失ったもの・得たもの 第二話「絶望からの反撃」
「いつつ…まだ体中いてぇ」あれから数週間がたった。毎日毎日古泉や谷口、他いろんな奴にぼこられた後、全身の痛みに耐えながらなんとか帰る日々。何度も夜中に痛みで目が覚めた、おかげで最近寝不足だ。ハルヒの能力は。ハルヒ達がいじめの張本人だと知った次の日、俺はすでに学校中の嫌われ者と化していた。誰一人俺と話をしようとはせず、ヤンキーに会えば問答無用で殴られる。それをみた教師ですら助けようとはしない、むしろ全面的に俺が悪者扱いだ。さらにハルヒの能力は俺の家にまで浸食していた。古泉と谷口にぼこられた次の日、痛みで早く目が覚め、せっかくだからと妹を驚かせようとそのまま起きていた。「っ!起きてる…」「ああ…たまには起きるさ」起こしにきた妹に爽やかに挨拶をしたら、妹はつまらなさそうな顔でこう呟いた。「っち…ずっと寝たままならいよかったのに」 一瞬何を言われたのか理解出来なかった。「おっおい、今のどういう…」「しゃべりかけないでよ、気持ち悪いから」「………」何も言えず黙ると、妹は気持ち悪そうに俺を一瞥した後階段を降りていった。もう家族ですら…俺の味方ではなくなっていた。学校に行きたくはないが、家にいても親にぐちぐちと言われると思い、仕方なく学校に行った。ただ登校してるだけなのに一緒に歩いていた生徒はみな気持ち悪がって俺から離れる。今すぐ消えちまいたい気分だ。しかし当然そんなことで満足するハルヒでなく。靴箱には、数日前から中にゴミやらガムやらいろいろ詰められている。この分じゃ上履きは一生返ってこないだろう。保健室のスリッパもなぜか貸して貰えず、最近はもう靴下で学校中を歩き回っている。下靴はとられないようにビニール袋に入れて鞄に入れている。ここまでして学校にくる意味なんかあるのだろうか…?考えても仕方のないことだと諦め教室に向かった。 教室に入ると、一瞬あたりが静まり返った。全員がこっちを見ている。それは嫌悪の眼差しだったり、あるいは侮蔑の表情だったり、あるいは嘲笑すり笑顔だったり。「お前なんできてんだよ?」谷口が絡んできた。毎回毎回こういう状況で俺に絡むのはこいつだ。「学校に来るのは俺の…ごふっ!」「おいおい、ゴミはしゃべんなよ。気持ち悪さに女子が泣いちゃうだろ?」腹を殴られて黙る、あたりからくすくすと笑う声が聞こえてきた。ちくしょう…ちくしょう…なんで俺がこんなめに。席に座ろうと、俺の席を見たら…机と椅子がなくなっていた。「おっ…俺の席は…?」「はっ?このクラスは3○人だぜ?最初からお前の席なんかねえよ」そしてまた聞こえる嘲笑…到底耐えられるものじゃない。多勢に無勢とはよく言ったものだ、涙が零れる前に俺は教室を走って出た。教室を出た瞬間、どっと笑い声があがった。くそっ聞こえるもんか…。そのまま俺は部室に向かった。 「長門なら…」いじめにあいはじめてもう何日も過ぎたが、未だに長門は俺に何もしなかった。ハルヒや古泉や朝比奈さんが俺を散々痛めつけている中、長門だけは俺になにもしなかった。だから長門ならこの状況をなんとか出来るんじゃないのかと、そんな妄想を信じた。ガチャリっ!ドアを開けると、やはり長門は部室にいた。いつもの定位置で分厚いハードカバーを読んでいる。「…」「長門…耐えられないよ。お前の能力で…なんとか」「断る」「っ!?なんでだよ!」「私はあなたになにもしない。でも助けることもしない」「…そんな」「私の観察対象は涼宮ハルヒ。あなたではない」「だからって…そんな簡単に仲間を見捨てるのか?」「…」長門は…一度も俺のほうを見はしなかった。諦めて部室をでると、朝比奈さんがそこにいた。 「長門さんもいったでしょう?私の観察対象はあくまで涼宮さんです。だから、涼宮さんが興味をなくしたあなたは…もうどうでもいいんです」そんなちっぽけな友情だったのだろうか…SOS団の仲は。俺一人だけが、みんなは絶対に裏切ったりしないなんて信じていたなら…これほど馬鹿な話はない。