涼宮ハルヒの夢幻 第六章
第六章 やろうと思えば、何でも出来るもんだ。簡単に俺はシャミセンの体を乗っ取った。どうでも良いが、動きづらい。俺は、再び学校へ向かう。今頃昼休みだろう。途中、ある2人が目に入る。制服を着た髪の長い女性とにやけ面のハンサムボーイ。よく見えない。もっと近きへ行く。「今回は、大変な仕事だったらしいね。古泉君。」「えぇ、それは大変でしたよ。鶴屋さん。準備から実行まで、かなりの金額と時間と労力を費やしました。あなたの御父上には、大変なご迷惑をかけました。感謝しますよ。心の底から。」「あたしに感謝を言われても困るよっ。見ての通り、あたしゃめがっさ怒ってるんだからね。」何を怒ってるんだろうか。鶴屋さんは、怖いオーラを発していた。絶対に近寄ってはならない。そんな雰囲気だった。 古泉は、顎に手をあて、顎を撫でるような格好をする。口元は笑っているが、目は、じっと鶴屋さんを凝視している。険悪なムードが漂う。「こんなっ、こんなことっ許されると思ってるのかいッ!!!」「申し訳御座いません。」「あたしは干渉しない。いや、したくない。でもッ!!!行動しなきゃ、誰かを失うって初めて知ったよ。これだけは、言っておく。誰が見ても、これは、倫理的な道程からは、外れてる。間違った行為さっ。」「責任は取るつもりです。僕なりのね。」「死んで詫びるなんて、言わないでよ。それは、逃げるに他ならないんだからさっ。」「分かりました。」「………あたしは今から、学校に戻るよ。勉強しなきゃ。次に誰かに手を出したら、あたしがキミを止めるからねっ。」鶴屋さんは、走って帰って行ってしまった。古泉は、しばらく呆けていた。「そろそろ、僕も帰りますかね。」「みゃー。」待ちな、古泉。 「これはこれは、彼の家の猫。えっと、シャミセンでしたね。」急に古泉は考えて、笑い出した。「くっくっく、長門さんのおっしゃる通りですか。」「みゃー。」どういうことだ?「申し訳ありませんが、あなたの言葉は私には、解りません。放課後、部室へ来て下さい。全てお話しします。」そう言うと、古泉は帰って行った。どうやら長門は、猫である「俺」が来るのを予期していたらしい。話が早くて済む。 放課後「みゃー。」「来ましたね。」校門で古泉と朝比奈さんが待っていた。「ごごごごごごごめんなさいキョン君。何も言えなくて。」 朝比奈さんは、俺を抱きしめ、謝った。俺、一生猫のままで良いかも。「行きましょう。長門さんが待っています。」そのまま部室へ向かった。朝比奈さんの感触が気持ちいい。至福の時とは、まさにこのことだ。部室へ入る。「待っていた。」「みゃー。」話してもらおうか。「分かってる。」「長門さん。通訳をお願いします。」「必要ない。」長門は、俺の首に何かをかける。「何だ?k……うぉ!?喋れる!!」「猫用バイリンガル装置。」「ふぇー、ドラ●もんみたいですね。」「今回の事は、深く謝る。」「反対勢力の暴走だろ?仕方ないさ。」「違う。」は?「ユダはわたし達。全勢力があなたと涼宮ハルヒを抹殺する計画をした。」おいおい、冗談は顔だけにしまじろう。 「な、どうして…?」「わたしの場合は新たな情報爆発の期待。きっかけを作ったのは、わたし達情報統合思念体。有機生命体の一般に「恋愛」と呼ばれる感情を利用し、新たな情報爆発を期待した。しかし、失敗に終わった。彼女が情報爆発を行う機会は格段に増えたが、リスクもまた、高い。彼女の力は落ち着いてはいるが、力自体は衰えてはいない。むしろ、より強力な物へと変貌している。一歩踏み違えば、地球だけではなく、宇宙空間まで被害が及ぶ。情報統合思念体は失望し、『扉』である涼宮ハルヒ『鍵』であるあなたを抹消する方向で計画を続けた。」「わたしの場合は未来の固定化です。今回の事件を邪魔する人の足止めをしたそうです。」「機関の方では、最近無意識に発生する閉鎖空間の対処が不可能になりました。神人の異常増加が原因です。進行の速さは緩やかなのですが、このままでは、いずれ世界は改変されます。