反英雄 第三章
俺のせいだ。全部俺のせいだ。 俺が国家権力に守ってもらえば安心だと安易に考えなければよかった。そうすりゃ、少なくとも森園生は死ななかった。 生死の確認なんかできなかったが、あのケガだ。今頃は……
「ちくしょう!」
床を叩き、切創から血が滲む。 だが森園生はこの痛みの何百倍も傷ついた。なのに俺は生きている。俺だけが生き残ってしまった。 なぜだ?なぜ俺がこんな目に合わないとならないんだ? そもそも、この物語の始まりは何だ? 母の死?なぜ母が殺された? いままでは殺人鬼の妄想くらいにしか思っていなかった。ならばなぜ森園生が殺される?警官である彼女まで殺す理由がどこにある。 その瞬間、絶対に認めたくないことがアタマをよぎった。まさか!?「俺……なのか?」 嘘だ。そんなのはありえない。俺はあんな女知らない。素性も接点も知らない女に、なんで狙われなならん。 だがここまで来れば、あの女の目的が俺なのは明らかだ。でもぜったいに認めるわけにはいかない。 だって認めたら、母も森園生も、その他の被害者達でさえ、俺が殺めたようなものじゃねぇか。 俺のせいで死んだ。そんなことあってたまるか! 自分の行いを必死に否定するため無数の言い訳を考え続けていると、ある不可解を感じた。「ちょっと待て。地下何階まで降ろす気だよ」 いつまで経っても一階に到達しないのだ。 そんなバカな話があるか。さっきは七階まで行くのに一分もかからなかったはずだ。それなのに、延々と自問自答を繰り返していた長時間中に、なぜ着かない。 不審に思い、パネルで現在の階層を確認したが計ったかのように数字は映っていない。どこの三流ホラー映画だ。ベタすぎて寒気がしやがる。
それからさらに数分。地獄の賽の河原に迷い込みそうな気分になったころ、やっとエレベーターがドアを開いた。「……な!?」 訂正。本当の地獄はこれからだった。「趣味の悪いリフォームだな」 壁も床も、そして入り口から覗くわずかな空でさえ、極端に彩度を落としたような灰色だった。 念のためインターフォンの真向かいにある管理人室を覗いてみたが、予想どおり無人であった。 勘弁してくれ。なんだよこの超展開。つーかここどこだよ!悪夢ならとっとと目を覚ましやがれ! 誰に見せるでもなく強がってみたものの、膝が正直にガクガクと揺れてしまう俺の姿は、きっと最高にカッコ悪いはずだ。 恐い。恐ろしい。自分が今まで信じていた世界が一変することに、ここまで恐怖を覚えるなんて思ってもいなかった。 だが、今の俺は逃げることもできない。何をやったら元の日常に戻れるのか、皆目見当がつかない。 とりあえず、この手と足に受けたケガの治療をしよう。消毒薬とガーゼと包帯なら、多分コンビニに置いてあるだろう。
手近なコンビニに押し入って、医療用具を無断拝借することに罪悪感を覚えたが、カルネアデスの板である。開き直って食料までいただくことにした。無駄だろうが、代金をレジカウンターに置くぐらいはしておこう。 応急処置と腹ごなしを終え、次なる一手を思いあぐねた。 やはり北高か。朝倉涼子は北高生だし、あの小説の舞台も北高だった。これを偶然の一致だとは思えない。 北高に行けば何かわかるかもしれない。帰る方法も、この世界のこともな。そんな気がする。
痛む足を無理矢理進めることは、非常に体力を消耗するが、普通の人よりいくばくかの時間をかけて、北高校門に到着できた。 この足で、あの坂は辛かった。それにしてもここの生徒は、毎日あれを往復しているのか?絶対何人かは自転車かバイクで登ってるだろ。 俺を誘うかのように鍵のかかっていなかった校門を抜け、昇降口を通り、あっけなく校内に侵入ができた。 ちなみに土足である。今さらこんぐらいの悪事は気にしないからな。どうやら善悪感情がマヒしてるようだ。 さて、ここから先はどうするべきだ? ヒントなんて無いに等しい。あるとすれば、あの小説ぐらいか。 取りあえず、あの物語を追っていこう。となると、主人公のクラスである一年五組に行ってみるか。 ほどなくして一年五組に到着した。 ちなみにこの灰色の北高校舎には誰もいないようだ。人の気配が微塵もしないからな。なかば諦めの境地で各部屋を覗いてみても、やはり人影はなかった。「……やっぱり誰もいないか」 もちろん、教室は無人だった。まるで学校閉鎖を知らずに登校したバカなガキになった気分だ。 教室に入った瞬間、孤独感と疲労感が同時に押し寄せ、歩く気力すら失った俺を誰が責めようか?とにかく休みたい。 座りたい。その思いだけが俺の筋肉を動かし、いつの間にか窓際後方二番目の席に腰を下ろしてしまった。 もう嫌だ。疲れた。とっとと帰って風呂に入りたい。そして母親の晩飯を喰って、眠りたい。 平凡すぎてつまらない願いだが、今の俺はこれ以上望まない。これだけで良いから叶えてくれ。 