「だから…切り捨てるんですか?こんないとも簡単に」「切り捨てる…なにを誤解してるんですかぁ?」おかしそうに朝比奈さんは笑い、こう続けた。「あなたなんか、最初から仲間だと思ってませんよ」ずっと…ずっと、その笑顔で俺を癒し続けてくれた天使から告げられた言葉は、まるで死の宣告のようだった。「…長門も?」「ええ」「古泉も?」「ええ、涼宮さんがたまたまあなたを連れていたから一緒にいただけです。」なんだ…信じるもなにも…俺は…最初からSOS団の仲間じゃ…なかったんだな。絶望する俺を嘲笑した後、朝比奈さんはどこかへいった。その後俺はいつものごとく、谷口率いる男子生徒によって体育館裏へ連れて行かれた。「おらっ!もうへばったのかよサンドバックよぉ!」「がっ………」…瞳から涙が溢れてきた。悲しいや苦しい…そんなものじゃない。虚しかった。こんな奴らを信じ続けた自分がただただ虚しかった。虚しくて悔しくて、涙が溢れた。「ははっ、こいつ泣いてやがる!」「泣きたきゃ泣けよ、泣き叫んじまえ。おらっ!」「………」その日は気を失うまで殴られた。目を覚ますと手に持っていた筈の鞄がない。なんとか首を動かしあたりを見回すと、鞄は俺の近くで無残に踏みつぶされていた。教科書もぐちゃぐちゃ、せっかく盗まれないように隠した下靴も切り刻まれていた。唯一ポケットにいれていた財布だけをもって、俺は夕方の学校を後にした。 ズルズルと体を引き摺って街中を歩く。通りかかる人達はみな気味悪がって俺に話しかけようともしない。はは、これが本当の四面楚歌か。途中煙草の自販機を見つけ、なんとはなしに買ってみた。銘柄なんてわからないから適当だ。なんでもいい、現実から目を背けたかった。コンビニでライターを買ってから人に見つかりにくい路地を見つけ、そこに座って煙草に火をつけた。「…っ!?ごほっごほっ…」不味いし気持ち悪い、しかもむせた。でも、気分が落ち着いた。やけに冷静になっていくのがわかる。不味くて体に悪いが、それでも人が煙草を吸う理由がわかった。落ち着くんだ、物事を考える間を与えてくれる。「考えてもみりゃ、俺にはもう味方はいないんだよな…なら、どう生きようと俺の勝手だよな」もういいや…空気にとけていく煙草の煙を見つめながらそう思った。そして決めた…好きに生きてやると。 翌朝、やけに早く目が覚めた。痛みからじゃない、頭が妙にさえている。思えば昨日好きに生きると決めたときからこんな感じだった。今思えばなんで何もできずいじめられていたのかと疑問に思う。それは多分、まだ心の中で奴らを信じていたからだろう。なんたる馬鹿さ加減、昨日までの俺をぶん殴りたい気分だ。あんな奴らもう信じはしない、もうどうでもよかった。あいつらも、あいつらを信じ続けた俺も…本当にくだらない。ベッドから起きて制服に着替えると、妹がやってきた。「あっ、また起きてたの?気持ち悪いから寝てなよ」しかし、こいつも調子にのりすぎだな。ちょっと懲らしめた方がいいだろう。「だいたい生きてたってなんの価値も…っ!?」ナメた口をきく妹の胸ぐらをつかみあげ持ち上げる。「おい…誰に向かってそんな口聞いてんのか分かってんのか?」「っひ!」ちょっと脅しただけでこれかよ…くだらない。ベッドに投げ込むと、泣きながら下に逃げていった。 準備をすませ下におりると、お袋がカンカンに怒っていた。「あんた妹に何したのよ!あの子泣きながら学校に行ったわよ!?」「妹がふざけた口きいたからちょっと説教しただけだ」「はぁ!あんたねぇなにわけのわからないこと言ってるの!?だいたいねぇ」あーあーうるせぇなぁ、はいはいどうせ俺は悪者ですよ。怒鳴り続けるお袋を無視して、替えのスニーカーを履いて家をでた。どいつもこいつもくだらない、みててイライラしてくる。昨日までの俺はいったいどこに行ったのだろうか。しかしそれももうどうでもよかった。