凡人に泣いた日
ある日、珍しくハルヒとのペアで不思議探索をしている時のことであった。デート中にでも見えたのだろうか…頭の悪そうな不良に絡まれてしまった。しかし、さすがにハルヒが相手では分が悪い。不良は口で罵倒されて、プッツンして手を出してきても、軽く一蹴。…いや、なんかもう、ご愁傷様としか言いようがないね。おめおめと逃げ帰る不良たちの後ろ姿は情けなかった。ところが話はこれでは終わらなかった。みっともない話だが、ハルヒにはかなわないと判断した不良たちは一般的凡人の象徴とも言える、俺に標的を絞ってきたのだ。「は、はは…情け…ない、の…は、俺…のほう…じゃ、ねぇ…かよ…」声にならない、自分のモノローグに対する空しいツッコミが夕方の空に響いて消える。待ち伏せをくらった、凡人たる俺は不良たちに勝てるはずもなく人通りのほとんどない道の脇に放置されている。動きたくても、動けない。助けを呼びたくても、呼べない。両腕・両肩・両すね・両腿の骨を折られ、喉も潰されてる。不意に涙がこぼれた。ハルヒに責任を押しつける気などない。不良たちへの憎悪でもない。ただ…自分が情けなかった…俺は…いつも、みんなのお荷物にしかなりゃしないじゃないか。自分が凡人に生まれてきたことをこれほど恨んだことはない。声のあげられない涙を流していると、遠くから足音が聞こえてきた。「キョン!!!」ハ、ハルヒ…?なぜ、ここに…?「どうしたの!?誰にやられたの!?っ!もしかして…あの不良たちの仕業!?」ハルヒが目に涙を溜めながら続けて言う。「ごめんね、キョン…あたしの…あたしのせい、だよね…」違う…違うんだ、ハルヒ…「あたしを許して、とは言わない…言えないけど…あいつらだけは…キョンをこんなにした、あいつらだけは…あたしが許さない!」ハルヒの背中から、どんよりとした負の感情が立ち上っているのを、俺は感じた。「ダ、メだ…い、行か…ない、で…くれ…ハ、ル…ヒ…」俺は、音の鳴らない声をあげて、必死にハルヒを呼び止めた。「キョン…?」お前は、悪くないんだ…俺がただ、何の力もない凡人なのが、いけなかったんだ…途切れ途切れの、死にかけの人間ような俺の言葉を、ハルヒは黙って聞いていた。迷惑、ばっかかけちまって…ごめんな…俺は心の底から、そう思った。「ううん!そんなことない!キョンは…迷惑なんか掛けてないわよ!!」ハルヒ…?ハルヒがボロ布のような、俺の体を抱きしめながら、言った。不思議と、ハルヒに抱かれているはずの俺の体には、痛みはなかった。「迷惑かけてばっかなのは…あたしのほうよ…」ハルヒ…だが、俺がこんな凡人じゃなかったら…「いいのよ!キョンが凡人だろうと!あたしにとって、キョンは《特別な人》なんだから!」ハルヒ………「だから…そんなに自分を責めないで…あたしにはキョンが必要なの…」俺から、自分を卑下する感情が消えていった。は、ははは……「キョン?」ハルヒ…お前も、さっきから自分のことを責めてるじゃないか…「あ…あたしは別にいいのよ!」何だよそりゃ?ハルヒ、お前は俺にとっての《特別な人》なんだから、そう自分を責めるなよ…?「キョン…」俺とハルヒは見つめ合い、そのまま……―――その頃………「おんどれらぁ!!よくも僕のキョンタンをぉぉ―――!!!!」「な、なんだお前は…」「問答無用!ふんもっふ!ふんもっふ!ふんもっふ!」「アッー!!!!」オチなしHappy end...
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