だが、それすらも叶わないなんてどうかしている。 なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだよ。それなりに不真面目に生きてきたが、ここまでされるようなことをした覚えはねーぞ。 必死に自分の行いを思い返してみたが、当然、こんな報いを受ける理由など思い浮かばない。 ふざけんな。 ふざけんな。「ふっざけんじゃねぇ!」 目の前の机が、けたたましい音を立てて、床に接触した。「一体何のつもりだ!」 腰を下ろしていた椅子を掴む。 ガラスが飛び散る。破片が何粒か服に刺さったが、そんなことはどうだっていい。「何でだよ!何で俺なんだよ!」 手当り次第に物を掴み、激昂と共に窓ガラスを突き破り、外に投げ出されていく。 途中からはそれすらも面倒になってきたので、椅子や机が校庭へ飛ぶ事は無くなり、代わりに手や足がドンドン真っ赤になっていった。 そうさ。こんなのただの八つ当たりさ。だけど何もできないんだ。だったら八つ当たりくらいさせてくれ。 黒板は割れ、教卓は原型を留めておらず、掃除ロッカーにいたっては元のサイズの半分以下にまで凹んでいる。 ボロボロになった一年五組で一人荒い呼吸で立たずんでいるが、それでも気分が晴れる事は無かった。 ダメだ。こんなんじゃまだ足りない。 壊れた掃除ロッカーのドアを蹴破り、中からトンボ型モップを取り出した。
「うるぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
出入口を叩き割る。 まだだ。俺の血を冷ますにはまだまだ暴れ足りない。「何もかもぶっ壊してやるよ!」
もうヤケだ。どうにでもなれ。
冬場の冷たい水道水が、両腕の血を洗い流してくれる。 一年五組で気の向くままに暴れ回ったおかげで、やっと疲労で立っていられなくなってくれた。そして周りを見ることが可能になり、自分の所業に一段落がつけられた。 他人事みたいに言うが、竜巻でも起きたのだろうか?やってる途中は一種のトランス状態のために気がつかなかったが、どうやってここまで暴れたんだ? 無事な窓ガラスは一枚だって無く、教室内は傷だらけ。俺自身、両腕両足に内出血のオンパレードである。あー疲れた。 ところで今は一体何時頃だ? 時計はハナっから止まってるのでわからないし、空模様は灰色一色である。 まだ夕方なのか、はたまた真夜中近いのか、それすらもよく分からない。「……誰だ?」 瞬間、灰色の世界の遠くで、小さな物音が聞こえた。 人がいる!と思ったが、そんな安易な発想は捨てるべきだ。この世界に来た以上、何が起こるかわかったもんじゃない。 モップであった残骸の柄を握り締め、音に目がけて歩みを進めた。「人」だといいね。 一歩一歩進むうちに、物音の正体がわかってきた。それは「泣き声」だ。 はっきり言って怖すぎる。こんな人気も色気もなにも無い場所で泣き声だぜ?嬉しいよりも恐ろしいの方が強すぎる。 それでも気にした以上は確認しなければならない。存在の知らない恐怖より、存在の知れた恐怖である。見ないより見といた方がまだ安全だ。
泣き声に誘われて訪れた場所は、灰色の世界でなければ女生徒とお弁当を食べてみたい気分になりそうな中庭である。 ドアとドアの隙間から泣き声の主を確認してみる。……中学生くらいの女の子か? 見た感じでは、とても俺の命を危険にさせる存在には見えない。しかしここは灰色のホラー空間。何がおきるかわかった物じゃない。 スルーしようと踵を返したが、少女の泣き声だけが耳に残る。 この世界は怖い。めちゃくちゃ怖い。今にも失禁しそうなくらいにな。でもあの少女はもっと恐ろしい気分じゃないのか?「あーあ、俺も甘いね」 モップを捨て、泣きじゃくる少女の前に出ることに決めた。罠なら速攻で逃げてやる。「……誰?」 少女と目が合った。散々涙を流してたくせに、俺と出会った瞬間に睨みつけやがった。選択ミスったか?「俺?この世界にビビリまくってる哀れな高校生だよ」「あっそう」 それだけ言って、俺の事など頭のCPUから削除したようだ。失礼なガキだな。「お前こそ、ここで何やってるんだ?散歩ならもっと気色の良い場所を選べよ」 見てみろよ。花だってこんなグレーじゃ愛でる気にもならねぇ。「どうだっていいでしょ」 よかねぇよ。こんな場所でガキ一人見捨てるなんてできるか。こう見えて俺は結構小心者なんだ。 少女は何も答えない。勘弁してくれ。親の顔が見てみたいね。「まったく。名前も言えませんなんて、そこらの迷子よりよっぽど性質が悪い」 その瞬間、少女の肩が短く跳ねた気がした。「まさか……お前、マジで迷子か?」「……悪い?」 なるほど。この子はしつけがなってないわけじゃない。ただ自分が迷子になってるなんて認めたくないだけか。それを知ると、ただの強がりにしか見えないわけで、あれだね。可愛いね。 「ま、そんなに気にすんな。俺も似たようなもんさ」「あんた、何て言うの?」 偽名なんか無いし、嘘をつく必要も無いので、正直に本名を名乗った。正直は人間の美徳である。「ふーん。変な名前ね」 よく言われるよ。ストレートすぎてあまり見ない名前だしな。「それで君は?ワットユアネーム?」「ハルヒ。涼宮ハルヒ」
