向日葵
人は俺のことを鈍感だと言うだろう。 否定はしない。いや、出来ない。自分自身そう思うからだ。 辺りは蝉が奏でる音色に支配され、空の一点から放たれる熱気が俺の体温を上げ、思考を鈍らせる。 だが、考えることを止めることはない。なぜなら、今、答えを得て応えることが必要だからだ。 さて、俺の声色は上面に展開された澄み切った青空の様に、吹っ切った色になるだろうか。 俺は考える。 今の俺は異世界人。 ここは、元居た世界とは異なる世界。 この時間は、俺という固体が初めて過ごす時間。 時間軸は変わっていない筈なのに、たった一つの言葉で世界は変わった。 俺が立っている場所は、時間の岐路。 俺の一言で、世界は再び姿を変える。 自分の望む世界を決められる権利。 それは、ある人にとっては残酷で、ある人には至幸のもの。 俺の場合はどちらか。選択前の状態では、後者であろう。 しかし、選択次第では前者の意味へ変容する。 答えは決まっている筈なのに、頭からそれを遠ざけようしてる自分がいる? 元の世界に背を向ける事が怖いから。 笑顔という花が、自分の目の前で散るのが怖いから。 中途半端は駄目だ。 水をやらない花は、いずれ枯れる。 天の光が暗闇で見えなくなった時、死に絶える生物はどれだけいるだろうか。 俺の見ている花は生き残るだろうか。 俺を見ている花は微笑むだろうか。 そこに咲く、向日葵のように。 俺は考える。 目の前の花は、自分で花を咲かしたんだ。弱い筈がない。強いんだ。 だけど、俺の力でより輝かせることが出来たら、それは素晴らしいことだと思う。 花は枯れても、種を残すことが出来る。俺にその資格があるのなら。 胸の高鳴り。 これを、愛と呼ぶのなら闇を晴らす光となり、遙遠くまで続く道程を照らすだろう。 なんてな、俺らしくねえ。 答えは決まってんだ。 「ハルヒ」 俺の声色は、青空に浮く一筋の白い雲。 真っ白なスケッチブックに描かれた、最初の線。 ベンチに座るハルヒは、瞳に俺の顔を映す。 おまえは、欲しい物を手に入れる。 それから、俺に色々な物をくれるだろう。 貰った物を返す気は無い。 だから、取り返しに来ないでくれ。 「待たせたな」 たった一つの言葉で、世界は姿を、時間は進むべき道を定めた。 それは、ハルヒが首を縦に振ったからだ。 言葉を受け取る相手が居て、初めて世界は動く。 俺は、黄色い花へキスをした。 そして、肩にかけた手を離したくないと思った。 こう思ったのは、二度目。 世界を救う為にしてる訳じゃない。 好きだからしてるんだ。 ある日、星が落ちてきた。 俺を迎えに来たかの如く。 星は勢いを持って、俺の心を吹き飛ばした。 そのことに、喜びを感じた。 俺は待っていたんだ。 星が落ちてくるのを。 やがて、星は花を咲かせた。 綺麗な花を。 世界の片隅に咲く、ちっぽけな一本の花。 言葉を渡すと、世界の半分を支配する大きな花になった。 そして、今日。 俺の見る世界は、花しか見えなくなった。 とても暖かくて愛しい花。 偶然に出逢った、そんな花が世界を覆い尽くしたんだ。 向日葵の花言葉を知ってるか? “あなただけを見つめている” クサイ言葉だな。 だが、俺もハルヒも同じことを思ってる。 嘘じゃない。 本当のことさ。 おわり
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