対抗策として、谷口君などを利用し、彼女の錯乱状態を抑えようとしましたが、逆に拍車を加えました。閉鎖空間の拡大する速さが異常なまでに速く、神人の対処もままならぬ状況でした。結果、涼宮さんを抹殺する事を上が決定しました。」 「…………」言葉が出なかった。俺とハルヒは、こいつらの謀略にはめられたのだ。こんな事許せるもんか。絶対許さん。「ごめんなさい。ごめんなさいキョン君。」朝比奈さんは崩れ落ちるように、床に顔を伏せた。「泣いたって無駄ですよ。後の祭です。話は終わったな。俺は逝くぜ。」「待って。」小さな手が俺の尻尾を掴む。「何だ?」「あなたは、わたし達に言うべき言葉があるはず。だからこそ、ここに来た。違う。」確かにその通りだ。しかし、「今更お前らに話して何になる。」「話して。」「ふざけるな。こんな所に居てたまるか。帰るぞ。」「離さない。」「なら、シャミセンから出ていけば良いだけだ。じゃあな。」「不可能。」長門の言葉通り、俺はシャミセンから出れなかった。「あなたが猫に憑依した行為は、本来してはいけない。それを解くことが出来るのは、この中でわたしだけ。」 つまり、俺がシャミセンから出れないで困ると想定済みという訳か。「そう。」やれやれ、長門さんには、かないませんよ。「今から、あなたを解き放つ。じっとして。」「最後に良いか?」「何?」「おばけの俺は、お前には、見えないのか?」「否、見える。」俺が死んだ後、お前が来た時、近くにいたが、まさか、気づかなかったなんて長門らしくないな。「気付いてた。しかし、涼宮ハルヒもいた。この場合、無理に言葉を交わさないのが妥当であると判断。」なるほど。もう一つ。俺をハルヒの夢に招待した理由が解らん。わざわざ喜緑さんと古泉を用意してまで、朝倉を倒す芝居をする必要は無いだろう。何故、一気に俺とハルヒを殺らなかった?「何の事?」 長門の手が止まる。「僕も知りません。」おいおい、冗談キツいぞ。「本当。した記憶は無い。」何だこの違和感。どこかで感じた記憶がある。「詳しく話して頂けますか?」俺は、ありのまま話した。ハルヒの夢に送られた事。朝倉が出現した事。朝倉の言葉「真実」「終わらせない」勿論、俺がハルヒに不覚にも「愛おしい」と言った事は内緒である。 「あなたの言葉が本当なら、この世界は偽りの世界。」つまり、改変された世界だと?「多分そう。あなたの話からすれば、改変したのは朝倉涼子。」穏やかに、しかし力強く長門は言った。「あなたを元の世界に帰還させる事も可能。」「これは興味深い話ですね。僕も協力しますよ。」「わ、わたしもキョン君と涼宮さんのために、働きます。」「すまん、助かるよ。古泉、朝比奈さん。だが、良いのか?」「罪滅ぼしですよ。もっとも、これで償えるとは、思っていません。」「それでも、有り難いよ。」「但し100%戻るとは、限らない。」「構うもんか。やってみるさ。」「あなたが元の世界に戻ったとしても、あなた達が幸せになるとは、限らない。他の勢力に狙われているのは当然。今回同様わたし達が敵に回る事もある。あなたは一人でも、彼女を護れる?」「…………。」単純に考えれば答えはNOだ。桁違いの頭脳と力を持った勢力とただの凡人一人が戦っても勝てるはずがない。簡単に言うと、戦闘力5の地球人とフリーザ一味である。「考える時間はまだある。ゆっくり考えて欲しい。それと一応、あなたが帰る準備をしておく。」 「分かったよ。気長に考えるさ。まだ、時間は残ってる。」「次に来る時は、涼宮ハルヒと一緒に来て欲しい。」「ハルヒ?」「どうしても必要。」「分かった。それとよ、何故俺の記憶だけ残っている?」「解らない。だが誰かがあなたを守った可能性が高い。」「そうか。まあいいや。」「では、離す。」スッとする気分と共に、目の前が真っ白になった。 目の前には朝比奈さん、長門、古泉がいた。「じゃあな。」長門にしか聞こえない言葉を吐き捨て、俺は部室を後にした。 家に着くとハルヒがいた。何しに来やがった。「暇だから、来てやったわ。」「俺は忙しかったがなぁ。」「忙しい?あんたが?どこ行ってたの?白状しなさいよ。」