世界が止まった。 ハルヒ?俺が知る限り、涼宮ハルヒはあいつ一人だ。あの黒髪長髪美少女の彼女一人。 そして目の前の少女も涼宮ハルヒだって?同姓同名?「そうか。よろしくな、ハルヒちゃん」 いや、もう何が来ても驚けない。彼女が涼宮ハルヒなら涼宮ハルヒだろ。「なにすんのよ。手を下ろしなさい」 カチューシャの上から頭を撫で続ける俺に、彼女が釘を刺してきたが、自分で退かそうとはしない。 大方、寂しかったんだろ。俺でさえ寂しくて発狂したんだし、涼宮ハルヒだって怖かったはずだ。「さて、ここから出る方法を探すぞ」 だが涼宮ハルヒは俺が引いた手を止め、その場から離れようとしなかった。どうした?「どうせ闇雲なんでしょ?だったらあたしの捜査に協力しなさい」 こんな場所で何を捜査してるんだか。食べ物の場所か?おもちゃか?「子供扱いしないで。人よ人。人間!」 子供って。世間じゃ中学生はまだまだ子供だ。ま、高校生も子供だが。「で、誰を探してるんだ?」「有希よ。長門有希。あたしの友達よ」「……長門有希がここにいるのか?」 あの青春小説の作者が、こんな色気の無い場所に? そもそも実在するのか?いや、実際に作品があったのだから当然だが、なんとなくだがペンネームか何かだと思っていた。 涼宮ハルヒ、古泉一樹、長門有希、朝倉涼子、この分じゃ朝比奈みくるにキョンって奴も出てくるかもしれん。 あの小説は実在する人物をモデルにした作品であり、過去に似たようなことが起きたのか?「どうしたのよ?顔が怖いわよ」「いや、昔からの癖でな。頭をフル回転させると、どうも顔の筋肉が固まるらしい。ちょっと待てよ。今、ほぐすから」 ほっぺたを掴み、顔面をホームベース状にして……イダダダダ。「フン……バッカみたい」 ならその笑いを堪えているしかめ面をもっと上手く隠すんだな。「うっさい!」 って!傷口のある足の甲を踏みつけんなよ!俺じゃなかったらよけれんかったぞ!?「フン」 不機嫌な顔の割りには歳相応に臆病なのか、彼女は無傷な俺の左手を離さずに前に進んで行った。
歩きながら考えてみた。 あの小説の時期は四月から五月。俺の記憶じゃ涼宮ハルヒと古泉一樹に出会った頃だ。 さっきは実在の人物をモデルにしたと思っていたが、この相違はどういうことだ? あの二人は間違いなく光陽園の生徒で、俺の数少ない友人達だ。……本当にそうなのか?ここまでわけがわからん世界だと、既に俺自身が狂っているなんて考えすら思い浮かんでくる。 実際の俺は、今頃病院のベッドの上で植物状態もしくは、精神に異常をきたした入院患者なのかもしれない。「……また怖い顔になってる」 いや、そんなことがあるわけない。この手の温もりが妄想とは思えない。 俺の隣で涼宮ハルヒは生きている。それがわかる限り、俺が狂ってるわけがない。「ハル。ありがとな」「……急に何?」 俺の存在を証明してくれてありがとう。とは言わないでおいた。「変な奴……あ、ちょっとまって」 繋いだ手を振りほどき、涼宮ハルヒはいきなり駆け出した。ちょっと待て、転ぶぞ。「ここ!なんか気になる!」 この世界には似つかわしくない色味の激しい声で指差す部屋は一年五組だった。 どういうことだ?この部屋は発狂しかけた俺が気の向くままに暴れまわったんだ。それなのに初めて訪れた時と全く変わってないじゃないか。「待て!ハル!」 慣れ親しんだ俺考案ニックネームで呼びかけてしまったが、彼女は気にすることなく教室に入ってしまった。
「ただの人間に興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私の所に来なさい。以上」
教室の真ん中で全生徒の度肝をライフルで射抜くような突飛な自己紹介をしたのは、俺が良く知る髪の長い涼宮ハルヒだった。 だが今さら涼宮ハルヒが二人も現れようと大した事態じゃない。ぶっちゃっけあと20人くらい出てきても驚けねーよ。しかし、「俺……?」 窓際二列目の席で、涼宮ハルヒをうるさそうに眺めている俺がいた。「おい!」 理解不能な光景を見たことで、反射的に声を上げてしまった。 その瞬間、窓の外に咲き誇る桜の花が散るかのように、教室は元のグレーな世界に戻った。 違う。あんなのはまやかしだ。俺は北高なんか受験した覚えは無い。 反射的に同行者であり小さな恩人である涼宮ハルヒに目を向けた。
何も見てないと言ってくれ。
気のせいだと言ってくれ。
俺の存在を証明してくれ!
