涼宮ハルヒの夢幻 第三章
第三章 ハルヒを家まで送り、新川さんに駅まで戻っていただいた。空は暗く、星が出始める。忘れてた愛車にまたがり、家路を急いでいた時、道の端に人が倒れていた。俺は善人ではないので無視した。今日も星が綺麗だ。「待て。怪我人を無視とはいい度胸だ。」そんな言葉をほざく元気があるなら、大丈夫なのだろうが、優しい俺は親切に反応してあげた。「おぉ、大丈夫か?酷い怪我だ。救急車呼ぶか?」よく見ると、本当に酷い怪我だった。ズボンが擦り切れて、足も擦り傷で真っ赤だ。顔を見ると、額から血も出てる。しかしこの顔どこかで見た。「お前は!?俺と朝比奈さんの邪魔をし、今日も朝に戯言をほざいた奴ッ!!」「今頃気付くな。早速だがお前にこれを渡す。大事にしろ。」そいつは俺に銀色のギザギザを渡した。「何コレ。もしや『禁則事項です』か?」 「残念。それに見せ掛けた御守りだ。」紛らわしい。何の為に渡したのだろうか。「これは、お前が『禁則事項』の時『禁則事項』な事をする有り難い『禁則事項』な品だ。」よくわからないです。「とりあえず救急車呼ぶぞ。」「いや、大丈夫だ。1人でなんとかする。呼ばなくていい。」「だが断る。」俺は救急車を呼び、そいつを殴って気絶させ、病院送りにした。そういえば、何であいつ怪我してたんだろうな。どうでもいっか。家に帰り、御守りを開けた。罰当たり?知るか。これが御守りなワケない。中には基盤みたいな物が入っていた。どうやら携帯のminiSDにぴったりなので、入れてみた。当然、使用出来なかった。 翌々日谷口は学校に来なかった。ハルヒは何事もないかのように普通だった。放課後古泉が、「谷口君は精神状態が昔から不安定だったそうです。」などと言っていた。ハルヒは、「そうなの?今まで気付かなかったわ。」と素っ気なかった。 今日は全員で帰る。ハルヒは先頭で朝比奈さんと談笑。長門はその脇で黙々と歩く。俺と古泉はその後ろだ。不意に古泉が耳打ちする。「現在、谷口君は機関で預かってます。会いに行きますか?」「いや、いい。」今はまだ適切ではない。事が収まってからの方が良いかも知れん。「そうですか。」「そういえばナイフはどうした?あの時は逆上して忘れてたが。」「それがですね………無くしました。」俺はてっきり機関で回収してるものだと思っていたので驚いた。「あの後丹念に探したのですが、見つかりませんでした。」「……ってことは?」「誰かが拾った可能性があります。」これ以上ハルヒのせいで死人が出るのも本当に申し訳ない。「急げ古泉。機関を総動員させろ。」「言われなくともやってます。あなたこそ、彼女を落ち着かせる行動をとって頂ければいいのですがね。」古泉は軽蔑と呆れが混じった目つきで睨んできた。そんな目で見るな。 一週間後ハルヒはめっきり大人しくなった。俺はもう安心だろうと思う。古泉も「最近の死亡者の中に、例のナイフ関連の被害者はいませんでした。」と言っていた。そういえば、古泉がかなりやつれていたけど、どうしたんだろうね。ハルヒは呪いのナイフなんか忘れてる。いや、もしかしたら谷口の一件で、ナイフ恐怖症になったのかも知れない。実に愉快。谷口には感謝しなくてはいけないな。しかし、まだ谷口は学校に来ていない。そろそろ会いに行きますか。鼻歌混じりで帰る自分に気付き、かなり恥ずかしかった。 翌日終わった。母さん、俺は今日が人生ラストデーになるかも知れません。いままで有難う。朝、げた箱に手紙が入っていた。生憎、俺は手紙と相性が悪く、高校に入り手紙で良い思いをした事は無い。内容は、『午後5時あなたの教室で待ちます。』だとさ。 綺麗な文字だというより、はっきりとした読みやすい文字だった。達筆には変わりない。どこかで見た字体。行くべきか、行かぬべきか。少し悩む。教室に入り、自分の席に着くと既にハルヒがいたので挨拶をした。