甘えん坊モード
《甘えん坊モード》という言葉をご存じだろうか?知っていたらそいつは超能力者だ。何故ならそれは俺が今作った言葉だからな。これは俺と付き合っているハルヒがかかっている病気のような症状だ。ハルヒが望んだことなのか、それともハルヒが実は元々からこんな性格なのかは知らん。ただ、ときたま突然この状態に陥ることがあるのだ。大体二週に一、二回程これになる。その時のハルヒは、朝比奈さんを軽く超えるくらいにかわいい。俺としてはずっとその状態で居てくれと言いたいくらいだ。……ただ、疲れるわけだが。とりあえず、その時の様子でも伝えてみようか。まず、異常なまでに声が変わる。…とは言え、声自体が変わるわけではなく喋り方が変わるのだ。さらに、異常にスキンシップが多くなるな。ベタベタしすぎて暑苦しいくらいだ。簡単に言うと俺になついてくるシャミセンのような状態だ。そんなハルヒが今日、家に来ることになっている。果たして今日はどっちのハルヒなのだろうか……。「おじゃましま~す!」……ハルヒが来たみたいだな。まったく図々しいことにこいつは勝手に上がり込み、ドタバタと階段を上がって来ている。今日は普段のハルヒのようだな。少し残念ではあるが……。「キョ~ンっ!!会いたかったよぉ!」あぁ……、全然いつものハルヒじゃなかったな。今日は疲れそうだ……。「よう、ハルヒ。それより勝手に上がって来るなと何遍言ったらわかるんだ?お前は」「えへへへ、ごめんごめん!だってほら、キョンに早く会いたかったんだもん!」あぁ、かわいい奴め。だがここで俺が理性を失うわけにはいかん。「そうか。そりゃありがとよ」「なによそれ~。全然感情がこもってないわよぉ~」そう言うや否や、ハルヒは俺に抱き付いてきた。ちなみに今日はポカポカした小春日和で部屋の中まで暖かい。「やめろ、暑苦しい。そして胸が当たってるぞ。体を安売りするんじゃない」アヒル口を作り、不機嫌なのか嬉しいのかわからない表情で、俺にさらにキツく抱き付いてきた。「んっふっふ~、あ・て・て・ん・の!……それにキョンったら心配してくれてんの?大丈夫よ、キョン以外にはしないんだから!」こいつは完全に入り込んでるな。ある時の映画撮影や、閉鎖空間の中にいた時のようなテンションだ。……いや、それ以上のハイテンションかもしれん。「ねぇ、キョン。あたしに構ってよぉ……、つまんないじゃないのよぉ…」次はそんな甘い声で来ますか。そろそろ構ってやらないと泣き出すかもな。「わかったわかった。ほら、これでいいか?」俺はハルヒを抱き締めて少しだけキスをした。「んっ……。もっとぉ…もっとギュ~ってしてよぉ」「まったく、わがままな奴だな」まぁ、その《ギュ~》ってやつをしてやった。「えへへ~、キョン大好きっ!」どうもハルヒの口調が妹に似てきているが気にしないでおこう。「あぁ、俺も大好きだ。だから離れてくれ、暑いんだ」すでに俺は汗だくだ。「や~だっ!今日はずっとキョンとくっついて過ごすって決めたの。……これは団長命令よ!」考えられん、まだ14時を回った辺りだ。ハルヒが帰るのは大体19時過ぎ。あと5時間もくっついてたら間違いなく俺は塩をかけられたナメクジのように溶けるだろう。俺はハルヒにキスをした。さっきの短いキスとは真逆の異常なまでに長いキスを。「ん……んぅ……ぷはっ!苦しいよぉ、キョン…」「でも気持ちよかったろ?」「うん……」「何回でもしてやるから離してくれ。離さないならこれで今日はお終いだ」ハルヒは少し考えた後に、俺から渋々と離れた。「よしよし、聞き分けのいいお前はかわいいぞ」俺は頭を撫でてやった。もうあれだ、こどもと親の状態に近いな。「えへへへ、ありがと!」だから、抱き付くのはやめてくれよ……。そんな暴走ハルヒを止めるために、俺は《腕枕で昼寝作戦》を敢行した。暑いが仕方がない。このままでは体力の方が持たないからな。「いや!キョンともっと遊びたいのよぉ……」「いいか、ハルヒ。明日は外でデートだ。そのためには今日体力を使い切るわけにはいかないんだよ。ほら、腕枕してやるから寝ろ」「む~……あ、気持ちいいかも…」ハルヒは俺の腕の上ですぐに寝息をたて始めた。ハルヒが一番かわいいのは寝てる時なのかもしれん……なんてな。……ん?なんかムズムズするぞ?「っておい!何してやがる!」俺が目を覚まし、焦点を合わせるとハルヒが俺の顔を舐めていた。「あ、おはよ」そのあまりにも平然とした顔と声に俺は怒る気を無くしてしまった。「まったく……いきなり何してるんだ?」「ほら、キョンの寝顔がかわいくてさ……えへへへ」笑って誤魔化せると思ってるのか?……いや、誤魔化されるんだが。「だからって俺の上に乗っかりながらすることはないだろう?」「だって……キョンと触れ合いたかったんだもん」しかし、この体勢はヤバい。俺の言うことを聞かない下半身が特にな。「あ……キョンのエッチぃ……」どうやらハルヒの体に触れたようだ。この展開は……マズい。話題を変えねば。「そ、それよりかなり暗くなってるんだが今何時だ?」「21時よ。キョンのお母さん達は泊まりで出かけて来るからゆっくりしていきなさいって……」俺は部屋を出て、家中を見てまわった。なんてこった。今、この家の中には俺とハルヒしかいない。しかもゆっくりしていけって事は泊まらせる気満々だな、うちの親は。「キョ~ン~…一人にしないでよぉ……」ハルヒが俺にすがりつくようにシャツを引っ張っていた。甘えん坊なだけじゃなくて、寂しがりにもなるのは新発見だぜ。「あ~、悪かった。ほら、早く部屋に戻ろうぜ」部屋に戻ってもやることは無く、グダグダしているとまたハルヒが甘えてきた。「ね、キョン。キスしてよぉ」「ん?……寝る前にたくさんしただろ」もう、とっくに見慣れたアヒル口を作りながらハルヒは話を続けた。「約束が違うぅ……ねぇ、何回でもしてやるって言ったじゃない」俺はしょうがなくキスをしてやった。今日の最初にやったキスのように、短いキス。「これでいいか?」「違うわ…こうするの!」今度は俺がキスされた。しかも、メチャクチャ長い。息が苦しいし、胸を押しつけられまくるし、舌もメチャクチャ絡めて来やがる。ヤバい、理性が限界メーターを振り切った。「ふぅ。えへへへ…わかった?」「つまり、襲っていいってことだな。任せろ」「え?ちょ……キョン、違っ…もうエッチなんだから……」あぁ、明日の外でのデートは昼以降になるだろうな…。その晩、お互い疲れて寝るまで行為に及んだ俺達。俺が先に起きて、昼食を用意していた。まぁ、昨日が《甘えん坊モード》の日だったから今日はゆっくりと出来るな。……などと考えてたのも束の間。俺がフライパンから出る熱と格闘していると、ハルヒが後ろから抱き付いてきた。「おはよ、キョン!」テンションがおかしい。元のとんでもない女のハルヒじゃない。……いや、今でも充分とんでもないが。「まだ甘え足りないから……ずっと離れないわよ!」やれやれ。心休まる日常は何処に行ったんだよ……。おわり
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