「……ハル?」 教室から涼宮ハルヒが消失していた。「おい!どこにいるんだ!」 必死になって机をひっぺがえし、ロッカーを乱暴に開けていく。頼む!俺を一人にしないでくれ! 金髪ピアスなヤンキー男子高校生が中学生くらいの女の子に助けを求める姿である。さぞ情け無いだろうが、恐いもんは恐いんだ!「……くそ。どこにもいない」 絶望が体中を駆け巡り、恐怖で立っていられなくなった。こんなにボロボロなんだ。今さらケツに床埃が着こうが関係ない。 さっきまで感じていた手の温もりが、今は感じられない。「ちくしょう……」 思わず涙が零れた。 情け無い。俺はいつから迷子のガキに成り下がったんだよ。「男が泣くな。みっともない」 血染めの袖で涙を拭ったことで、顔に血の跡が着いた。 涼宮ハルヒを探しにいこう。俺だってこんだけビビッてるんだ。あの子だって恐がってるに決まっている。
恐怖を煽る以外には何物でも無いグレーの壁が視界一杯に広がる廊下を歩く。 手がかりはゼロ。しかし本気で恐いがビビるわけにはいかない。「……どこにいるんだよ」 声にいつもの覇気が無い。かすかにこだまする声が、何だか物寂しい。 俺って、こんなに臆病でみっともなくて、弱い奴だったんだな。改めて実感したよ。「何を言ってるんだか。俺が強いわけねーだろ」 こんだけダサく立ち振る舞ったんだ。そんな俺が強く清く美しいわけない。 寂しがり屋だし、マザコンだし、短気だし、女に手を上げたし。良いとこねーな俺。最悪だわ。「ハハハハハ……なんでだろうね。なんかスッゲースッキリした」 大体、本当の強さってなんだ? あぁ、確かにケンカは強いさ。今まで負けなしで通ってきたしな。 でも俺が拳を振り上げるのは、勝つためでもなければ、相手を屈服させるためでもない。 俺がケンカする理由はただ一つ。それは逃げるためだ。 俺に近寄るな。ほっといてくれ。それ以上寄るならぶっ飛ばすぞ。これである。 そうさ。俺は「弱い奴ほどよく吠える」そのまんまだ。あーあ、かっこ悪い。 いくら力が強くても、心が弱けりゃ弱者だ。 じゃあ心の強さってなんだよ。「んなもんわかるか。わかるくらいなら、俺はこんな弱い人間にはならなかった」 俺は弱い。それでいいじゃないか。
強さ。それは本当に必要な物なのか?
そんな実も蓋も無いことを思った時だった。 灰色の空から青白い閃光が煌き、廊下を照らした。「な、な、なんだぁ!?」 反射的に窓の外を見てしまった事を後悔した。 そこにいたのは蒼く輝く巨人だった。「嘘だろ……」 目の前の光景が現実であることくらいわかっている。それでも理解なんかしたくなかった。あんなにでかいのに、なんで二足歩行で立てるんだよ。 血の色みたいに赤い目玉と眼が合う。 マズイ。ビビリすぎて逃げることすら忘れていた。「ぐがぁっ!」 同時に、柔らかい布で覆った灰皿でブン殴られたようなヒドイ頭痛がする。「な……なんだよ!俺に何をさせる気だ!」 呼吸がマトモにできないほどの痛みだ。もしかしたら言葉にすらなっていないのかもしれない。 蒼の巨人に虚勢のタンカを切ったが、当然、何も答えない。
―スタンバイ完了。当該既定に基き、これよりダウンロード開始―
心臓が大きく脈動し、意識が遠のいていくことがわかった。 待ってくれ!俺を連れて行くなぁぁぁぁぁぁぁ!
