ONE DAY ON THE SNOW ~ある日雪の上で~
二月も中盤にさしかかり、いっそう寒くなってくるころだ。うっとしいだけの雨よりも、その気になれば遊び道具にできる雪が降って欲しいというやつにはいいだろうが、俺は雪だけでもあまりうれしくはないのだ。雪だけくればいいが、寒さまで来るのはいやなんだよ。まぁ、そんなことを言っても仕方はないのは分かっている。シベリア寒気団の連中に何をいっても、進路を変えてくれたりはしないんだからさ。そんな感じのことを考えながらすごしたつまらない現国の時間も終わり、放課後になった。今日もSOS団アジトと化した文芸部室に足を運ぶ。もうすっかり習慣づいてしまったものだな。他にすることなんぞ無いから・・・いや、あったとしても、それらをほったらかして来るだろうな。あの場所は、俺にとっては結構心落ち着く場所なのさ。朝比奈さんの着替えを覗いてしまわないように、扉をノックしてから部室に入った。既に、朝比奈さん・長門・古泉の三人はいたが、ハルヒの姿は見えなかった。イスが遠い位置にあったので扉にもたれかかるようにしながら尋ねた。「ハルヒはまだ来てないのか。」俺の質問に、古泉が答えた。「えぇ、まだのようですね。またおかしな事件を巻き起こしていなければいいのですが。」「まさか・・何か用事でもあるんだろ、多分。そうでなきゃ、ただのきまぐれかもな。」そう思うしかないだろう。嫌なことを考えたら、本当にそのようになってしまうような気がする。いつも、この三人が集合しているときにハルヒが勢いよく部室に入ってくるんだよな。そうして、面倒なことになるんだ。もう。そう思いながら、そろそろイスに座ろうと、扉から背を起こそうかと思ったときに、扉が開き、俺が背中から倒れた。同じようなことがクリスマス前にもあったような。しかし、その時俺の上にいた人物は朝比奈さんではない。ハルヒだった。俺が倒れてくるのに驚いたハルヒは、その場でしばらく静止していたようだが、いきなり「こらぁ!!このエロキョン!!わたしのまで覗こうなんて100光年早いのよ!!見たんでしょ?見たんじゃないの?」断じて言っておく。この前と同様、足しか見えなかったぞ。それだけでも十分な気はするが・・・いや、なんでもない。「全く、団員の規律を乱してばっかりなんだから。少しはしっかりしてよね。」少しはしっかりしているつもりなんだがな。タイミングが悪かっただけだ。「まぁいいわ。それより、今日は野外活動をするわよ。」「一体何しに外に出るんだよ。こんな寒い日に。」「寒い日だからこそよ。こんなに雪降ってるんだから、使わないと損じゃない。」どこぞの小学生みたいな言い草しやがる。まぁ、変なことを言い出さないでよかったね。もっと大変なことになってたかもしれん。「そういうわけだから、中庭いくわよ!!着いてきなさい。」そんなこんなで、雪遊びをする羽目になった。本来、中庭は冬季使用禁止・・っていうか、まず自分から入っていく奴など皆無なのだが、ハルヒは全くそんなことを気にせず歩いていく。なんでこうなるんだ・・・ってぶぉっ!?「へへーんだ。キョン!!悔しかったらこっちまでおいかけてきなさーい!!」奇襲とは卑怯な・・待ちやがれこの!!「あまり怒らせないで下さいよ?またあの空間が発生するかもしれませんから。」「大丈夫だろ。・・・きっとさ。」その後、俺と朝比奈さんと長門チーム対ハルヒと古泉チームに分かれて雪合戦を行った。朝比奈さんはいつもどおりオドオドしているだけなので、雪球をせっせと作ってもらうことにして、長門には、当たりそうで当たらないぐらいの球を投げてくれといっておいた。・・・存分に当てていいぞ、と言っておくべきだったかな。終了時には、俺はかなりの数の雪球を喰らっていた。