「よう。」ハルヒは外を見たままだった。思わず目の前で手をひらつかせた。「あら、いたの?」「どうした。不眠症で朝ボケか?」「あぁー今日ねー、部活、休みね。」「悩み事でもあるのか?あるなら言ってもいいんだぞ。」「まーそのうち言うんじゃない?」ハルヒは一日中こんな感じだった。放課後部室に行くと長門がいた。「今日は部活無しだとよ。」「知っている。」「じゃあ、何でいるんだ?」「あなたは?」「俺か………ヤボ用だ。」「……わたしもヤボ用。彼女も。」「彼女?」「キョン君。」「朝比奈さん……」朝比奈さんはいつもと様子が違っていた。何故かは知らんが、俺は少し恐怖を感じる。 「これからこの世界の左右を分ける大きな別れ道が生じます。キョン君なら既に分かっているかもしれません。」俺の死神が笑っているらしいな。もうすぐ魂が手に入ると。「どうでしょう?涼宮さんを制御出来るのはキョン君だけです。これまで未来の固定化が出来たのもキョン君のおかげです。」「だけど、俺の死は規定事項なんですよね。」朝比奈さんは一瞬、意を突かれた表情になるが、直ぐに首をふるふると振った。「それが規定事項であろうが無かろうが『鍵』であるキョン君は『扉』である涼宮さんの開閉が出来ます。つまり涼宮さんをコントロール出来るのは、キョン君だけなの。悪く言えば、キョン君はこの世界の支配者です。動かして下さい。未来を在るべき姿へ。わたしは一時的に未来に避難します。次に会う時は、あなたと涼宮さんが作った未来の朝比奈みくるです。規定事項なんて夢幻に過ぎないの。それだけ未来が在るから。本来なら未来人が現代人に関わるべきではなかった。知らなければ良かったの。全て。」朝比奈さんは言い尽くしたようにふぅっと息を吐く。 「そろそろ時間です。行って下さい。」逃げちゃだめ?「ここで逃げでも、必ずその時は来る。逃避不可能。あなたに賭ける。」「長門……分かった頑張って行ってくる。」俺は教室へ向かう。決着をつける為に。着いた。携帯を見ると時間ピッタシだった。俺はゆっくりとドアを開ける。「遅い。罰金ね。」夕日がそいつを明るく照らし、俺は冷や汗を流す。手元にはナイフ。全てはシナリオ通りという事か。「どうしたの?そんなに恐い顔して。」それはお互い様だろお前だって顔が強張ってるぞ。せっかくの笑顔が台無しだな……「そうね…」偽りの笑顔が解け、うつむく。かなり可愛い顔だが、俺は気にくわん。ハルヒらしくない。俺はお前の笑顔が……あれ?何言ってんだ俺。「今から独り言を言うわ。軽く聞きなさい。」「どうぞ、お気に召すままに。」「前に言ったでしょ。信頼出来る人を殺すのはどんな気持ちかって。やっぱり苦しいよ。そんな気持ち。殺るよりなら自分がやられた方がマシ。 でも………もう遅い。だから逃げて!!」「ふざけんな。独り言だろ。俺に振るな。」「ふざけてるのはどっちよ!!あんた死にたいの!?」死にたい訳ない。「じゃあ早く逃げなさいよ!!」「だが断る。」「なんで………なんでなのよ。」ハルヒの目が潤んでいるのが分かる。今にも溢れそうだ。まぁこいつの気持ちが分からんでもないが、俺はここで逃げ出す訳にもいかない。「この俺が最も好きな事のひとつは、自分が強いと思っている奴に「NO」と断ってやる事だ。それに、前に言ったろ、好きな奴の隣で死ねるなら幸せ者だって。」「……っバカ!!」ハルヒが走って来る。ナイフを持ちながら、俺の心臓めがけ。 避けきれない。死を覚悟した。人間は死を覚悟したり、極限状態に陥ると、スローモーションに世界が見えるという話は本当である。反射的に携帯を持った手が動く。ナイフは俺の携帯とキーホルダーに当たる。しかし、ハルヒの力は思いの外強く、携帯は弾かれる。今度こそ終わりだ。「ごふっ……うぐぅぅ。」鈍い音と共にうめき声が聴こえる。俺じゃない。俺はここに立っている。