遠のいた意識が戻ってきた。ここはどこだ? 目を開くと、茜色の日差しが差し込む夕方の廊下に立ち尽くしていた。 もう嫌だ。帰りたい。帰ってベッドの下のエロDVD見たい。寝たい。腹減った。 もちろんエロDVDを見て発散することも、食事をすることもできないが、寝ることくらいはできそうだ。『本当、なにをしに学校来てんだが』 目を閉じようとした時に声をかけれると、なんでこうもイラッと来るのだろうか。『あいつは何考えてるかわからないから不気味だよな』 さっき聞こえた声とはまた違う声が耳に届いた。『恐いよね』 蚊の羽音みたいにうるさい話し声だったので、仕方なく目を声の方角に向けてみた。「……一年五組」 北高一年五組。もう今さら驚きも何も感じないが、ここまで来ると俺とは無関係とは思えない。 わざと聞こえるように話してんのか?戸が開いてるからって丸聞こえじゃねーか。 足を動かすと共に体中から悪寒がダダ漏れしやがる。近付きたくない。でも知らなければならない気がする。『マジ学校やめてくれないかな。あいつが教室いると息苦しい』『なに格好つけてんだが』『あの金髪恐いよ』 その先に続いた単語の名詞に、少しだけ心臓が脈打ったのを感じた。 俺の名前だった。 あの陰口三人組が語る金髪男こそ、俺であった。 今さら驚くことじゃないさ。ここまでくれば俺が北高と無関係なわけが無い。 漫画とかドラマの主人公なら、この教室に乱入するかもしれないが、ビビリでヘタレなチキンな俺である。180度旋回して教室から離れてた。これ以上聞いていたくない。本音である。
「……ちくしょう」 学校を離れ、急坂の下まで歩いたあたりで悔しさが漏れた。 俺はいつからこうなった? 自分本性を見せるのが嫌で、人と接するのが恐くなった。 恐いさ。自分の心を知られ、相手に拒絶されたらって思うと、何もできなくなる。 昔は違った。もっと素直で、捻くれてなんかなかった。 戻れるなら戻りたい。誰にだって分け隔てなく接することができた素直な……
乗用車のハイビームが顔を照らす。
ボンネットが突き刺さり、フロントガラスを叩き割る。
血が噴き出し、視界を赤く染めている。
朦朧とする意識の中、跳ねられた俺を野次馬が見下ろしているのがわかった。
この世界は正直だ。なにもしなかった人間には、こんな制裁が下される。 世界の素直さを肌で感じながら、全身チューブだらけの包帯姿で寝ながら病院の天井を眺めていた。「見つけた」 深夜、病室に人の気配が沸いた。「高い身体能力。一定値以上の破壊願望。現行世界への憎悪と羨望。全て基準値以上」 不自由な姿のせいで視線を向けることができなかったが、圧倒的な存在感を感じた。なにかいる。人間以上のなにかが。「このプログラムはあなたのような有機生命体が適任」 足音が少しずつベッドに近付き、冷たい手が腹に置かれる。「防衛プログラム朝倉涼子を止めて」 早口言葉を逆回しで20倍速再生するような声が聞こた。 待て!俺に何をした!?長門有希! もちろん言葉にはならなかったが、叫ばずにいられなかった。「改変世界の破壊。それに準ずる行動」 わけのわからない発言の後で闇に溶ける直前、長門有希の整った唇が小さくはためいた。
ご め ん な さ い
「俺は……既に死んでいるのか?」 灰色の一年五組で、さっきの現象を思い出していた。 あぁ、全て思い出したさ。俺は光陽園学院なんか行っていない。北高一年五組の生徒だ。 大体、俺の母親に進学校へ通わせられるほどの蓄えがあるわけないだろ。県立高校に行くことだけで精一杯だったのに。 俺はあの日、クラスメイト達の陰口を聞き、学校から逃げ出した。そしてほぼ無意識で車道に飛び出して交通事故にあったのだ。 その後は……覚えてない。気がついたら「ここ」にいた。 ここは地獄でもなんでもなかった。俺がいた世界から書き換えられた新世界だ。 この世界では俺は交通事故にはあってないし、北高生でもない。 それでも元の世界に戻りたいか?この世界にいる限り俺が死ぬこともないし、孤独になることも無い。 居場所だってそれなりにある。母親は既にいないが友人はいる。 元の世界に比べりゃ、こっちの方が魅力的だ。「……そうじゃない。そうじゃないんだ」 弱くてもいい。何度だって負けてもいい。だけど、現実から目を背けるな。 逃げなきゃいいいんだ。どんなに抗えない敵だろうと、戦わずに逃げるなよ。 元の世界に戻ったら、俺は死んでいるかもしれない。 そりゃあ死ぬのは嫌さ。嫌に決まってるだろ。 でも、ここで逃げたら一生後悔する。それが「この世界で死ぬまで」なのか「元の世界で死ぬまで」の差だ。「……俺はもう逃げない。決めたんだ」 立ち上がり、教室のドアを開いた。 文芸部室に行けば長門有希がいるはずだ。そこで事の真意を知ろう。 なぜ俺なのか?俺に何をさせるのか?そして……元の世界に帰る方法も。「俺は……この改変された世界を破壊するためのプログラム・西野太陽。 誰にも文句は言わせない。これが俺の物語だ」
