A Jewel Snow (ハルヒVer)前編
高校生活が始まってからは時間が経つのが早くなった気がする。きっと今が楽しいからね。あたしがキョンの言葉をヒントにしてSOS団を作って結構経つけど、未だに宇宙人とか未来人とか超能力者は見つからない。まだまだ挑戦することは残ってるわ!そんな思いとは別に月日は流れて今はもう2年の12月。今年は学校側の都合だか何だかで休みに入るのが早いらしい。その分終わるのも早いので一部の生徒はがっかりしてたみたいね。あたしにはあまり関係ないけど。休みの間もSOS団の活動はもちろん継続よ!絶対不思議を見つけるんだから!「そう言うならハルヒ、土曜の不思議探索だけすればいいじゃないか」何言ってるの!団員皆の団結は普段の活動無くしては得られないわ!「はぁ…普段の活動にそんな効力があるとは知らなかったな…」いいから!明日も朝10時に部室集合よ!「へいへい…」いつもの帰宅道、こんな会話をしてこの日は皆と別れた。明日も同じ一日がやってくると無意識に信じながら…。
「A Jewel Snow」
朝、目覚ましの音で眠りから覚めたあたしは11月の終わり頃から感じ始めた寒さに少しだけ震え、手早く身支度を終わらせて学校に向かった。確かにキョンの言う事にも一理あるわ…普段の活動にもマンネリ感が出てきたし…あのバカでもSOS団としての自覚はあるみたいね。何かまた面白い事が起きないものかしら…。自分の中で思いつく面白い出来事を想像していたら学校に着いた。それにしても寒いわね…部室に着いたらみくるちゃんにお茶をもらうことにしましょ。いつものあったかいお茶の味が頭に浮かんでくると、不思議と足早になっていた。ドアを勢い良く開けて部室に入る。今居るのは…有希とみくるちゃんと古泉くんね。おっはよー!みくるちゃーん!お茶!「は、はぁい。ちょっと待ってくださいぃ」う~ん!いつも通り萌えキャラしてるわね。「涼宮さん、おはようございます」あら!いつも通りのスマイルね。有希は…と。少しだけこっちをみて頷いた…ような気がする。この子に限っては声を聞かない日もあるんじゃないかしら。またキョンは寝坊してるのかしら。まったく、今から電話かけて起こさなきゃ。携帯のメモリからキョンの番号を検索し、コールする。しかし、30秒くらい待っても電話には誰も出なかった。これは本格的に寝てるわね…。部室に来たら何か奢らせようかしら。まったく、ヒラ団員が団長より遅いなんてあり得ないわ!10分くらい経ったと思う。再びキョンに電話をかける。やっぱり出ない。もしかして携帯をどこかに置いて部屋で寝てるとか?SOS団の恥よ!恥!「あの…涼宮さん。キョン君だって寒くて寝ていたいのかもしれませんしぃ」みくるちゃんは黙ってて!「は!はいぃ…」仕方ないので11時までパソコンを点けて適当に遊び、再び電話をかけた。いくらなんでもこの時間で寝てるって事は無いでしょ…。しかし、そんな期待も虚しく電話はただ同じ音でコールを続けるだけだった。まさか、本当に何かあったんじゃないでしょうね…。何か胸騒ぎがする…。仕方ないわね、今日の活動が終わったら皆でキョンの家に行きましょ!あのバカに渇入れてやんなきゃ!「わかりました」古泉君は快く引き受ける。「そうですねぇ」みくるちゃんも賛成みたいね。有希はどう?と聞くと「…行く」と短く答えた。全員一致ね。あのバカ!とっちめてやるんだから!でも…なんだろう。今すぐ行かなきゃいけないような気がする。気のせいよね…あのバカはきっと今頃ぐーぐー寝息を立ててるんだわ!きっと徹夜でもして寝てるのよ!しかし、どんな事を思い浮かべても胸の内にある不安が消えることは無かった。むしろ、消そうとすればするほどはっきりと意識してしまう。11時半頃、ついにあたしはその場にいるのも落ち着かなくなった。でも解散した後って言った手前今からキョンの家に行くのも不自然よね…。何か理由つけてここを出たら一人で行こう。あ!あたし今日のお昼ご飯持ってくるの忘れちゃった!近くのコンビニで買ってくるから皆は適当になんかしてて!「わかりました。気をつけてくださいね」さっすが古泉君。気の利く台詞ね。