第2章-6 Thought to arrive
そういえば、さっき頭の中に浮かんだ映像で、箱を床に隠している場面があったな。俺は気になって、頭の中の映像を必死に思い出しながら、必死に部屋を探した。すると、2階の庭側にある一室、あの映像と同じ部屋を見つけることができた。正直怖いような気もする。でも、どうしてもやらなければいけないような気がしたんだ。
一見すると、何の変哲もない床。だが、映像で見たとおり、一部分だけ取り外すことができた。中には、思った通り詩織さんが納めていた箱が出てきた。箱を開けてみると、中には封筒が入っていて、宛名には如月健吾様、裏には詩織と書かれていた。 長門はさっさと帰ってしまうかと思ったのだが、帰らず近くにいてくれた。「長門、この宛名の人がどこにいるかわかるか?」「わかる」「迷惑をかけて悪いが、少し時間をくれないか?どうやら、この手紙を届けないといけないみたいだ」 長門はうなずき、黙って歩き始めたので、俺も黙って長門に着いていった。ちなみに不良3人は、外に放り出しておいた。もうあの洋館に近づくことはないだろう。
洋館から10分ほど歩いたところ、2階建て一軒家の前で長門は立ち止まり、家を見上げた。いつの間にか空は赤く、真っ赤な夕日が、地に沈もうとしている。「ここなのか?」長門が数ミリ顔を上下させてうなずく。 俺がチャイムを押したところ、25歳くらいで、なかなかの男前だが、悲しい目をしている男が家の中から出てきた。この人の顔に見覚えがある。年を取っているけど、洋館で見た映像の中で、泣いていた男の人だ。「誰ですか?」「健吾さんですよね。ちょっとお話があります。詩織さんってご存じですか?」「知っているが……、君たちは?」「ちょっとした知り合いです」 健吾さんは黙って考え込んだが、俺達を家に招き入れた。綺麗に整理された部屋で、この人の几帳面な性格がわかる。
いきなり訪ねて、何を言えばいいのかわからない。だいたい説明することは不可能だった。だから、黙って封筒を差し出したわけだが、健吾さんは驚いた顔した後、すぐに封筒の口を破り、紙を取りだして読み始め、そして、「うっ……」
声を漏らして泣き始めた。
健吾さんが落ち着いてから話を聞くとこういう事だった。健吾さんと詩織さんは北高の同級生で恋人だったらしい。それも将来を誓い合うほどの仲だった。 しかし、突然詩織さんから別れを切り出された。両親の仕事の都合で、海外に行くことになったからという理由だったらしい。健吾さんは、それでも追いかけて行くと言ったらしいが、どうしても詩織さんが納得せず、別れた。 だけど海外に行くって話は嘘で、本当は助からない病気にかかっていたらしい。そのことを知られないように別れを切り出した。詩織さんの両親から健吾さんに連絡があり、真実を知った健吾さんが病院にかけつけた時はすでに手遅れだった……。
手紙にはこう書かれていた。「如月健吾様 この手紙を読んでいる時、私はすでに死んでいるでしょう。 そう、おもーい病気なのです。どうやっても助からないとお医者様から言われてしまいました。 病気のことを聞いて一番最初に頭に浮かんだのは、あなたのことでした。 あなたに悲しい思いをさせたくない、そう思って嘘をつき、別れることにしました。 嘘をついて、本当に申し訳ないことをしたと思っています。ごめんなさい。 でも、これだけは知っておいて欲しい。私はあなたのことが本当に大好きです。できればずっと一緒にいたかった。
だけど、私は最後まで真実を言わないと決めています。あなたを苦しめたくないから。この手紙もあなたに届かないように、隠そうと思います。 誰かが見つけてくれて、あなたに届けてくれたのなら、あなたとの出会いはやっぱり運命だったのでしょう。 最後に、私のわがままを言わせてください。私のことは忘れて、素敵な恋人を見つけて幸せになってください。 あなたの幸せを空から見守っています」
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