『この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし』『わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました』『ちょっと違うような気もするんですが、そうですね、超能力者と呼ぶのが一番近いかな。そうです、実は超能力者なんですよ』『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』『俺、実はポニーテール萌えなんだ』『あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分、大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会だわ』『時間というものは連続性のある流れのようなものでなく、その時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものなんです』『生み出されてから三年間、私はずっとそうやって過ごしてきた』『煎じ詰めて言えば『宇宙があるべき姿をしているのは、人間が観測することによって初めてそうであることを知ったからだ』と言う理論です』『いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ』
スピーカーから流れる言葉は、いつもならSFすぎて関心するだろうが、今はこんな状況だ。信じない方がおかしい。 俺がいた場所は退屈でくだらない世界ではない。 何でも知ったフリをした俺がガキだった。 戻りたい。本心だ。 記憶の中から部室棟の居場所を思い出しながら、灰色の校舎を歩き回ること数分。やっとSOS団のアジトがある文芸部へとたどり着いた。
この世界になった前日の深夜、俺は病室で六組の長門有希を見た。 この学校じゃたった一人の文芸部員であり、SOS団のメンバーらしいからな。 ここまで証拠が揃っていて無関係なわけがない。 間違いなく関係者だ。それも黒幕クラスのな。 ノックを四回しても返事がなかった。まぁ、いてもいなくても上がり込むけどな。 ここは便宜上は文芸部室だが、今は涼宮ハルヒ率いるSOS団アジトだ。初めて中を見たが、部室って言うよりは子供の秘密基地に見える。可愛いところあるじゃないか。涼宮ハルヒ。 いた、長門有希だ。窓際のパイプ椅子に腰をかけて、殺人事件の凶器になれそうな本を開いている。「俺を読んだのはお前か?長門」「消失世界及び改変世界の同期を確認。西野太陽、あなたを待っていた」 このセリフが出たと言うことは、物語のラストに流れるめでたしめでたしまであと少しだと思っていいのか?あまり鵜呑みにはしたくないが。「待っていたねぇ。俺もお前には会いたかったよ。もちろん、何でこんなことになったんだと聞く意味でだがな」 交通事故に逢ったはずの俺が元気でいたり、気がついたらこんな色気の無い夢想世界に召喚されちまったことも含めて知らないことだらけだ。 ここまでされて謎を残すなんて出来るか。「全て話してくれ。何も知らないまま退場なんかしないからな」「言語では情報に齟齬が生じる。でも聞いて」「何を今さら。例え涼宮ハルヒが神様と言おうが信じてやるよ」
その通りだった。「なんだそりゃ。馬鹿馬鹿しすぎて笑えるね」「真面目に聞いて」 長門有希が声のトーンを少し重たくした。「聞いてるし信じてるから安心しろ。その上にあんなに探していた宇宙人未来人超能力者が、こんなに近くにいたとはな」 こんな面白い話あるかよ。ああ、ここにあるのか。「今、私たちが存在している空間は、涼宮ハルヒの情報創造能力で私が構成した情報空間。改変世界の裏側に存在する」 情報空間に改変世界。まず間違いなく、こんな事態でなければ聞く機会など無かったであろう単語だ。「お前らが今まで何をしてきたかはわかった」 大筋だけ理解したが、壮大すぎる。こんな状況でなければ誰も信じないだろうね。まさかこんな狭い部屋が世界の命運を握っていたなんてな「重要なのは「今」だ。一体、今なにが起きているんだ?」 俺の蘇生と母の死。 防衛プログラムと破壊プログラム。 連続殺人鬼朝倉涼子。 小さな涼宮ハルヒと灰色の世界に蒼い巨人。 この全てを繋げなければ、この物語は終わらない。終わらせない。「防衛プログラムと破壊プログラムとはなんだ?」 朝倉涼子と長門有希が発していた二つのプログラムの存在理由がこの世界の核である。これを知らなければならないはずだ。「防衛プログラムは、選択権を持つ彼を殺害し、改変世界を防衛することが目的。それを防ぐために破壊プログラムを探索していた」 破壊プログラムと発した瞬間、長門有希は俺に目をくれた。「破壊プログラムが存在する限り、朝倉涼子は鍵である彼を殺せない」 おいちょっと待て。それじゃあ、「朝倉涼子の殺人は、破壊プログラムであるあなたを見つけるために行なわれた選別作業。数あるパターンの中で、破壊願望を爆発できる人物を……」「ふざけんな!」 木目の天板が、握り拳の一撃で叩き割れた。「俺の母親は、そんな下らない理由で殺ろされたのか!?」 長門有希の語る真相は俺には理解しがたいものだった。 