涼宮ハルヒの夢幻 第二章
第二章 俺の安らかな眠りを妨げる者は誰だ。目覚まし時計が朝を告げる音を軽やかに鳴らす。朝特有の倦怠感と思考の低下は、俺の1日の始まりである。不機嫌な状態で居間へ下り、テレビを観てハッとする。「8:45」あれれー?急いで洗顔を済ませ、歯を磨き、着替えて愛車にまたがる。今日は朝飯抜きだ。「待て。」「あ?」振り返ると1人の男がいた。俺の全神経が集中する。この自嘲的な笑みが憎たらしい。こいつはいつぞやの俺と朝比奈さんの邪魔をした未来人っぽい奴。「生憎、俺は男に興味は無いのだが。」「忠告しに来ただけだ。死にたくないなら、今日は行くな。」「お前を信用出来ない。お前は俺の敵だろ。」「知るか。俺の敵は朝比奈みくるだ。」「朝比奈さんは、俺の見方だ。その敵は俺の敵でもある。」「まあいいさ。規定事項で近日中にお前は死ぬことになっている。」 ますます嫌な事言うな。「俺はその規定事項を破る為に来た。お前の存在が与える影響は大きい。お前は未来にとって必要な鍵だ。失うわけにはいかない。信じる信じないはお前の勝手。俺は勝手に動く。」そう言ってあいつは俺に背を向け、どこかへ消えた。 駅前に到着する頃には、当に9時を過ぎていた。「あんた、遅れたら死刑だって知ってる?」ニゲタイ。デモ、ニゲラレナイ。目の前の鬼は、表面上は笑顔を取り繕っているが、体から放つオーラが半端じゃない。「さぁ今日は沢山食べるわよ~♪」あぁ、不況が続く。古泉が小声で話し掛けてくる。顔が近い。「長門さんに頼んで、今日はあなたと涼宮さんを離します。事態が収まるまで続けますよ。」いつ終わるんだよ。一生はないよな。「大丈夫。人の記憶は短いですよ。彼女も直ぐ忘るはずです。」 その後ハルヒは、飯まで食いやがった。俺の金で。 「いいじゃない。あんたも食べてるし、遅刻した罰よ。」それは目覚ましの………もういい。悲しくなる。さて、くじ引きの時だ。古泉によれば、長門の力で俺とハルヒを離すらしいが……「では、僕から。」古泉はそう言いながらくじを引く。「印付きです。」「………」無言で長門が引く「印付き。」そう言い終えると飲みかけのサイダーを音も無く吸い出す。「次はあたしね♪」ハルヒが引く「印無しよ。」「じゃあ、次は私が。」朝比奈さんが引く。くじを前に悩む顔が可愛らしい。何引いたって結果は同じさ。「印付きです。」朝比奈さんは柔和な顔で俺にくじを見せた。とても和みmあれ?今回はハルヒと一緒。確か俺はハルヒ以外と組むはずなのでは?古泉を見ると口をあんぐりさせ、長門の方を見ている。一方、長門はといえば無表情のままだが、どこか情緒不安定に……見えないな。 「さぁ!!行きましょう。」太陽も引っ込むような笑顔で、ハルヒは俺の手を引っ張り、外へ出ようとする。その姿はまるで、クリスマスイブにプレゼントを買って貰えるとはしゃぐ、子供のようだった。俺は金が少ない。会計は古泉に任せてとんずらする事にしよう。外へ出た俺とハルヒだが、特に行く所も無く、「何処行くか?」「ん~あんたの好きな所でいいわ。」「じゃあ、ゲーセンでも行くか。」ハルヒしばらく考えた後「いいとこ目つけたわね。そういう場所には宇宙人とかがいるのは定番だし。」どこが定番なんだろうか。やけに上機嫌なハルヒはドカドカと道を歩み出した。どうでも良いが、街のど真ん中で鼻歌は止めてくれ。一緒にいる俺まで恥ずかしい。すると、急に俺の携帯が鳴りだす。古泉からのメールだった内容は…『先ほどはよくも、逃げて頂きましたね。代償は大きいですよ。ところで本題ですが、詳しい話は後ほどにでも現在はお2人を後ろから監視してます。何かあったら直ぐに駆けつけますので御安心をP.S良いデートを。ただし、密室は避けること。』 なにが『良いデートを』だ。殴ってやりたいね。いや、殴ってやる。 まぁ密室は避けるべきだな。俺の命に関わってる事だし。