相変わらず離れて気持ち悪そうにこっちを見る生徒達を無視して学校に登校する。まず靴箱の中のものを取り出した、谷口のとこにでも突っ込んでおけばいい。そして教室に向かうと、やはり昨日と同じような反応で迎えられた。「ちょwwwまたあいつきてるしwww」「きもwwwさっさと消えてよwww」「ばかじゃねえの?www」ああ…本当にくだらない…。 「あれ?なんでまたきてんだよお前。ここにお前の場所はねえってのwww」そして昨日と同じように谷口が絡んでくる。こいつらは同じことしかできないのだろうか…バカバカしい。「しゃべりかけんな、気持ち悪い」「あっ?今なんつった」俺の胸ぐらを掴もうと伸ばした手を払いのけ鳩尾に一発入れてやった。「がっ…」そのまま谷口は床に倒れ込む。あまりに予想していなかった事態なのか、クラス中が静まり返った。「しゃべりかけんなっつってんだよ。どいつもこいつも…お前らみんな気持ち悪いんだよ」そう言うと、またクラス中が騒ぎ始めた、壁を殴って黙らせる。「もっかい言わなきゃわかんねえか?」「ちょっちょっとあんた!」そこまで言ってもまだ騒ぐ奴が一人…涼宮ハルヒ。「あたしの彼氏になにすんのよ!」なんだ、谷口とこいつは付き合っていたのか。アホ同士お似合いだな。 「なぁんですってぇ!?」口から漏れてたらしい、別に構わんがな。勇猛果敢にこっちに歩いてきた涼宮の胸ぐらを掴んでこっちに引き寄せた。「なっ何すんのよ!」「俺の机と椅子はどこだ」「はぁ!?」意味がわからないという顔をしたので、机に向かって突き飛ばした。「きゃっ…」「涼宮さん!あんたか弱い女子になにすんのよ!」「へぇ?か弱い女子に手をだしちゃいけないのにたった一人を集団でいじめるのはいいのな」そう言うとクラス中が黙る。騒いだり黙ったり面倒くさい奴らだ。もう一度壁を殴ってから怒鳴る。「さっさと俺の机と椅子持ってこいっつってんだよ、もっかい言わなきゃ理解出来ねぇか?」ビクッと怯えたクラスの内の何人かが足早に教室を出て行く。女子は泣き出す奴までいる始末だ。「机と椅子持ってきたらちゃんとなおしとけよ」それだけ言って俺は教室を出た。向かう先は屋上、無論煙草を吸うためである。 そんなこんなで屋上にやってきて煙草を吸う。「スー…はぁ~…」さて、とりあえずこれからは勉強することにしよう。好きに生きるには強さが必要だ。そして強さを得るには武器が必要だ。肉体的にも頭脳的にもな。体も鍛えることにしよう、これから忙しくなりそうだな。やっぱり煙草はいい、吸いながら考えごとをすると纏まるからな。そのまま一時間目はサボろうと思い煙草を吸いながら考えていると、柄の悪い二人組が屋上にやってきた。「あっ?誰だこいつ」「あっこいつあれだ。一年でいじめられてるやつ」「まじかよwwwなぁおい、今俺金に困ってんだけど貸してくんね?」そう言いながら絡んできた。バカの谷口ならともかくヤンキーが二人組、しかも年上ときたもんだ。さて、どうでるかな。「…」「おい、なんかいえって」近付いてきた一人に吸っていた煙草を投げつけた。 「おわっあぶね…ぐっ!っが!げはっ!?」驚きつつかわしたところで鳩尾に一発、さらに頭を掴んで膝をお見舞いした後思いっきり蹴飛ばした。一人できてくれて助かった、各個撃破ならなんとかなりそうだ。「てめぇ…」「あーあ…煙草がもったいねぇよ…なぁ?」そう挑発すると馬鹿正直に突っ込んできた。やっぱ馬鹿だったな、まぁ頭よかったらヤバかったが。胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてくる。本来胸ぐらをつかむのは危険な行為なんだがな、わかってないらしい。その手を掴みこっちに引き寄せる、体勢を崩しこちらに倒れ込むところに膝を入れてやる。「っぐぁ…」「格上相手に胸ぐら掴もうとすんじゃねえよ、馬鹿じゃねえのか」悶絶するそいつの鼻っ面を思いっきり殴った。倒れ込んだそいつらはそのまま動かなくなった。