まずい。口が滑った。長門達に会いに行ったなんて言えないぞ。「し、親戚の家にも行って来たのさ。」「本当?それにしては、帰りが早くない?怪しいものね。」 「本当だとも。顔見てすぐ帰って来た。」「まあいいわ。今更、どうこう言える立場じゃないし。それよりキョン!!あたし暇なの。どっか行きましょうよ。」「思い出巡りでもしょうか。」「過去を振り替えるのは嫌。前をだけを見て行動したいの。」俺達に未来は無いようなものなのだがな。ハルヒには、思い出したくもない過去があるのだろう。わざわざ俺がハルヒの傷をいじる必要はない。「おし、映画でも見るか。」「映画ならいいかな。」「じゃあ、行くか。」「競争よ。キョン。」ハルヒはふわっと浮かび上がり、繁華街の方へと飛んで行った。「待てよ。」俺も必死になって追いかける。 楽しい。今、俺は人生(死んでるけど)で一番幸せなのかも知れない。誰にも邪魔をされず、平和で、近くには俺を導くハルヒがいる。ここは、天国のような世界なのか。 気付いたら映画館だった。 「どれ見るか?」「そうねえ。あれがいい。」ハルヒが選んだのはSF映画だった。ハルヒが好みそうな、いかにも宇宙人や超能力者が出てきますよ的な映画だった。「入るか。」「待って!!」ハルヒは、俺の腕を引き寄せ、俺の腕と絡ませた。「少しは、あたしの夫らしくしなさいよ。」夫!?「もう、婚約したのと一緒よ。夫婦なの。」ふふふと笑いながら、ほんのり顔を赤らめるハルヒ。俺は、かなり恥ずかしい。多分、顔が真っ赤だね。周りに霊感の強い人が見ていたらどうしようかと思う。どうしようも無いが………「タダで入るなんていい気分ね。VIP客みたい。」俺は、罪悪感でいっぱいだった。小銭を探したが無い。あっても払う気はないし、払えるわけもない。 映画はあまり面白い代物ではなかった。ハルヒなんて、途中から眠っている。なんか俺も頭がぼーっとしてきた。 俺は元の世界に戻りたい。あいつが起こす問題。それを試行錯誤し、解決する俺達。ハルヒが消失した日。あの時はそう思い、エンターキーを押したはずだったよな。 だけど………… だけど…… だけど!! もう疲れた。 横には、ハルヒの寝顔。性格とヘンテコな能力さえ除けば、ただの可愛い少女だ。 「あなたは一人でも、彼女を護れる?」 頭に響く言葉。「否、俺はハルヒを助ける力なければ、気力も無い。」虚しく呟く。 映画はいつの間にか、エンディングに入る。綺麗な曲が流れ出した。俺は、何故此処にいる。朝倉は俺に何を望む。己の無力さを教える為か?俺はともかく、ハルヒまで殺す利点は何だ?解らない。俺は何をすれば良い? 「あれ、終わったの?映画。」「ああ、起きたか。」「帰ろっか。」「そうだな。」「おんぶ。」「は?」「何度も言わせるな!!おんぶよ。おんぶ。」「はいはい。」「今日は一緒にいよっか。」「ダメ。家に帰りなさい。」「だって暇なんだもん。どうせ幽霊だから、誰とも話せないし。」俺にはシャミセンがいるけど。そういえば、シャミセン連れて帰るの忘れた。今頃どうしているだろうか。 「ね。いいでしょ?」「わかった。わかった。」 家に帰って驚いた。「お帰りなさい。」「「え゛!?」」シャミセンと長門がいたのだ。長門は俺達が見えてるんだよな。「ちょ……ハルヒがいるんだぞ。」「好都合。」「ちょっとキョン。これは何!?不倫?不倫なのね!?」「MAMAMA待てハルヒ!!誤解だ。ご懐妊だ。」時既に遅し。くだらない駄洒落を言うや否や、ハルヒの連続グーパンチが飛んでくる。「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ。」「痛い、痛い!!長門!!何とか言ってやれ。」「………自業自得。」どう見ても長門です。本当に有難う御座いました。「あれ?何で有希としゃべってるの?」今頃気付くな。「わしもおるぞ。」「ひっ!!猫がしゃべった?」シャミセン。お前もか。
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