だいたいこんな事になったのもハルヒの妄想電波のせいであり……「何してるの?早くついてきなさいよ!」やれやれ、死のカウントダウンが始まったようだ。助けてくれ親愛なる仲間たちよ。十分後、近くのゲーセンに着いた。ハルヒは真っ先に近くのゲームをし始める。ふと、俺の携帯が呼び出しをしていることに気づく。長門からだった。「長門か?」「トイレで待つ。」俺は曖昧な返事をして電話を切り、トイレへ向かう。ハルヒに言う必要はない。トイレの前に古泉はいた。嫌な予感がする。にやけ面が口を開く。「どうも。」「説明してもらおうか。」「それはですね…」一呼吸おき、「や ら n」「古泉。お前が泣くまでッ殴るのを止めないッ。」「何もそこまで……アッー!!」 トイレの中で古泉を張り付けにした後トイレの外で長門と朝比奈さんに会う。 「あれ?古泉くんは何処ですか…?」今頃トイレでキリストになってますよ「きりすと?」首を傾げて朝比奈さんは言った。今更だが、朝比奈さんの知識は俺達とかなり異なるみたいだ。だがしかし、未来人として、歴史を知るという事は重要ではないのか?これがゆとりの力だろう。「簡単に言ったら救世主ですね。確か一度死んで復活したとかしないとか。」「宗教的ですねぇ。」宗教ですからね…「説明する。」キリストならもう俺が話したが?「そちらの方をして欲しい?なら、説明する。彼が何故救世主と崇められたのは、彼の弟子のユダの裏切りにより…」「もう結構です。」「……そう。」「要点だけ言ってくれる?」キリストの話じゃないぞ「結論から言う。私の力が働かなかった。」「どういう事だ?」長門の力が働かない?急進派の陰謀で俺を殺すためとか?妨害電波の発生か?四次元ポケットの故障か? 「どれも違う。これは涼宮ハルヒが求めたからである。彼女の力が私の力を上回っただけの事。」ハルヒが望んだ?「そうです。彼女がそう望んだのです。羨ましいですね。私もあなたと一緒にいt……ぎゃあ。」古泉。てめぇ、いつ抜け出しやがった?「あ、あああ朝比奈さんに助けて頂きました。」「ふぇ…いけませんでしたか?」そんな事御座いません。あなたの決定は俺にとって絶対ですからね。「で、俺はどうすれば良い。」「………特に無い。」「ただし、付かず離れずを保って下さい。」付かず離れず?「涼宮さんの興味をあなたに引きすぎてもダメ、逆も同じです。」どうして?「つくづくあなたは鈍感ですね。本当は気づいているのでは?」古泉の溜め息が響く。「………のろま。」長門まで何を。しかし、まっったく解らん。「乙女心ですよっ。男のキョン君には、解らないんですね♪」 男の古泉が乙女心を知っているのが不思議なのだが。朝比奈さん…そんなに嬉しそうに言わないで下さいよ。馬鹿って言われてる気分です。「これ。」長門は小型のチップを手渡した。「発信機。見失っても安心。」「では、これで。」3人は俺に会釈(長門は一瞥)をして出て行った。何故かは知らんが「のろま」という言葉だけ俺の耳に残る。俺は亀ではない。渋々ハルヒの所に戻るさて、ハルヒは何か景品を取ったらしく、「これ、要らないからあんたに一個あげるわ。携帯にでもつけなさい」俺はハルヒからツキノワグマのぶーさんのキーホルダーを貰った。「変な趣味だな」「う、うっさいわね。嫌なら返してよねっ。」ハルヒから不機嫌オーラが出てくる。ここは、受け取るべきだな。「いや、有り難く頂きますよ団長さん。」「そっ…それならいいのよ。初めから欲しいって言えこのバカ!!」 ハルヒは怒ったような、悲しいような、だけど嬉しそうな…とにかく、滅茶苦茶な表情をしていた。本当、何が言いたいのかね。「さぁ、次やるわよ!」ハルヒはいつもの表情に戻るや否やクレーンゲームに興味を示した。まぁその辺の詳しい事は割愛させて頂く。ハルヒはまたぶーさん人形をゲットし、他のアーケードゲームに興味を示す。勿論、俺も参加する。