「外は寒いですよぉ」そういえばみくるちゃんのそのメイド服ってあったかいのかしら。有希は少しだけこっちに顔を向けるとまた読書に戻った。相変わらずの無口キャラね。こうして学校を飛び出すように出ると、外の寒さを退けるために坂道を走って降り、降りきった頃には体がすっかり温まっていた。伊達に普段からランニングしているわけじゃないわ。学校を出て数十分程経ったのかしら。古泉君たちはそろそろ帰って来る頃だと思ってるかな。でも坂を下ったコンビニの弁当が好きって前に話したような気がするし、そんなに疑問に思わないでしょ。そう考えながら小走りを続けていたら、キョンの家が近づいてきた。この角を曲がればキョンの家が………
ある。キョンの家はいつも通りだ。何も変わっていない。ただいつもと違うのは家の前に黒い車が止まっていること。それに門の辺りに居るのは知らない人と…キョンの母親と妹ちゃんだ。何故そうしたのかはわからないけど、あたしは反射的に柱に隠れていた。あの人達の前に姿を表すのは何か気が引けたのだ。何故なら…キョンの母親も妹ちゃんも黒服を着ている。それに表情も沈んでいる。妹ちゃんは特にいつもと変わらず、沈んだ表情の母親を不思議そうに見ていた。車の持ち主を思われる男が話を始める。「しかし彼がこの年で逝ってしまうなんてなぁ…」いってしまう?何?「まだまだ若かったのに…キョ…君は…」男はそこまで言うと声を詰まらせた。それより今なんて言ったの?キョン?キョンって言った?「本当に残念です」そう言うとキョンの母親がハンカチを取り出した。そんなはずが無い…。あたしが突如訪れた混乱を精一杯鎮めようとしていると、キョンの母親と妹ちゃんが車に乗るのが見えた。間もなく車はエンジンをかけ、走り出した。あの感じ…どうみても誰かが死んだって感じだった。それにさっきの男が言っていた言葉。はっきりと聞き取れなかったけどキョンって言ってたように見えた。まさか…キョンが?気が付くとあたしは学校に向かって走り出していた。嘘よ!キョンが死んだなんて…そんなわけないじゃない!…そうだ!携帯!もし、キョンに何事も無ければ起きていないはずがない。母親と妹ちゃんが起きてたんだから。祈るような気持ちさえ込めて、キョンに電話をかける。10秒…20秒…30秒…残酷にもコールは鳴り続け、あたしが望んだ声を聞くことは無かった。バカ!早く電話に出なさいよ!いつだったかみたいに寝ぼけて電話に出て「あぁ?どうしたんだハルヒ」って言いなさいよ!しばらく待っても繋がるのは留守番電話サービスだけだった。電話に出ない…まさか本当にキョンが死んだの…?嘘でしょ?もしかしたら携帯を忘れて学校に行ったのかも知れない。どこかで行き違いになったのよ!きっとそうね!言いようの無い不安を掻き消すかのように自分に言い聞かせ、あたしは学校に向かった。
上り坂をずっと走り続けるのは正直あたしでもキツかった。でも今はそんなこと言ってる場合じゃない。ちょっとでも早くキョンに蹴りいれてやんないと気が済まないわ!やっと今日2度目の登校を終え、今日の朝以上の勢いで部室のドアを開ける。しかし、そこに居たのは朝と変わらないメンバーだけだった。「随分遅かったですね。涼宮さん」朝と同じスマイルのまま古泉君が言ってきた。ええ、中々気に入ったお弁当が無くて。結局お店で食べてきたわ。「そうですか。涼宮さんは直ぐ戻ってくるだろうと我々も食事を控えていたのですが、12時を過ぎてもお戻りにならなかったのでお先に失礼させていただきました」いいのよ!気にしないで!あたしが勝手に外でたわけだしね!「おかえりなさい。はい、お茶です」う~ん、気が利くわねみくるちゃん!「ふ、ふえぇ涼宮さん!離してください~!」表面的には朝と変わらないようにその日の活動を終えた。結局キョンは来なかったわねぇ。団長に断り無くサボるなんて死刑よ死刑!「涼宮さぁん。彼にだって休みたい時があるんですよきっと」何言ってるのよ、みくるちゃん!団長は絶対よ!…しかし内心ではみくるちゃんの言葉が刺さっていた。「彼にだって休みたい時がある」…あたしはそれだけ普段キョンが疲れるような事しているのかしら。確かにあいつは運動が得意ってキャラじゃないし、あたしの指導でやっと留年を免れるくらい頭が悪いから同じ活動をしてもより疲れるって言うのはあるかも知れないけどさ…。だからって、永久に休むなんて事が許されるわけ無いじゃない!「涼宮さん…どうしたんですかぁ?」我に返るとみくるちゃんがあたしの顔を覗き込んでいた。なんでもないわよ!キョンの罰ゲームを考えてただけ!「は、はぁ…」と気の抜けた返事が返ってくる。
