反英雄 第四章
蹴破った引き戸が板張りの床に直撃し、付属のガラスが網目状に割れた。 夕日が教室で佇む女の黒髪を照らし、不覚にも絵になると思ってしまった。 俺の物語も最終ステージだ。「こんにちわ。西野君」 朝倉涼子はマネキンみたく不気味に頬を歪ませる。 そして、その手に握られているのは夕日色に煌く刀身を持つサバイバルナイフ。 それを見て思わずほくそ笑んでしまったのはなぜだ?いや、そんなことは分かっている。 俺が笑っちまったのは虚勢でも発狂でもない。純粋に、目の前の女へ拳を叩き込める覚悟決まったからだ。 朝倉涼子は俺の命を奪う気に満ちている。俺を殺さなけれキョン殺害の障壁となる。 もちろんさせてたまるか。例え宇宙人が許しても、俺の魂が許さない。
朝倉涼子の物語は、ここで潰える。
「来いよ朝倉。それがお前の役割だろ」「あなたの役割でもあるわよ?」 ああ、その通りだよ。
上履きの踏み込みと共に、朝倉涼子のナイフが喉を掠める。「へっ。いきなり急所かよ。心無い人形野郎にしかできない芸当だな!」 しゃがみこみ、彼女の脇腹に右フックを叩く。だが朝倉涼子は苦痛に身をよじることなく、握り締めたグリップをこめかみにぶつけてきやがった。 脳みそが揺れ、世界が揺れた。 突発的な目眩で硬直した顔面に、上履きの底が吸い込まれる。 背中にイスと机が二・三個程直撃し、呼吸が止まる。なんつー脚力だ。痛ってえーな!「じゃあ、死んで」 心臓を抉るのが約束されていると錯覚できそうなくらいに、躊躇いの無い速度でナイフが迫る。 そうおめおめと命を取られてはたまらない。背中に回っていたイスの足を取り、切っ先を眼前で押さえた。「そうやって俺の母親も殺したのか?」 イスとナイフの奥で、朝倉涼子の瞳が鈍く煌く。「さぁ、どうだったかしら。あなたを殺せば思い出すかもよ?」 歪んでやがる。そう思ったが、殺人者に真っ向勝負挑んでいる俺も充分歪んでいる気がする。 さてどうしたもんか。いい加減腕も疲れてきたわけで、このまま押し合いではこちらの分が悪くなりそうだ。「押してだめなら、引いてみな!」 いきなりイスから手を離したことで、朝倉涼子は勢いを削がれ、前につんのめる。 予想以上に思惑が当たり、朝倉涼子をはめるまたとない機会が到来した。「うきゅう!」 突然に出来事に気が抜けそうな悲鳴が聞こえてきた。キレイな足払いが決まり、朝倉涼子は床に額をぶつける。「おっと。そいつを離しな」 瞬間、ナイフを握る腕を踏みつけ、初めて悲鳴らしい悲鳴が朝倉涼子の口から漏れた。 踏みつけた足に女では考えられない異常な力を感じるが、いかんせんうつ伏せでは引き剥がせそうも無い。 だが朝倉涼子はそれくらいで降参するタマじゃないこともわかっている。「うおっ!?」 空いていた手に握られていた小振りの投げナイフが空を飛ぶ。 切っ先が顔面を掠める。 狙いこそはやけくそ気味だろうが、驚き、一瞬だけ力を抜いたのは失敗だった。ナイフを握る朝倉涼子の手が俺の支配を逃れた瞬間、胃を歪ませる強烈な蹴りを繰り出す。 「おふぅ!」 その蹴りは口から嘔吐物が漏れそうなほどで、俺の腹を踏み台に、朝倉涼子は前転をして立ち上がった。 すると俺の喉を貫くように、背を向けたまま背面回し蹴りを繰り出した。
迫る靴底。
「うるぁぁぁ!」 息を吐き、朝倉涼子の回し蹴りに交差する前蹴りを放つ。 蹴りのリーチなら、身長差により男性である俺の方に軍配が上がる。 朝倉涼子の頬が歪む。 続けて、首を刈るように足の甲で喉を叩き、もう一度、朝倉涼子の背中に床埃を付ける。「おっしゃぁ!行くぜ行くぜ行くぜぇ!」 床に投げ出された両足を脇で挟み、「あぁぁぁぁぁぁぁ!」 足を踏ん張り、ぶん回す!ジャイアントスイングだ!「なぁっ!?」 そのまま黒板に叩きつけられるはずだった。だが朝倉涼子は空中で体勢を立て直し、黒板を足場に跳ね返った。 人外のカウンターにより、尋常じゃない重さの左ストレートが、俺の顔に叩きこまれる。「たぁっ!」 着地した瞬間、今度はローリングソバットが鼻っ柱に直撃し、俺の身体は無様なトリプルアクセルを踊った。 床に倒れ、その上クリティカルヒットにより鼻から血がドバドバと流れる。くっそ。ダセェな。 間髪入れずにローファーの尖った爪先が腹に突き刺さる。 胃液混じりの血が口から漏れ、激しい嘔吐感がこみ上がる。 吐いた血とゲロで、床から異臭が発生し、思わず鼻に手を覆う。「ガハッ!」 覆った手ごと、朝倉涼子の爪先が突き刺さる。 さらにもう一発と、腹めがけて足を振り絞る。 