冷雨はにべも無く感覚を奪う
―――私のいる座標付近に観察対象の接近を確認。遮視フィールドを展開。目の前を傘を分け合った彼と涼宮ハルヒが通り過ぎていく。雨が冷たい。体はすっかり冷え切って、雨にぬれた制服が重くのしかかった。私は何故こんなことをしているのだろうか。自分でも理解しがたい行動。エラー。視界から消えるまで二人を目で追う。本来なら傘で雨粒を遮り自分の体温の恒常を守るべきであるはずなのに、私の手は動かない。原因は不明。彼と彼女が通り過ぎるだけで遮視フィールドを展開する理由も、私には分からない。 ……自分の事なのに?私は逃げている。何から。分からない。エラー。冷たくなった指先。フィールドを解除。私は待つ。何を? 首筋を、滴が伝った。再び有機生命体の接近を確認。あれは―――朝比奈みくる。私は迷った。このまま姿を晒してしまおうか。晒して一体どうなるというのかは分からないけれど。しかし、柔らかそうなマフラーを身に付け、柔らかい髪を揺らしながら歩く彼女の前では、私の姿は滑稽にしか映らないだろう。―――遮視フィールドを展開。彼女が通り過ぎるのを待つ。雨粒が地面を、木々を、肌を打つ音。水溜りに波絞が現れては消える。色の濃さを増す雲。徐々に暗くなっていく視界。フィールドを解除。指先の感覚が消えていた。そして辺りがすっかり暗くなる頃。再び有機生命体の接近を確認。あれは……古泉一樹。どうしようか。私が他人の目を避けようとしようがしなかろうが、もはや私の滑稽さには変化しようがない気がする。辺りも暗く、気がつかないかもしれない。それは既に私にとってはどうでも良いことだった。そのまま、コンクリートの柱に寄り掛かって、空を仰ぐ。歩み寄る彼の気配。僅かに胸によぎった満足感は、一体何だったのだろう。
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