おいしいご飯3
放課後。
掃除当番のハルヒより一足先に、部室に到着。
コンコン。
「………」
返事は無い。
ってことは…。
ガチャ。
「よう。長門」
「…」
「お前だけか」
無表情のまま俺の顔を見る。
相変わらず感情表現が独特だな。
机の上に鞄とクッキーの袋を置いて、椅子を引っ張り出し「よっこらせ」と座る。
「今日、朝倉に誘われたよ。…いいのか?」
「…いい」
コクッとうなずくと、本に目を落とした。
相変わらず分厚い本読んでるな。そっちの方が長門らしい。
することもなく足をぶらつかせながら長門を眺めていると、ドアがノックで震えた。
「はい」
俺が返事すると小泉と朝比奈さんが入ってくる。
「どうも」
「こんにちわぁ」
オイ、なんで2人が一緒なんだ?
「たまたま階段で一緒になりまして」
…お前がタイミング計ってるんじゃねえだろうな。
「とんでもない」
笑いながら手を振る。
「偶然ですよ」
そう言いながら鞄を机に置き、部室の外へ出て行く。
俺もそれに続き、部室を出てドアを閉めた。
朝比奈さんお着替えタイムだ。いつのまにか、SOS団で習慣化されている。
「最近の涼宮さんは落ち着いていますね」
「そうか?」
「ええ。それはもう」
「俺には実感が無いがな」
「我々『機関』は痛いほど実感していますよ」
「…まあ、入学当初のツンツンしたオーラは消えたような気がしないでもない」
「でしょう?中学生時代とは比べものにならないほど、安定した学生ライフです」
「その一方で俺たちの学生ライフは安定しないがな」
「それも仕方がないことです」
「ハア……」
窓の外を眺めながらそんな話をしていると、『どうぞ~』と朝比奈さんの舌足らずな声が聞こえた。
ドアを開けると、朝比奈さんが後ろに手を組み微笑んだ。
あ、天使がいる。
「えへへ」
もうメイド姿に恥じらいはないらしい。天使の微笑みを俺たちめがけて投げかけると、お茶の用意を始めた。
毎日見ているが、飽きないものだ。
俺が朝比奈さんのメイド姿を眺めていると、小泉がドミノゲームを取り出す。
「どうですか?」
「いいだろう」
やることなんてゲームくらいしかねえからな。
向き合って座り、サイコロをぶっ潰したような長方形を並べていく。
数分で勝負がついた。
「弱いな」
「いやあ。参りました」
こっちが参るよ。全然手応えがない。
「お茶どうぞぉ」
第二戦を興じていると、朝比奈さんがお茶を持ってきた。
「ありがとうございます」
丁寧に受け取り、一口。
……あれ?
おかしい。もう一口。
「…んん~」
…そんな…はずは…。
何故だ?
「……」
俺が深刻な顔でお茶を口へ運ぶ姿を不安に思ったか、朝比奈さんが不安そうにのぞき込む。
「ど、どうしたの?キョンくん」
「え?ああ、おいしいですよ」
「よかったぁ。すごく怖い顔してたから…」
「アハハ、すいません」
笑いながら、湯飲みを置く。
小泉と長門にお茶を配ってまわる朝比奈さんを見ながら、俺は冷や汗を流した。
朝比奈さんのお茶はおいしくなかった。
というより、不味かった。
否、あり得ないほどの不味さだった。
朝比奈さんのいれたお茶だからこそ「おいしい」と言ったが、そうでなけりゃ「こんなもん飲めるか」と吐き出してもおかしくない。それほど酷い味だった。
ん~……俺はうなりながら喉を鳴らし、お茶を眺めた。
後味で…口が…ヴ……ウエッ。
ガタッ!
たまらず立ち上がる。
「ふえっ!?」
「?」
3人が一斉に俺を見る。だが、そんなことお構い無いしだ。
俺は部室を飛び出し、トイレに走った。
続く。
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