もう一度まともにくらったら、今度は内蔵が破れ、痛いで済まない事態になるのは明白だ。 鼻を覆っていた手を、目の前にあるゲロにつっこむ。 顔を狙ってゲロを払いのけた。すると朝倉涼子は顔をしかめて攻撃を中断し、それを回避した。 その間に痛む体を鞭打って立ち上がることができた。 口から漏れる呼吸が荒く、肩が小刻みに上下している。 だが、俺に対して朝倉涼子は呼吸こそ上がっている物の、相変わらず歪んだ微笑みを俺に向ける余裕が残っているようだ。「なめんなぁ!」 側にある机を蹴り飛ばす。「やけくそはかっこ悪いわよ」 朝倉涼子は容易に足で弾く。 だが、弾いた足とは反対側に踏み込み、ガラ空きの腹部にスネをぶつける。「バカじゃないの?私がそんな幼稚な作戦に引っかかる訳ないでしょ」 俺の蹴りが飛んでくることを呼んでいたのか、朝倉涼子は足を脇で挟む。「アハハハハ!これで終わりね!」 右手にある鈍く光るナイフが迫る。
「つーかまえたー」 ナイフの切っ先は俺の心臓をえぐることはなかった。 切っ先は左手の平を犠牲に防ぐことができ、貫かれた箇所から血が飛び散るだけだった。 ナイフから手を離して逃げられる前に、握っている柄ごと手を握り締める。 無傷な手の甲で朝倉涼子の顔面を払う。 うまい具合に指が目に当たり、彼女から苦痛の声が漏れた。 思わず離された足を、もう一度叩き込む。「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
気合と共に筋肉が脈動する。
手放すな。
すがりつけ。
叩き込め。
ブチかませ。
屠れ。
抉れ。
一秒だって余分な空気を吸わせない。ここで決めなければ終わる。 気合と共に吐き出される一撃一撃が、憎き殺人犯の気力を削っていく。
貫かれた左手を刀身から引き抜き、自由になった瞬間、小さく跳躍する。「うるぁぁぁぁぁぁ!」 こめかみに直撃したかかとが、朝倉涼子を踊らせた。 着地と同時に態勢を崩し、前につんのめるようにこけかけたが、全力で打ち込んだローリングソバットだ。これで立ち上がれられた本物の化物である。
だが、朝倉涼子は身体を揺さぶり、苦しげに立ち上がった。「もうやめとけ」 朝倉涼子をナイフを構えて襲いかかろうとするが、それはかなわず、泥酔しているOLのように床へ膝をつく。「脳みそが揺れるように蹴りを入れたんだ。まともに立つことすら辛いはずだ」 朝倉涼子が化物クラスの耐久力があることぐらいわかっていたからこそ、前後不覚になるような攻撃をした。 これでは彼女に殺す気があっても身体がついて行くわけが無い。「ま……まだよ!まだ終わらせない!」 泥酔中の子鹿が残る力を振り絞って立ち上がるように、朝倉涼子は声を上げて吠える。 その手に握られているのは鈍く煌くナイフ。「私は防衛プログラム朝倉涼子……あなたを破壊し、この世界を防衛することが任務。たとえここで倒れようとも、あなたを破壊してみせる!」 混濁する意識を振り切り、朝倉涼子は閃光の切っ先を構え、俺に最後の突進をかます。
「お前、死のうとしたな?」
刀身は俺の脇を掠め、虚しく空気を裂く。「教えてやるよ。死ぬ気で闘う奴は」 ナイフを抑え、間合いを詰め、眼前に迫っている朝倉涼子の額に狙いを定める。
「死ぬだけだっ!」
骨を伝って脳内に鈍い音が再生される。 朝倉涼子の額にコンクリートもブチ破れる自慢の頭突きがクリティカルヒットした。
そして彼女は床に膝を着き、朝倉涼子は物言わぬ人形のように機能を停止させた。
「ハァ……ハァ……ちくしょうバカやろう!痛ってぇよこんちくしょう!」 汚く品の無い罵声を吐き出し、俺も我慢の限界から床に大の字で寝転ぶ。「もう嫌だ!もう疲れた!もう二度とケンカなんかしねー!絶対だかんな!本当に本当だかんな!」 無意味にツンデレ口調でまくしたてる限り、頭の方はおかしくなってなさそうだが、体力は限界に近い。もう立ち上がらない。このまま朝までグッスリだ。このやろー。 胸ポケットからタバコを取り出し、天井を仰ぎながら火を灯す。「これでいいんだろ?後はお前の役目だ、キョン」 紫煙を吐き、顔も定かではない地味な級友の姿を思い浮かべる。 敵討ち。 自身の心に触れる。 プログラムの破壊。 俺がすべきことは全て終った。 もう俺が出る幕は無い。演目を終えた役者は舞台から退場するだけである。だからとっとと引きずりおろしてくれ。今の俺は鼻くそをほじる力も残ってねーんだよ。「……まだ仕事がある」 一年五組の扉が静かに開かれる。 現れた長門有希は陶器のように冷たい声を発して、寝転ぶ俺に歩みを進めた。「勘弁してくれ。今の俺は小学生とかけっこしたって負ける自信があるくらいに使い物にならんぜ?」 ほらな。こうやって立ち上がるだけでも億劫なんだからさ。「私は考えていた」 すると、いきなり始まった一人語りを急に止めた。