その日の帰り道に何を話したのかほとんど覚えていない。ただ、キョンの家に行くのは中止にした。たまにはあのバカも休ませてあげないと!あたしがそう言うと皆は納得したようだ。何事も無く帰宅したけれど、昼前に受けた衝撃が未だに自分の中で響いていて、全然落ち着けなかった。晩御飯もいつもより美味しいと思えなかったし、シャワーを浴びてもさっぱりしなかった。きっとあまりの寒さにサボっただけよ…電話にも出ないのはムカつくけど…明日来たら少し緩めの罰ゲームにしてあげよう。こんな気分の時はさっさと寝たほうがいいわね…。目を閉じてしばらく経ち、あたしは長い一日を終えて眠りに付いた。
翌日も普段どおりの時間に起き、学校に向かった。今日はキョンだって来るわよね…。一日サボったら満足したでしょ…。部室のドアを勢い良く開き、部屋を見渡す。今日はまだ有希しか居なかった。おはよう!有希!有希は少しだけこちらに顔を向けると目を凝らしてやっと分かるくらいの動作で首を動かし、また読書に戻った。この子2年近くの間に何冊読んだのかしら…。ちょっと聞いてみよう。有希?今まで何冊くらい本を読んだ?「…けっこう」表情ひとつ変えることなく回答が来た。う~ん、もうちょっと愛想良くなるといいんだけどなぁ。でもそれでキョンがみくるちゃんを見る時の様な目線になったら問題だわ!あのバカ、女だったら誰でもいいんじゃないでしょうね…。しばらくしてみくるちゃんと古泉君が入ってきた。しかし、11時を過ぎてもキョンは来なかった。午前11時半頃になって、「涼宮さん、彼に電話をかけてみては?」と古泉君が言ってきた。そうね、寝坊してもこの時間まで寝てたら怠け者よ!携帯を取り出し、キョンの番号にかける。だが、今回も繋がるのは留守番電話サービスだけだった。「おかしいですねぇ。どこかに家族旅行にでも行かれたんでしょうか」古泉君は表情を崩さないまま両手を広げている。そうだよね…皆は知らないんだよね…キョンの家の前に黒い車があって…黒服を着た母親と妹ちゃんが出てきて、泣きながら車に乗っていったのを…。言うべきだろうか。でもキョンが死んだって決まったわけじゃない。いや、そう思いたくない。もしここで皆にあたしが見たことを伝えたら、もう変えられなくなる気がする。あたしは信じたい。キョンが死んだ訳無いって。今にもこのドアを開けて眠そうにしたキョンが入ってきて、「すまんハルヒ、寝坊しちまった」とかとぼけた事を言い出して、そしたらあたしは「このバカキョン!今まで何やってたのよ!」って言ってキョンに向かってそう怒り出す。そんな光景が思い浮かぶ。…どうしてこんな事考えるんだろう。今までキョンが遅刻した事なんて何度もある。去年の休みに活動した時も前日に谷口のバカ達と飲んだ挙句朝まで起きてて、翌日のSOS団の活動を丸一日サボった事もある。でも、今回はあの時と違う。あたしの中で生まれた不安がずっと体にのしかかってる。キョンが居ないだけでこんなに不安に思うなんて…あたしどうしたんだろう。
その日の活動も有希の本を閉じる音で終わりの合図を告げ、あたし達は帰路についた。「今日もキョン君来ませんでしたねぇ」さすがにみくるちゃんも心配らしい。「そうですね。今まで二日間も連絡しない事は無かったのですが…」古泉君も気にかけてるみたい。有希は相変わらず本を読みながら歩いてる。キョンのことどう思ってるのかしらこの子…。「今日こそはキョン君の家に行ってみましょうか?」と古泉君が提案してくる。あ…いや!いいわよ!もしかしたら今頃五月病かなんかにかかってるのかも知れないわ!あたしが皆を代表して蹴り入れてくるから!「そうですか、それではよろしくお願いします」「涼宮さぁん、あまり乱暴したら…」いいの!二日もサボったんだからこれくらい当然よ!「ふぇぇ…」みくるちゃんはキョンがあたしの飛び蹴りを受けるのが心配らしい。大丈夫!手加減するから!きっとそういう問題じゃないんだろうけど、みくるちゃんならこう言っておけば良いわよね。
