結末は空港で エピローグ
エピローグその後のことを少し話しておこう。これでハッピーエンドと思っていた俺を裏切るような事態がこの後起こることになる。ハルヒは空港を出た後、教授に成果を報告するために大学へと向かい、俺もハルヒに同伴した。研究室にはハルヒの海外での成果をお祝いしようと教授や後輩が待っていたが、ハルヒは突然その場で大学を辞めると言い出した。教授はハルヒのこの言葉を聞いて、椅子から転げ落ちるほどびっくりし、他の後輩達も唖然とした表情でハルヒを眺めていた。それからが大変である。ハルヒに大学に留まるようにと、教授は必死になってハルヒに説得を試みるが、ハルヒがそんな説得に応じるわけもなく、説得の途中で俺の手をとって研究室を飛び出して帰宅することになった。このとき、とても後ろめたい感じがしたのを、いまでも覚えている。普通ならこれで退学の手続きをして終了となるのだが、流石トラブルメーカーハルヒというべきかそうはならなかった。どうやらハルヒの行っていた研究は大学や自治体、企業もかなり注目していたようで、多額の補助金が出ていたらしい。この日からハルヒに対する説得工作が始まった。連日連夜、ハルヒの家に大学の関係者やそのスポンサーらしき人物が訪問してくるようになり、果ては地元選出の議員やら中央の役人までもがハルヒの説得に乗り出したように聞いている。そのため、俺とハルヒはなかなか連絡が取れない日がしばらく続くことになった。しかし、天下のSOS団団長であられた涼宮ハルヒが他人の意見で自分の主張を曲げるわけもなく、全員けんもほろろに追い返されたらしい。そこまではまあハルヒと大学の問題なのだが、ハルヒの説得が無理と見るや否や、俺からハルヒを説得するようにと関係者が自宅に詰め掛けるようになった。かんべんしてくれ。なんでSOS団の三人といい、今回の件といい、みんな俺をハルヒの通訳にしたがるんだ。しかし、こう連日連夜押しかけられてはまともな精神構造の俺にはとても耐えられるものではなく、渋々ハルヒを説得することになった。「ハルヒ、非常勤でもなんでもいいから大学に残ってやってはどうだ」俺がそう言うと、ハルヒは不満そうに眉間にしわを寄せ、アヒル口で反論する。「あんたそれでいいの。あたしが大学に残ることになれば、研究のためにあんたとの時間を失うことになるのよ」「しかし考えてみてくれ。俺だって昼間は仕事があるわけでお前と一緒にいられるわけじゃあない。それにこう連日連夜、大勢の人に詰め掛けられたらハルヒとふたりだけの時間を持てないじゃないか」後半は俺の正直な気持ちだ。俺は早くハルヒとふたりっきりで過ごしたかった。ハルヒはジト目で俺の方を見ながら「あんたそれでいいの」と、不満げに聞いてくる。「ああ、俺だってまだそんなに稼ぎがあるわけじゃないし、情けない話だがハルヒにも働いてもらいたいんだ。だから頼む。なんとか「うん」といってくれ」俺は祈るように、必死でハルヒを説得する。ハルヒがじっと俺を見たまましばらく沈黙が続き、俺が沈黙にいたたまれなくなったぐらいにハルヒが一言告げた。「わかったわ。あんたがそう言うならしばらく大学に残ることにするわ」俺はこの言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。研究室のみんなも大喜びだ。翌日、職場に行くと俺の肩書きが何の前触れもなく主任になっていた。世界改変は起こらないはずなのに………さすがに結婚式は何事もなく無事終了した。谷口や国木田が「やっとくっついたか」みたいな感じで俺を見ていたのが印象に残っている。SOS団の三人を呼べなかったのが心残りだが、いや、それはもう言うまい。彼らは彼らの本来在るべき場所で幸せに過ごしているはずだ。そして俺たちを遠くから見守ってくれているに違いない。俺達はいま新居への引越しをしている。もちろん、部屋のレイアウトを決めるのはハルヒの役目で、ハルヒの決めたとおりに家具を運ぶのは俺の役目である。まあ、この関係はSOS団の頃、いや初めて会ったときから変わりはしないし、今後もずっと変わることはないだろう。それもいいさ俺はハルヒの嬉しそうなあの笑顔が見れることが一番幸福に思えるんだからな。このハルヒの笑顔を独り占めできることが俺にとっての一番のぜいたくだ。そのためだったらハルヒの雑用係くらい、いつでも引き受けるさ。雲ひとつない青空を見上げて、ふと、長門や朝比奈さんや古泉もどこかでこの空を見上げているんじゃないかと思った。そして、空港での光景がよみがえる。あの時、俺は朝比奈さんになんと答えようとしていたのだろうか。朝比奈さんは俺の言葉を遮って、俺の前から立ち去っていた。もしかしたら、あれは朝比奈さんの俺に対するやさしさだったんじゃないだろうか。そんな物思いに耽りながら、どこまでも澄み切った青空を見上げて、俺は小さな声でつぶやいた。「長門、お前のことだから心配はしてないが、幸せになれよ」「朝比奈さん、いつまでもお元気で」「古泉、両手に花で羨ましいぞ。長門を泣かすんじゃないぞ」俺が感慨に耽っていると、家の中からハルヒの声が聞こえてきた。「こらあ、キョン、あんた何サボってんのよ」俺は三人に感謝しつつ、へいへいとハルヒの声のする方向に歩き出した。そして俺が一番感謝しなければならないSOS団のひとりを忘れていることに気がついた。ハルヒの前まで来て、満面の笑みで嬉しそうに俺に指図するハルヒを見ながら、俺は心の中でつぶやいた。「ハルヒ、俺を選んでくれてありがとう」~終わり~
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