朝倉涼子がなぜ連続殺人を行ったか。それは大切な存在を奪われ、復讐の念に捕われるほどの強い破壊願望を持てる人物を探すためだ。「改変世界の中で、朝倉涼子が破壊プログラムと判断した人物は10人。彼女はその中から、あなたを見つけた」 そう「選別」だったのだ。朝倉涼子はひよこのオスとメスを判断する作業を行なうくらいの気分で人を殺し、俺に辿り着いた。「じゃあ何か?!お前は俺と朝倉に殺し合いさせて、高見の見物かましてたってのか?!」 俺が朝倉涼子を止め、キョンに選択させる。それが世界を破壊した長門有希の義務であり、俺の役割だ。「SOS団のある世界を守るためには必要なこと」「それがくだらないって言ってるんだよ!」 長門有希は俺が朝倉涼子へ復讐を決意するために、俺の母親を殺したと言ってるようなものだ。 そうしなければ、母の死を目の当たりにした俺が防衛プログラムである朝倉涼子とカチ合わない。「お前の言う「世界」ってのは、そこまでして守る価値がある物なのか!?」 俺は絶対に認めない。誰かの犠牲の上で成り立つ世界なんか間違っている。 それでもこいつはやったんだ。自分の尻拭いを俺とキョンにさせるためにな。「なにがプログラムだ!お前に取っちゃゲームみたいな物かも知れないがな、俺に取っちゃ現実以外の何物でも無いんだよ!」 母親が惨殺された姿なんて一生物のトラウマだ。二度とハンバーグ喰えそうにねーよ!「問題ない。彼が脱出プログラムを作動し、時空を改変すれば時間軸の書き換えが行なわれる」 問題ない?それでアフターケアのつもりか!「俺の感情や激昂はどうなる!これを無かったことにできるほど俺の魂は腐っちゃいないんだよ!」 全てキレイサッパリ忘れろってか?冗談じゃねぇ!俺のせいで死んだ母親と、俺のために死んでくれた森園生を忘れるなんてできるか! だが、長門有希は俺を本気で理解できないのか、黒曜石の瞳を動かすことなく凝視している。 その姿が異様に機械的に見えたせいか、俺の中の攻撃性がドンドン剥き出しになっていく。「おまえにわかるのか!?唯一の肉親を失った気持ちが!命張って助けてくれた恩人を見捨てた気持ちが!わかるわけないよな!無から生まれた心無い人形風情なんかに、人間の気持ちなんて理解できるか!」 おいこら何とか言ってみろよ。お得意の理解不可能な超言語で解説でも弁明でも反論でもしてみろよ。出来るもんならなら!「……私には、あなたが興奮する理由が理解できない。でも、あなたが激昂していることはわかる」 んなもん見りゃわかるだろうが。ふざけてんのか?「私は人間の倫理の一線を越えてしまったと思われる。謝罪する」 誰が見てもわからんだろうが、わずかばかり頭を傾けた気がした。「で、俺になにをさせる気だ」 少しでもドーパミンを鎮めようと、足を割れた天板に投げ出す。宇宙人側の願いを聞いてやるなんて癪だが、俺が無事に帰るためには、こいつらの言う事を聞かなきゃならん。あー、ムカつく。 「あなたに依頼する事は一つ。防衛プログラムである朝倉涼子の破壊」 どうやら今度は俺を殺人鬼にするつもりらしい。「なんで俺なんだ。お前がやればいいじゃねーか。自分の尻くらい自分で吹けよ。それができなきゃ最初っからやるな」 俺は今までケンカや無免許運転等、結構な悪事をやってきたが、殺人なんかしたことはない。それが人間の一線を超えた行為であることくらいわかるさ。「私が情報操作を行えるのはこの空間だけ。それは朝倉涼子も同様だが、彼女は防衛プログラムの役割りを担う為、常人よりも身体能力を高く設定した」 知ってるさ。ナイフで弾丸弾き落としてたしな。「朝倉涼子を止めることができる存在は、彼女と対なる存在として改変世界にインストールされたあなただけ」 買いかぶりすぎだ。俺はどこにでもいるエセヤンキー生徒であり、間違っても世界の命運を握るようなタマではない。自分がスーパーヒーローになれないことくらい自分が一番よくわかっている。 「信じて」 黒曜石の輝きが真っ直ぐに俺を射抜く。「こんな作り物の世界、クソだ。だからお前らの望むように動いてやるよ。だがな、これだけは聞かせろ」「何?」「決まってるだろ。なぜお前がこんなことをしたか、だ。なぜ全てをリセットするマネをしたのに、俺を使って修正なんかする。明らかに矛盾してるだろうが」 リセットボタンを押してセーブデータを消した本人が、今度はわざわざデータを修復している。 途中で過ちに気付いたからか?違うね。だったら事前に防衛プログラムと破壊プログラムを仕込むわけがない。 長門有希は最初っから俺と朝倉涼子が激突することを決めていた。そうとしか考えられない。「それは……」 言いよどむ様に虚空を睨んでいる長門有希の仕草に、少しだけ罪悪感を覚えた。俺は学校の先生には向いてないのかも知れない。「朝倉涼子は私の利己主義によって再構築された存在。私は全ての現象を破壊したかった。しかし絶対に防衛すべきとも思考した。……なぜ?私には理解できない」 知るかよ。と言いたかったが、俺の類まれ無いほどに発達しシックスセンスが答えを見つけてしまった。 朝倉涼子が創造されたのがエゴだと言った。なら俺は?