そうして皆と別れ、あたしは今一人だ。今立っている場所があたしの家に向かう道とキョンの家に向かう道の分岐点になる。SOS団の皆に言った手前本来ならキョンの家に行かなきゃならない。それはわかってるの…でも…行きたくない。行くのが怖い…。もし玄関に「忌中」って掲げられていたら?玄関にキョンの遺影が飾ってあったら?そう思ったら足が進まなかった。まるで怖いものから逃げるようにあたしは自分の家に向かう道を走り出した。
自分の中で不安がどんどん大きくなっているのがわかる。キョンの事を考えながら食べていたご飯は味がわからなかったし、あったかいはずのシャワーが冷水のように感じられた。こんな気持ちになったのは今までの人生で一度も無い。キョン…本当にもう会えないの…?まだ話して無いこともたくさんあるのに…。キョンがいないなんて…つまんないじゃない…。まさかキョンが居ないだけでこんなに気分が沈みこむなんて思ってもいなかった。あいつは古泉君みたいに運動もできないし、頭も悪いし…有希みたいに器用なわけでも無いし…みくるちゃんみたいに目立ったキャラでも無い…でも、あたしの言った事を最初に理解してくれたし…色々あったけど最初からずっと居てくれた。それがこんな形で別れる事になるなんて…。嘘だって言ってよキョン…。今なら解る。あたしはキョンが好きなんだって。傍にいて欲しいって。…だからキョン、あなたに会いたい…。気が付くと涙が出ていた。ううっ…キョン…キョン………何度その名を呼んでもここは自分の部屋だ。彼が居るはずも無い。それでも彼の名を呼ばずにはいられなかった。ふと視界に携帯が入る。時間が遅いことも気にせず、あたしはキョンに電話をかけていた。早く出なさいよ…今なら好きだって言うから…お願いよぉ…だが、静寂の暗闇に鳴る電子音は止まなかった。―――キョンが来なくなってから今日で6日目。さすがにこれだけの間来ないと団員の間でも不安の色が浮かび始めていた。とは言っても表情でわかるのは古泉君とみくるちゃんだけなんだけど…。有希は相変わらず無表情だ。無口キャラでもここまで無関心になる事無いんじゃない?しかし、誰よりも元気がないのはあたし自身だ。精一杯努力してそれを悟られないように振舞ってはいる。毎日帰り道に「今日は我々がキョン君の家に行きましょう」って言う古泉君の案を様々な理由で断り、皆にはキョンの家が留守だったと説明していた。この日、とうとうあたしはいつもの時間に起きるのも嫌になり、活動を休もうかとさえ考えた。でも、休むって言ったら古泉君たちが勝手にキョンの家に行くかも知れない。そうしたらどうなるだろう。いままで誤魔化してたあたしが責められるかもなぁ…。皆にとってもキョンの存在は意味があるはずだもん。あたしがそれをどうにか言える訳は無い。重い足取りを引きずるように家を出て、学校に向かった。この坂道が辛い。と思ったのは初めての事だ。今日こそはキョンが来るはずだと願う気持ちと今日もキョンが来なかったらどうしようと言う不安が自分の中でぶつかりあう。実際に何かがぶつかってるわけでも無いのに、胸が痛かった。あたし…実はすごくキョンに頼っていたんだなぁ…。空に向かってそう呟いた。そうしたらまた涙が出てきた。キョンの…バカ…。その日の活動で何をしたかは覚えていない。部室に居てもキョンの事ばかり思い出していた。そういえば初めてここに連れて来た時に有希はもう居たのよね。それであたしがみくるちゃんを連れてきて…古泉君が転校してきて…、夏の合宿に行ったり、学園祭で演奏したり、キョンの貰って来たストーブを使って皆で温まったり…。やだ…どうしてこんな事今思い出すのよ…。帰ってからも気持ちは沈み続けたままで、涙を流しながら眠りについた。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。