どうやらそれで終わりらしい。「……何を考えていたんだよ」 とりあえず続きを聞いてみた。「人間の心について。あなたは「こんな事、心無い人形なんかには分からないだろうが」と発言した。だから私は心について思考していた」 そんなこと言った気もするが、激昂のすぐ後だったから、あまり覚えていない。「それで、わかったのか?」 首を振り、否定の仕草をとる。「私には分からなかった。まず理解が出来ない。なぜなら私は……あなたたち人類とは規格その物が異なるヒューマノイドインターフェース。 思考しようにも、数字でしか答えを算出出来ない。あなたの言う心や魂と言った不確定因子の計算には対応していない」 当然である。自分の尻拭いのために他人の母親を利用するような合理主義者な長門有希に、人間の感情が理解できるわけがない。もしもできたら、四十ん億年の地球の歴史に失礼である。 だから俺はこう言った。「だろうな。そうやって自分を異物としか見れない奴なら、何億年生きようが理解できるかよ」 自分が他人とは違うなんて思ってる内は、相手を異物としてでしか見れない。相手を知りたきゃ、まずは相手の目線に立つようにならないとな。「……不可能。私は人間ではない。あなたの発言はただの」「願望だってか?そいつはどうかな」 長門有希はMなんとか星雲の遠い星々から進化の可能性を探しに来た宇宙人だ。だけど、「お前は宇宙人である以上に、SOS団っつー、宇宙一はっちゃけた軍団の一員だろ?あの団長の相手をしてりゃ、嫌でも人間らしく生活することになるぜ?」 俺はSOS団の涼宮ハルヒを知らないが、この世界での涼宮ハルヒなら、とても良く知っている。こっちとあっちが全くの別物なら話は違うが、そうとは思えない。「確かに今のお前は人形だ。だが、あいつと連んでりゃ、いつかは人間になれそうだ」 何てったってあいつは宇宙一人間らしい女だからな。「……そう」 短い肯定だった。「話を戻す。これを見て」 長門有希の小さな手に握られていたのは、拳銃に良く似た注射器であった。「なんだこれ?風邪薬か?」 どうせなら過労に効く強壮剤かなんかの方が良かった。「違う。これが私の答え」「答え?」「もうすぐ彼が改変世界の文芸部室に到達する。選択は彼に一存しているが、おそらく彼は脱出プログラムを起動する。それはこの改変世界を破棄し、全てを無かった事にすることと同義。それはあなたと私も例外ではない」 全てをぶっ壊すことになれば、せっかく向き合った俺の心も無かった事になるわけか。「ふざけんな」 無くした魂をやっと見つけたのに。「私はあなたを見て、結論を決定した。それがこれ。これはあなたの記憶を保護するバックアッププログラム。これをあなたに注射することで、あなたは改変世界で得た記録の全てを元の世界へと持ち越すことができる」 便利な道具だ。何でも有りだな。「私はこれから先の時空で情報統合思念体に、どのような処罰を下されるか不明。情報の削除も有り得る。ならば、この世界の記録を残すにはあなたにしか頼めない」 すると長門有希は床に突っ伏している朝倉涼子へと目を向けた。「……彼女は私のエゴによって強引に創造された。彼女まで削除するのは…………」「忍びない?」 首を縦に振る。 長門有希の瞳が、じっとこちらを見る。俺の答えを待っているのだろう。「さっきも言ったはずだ。ふざけんなってな」 答えならとっくに決まっている。「全てを無かった事にして元の世界に戻るなんてできるか。何回も死にかけたような苦い記録ばっかだが、忘れて幕を降ろさせるわけにはいかない」 現在を生きる俺に、未来なんか知ったこっちゃない。この世界が崩壊して俺の物語が潰えようと、残さなければならない物語だってある。
「俺のド頭は俺の物だ。誰にも壊させやしない」
