ある暑い日の部室で
嫌になるくらい暑いとある夏の日の放課後、「今日はHRが早めに終わったし、あたし達が一番乗りかしら。」「かもな。」あたしとキョンはそんな他愛も無い会話をしながら暑さに耐えつついつもどおり部室へ向かっていた。「部室前に到着。さて、中に誰かいるかしら?」そう言いつつあたしはドアノブに手をかけ回してみる。結果、扉は開かずただガチャガチャと無機質な音を奏でるだけだった。「鍵が閉まってるってことはあたし達が一番乗りね。」「みたいだな。」別に何の特になるわけでもないけど一番乗りって何か気分がいいわよね。「一番乗りが確定して悦に浸るのは結構だが、何時までもここでぼさっとしてるわけにもいかんだろ。さっさと鍵を開けてくれ。」「…言われなくても開けるわよ。」せっかくいい気分だったのにあんたの台詞のせいで台無しじゃない。バカキョン。そう内心で愚痴りつつ、あたしは鍵を開けた。キョンがあたしの気分に水をさしたのは腹が立つけど、こいつの言うとおりここでぼさっとしててもしょうがないもんね。「ほら、開けたわよ。」これ以上こいつにぐちぐち言われるのも鬱陶しいしさっさと入っちゃおっと。あたしはドアノブを回し扉を開けた。「暑っ!」開いた扉の隙間からむしっとした暑い空気が流れ込んできたので思わず叫んでしまう。廊下の気温も相当なものだから部室の中はもっと暑いとは思ってたけどまさかここまでとはね…。「天気予報によると今日は今夏一番の猛暑らしいからな。そんな中ずっと締め切ってれば部屋もそりゃ暑くなるだろうな。どれどれ。」そう言いつつキョンは扉の隙間から漏れる熱風を確かめるためかあたしに近づいてきた。「…確かに暑いな。」「でしょ。」それはいいけど、ちょっと近づきすぎじゃない?体が引っ付きそうなんだけど。…そりゃ、あたしからこれくらい距離を詰めることはよくあるけどさ。でも、逆はなれてないというか、その…な、何か調子が狂うじゃない、バカキョン。「こりゃ中はサウナ状態だな、こんなところにずっといたら茹蛸にでもなりそうだ。」あたしの動揺を他所にキョンはいたっていつも道理ね。「バカなこと言ってないでさっさと窓を開けるわよ。」たく、人の気も知らないで…。「へいへい。」「……暑い。」部室の窓を全開にした後、いつもどおりにパソコンでネットサーフィンを始めたんだけどこの暑さのせいでどうも調子が出ない。「キョン、どうにかしなさい」暑さのせいで声がいつもより弱々しいものになる。「むちゃ言うな。自然現象は人間の力じゃどうにもならん。」そして、キョンも暑さに堪えているのか返答が何時も以上に覇気がない。「ここに神様でもいたらどうにかなるかもしれんがな。」何でそこであたしを見るのよ。「バカじゃないの?」神様にしろ何にしろそういう不思議なものがそこらへんにころがってるわけないじゃない。「…かもな。」そう言いながら何故かキョンはあたしに微苦笑を向けた。何よ、言いたいことがあるなら言えばいいじゃない。黙って溜め込むのは精神に悪いわよ。それと、そういう表情は古泉くんとかがやれば様になるけどあんたがやっても全然ダメダメなだけだからよしたほうがいいわ。……と言おうと思ったけど、ただ体力を無駄に使うだけなので言わなかった。そのかわり溜息を一つ吐いてそれをキョンへの返答としてやった。暑さに辟易しているあたしたちを他所に太陽は核融合全開で何時も以上に眩しく輝き熱をこれでもかと提供してくる。…もう、我慢の限界。「あー、もう!暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い、ア、ツ、イ!!」「…暑いのはわかったから少し落ち着け。叫んでも余計に暑く感じるだけだぞ。…そうだ、自販機で冷たいジュースを買って来たらどうだ?少しはマシになると思うぞ。」冷たいジュースか…いいわね。でも…。「…そんな気力残ってない。」「叫ぶ気力はあるのにか?」「…うるさいわね。」「…やれやれ」毎度お馴染みの仕草でそう呟いたかと思うと急に何かを思いついたような顔つきになった。これが漫画とかアニメだったらキョンの額十数センチ上空で電球が瞬くんでしょうね。「どうしたのよ?」「いや、ちょっといいことを思いついてな。」「いいこと?」「部屋の温度を下げるのは無理だがお前の体感温度を少しマシにすることはできるかもしれん。」「何する気?」もったいぶらないで教えなさいよ。「直ぐにわかる。」そう言いながらキョンはあたしの後ろにまわる。「ちょっと。」「少しの間前を向いててくれ。直ぐに終わるから。」…何だってのよ。「もし何にも効果がなかったら罰ゲームだからね。」 「どうだ?これで少しはマシになっただろ」キョンの言うとおり少しだけ感じる熱さがマシになった。「ほんの少しだけど、確かにマシにはなったわ」あたしはキョンが作った馬の尻尾をいじりつつ答える。確かにこの髪型なら首もとに風が通るから体感温度が下がるわね。「そりゃ何よりだ。」あたしとしたことがこんな初歩的なことを見落とすなんて…迂闊だったわ。「しかし、よく思いついたわね。」「妹が前に言ってたんだよ、この方が涼しいってな。」「ふーん、成る程」伊達に妹がいるわけじゃないのね。 キョンのおかげというか専らキョンの妹ちゃんのおかげで暑さがマシになったのはいいんだけど、今度は喉が渇いてきたわ。ジュースでも買いに行こうかしら。「ねえ、キョン。」「何だ?」「ジュース買いに行かない?」「いいぞ。」珍しくあたしの提案を快く受け入れてる所をみるとこいつも喉が渇いてるみたいね。まあ、この暑さだし誰でも喉が渇くわよね。「それじゃ行きましょ!」あたしはキョンの手を掴んで部室の外へと向かった。 ジュースを買いに行く途中、あたしはある疑問をいだいた。「ん?」「どうした?」「いや、ちょっと引っ掛かることがね」「引っ掛かるって何が?」キョンは当然の疑問を口にする「聞きたい?」なので、あたしは不本意ながらもこの状況に即したポピュラーな応答を返してやる。「別に無理して聞きたいわけじゃないが、お前がどうしても話したいんだったら聞いてやるのもやぶさかではないくらいには聞きたいといえないこともない。」「何よそれ。」結局は聞きたいってことじゃない。だったら素直に聞きたいって言いなさいよ。たく、回りくどい言い方ばっかするんだから…。「…はぁ。まあ、いいわ。話してあげる」どうせ、あたしの疑問を解消できるのはこいつだけだし。「そうかい。じゃあ、聞かせてもらおう。」「さっき部室であんたがあたしの髪をポニーテールにしたじゃない?」「ああ。」「何で髪留めのゴムなんて持ってたの?」普通男子高校生はそんなもの日ごろから持ち歩いたりしないわよね。「!!」予想外の質問だったのかキョンの奴あたしの質問に対してわかりやすく動揺している。「な、何でって…」ふふ、焦ってる、焦ってる。思ったとおりこれは何か裏がありそうね。「まさか、あんたが自分で使うために持ち歩いてた…なんてことはないでしょ?」そんなことあるあけないわよね。あんた、こんなの使うほど髪長くないもの。「いや、それはだな…」「それは?」さーて、吐いてもらいましょうか。SOS団の風紀を守るためにもね。
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