ってことはハルヒしかいない。ハルヒは目の前でうずくまっている。「な、長門!?」無情な瞳が俺を見る。「何故この様な事を?」ナイフが手に刺さってるぞ。「質問に答えて欲しい。あなたは私の助けがなかったら約98.801%の確率で死亡していた。あなたは逃げるべきだった。逃げていたらあなたの死亡していた確率は、約23.333%」逃げても意外と高い。某野球ゲームでは、危険域である。 「あなた達有機生命体は生への執着が異常に強い。だが、あなたは逃げなかった。何故?」心のどっかで分かってたような気がした。もしかしたら助かるのかもしれない。いつものようにお前が来て助けてくれると思ってたのかもしれん。「それは?」無表情が少し緩む気がした。「信用?」「……信頼かな。」「どう違うの?」「さぁ、どう違うんだろうか。」「………あまり頼らない方が良い。わたしは、常にあなたの期待には添えれない。」「そうだな。俺は今まで長門に甘えすぎた。感謝しなきゃな。なんか礼でもするよ。」長門は手に刺さったナイフを抜き、血が流れる手をもう片方の手で抑える。「……それなら今度、晩御飯を御馳走して欲しい。」長門にしては、何と人間くさい言葉だろうと、驚いた。「いいのか?そんなもんで。」「いい。」「そうか。」「そう。」 ハルヒはすやすやと眠って(気絶して?)いた。「わたしの拳からナノマシンを注入した。暫くは起きない。」これは酷い。「これで全て終わったのか?」「根本的な解決には至ってない。」長門は俺がこの言葉を発することを知っていたかのように即答した。「今からあなたと涼宮ハルヒの脳波を利用し、精神を同期させ、仮想現実空間でのメンタルケアを行う。」言ってることがよく分からないのですが。長門はしばらく黙り、ふと思いついたような目つきで俺を見直した。「夢。あなたは彼女の夢に入る。そこであなたは彼女の精神を安定させる。」 つまり、俺がハルヒの精神科医になるという話らしい。「事態は一刻を争う。現在彼女は錯乱状態。瞬時に時空間を改変してもおかしくない状況。今すぐ行って欲しい。」俺にそんなテレパシー能力が有るはず無い。「出来る。あなたは手段を持っている。」どこに?「携帯電話。」はっとした。もしかしたら、あの未来人が渡した変な基盤じゃないか?俺は急いでそれを取り出す。「そう。それはあなた達有機生命体が将来、意思疎通をするための基本理念。それを利用する。」よく分からないから早くやってくれ。「ひとつ注意する。今回は、あなたの脳波を彼女に送る。それは彼女の脳に伝わるり、仮想現実空間へ入るが。あなたは閉鎖空間のように感じるが、危険性が極めて高い。そこは、彼女の願望が暴走する場所。そこは、涼宮ハルヒの思念を反映し易い状況である。 もし、そこであなたが閉じ込められたり、死亡すると、あなたの精神自体が幽閉、もしくは、死亡する。タイムリミットは通常約2時間。しかし、ナノマシンの効果で3時間の延長が可能。それを過ぎたら、私が直接抑えるが長続きはしない。せいぜい、30分程度。」何やら相当危険そうだ。俺が困惑していると、「大丈夫。頃合を見計らってわたしも行く。」「分かった。じゃあ行こうか。」俺は基盤を長門に渡したら、長門は拳を握り、「あなたにも眠ってもらう。」なんですと!?なんでいつもの咬むタイプにしないの?「その方が効果的と聞いた。」誰だよ。「古泉一樹。」 次会ったら必ず殺す。「彼から伝言を預k」「要らない。」「だが断る。『あなた達の体は僕が責任を持って預かります。ぼ く が。』」次の瞬間。長門の拳が飛んでくる。「ちょ、おまっ………アッー!!」腹に痛みが走り、薄れゆく意識の中で走馬灯が駆ける事は一切なく、ふと思う。ナノマシンじゃない。コークスクリューだ。
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