その言葉を終えた瞬間、長門有希の握る短針銃が胸に突き刺さる。「んぐっ!」 風船から空気が漏れるような小さな音が聞こえた。やれやれ、いくつになっても注射だけは好きになれない。「処置完了。後は彼が脱出プログラムを起動させれば全てが終わる」「じゃあ、こいつが人生最後の喫煙になるかもな。じっくり堪能させてもらうよ」 深く息を吸い、肺に濁った煙を送って脳みそをリフレッシュさせる。「未成年者の喫煙は身体の成長を阻害させる」「喫煙してなくても身体の成長が芳しくない奴が言ってもなぁ……」 長門有希の薄い胸に眼をやる。ふむ、Bぐらいか。「……これは行動を阻害させないために脂肪を減らしただけ。朝比奈みくるのような乳房は邪魔。だから不必要。現に彼女の身体能力は著しく低い。巨大な乳房など百害あって一利なしの忌むべき物。羨望など全く感じていない。ステータス。希少価値」 どうやら巨乳に対しては並々ならぬ羨望を感じていらっしゃるようだ。「涼宮ハルヒ」「……あなたなんか嫌い」 プイッと拗ねた子供ように眼を背ける長門有希に、初めて人間臭さを感じた。自分では気付いてないだろうが、どうやら彼女は少しづつ人間に近付きつつあるように思えた。 だが、そんなことは口にしてはいけない。それは彼女自身が自分で気付くことであり、他者の、それこそ殆ど部外者である俺が言っていいことではない。 だから笑い噛み殺すことぐらいはさせてくれ。長門有希かわいいよ長門有希。「そうやってあなたは私をバカにする」「悪いな。性格が悪くて皮肉屋なのは生まれつきだ」 この性格のせいで何人の友達と距離を広げたか。治す気ないけど。つーか今さら不可能だ。
「西野太陽!」
マジで怒らせたかと思い、長門有希に謝罪するべく怒声をあげた彼女の方角を見た。
迫る閃光。
煌く刃。
美麗な黒髪を流し、朝倉涼子が鈍い光を灯したナイフを振り下ろす。
「な……」 鮮血が顔にかかる。
「長門ぉぉぉぉぉ!」 凶刃に倒れたのは長門有希だった。
「……な、長門さん?どうして?」 刺した本人である朝倉涼子ですら、放心して何も理解できていないようだ。 顔にかかる赤い血液だけが、異様に熱く感じる。それは朝倉涼子の手に滴る血液とて例外ではないはずだ。「バカやろう!」 朝倉涼子の肩を握り締め、背中の壁に叩きつける。「ふざけんじゃねぇよ!もう決着はついただろうが!?それをテメェは!」 あの一撃は本来なら俺が喰らうはずだった。それをさせなかったのは、長門有希が咄嗟に判断し、俺を救ったからだ。「朝倉ぁ!これがお前の望んだ物語か!?お前はこんなエンディングを見たかったのか!?」「違う……私は……私はこんな結末を望んだわけじゃ……」 壊れたからくり人形のように、朝倉涼子はうわ言を呟くのみだ。「あぁそうだろうな!そうじゃなきゃ殺人鬼になってまで長門のために闘ったりしねぇよ!だけど……結果はどうだ!?お前の暴力が、長門を……長門を殺したんだ!」 だから言ったんだ。犠牲の上に成り立つ世界なんか間違ってると。「俺もお前も長門も、誰も彼もが真っ直ぐだった。だからこうなったんだ。望む望まぬは別にしてな!」 創造主である自分自身が物語を幕を引くには、元凶である自分の死が必要と感じたのかもしれない。「……こ……これでいい」 呼吸は既に止まりかけている。だが、それでも長門有希は血塗れた床から立ち上がる。「……あなたも……朝倉涼子も傷ついた……」 血の滴る不気味な音が、異様に大きく聞こえる。「私だ……けが……傷つか……ずに……終わるのは……間違ってい……る……」 血溜まりが歩いてくる。「私……が……元凶……その責任……を取……る……」 そう、力なく呟き、彼女の筋肉の脈動が停止した。「違う!」 このままお寝んねして甘い夢でも見る気か?冗談じゃねぇ!「腹切って詫びるなんて、ちょんまげ結った武士にでもさせりゃいいんだよ!」 地に伏すアンドロイドを抱きかかえ、彼女の耳に声を飛ばす。「死んでスッキリ清算ってか!?ふざけんじゃねぇ!そりゃお前はスッキリできるよ!俺達はどうなる!?勝手に責任押しつけんじゃねぇよ!バカ野郎!」 こんなエンドクレジット、俺が期待していたとでも思うか?「物語の落ちは「笑顔でハッピーエンド」って決まってんだよ!それをお前は!俺の物語を汚しやがったな!?」 冗談じゃねえバカ野郎。こんな後味の悪さゴメンだ。バッドエンドなんてクソ喰らえ。「生きろよ!本当に責任取りたきゃ、生きて、「本当に謝りたい」奴に会いに行けよ!」 俺みたいなポッと出の主演に責任を取るなんておかしい。本当に謝るべきなのは、SOS団のメンバーじゃないのか?「だから起きろ!串刺しにされようが、寝てるときに心臓に銀の杭ブチこまなきゃ死なないんだろ!?」 だが上昇する血圧に反比例し俺の腕に抱きかかえられている長門有希は、少しずつ冷たくなっていく。
長門有希には今、絶対的な死が近付いている。
宇宙人であるが、彼女もやはり人間なのだ。
それは喉が枯れ、俺の檄に力が無くなった頃だった。
「ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁ!」
潰れかけた喉に追い討ちをかける絶叫が漏れる。「ハぁ……ハぁ……なんだこれ……」 全身にハンマー投げのハンマーを巻きつけたような重力が襲いかかった。 気持ち悪い。タチの悪かった先輩に初めて酒を飲まされた時を思い出す。 頭がぐらんぐらんと揺れ、平衡感覚がまともに作動せず、長門有希を抱えていた手を、自然に額へと添えてしまった。「こ、これは時空震だわ!きっと、キョン君が脱出プログラムを起動したのよ!」 じ、時空震?なんだその猫型ロボット世界に飛び交ってそうなSF単語は?「これで世界が変わる……長門さんが殺されない世界に……」 自分でやっといてどこか他人事めいた事を言ってる気がするが、それよりも朦朧とする意識に気を取られ、長門有希を抱きかかえる朝倉涼子を眺めることしかできなかった。 「……本当は私、破壊プログラムとか防衛プログラムとか、そんなのどうでも良かった。だけどあなたがキョン君を望んだから、私はあなたの手足になったのよ?」 その時、俺は見逃さなかった。
朝倉涼子は美しく微笑んでいた。
「三日間だけだったけど、またあなたに会えて、本当に嬉しかったわ……」 そこまで呟いて、俺の耳はイカレて何も音を拾うことができなくなった。「ハ……ハハハ……」 乾いた笑いが口から吐き出る。 朝倉涼子も俺も何も変わらない。お互いがお互い、大切な物を守るためにぶつかっていただけだった。 俺達は歪んでいたから殺しあったのではない。ただ単に真っ直ぐ過ぎたのだ。
俺の意識はそこで途絶えた。
体が激流にのみこまれた小枝のようにクルクルと回るような感覚に陥った。 ここはどこだ?俺はどこに立っている?
重い瞼を開き、一番最初に目に映る光景は白い天井だった。……うわ、あそこシミ着いてやがる。「……ここは、病院?」 身体を起こし周囲を見回そうとするが、腕につながれている細い点滴の管に気付き、仕方なくベッドにもぐりこむ。……個人病室か。 しかしどうなってやがる?まさか全部俺の夢だったなんて言うなよ。確かに現実から脱線しすぎて、夢と言い切れば絶対に妄想でまかり通る。「ならば、なんで俺はピンピンしているんだ?」 交通事故で重態だったはずだろ?こんなストローみたいなしょぼい点滴一本じゃなく、ミイラ男とタメ張れる包帯と、ごついおしゃぶりみたいな呼吸器が付いていたはずだ。 「太陽。元気にしてる?」 混乱中の俺に、仕切りカーテンの裏から声がかかる。「……お母さん」「はい。これ換えのパンツと小銭ね。無駄遣いしないでね」 とりあえず差し出された小銭入れとデイバックを受け取りながらも、思わず、母の腹部に目をやる。「……なに?」「いや……少し痩せたんじゃないかな……と」「そりゃ痩せるに決まってるでしょ?息子が事故で一ヶ月も入院してたらさ」 どうやら交通事故を起こしたことには間違いないようだ。だけどあのケガが一ヶ月で治るとは思えない。つーかあれは明らかに即死か半身不随だろ。「もうあんた、しばらくバイク乗っちゃだめよ。雨の日にこけて両足骨折なんて……どんだけ心配したか……バカが」「あー……そうだよな。ごめん」 ……どういうことだ?あの事故が無かったことになってる?「じゃあ私はもう帰るけど、来週には退院だから、学校行きなさい。いい?ちゃんとよ?」「口すっぱく言わなくてもわかってる。ちゃんと「北高」に行ってくるよ。「北高」に」 とりあえず進学校である光陽園学院ではなく、県立の北高に行くんだよな?言っていいんだよな?確認確認。「よし。それじゃあまた明日来るから」 何も喰いつかなかったので、どうやら北高に行っていいようだ。「あ、そうだ。明日、少年エース買って来て」「小銭渡したんだから自分で買いなさい」 っち。小銭を使いたくないから頼んだのに。
「……あれは一体なんだったんだ?」 散歩がてら病室から抜け出て、廊下の窓からキリスト生誕直前くらいの寒空を見ながら思い返してみた。 交通事故も何もかも、全部俺の夢だったのか?「んなわけねーだろ」 俺の中には、確かにあの世界での記憶がある。妄想や空想なんかじゃない。あの三日間は確かに存在していたんだ。 だったら信じりゃいいだろ。証拠なんか無くても、俺は自分の魂と向き合えたんだからな。 無駄な思考を止め、エレベータホール内にあるベンチに腰かけた時だった。「……よう。なんだかスペースシャトルが惑星に不時着したと思ったら、そこは猿が生態系の頂点だったって顔してんな。そこからおかえり」「……は?」 