古泉、いくらなんでも俺に当てすぎじゃないか?ハルヒより多いぞ。「そうですか?涼宮さんより数多くなげたつもりはありませんが。ふふ・・・涼宮さんらしいですね。」どこがだよ。いつものハルヒなら、俺をボコボコにしてるんじゃないのか?「いえ、分からないならまだいいんです。そのうち分かってくると思いますから。」俺だって、お前のいいたいらしいことはわかってるさ。分かってるから、春にこの世界に戻ってこれたんだ。分かってるけど・・・さ。あまり率直に事実を受け止められるほど、俺も人間ができちゃいないんだよ。「今日はこれぐらいで終わりね。それじゃ、解散!!」そうハルヒが宣言した。はぁ・・・やっと終わりか。「じゃあ、キョン。あんたは残って特訓よ。あたしと投げあいなさい。」ちょい待て。なんで俺がお前と残って雪合戦しなきゃだめなんだよ。「あんたのさっきのやられっぷり見てたらイヤになったの。特訓しなきゃだめなの。」「・・・・どうしてもか?」「どうしてもよ。」「分かったよ。何時間だって、投げてやるさ。」その後、二時間がたっただろうか。とっくに日は落ちて、ライトが闇を照らすころになっていた。俺とハルヒは疲れ果てていて、接近して互いに雪球をぶつけようとしていたところで、雪の上に倒れてしまった。二人並んで、仰向けに倒れていた。「はぁ・・・はぁ・・・やるわね、キョン。」なんか、派手に喧嘩したあとの男たちの会話みたいだな。「あぁ・・はぁ・・・お前もな、ハルヒ。」立ち上がる気力もなく、俺たちはしばらく雪の上に寝転がっていた。闇の中に浮かぶ月。視界をくれるライト。いつまでもやまない粉雪・・・。そんな光景を、ただただ見つめていた俺の手を、ハルヒが握っていた。「あんた・・・手袋もつけずに雪合戦してたの?こんなに赤くなるまで・・・。」「あぁ、持ち合わせていなかったからな。」「・・・ごめんなさい。」「急になんだよ。お前らしくない。」「あ、あたしだって、そんな・・・怒ってばかりじゃないんだから・・・団長としての務めっていうか・・その・・」「心配するのは、当たり前でしょ。」相変わらず素直じゃないよな。お前は・・・俺もだけどさ。「そうかい。」こんなことしか言えないのか?違うだろ?俺。「・・・ハルヒ。」「・・・何?」「風邪ひくぞ。そんな寒い格好してたらさ。」制服の上にコートを羽織っているだけなんだから。「そんなこといったって・・・今日、マフラーしてきてないし・・・。」「いつか、ラグビー観戦したときに朝比奈さんにしたようにしてくれたっていいぜ。」ハルヒは、あの時等身大カイロとか言って、朝比奈さんを抱きしめていた。「・・・・ばか。」やっぱりだめかな。そう思っていたとき、ハルヒに抱きしめられた。「あんただって寒いでしょ。・・・風邪ひいたら、また心配するんだから。」「もう・・・あたしの目の前から消えたりしないで・・・。」階段から転げ落ちてショックで昏睡していた・・・らしいあの三日間のことだろう。「もう・・・心配させたりしないで・・・お願いだから・・・」「分かってる。」「俺だって、心配させるようなことにはなりたくないし、心配をかけたくはないさ。」「でも、どうしようもないときがある。そのときは・・・。」「俺が、生きてお前に会えるように、願っていてくれ。」そうすれば、俺の死亡率はぐっと下がるはずなのさ。きっとな。「分かった・・・///」より強く互いを抱く俺たちは、その後雪がやむまで―――そこにいた。余談になるが、あの後不覚にも俺は風邪をひいてしまい、二日間ほど寝込んだ。その二日間は・・・まぁ、いい気持ちで過ごせたかな、と思うところである。・・・ハルヒが、そばにいてくれたおかげで。END
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