はぁ、本当にくだらない。こいつらも、俺自身もな。一時間目終了のチャイムがなる。そいつらをほったらかしたまま、俺は屋上を後にした。 教室に戻ると、ちゃんと俺の机と椅子はセットされていた。「ふぅ…」さっきの喧嘩は疲れた、頭でいろいろ考えるのはやっぱり得意じゃない。机に突っ伏していると、懲りずに話しかけてくる奴が一人。「おい、さっきはよくもやってくれたな。っあ?」「しゃべりかけんなっつってんだろ…うぜぇな」「もっぺん言ってみろ!」学習能力がないにも程があるぞこいつ。いい加減鬱陶しくなってきた。「たっ谷口、もうやめときなよ」「うるせぇ国木田、こんなやつにナメられてむかつかないのかよ!お前ら!」谷口の言葉に息を吹き返したように、また教室中が騒ぎ始めた。「そっそうよ!消えなさいよあんた!」「気持ち悪いっつうの!」「つか俺あいつの机触っちまったよ、やべ、キモ菌移ったwww」…本当にこいつら…くだらないな。騒ぎ立てるクラスの奴らに向かって机を蹴飛ばし立ち上がる。 「何度言えばわかるんだ?口で伝わらない程馬鹿なのか?」それだけでまた教室は静まる。腰抜けばかりだ、腰の抜かし方も知らん馬鹿もいるみたいだがな。「お前なんか怖くねぇんだよ!俺に殴られながらピーピー泣いたくせに」「それまじ?きんもーwww」腰の抜かし方を知らない馬鹿っぷる、本当に疲れるなこいつら。「ああ…そんなこともあったか。本当に馬鹿だったなあんときの俺は…よっ!」涼宮と一緒に笑う谷口の頭を掴んで顔面に膝をいれる。「がっ…」「谷口!あんたやめなさいよ!」「お前らみたいなのを信じてよ…今は虐められててもいつか元のみんなに戻るなんて思ってよ」話しながら谷口の顔面に何発も拳を叩き込む。「やっやめて!謝るから!もうやめてぇ!」涼宮が泣きそうな顔になってる、こいつもこんな顔出来たのか。まぁ、どうでもいいがな。二時限のチャイムがなったあたりでようやく谷口を離す。 「谷口!国木田、保健室に連れていくわよ!」「うっうん」涼宮と国木田は谷口を抱え教室を出て行った。教室内は完全に静まり返っている、もう俺に何かを言う気にもなれないだろう。そいつらを無視しつつ机を直して席に座ると、数学の教師がやってきた。「なんだお前ら、さっさと座れ」そう言われてやっと席に座る。あんなんみた程度で動けなくなるようなやつらが、まぁよくも一人の人間を虐めるなんて出来たもんだ。集団心理ってのは怖いもんだな。「ん?○○お前今日はいるのか。よく学校にこられるよなぁ、そんなんで」獲物を見つけた狩人のように笑い教師が俺を責め始める。このすうが教師は生徒を虐めるのが大好きなのだ。とんだS野郎だな、やれやれ。机を思いっきり叩いて黙らせた。「いいからさっさとやれよ授業。時間がもったいないだろうが」鶴の一声ってやつだ、それだけでびびった数学教師は授業を始めた。 その調子で残りの授業も過ごし、学校が終わった。帰ろうと靴箱に向かって歩いていると、朝比奈・鶴屋の二人組が俺の靴箱になにかしようとしていた。「おい」「?ああなんだキョン君ですか。よくこんなダサい靴はいてられますねぇwww」「言っちゃだめだよみくる。前の靴はズタズタになっちゃったんだからwww」そう言って二人して笑っている。こいつらもとんだクズだな。痛いのを承知で靴箱を殴った。おっ意外とへこむもんだな。「っで?あんたらはその靴をどうしようってんだ?」「あっ…あっ…」「触んなよ、気持ち悪い」朝比奈から靴を奪い取り履き替える。「ちょっ…ちょっと、みくるを怯えさせないでくれるかな?とんだ最低野郎…」鶴屋が何か言おう言おうとしたので、睨んで黙らせた。「俺に近付くんじゃねえよ…気持ち悪い」そう吐き捨てて、俺は学校を出た。 まぁ、初日はこんなもんだろうな。その日から、反撃が始まった。【第二話:絶望からの反撃】完
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。