俺より頭半分高い同級生が、コーヒー片手に呆けてやがる。「まぁなんでもない。忘れてくれキョン」「お前までそう呼ぶか。西野」 だってクラスメイトでフルネーム覚えてるのは涼宮ハルヒくらいだからな。ちなみに姓は鈴木で、名は清孝だったか?……ダメだ。やっぱり覚えていない。「そう言えばお前入院してたんだってな。事故って。の割りには元気そうだな」「大した事故……ではあったけど、この通り元気さ」 折れたはずの無い足を撫で元気であることを証明する俺は、どこか滑稽だ。「キョン、お前の方はどうしてまた?肺炎にでもかかったか?」「階段で……こけた?」 なんで疑問系なんだよ。「……よく覚えてないんだよ。ほっとけ」 腹を探られるのは誰だって気分が良い物ではないから、ここらでカマかけは止めておこう。「西野太陽……だったよな。お前の名前」「うわ、お前は覚えててくれたのに、俺は忘れちまってたのか。マジヒドイな。すまんすまん」 だったら覚え直せと言われそうだが……正直な所、キョンと言う愛称が浸透してるのに、今更名前で呼んでもな。聞き直すのも何かプライドが許せないし。「当然だ。あんたは目立つ。その金髪は一目見たら忘れられそうにない」 うん、まぁ脱色してるが、手入れにゃ気ぃ使ってるしな。結構手入れめんどくさいんだ。「じゃあ戻したらいいだろ」 キョンの指摘はもっともだが、それとこれとは別問題だ。「いいじゃん。こんな頭してるバカなガキ、誰も付き合いたいと思わんだろ?」 こいつは俺の壁みたいなもんで、言うなら威嚇用だな。 いつ頃かは忘れた。多分父親が死んだ時くらいかな。そんくらいの時から人間関係に嫌気がさして、悪ガキぶっていた。 悪ガキぶっていれば、「なんかあいつ怖いよ」と思われ、誰も俺に近寄らなくなる。全て狙っておこなっていたさ。
だけど本当は……構ってほしかった。
この金髪とピアスも、その他非行行為も、全部が全部「俺はここにいる」と主張したかっただけだった。 今までの俺なら気づかないフリをしていただろうが、今は違う。あの改変された世界で自分と向き合い、俺は俺の弱さを知った。
弱さを恥じることはない。
強さに憧れることはない。
自分の魂に正直になれば良い。それが……
「と思ったが、もう悪ぶるのも飽きた。そろそろ元の黒に戻そうかな」 んな素晴らしく説教くさい話をこいつにしてやる必要はない。だって俺は、キョンじゃないからな。 俺には俺の魂が宿り、キョンにはキョンの魂が宿ってる。ド頭の作りはみんな違うんだし、考えを押しつけてはならないのさ。「へぇ。教室では無口で不気味な奴としか思ってなかったけど……意外だな。お前、そんなに軽い奴だったのか」「母親の又からじゃなく口から生まれてきたみたいでね。それこそ、口数が多くて、よく友達を無くすくらいだ」 だって俺だったら俺みたいな奴とは友達になりたくねーもん。「く……ははははは」 キョンの頬が吊り上がり、普段より一オクターブ高そうな笑い声が漏れた。「悪いな。言い回しがおかしすぎで笑っちまった。どうやらお前の認識を改める必要があるみたいだ」「そうかい。無口キャラも飽きたから、そうしといてくれ」 あーあ、学校行きてーな。なんだか今は無性にそう思う。……うーん。多分、本当の俺をクラスの奴らに見せてやりたいのかもな。
ところで、キョンを見ていて思いついたのだが、空想の中で生きる存在は、空想を現実と呼ぶのか? キョンは今まで空想を生きていた。それが三日間とは言え、現実の夢を見たことで、二つの世界を天秤にかけることになった。 どっちも忘られる物じゃない。でもどちらかを否定しなければならなかった。
空想な現実。
現実の夢。
こんな選択、キョンに任すべきじゃなかった。いや、誰にだってさせるわけにはいかない。 答えの無い問いをさせるほど、つらい問題は無い。もちろん俺だってゴメンだ。 誰も彼も、正解なんて選べるわけがない。 こいつの選んだ要因だって、突き詰めればキョンにはこっちの現実の方が性に合っていたってだけだ。世界のため……違うね。
面白いと思ったから帰ってきたのさ。