そう、俺は長門有希の良心なのだ。
長門有希の心の中には、確かに全てを破壊したくなるような負の感情が備わっていた。だがそれを許さない正の感情もあったはずだ。 だから俺をここに呼び寄せた。 エゴを止めるために。 良心を信じるために。 っち、憎悪の感情が薄れちまったじゃねーか。「もうわかった。俺はお前の科した役割を全うしてやるよ」 朝倉涼子を止める。そうしなければ俺は現実には帰れないし、腹の虫も治まりそうも無い。「朝倉はどこにいる」 ターゲットがどこにいるか分からなければ朝倉涼子を止められるわけがない。今はノリよりも確実な情報原だ。「そのまま一年五組に戻って。扉を開けば改変世界の一年五組に繋がる。朝倉涼子はそこで彼をを削除する準備をしている」 便利な上に分かりやすい展開で助かる。そしてラスボスは準備万端ってか。こっちは満身創痍だってのに。時代遅れのカニ歩きファミコンRPGみたく、直前で体力気力暴力を全力で全回復してはくれないだろうか。 割れた天板から足を除けて立ち上がり、入り口の前まで歩き出す。「だが長門、一つだけはっきりしておく」 ドアノブに手をかけた瞬間、変わらずパイプ椅子に腰掛ける長門有希に目をくれた。ああ、これだけは言っておかないとならない。「俺は、俺の世界を守るんだ。お前らの世界じゃない。俺の世界だ」 誰のために動くのか。それはSOS団なんてちっぽけな存在じゃない。俺が信じる俺の魂のために動くんだ。「……こんなこと、人形のお前には理解できないかもしれんがな」 結果的には大差無いが、心情的には大違いだ。俺は俺の魂を信じる。それだけだ。「そう……かもしれない」 それだけ言って、長門有希は言葉をつぐんだ。
代わり映えの無い灰色の廊下を歩いているが、心情はさっきとまるで別だ。 この廊下を歩き、朝倉涼子と対峙した時。俺は朝倉涼子を殺すことができるのか? やらなきゃならんのだ。できなかったら、俺が朝倉涼子に殺される。「……そんな簡単に割り切れねーよ」 裏ポケットから煙草のソフトパックを取り出す。おっし。まだ残ってるな。 とりあえず中身を一本くわえ、灯を灯す。一服ぐらいさせてくれ。こっちは色々情報詰め込みすぎてCPUがオーバーヒート気味なんだ。 仮に朝倉涼子を殺せたところで、俺はどうなるんだ? キョンが元の世界を選ぼうが、俺の交通事故がなかったことになるわけがない。 あれはこの世界とは全く関係ない俺のミスだ。今はそれなりにピンピンしているが、気が付いた時には病院のベッドに戻っているかもしれない。 いや、それならまだラッキーだ。あの事故だ。元に戻った瞬間、死ぬ可能性だってある。 だからって逃げ出すわけにはいかない。ビクついて芋引くくらいなら、男を見せろよ。
一年五組への道のりは距離で言えば短かったが、体感的には呆れるほどに長く感じられた。 死刑直前の囚人が十三階段を登る気分はこんな感じだろうか。演技でも無いが、これしか思いつかない。「……もういい。考えたところでどうにもならない」 前に。一歩でも前に。引いたところで俺の足元には崖しか無いのだから。 だったら飛び込んでやるよ。 煙草を靴底で揉み消し、肺に新鮮な空気を送りこむことで気分を入れ替える。「いくぜ。朝倉ぁ!」 引き戸をブチ破る力強い蹴りが放たれた。
第四章へ続く
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