まぁ、その辺はどうでもいい。問題はその後だった。とりあえず、長門達が見つかった。ハルヒが「プリクラを撮るわよ!」とか言って中に入ろうとしたからだ。普通、誰か居るの確認するだろ。その後古泉が、「おや?奇遇ですね」などと抜かし、すたこらどっかに消えて行った。「やっぱりね。」何が「やっぱりね。」なんだ?「今までずっとつけられてたのよ。気づかなかった?」生憎、俺には気を探る能力や、どこぞの宇宙人が持つスカウターは持っていないからな。「今までの全部見られてたのよ!!恥ずかしいったらありゃしない!!」「おお、キョンと涼宮じゃないか。」谷口がいた。変な奴に見つかったな。「遂に2人でデートか?アツアツだねー。」「な、何よ。冷やかしに来たの?」 ハルヒは頬を赤らめた。俺だって恥ずかしい。「あら、その手に持っているの何?」「あぁこれか。早急拾った………なぁ。」「どうしたんだよ。」谷口は俯きながら何か躊躇するような姿勢をとる。「俺ら友達だよな。」「は?当たり前だ。」「涼宮は?」「一応一緒のクラスだし、友達でもいいんじゃない?何なら下僕にしてあげてもいいのよ。」ハルヒはニヤリと小悪魔みたいに微笑む。「ハハハ…お前らしいや。ホント良かったよ。お前らが仲間で。」「お前何言ってるんだ?悩み事ならh……!!?危ねぇ!!避けろハルヒ!!」谷口の手が光る。あれはナイフだ。それがハルヒに向けられる。「……え!?」間に合え!!俺はハルヒからぶーさん人形を引ったくり、ハルヒを突き飛ばす。そしてそれを谷口へ向ける。ナイフはぶーさん人形に突き刺さった。「谷口ィィィ!!!てめぇ……よくもッ!!」 俺は吹っ切れた。渾身の力で谷口へ殴りかかる。その手を誰かが止める。古泉がいた。「いけません。」止めるな。こいつはハルヒを………俺は必死に足掻く。「彼を見て下さい。もう何も出来ません。」谷口は自分の手を見て目を疑っていた。「AWAWAWA……俺……何してんだ?何で……何でこんな事を………ゴメン………ゴメン。」「落ち着いて下さい。さぁ、ここは人目につきます。外へ。」横で呆然としていたハルヒを抱え、外へ出る。その後ハルヒはぐったりとしていたが直ぐに眠りに落ちた。古泉が誰かに電話をしている。どうせ機関の誰かだろう。程なくして車が来る。森さんだった。古泉は谷口を車に乗せる。「わたしも行く。」長門も車に乗り込み、車は発車する。「何で警察じゃないんだ?」谷口は立派な殺人未遂犯である。警察に突き出すのが当たり前だ。「気付きません?」「……ナイフ。」朝比奈さんが感づいたように呟く。 「まさか谷口……」その先は言えなかった。悲しすぎた。言うに耐えなかった。「ええ、ご想像の通りでしょう。」また車が来た。今度は新川さん。「涼宮さんとどうぞ。家まで付き添ってあげて下さい。」ハルヒを抱え、車に乗る。「古泉。」「何でしょうか。」「お前の力凄いな。俺の本気が簡単に止められたのは初めてだ。」「ふっ、知ってますか?オカマやゲイが強いのは定番なんですよ。」不思議な名言を残し、古泉と朝比奈さんは手を振る。「宜しいですかな?」「お願いします。新川さん。」車は発車する。「キョン……」起きたかハルヒ。「うん……助けてくれてありがと。」ハルヒはまだ朦朧としている。「大丈夫だ。俺がついている。」ハルヒは急に瞼を全開にして、赤くなる。「そ、それって…」「何たって俺はSOS団の雑用係だからな。」ハルヒは機嫌を損ねたようで、俺のふくらはぎをつねる。 俺何か悪い事言った?「目覚めたなら頭どけてくれるか?膝枕は意外に疲れるんだ。」「……バカキョン。」すると、俺の頬に生暖かい物体が触れた。ミラーに写る新川さんがにやけていた。「………お礼よ。」「………そっか。」あ、自転車忘れた。
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