。来る必要もない場所」そう言うと朝倉は笑った。その足や指先がさらさらと風化していく。「じゃあね」俺はこの光景を知っている。そうだ、朝倉は俺を殺そうとした悪人なんだ!じゃあこれでいいんじゃないか。でも俺は何かもっと足りないものがある気がしてならなかった。目的地が見つからない。
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