それに関しちゃ感謝している。つーか、俺がどうこう言えることじゃないしな。俺には選ぶ権利なんか無かったわけであり、望んだ選択が、たまたまキョンと同じだっただけだ。 ifの物語なんて考える必要はないが、俺だったら……どうしたのだろうか?「バカくせーな」 思わず漏れた単語に、キョンがしかめっ面をさらに険しく歪める。「いや、なんでもない。ちょっと考え事をしてた……そう、お前の後ろで 「あたしとはほとんど話さなかったくせに」と、睨んでいる涼宮の気持ちをアフレコしていただけだな。脳内で」 キレイな瞳だが、明らかに攻撃的な敵意をぶつけている涼宮ハルヒを見ていると思う……あれだ、可愛いね。「はぁ?なに人の考えを勝手に妄想してるのよ。あたしは団員をカツアゲ行為から守ろうとしただけだから」 入院患者カツアゲしたってしょうがないだろ。小銭くらいしか持ってないはずだしな。「つーか何?いちいち馴れ馴れしいのよ。話かけんじゃないわ!この金ザル!」 一体こいつは何をしに来たんだ?キョンのお見舞いとは言え、他の患者には優しくしてあげましょう。これお見舞い客の鉄則。いらない波風立てんなよ。「「キョンはあたしの嫁!」って言いたいのはわかるが、入院患者どうし仲良くしちゃいけないのか?」「仲良く?見てみなさい。キョン、明らかに電車で携帯開いただけなのに、知らないじいさんから目の敵ってくらいに難癖つけられて面倒って顔してるじゃない」 教育ママの屁理屈に聞こえるのは俺だけか?「スネちゃま。あそこのお子さんの家はアレな家だから、近付くんじゃないザマスよ。悪影響ザマス」 な気分だ。「つーかハルヒ!今のこいつの発言を思い出せ!一つ訂正しなきゃならんところがあっただろ!」 はて?なんのことだか。「キョンは男だから嫁になれるわけないじゃない!バカにしてんじゃないわよ!」「ズレてる!お前の発想はズレてる!せっかくのストライクがスペアになった!」「キョキョキョンくん!ズズズズズズレてるってどこだね!?」「はあっ!?その金髪はヅラだったのか!?」「ババババババカいっちゃいけないですよ。な、な、なんの事だか」「そうだよな。まさかその若さでハゲるわけが……って、何、頭皮をマッサージしてるんだ!」「まだ大丈夫まだ大丈夫。元気になーれ元気になーれ。石よ!殺生石よ!私に毛を!これ以上、毛を、抜けるなぁぁぁぁぁぁ!」「諌山冥!?」 どうやらキョンとは趣味が合いそうだ。二期はまだか。「だからあたしの団員と仲良くするなー!」
悪ふざけが過ぎるのもあれなので、そろそろ病室に戻るとしよう。「まったく、少しは気にして帰ってみたら……やっぱりまだまだ教育は必要ね」「お前のは教育じゃなくて調教だろうが」 あまり嫁を独占してはかわいそうだしな。「そいじゃな。良いヒマ潰しになったよ」 キョンの飲んだコーヒーの空缶を手に取り、ゴミ箱へシュート。よっしゃ、3ポイントゲッート。 華麗なるスリーポイントシュートも決まった事だし、部屋で先月のエースでも読むとするか。
「あ、そうだ太陽」「なんだハル」
「…………馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ。なによその気持ち悪い呼び名わ」「お前こそ俺の名前を呼んでんじゃねーか。改めろよ」 作り物とは言え、あの世界の記憶は中々切れる物じゃないようだ。いや、切ってはならない。ただのハリボテな縁かもしれないが、一度繋げちまった以上、簡単に手放すな。紡いだりしたら、あの世界の俺たちに申し訳ない。 「ちょっと太陽!聞いてんの!?」 その時、一瞬だけ、涼宮ハルヒの姿が「あいつ」とダブって見え、思わず笑いが込み上げた。 長門有希は世界を上書きしたと言った。 だがそんな事はない。あの世界はちゃんと残っている。こいつはその証明だ。
消す必要なんかない。
忘れる事もない。
ここに存在しているのだから。「……い、今のは違うんだからね!太陽が呼んで欲しそうにしてたから……あ」 お、今度はキョンが俺を睨みつけてやがるな。携帯電話が無い事が非常に悔やまれる。写メして見せてやりたい。「んな物はどうだっていいんだよ。これからもよろしくなハル……だっはっはっはっはっ!」 そう、たまにアルバムをめくるように思い返すのも大事だが、これからを大いに楽しむのが一番大切だ。忘れんなよ。俺。
今の俺のように、中途半端に元気な入院患者にとっちゃ、病院で過ごす深夜は拷問である。身体が元気であるために、まぶたを閉じても眠れないのだ。 朝方まであと三時間程ある。この時間じゃナースステーションに行って、睡眠導入剤の服用を頼んだとしても処方してくれそうもない。クソ、昼寝なんかするんじゃなかった。 毒づいてみたものの、そんなんで睡魔が家庭訪問してくれるわけもなく、長い夜に対し、ただただ嘆息するのみである。
その時、暗闇の病室に碧く光り輝く蝶が舞い降りた。 綺麗な色をしているが、それ故にとても不気味な気がして、頭から掛け布団をかぶり、見なかったことにする。ヘタレでビビりのチキンな俺は何も知らない。知らないったら知らないんだからね! 「あら?起きている気がしたと思いますが……狸寝入りは止めてください。西野太陽君」 布団の中であるため判別は難しいが、聞き覚えのない声である。一体誰だ?いや、一体なにだ?「こんばんわ、そして初めまして。私は喜緑江美里と申します」 碧い蝶を周囲に舞い散らせながら、彼女、喜緑江美里は深々と頭を下げた。「初めまして。そしてどちら様ですか?」 穏やかで浴衣や振袖が大変似合いそうな美人だが、はっきり言って俺の記憶の中にある人物録には存在していない。しかし直感で理解できた。彼女は人間ではない。「そんな風に身構えないでください。思念体からのお達しがある以上、あなたに危害を加えるつもりは毛頭ございません」 思念体……情報統合思念体のことだよな。つまり長門有希と朝倉涼子の仲間か。「信用できるか」「あら?私たちが嘘をついているとでも?」 嘘を……つくわけがないか。長門有希も朝倉涼子も、俺に嘘を吐いたことはなかった。もっとも、襲いかかったり高見の見物を気取っていやがったが。 言葉だけなら、こいつらが語ったこと以上に信用が置ける存在など無い。危害を加えないと言ったら、俺が死ぬ心配はない。「何の用ですか。夜這いならビンビンな時に、文書にまとめて再度申し込んでください」 もちろん、そんなはしたない理由のわけがない。「改変世界からの帰還、おめでとうございます。今回、私は長門さんに代わり、あなたに事の顛末を伝えに参りました」 反応ぐらいして欲しかったが、頭のネジが閉まりすぎてマトモな返答しか返せない宇宙人には期待しても無駄か。「……長門の代わりねぇ」「長門さんの方がよろしかったですか?あいにくですが、今現在、長門さんはキーマスターの元にいますので。フラれましたね」 多少はネジの閉まりが緩く、それなりに冗談には対応できるようだ。 つーか長門有希がキョンをほっぽいて俺の下に来るわけがないか。「それに、あなたも色々問いただしたい事があるはずですよ」 当然である。これだけは聞いとかないとならない。「一ついいですか?」「一つですか。一つだけですよ?」 ち、やり辛い。「なんで俺が死んでいない?いや、死ぬまではいかないまでも、なんでこんな軽傷で済んでいるのですか?」 ありえないよな。どこぞの武道家猫が違法栽培している怪しい豆を飲まない限り、こんなに元気なわけがない。もちろん両手を上げて喜んだが、不自然をほっといて置くかよ。 「それは私のおかげですよ」「……あなたの?」「あなたは普通の人間。この惑星に存在する人類と、何ら違いはございません。ですが、そんな常人であるあなたが、事前情報皆無の状況で全てを理解し、世界の崩壊まで防ぎました。 ……はっきり言って予想外です。そんなあなたを失うのは、とても惜しいと思念体は結論付けをしました。よって、私が過去の自分と同期し、あなたの事故を書き換えました。感謝してくださいね」 長い会話の終わりにニコリと微笑む喜緑江美里だが、それに対し、俺は大きな恐れを覚えた。 情報統合思念体は、俺を生かした。その事に関しちゃ、感謝してもしきれない。 ありがとう。だけどな、こいつらは俺を手軽く「救った」と言うことは、その逆、つまり手軽く「見捨てる」こともできるのではないか? 可能だろうな。現に、朝倉涼子は当たり前のように俺に凶刃を向けて来た。 俺だけじゃない。あの世界では、十人が殺されている。 情報統合思念体が存在しない改変世界で十人だ。こいつらはやろうと思えば、手軽く大量虐殺だって行える。 今回の事件は、ただ単に、情報統合思念体の危険性がわかっただけだ。「ならキャトルミートレーションでもしますか?」「それは大変おもしろそうですが、またの機会にさせていただきますね」 自分で振っといてあれだが、勘弁してくれ。そんな内臓がないぞ~なんてバカすぎるギャグ、実践してたまるか。「それでは私はこの辺で失礼します。また新学期に会いましょう。それでは」 碧い蝶の舞いが喜緑江美里を包みこみ、彼女は暗闇に溶けた。
結局、俺がここにいるのは、俺一人の力ではなかった。 だが、様々な思惑があっても、俺は終えたはずの物語を引き伸ばすことができた。
俺はもう、自分に、世界に、絶望なんかしない。
無様だろうが醜くかろうが、棺桶に押し込まれるその時まで、俺は俺の物語を見限りない。
エピローグへ続く
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