立場(家)
☆注意!「どちらでもいい」出来心で書いたとんでもない電波です。
少年は中学生だった。歩道に腰を下ろし、トラックを見ている。そのトラックに、人々が特撮衣装や大きな箱を詰め込んでいる。「あの人たちは、何をしているのでしょうか」友人がそばにやってきて自分の横に腰を下ろしたので、少年は尋ねた。「決まってるのです。特撮です。私、超能力者になりたいなぁ。かっこいいなぁ」「つまり、超能力を発揮しなければならない人になりたい、と」「それはそうなのです。超能力者になりたいんだから当たり前なのです」
友人は微笑んでいるが、少年は青ざめる。
「かわいそうに。あの人たちはなんの必要があってそんな不幸なことを演技するのでしょうか」橘京子と呼ぶその友人は本当に不思議そうに聞き返す。「どうして不幸だなんて思うのです?むしろその反対なのです。他の人とは違うことができるのです。もし私があの人だったら私ハッスルしちゃうのです」少年は自分の家に帰った。庭の草むらに座り込んだ。そして、涙を流した。「なんということだろう。考えられない……。超能力者になるだなんて、誰かを殺してしまうのと同じぐらい悲しいことじゃないか」
彼はその前の日に超能力者となっていた。赤の他人の怒りを暴力的に、自分の意思に関係なく押し付けられる、みじめな超能力者に。
少年は高校生になった。ベンチに腰を下ろし、友人の手元を見ている。その紙には、さまざまな数式が書かれている。「あの人たちは、何をするのでしょうか」友人が数式を一通り書き終わったので、少年は尋ねる。「わからない。彼らの行動は私にも理解はできない。ただひとつ、天蓋領域のインターフェースの情報処理能力は私より高いことを理解している。」「つまり、彼らはあなたにも想像できないぐらい強大である、と」「私は恐れない」
友人は微笑んでいるが、少年はやはり青ざめる。
「なんてことだ。あなたに頼ってもどうしようもならない事象なんて、僕になんとかできそうもないです。」長門有希と呼ぶその友人は無表情に疑問符を浮かべて聞き返す。「何故?あなたは私に劣らない。むしろ私より多くのことができる。もし私があなたでも、私は何も恐れない」
少年は友人の家にいる。彼は嫉妬の心を抱いた。もはや宇宙人としての力を破棄し、恐れを持たないこの友人に。「嘘です。嘘だ!嘘に決まっている!あなたは義務を捨てたんだ。ただ単に皆に厄介事を押し付けたいだけなんだ!」
彼はみじめな超能力者である。赤の他人の怒りを暴力的に、自分の意思に関係なく押し付けられる、みじめな超能力者である。
友人は震えている。寒さのゆえか、恐怖のゆえか。しかし、気温は上がっていて、暑いくらいだというのに。
友人は震えている。彼女はかつての大切な友人と諍わなければならない。恐怖が彼女を支配する。「あの人たちは、どうしようというのでしょうか」周りに友人がいないので、橘京子は自分自身に聞く。「決まってるのです。喧嘩です。私、なんで超能力者になんかなりたかったんだろ。みじめだな」どう演技しても、かつての友人相手に殺し合いなどできそうにない。だが、万一。「それは当然なのです。超能力者だから当たり前なのです」
そうはいいつつ、橘京子は青ざめる。
「どうもないです。私は上層の仕事を成し遂げるだけです。私になんとかできるわけもないです」なんとかなるわけがない。運命には逆らえない。「どうして不幸だとおもうのでしょうか。考えられない。なんで私は他の人と違うんでしょうか。同じだったら、古泉君、ずっと友達だったのかな」
彼女はみじめな超能力者である。赤の他人の事情を暴力的に、自分の意思に関係なく押し付けられる、みじめな超能力者である。
友人は震えている。古泉一樹からの罵声はエラーを生じさせた。何故信じてくれないのか、その思いが彼女を支配する。「あなたは、どうしたい?」それでも声は出さなければならない。大切な友人である、彼のために。「できるならば…やめたいのです。こんなこと」他の誰にもわかるわけがない彼の感情が、彼女には理解できてしまう。「私になにをしろ、と」長門有希は、目の前の友人を抱きしめる。もともと感情がプログラムされていない自分に、他人の感情が理解できるというのはおかしい話だと思う。彼はこの世界を守るために、回りと、自分の心を犠牲にしなければならない。
自分を、周りを傷つけるだけの能力は必要ない。だから彼女は能力を捨てた。だが、彼は捨てることができない。彼女はみじめな『超能力者』だった。回りと、自分の心を犠牲にするのはもうたくさんだったから、世界を捨てた。
孤独な超能力者の泣く声が聞こえる。
二人が泣き終わった次の日、彼女は昔の友人に話をするために再び足を向けた。ある日曜日のことであった。
彼女は歩を進めた。そして目にした。彼女の友人がそこにいた。ずっと動かず、空虚な有様で。「なんだか疲れてるみたいです」彼に向かって、彼の友人は言った。「それでも、私の話を聞いて欲しいです」それ以降、少女は毎週、彼の家を訪問するようになった。やってきては語りかける。「私と同じくらいに辛いんですか?」十月の雨が窓を容赦なく打ち、風が窓をふるわせる。「泣かないでください」自らむせび泣きながら、彼女は叫ぶ。「約束します。私は必ずあなたがたと和解して、あなたともまた大切な友人に戻る」誰とも知らぬ女が角から顔を出し、険しい目つきで彼女を見下ろす。「敵です」少女は心に一撃を喰らい、呆然とする。「あなたは他人を受け入れた。もう私を愛してくれてないんだ。あの女が憎い!」
戦いは終わった。両方が壊滅し、二人は果てた。
彼の友人が観察対象と呼んでいた二人は結ばれ、他の一人と共に彼女の友人のままであったが、時は彼らを隔てた。
彼女は決心した。自分の元々の友人を再構築しようと。それ以外なら、すでに何とかなっている。新しい関係、新しい友人、新しい親友。しかし、あの最初の友人、唯一無二の彼らが欲しい。 彼女は情報統合思念体に相談した。情報統合思念体は当然ながら困惑した。「正確な数値が必要だ。それが分からなければどうしようもない」「私の内部に正確に記憶してある。大切なのは語り口調。慇懃無礼な態度を忘れてはいけない」
彼らが構築されると、彼女は頷いた。「これなら、彼らと同じ」
彼女は笑みを浮かべた。が、目は虚ろだった。
「私はコピーを作った。なんとばかげたことか。人が体験した複製を拵えるなんて、不可能なのに」
街角で一人の女が外から出てくる。その姿に注意を払う者はいない。「あなたは浮かれているよう」彼女は彼女の友人に言った。「あなたは可愛い」何百歳になっても白い彼女の肌が、友人に握手を求める。「朝比奈みくる、あなたを愛している」こういってから、彼女は、この決まり文句を自分で口にしたのは初めてであろうと思う。彼女は怯えたような目で彼女を見つめる。
「朝比奈みくる」長門有希は言う。「何故あなたは浮かれているの」「過去にいけるからです」朝比奈みくるがいらだって答える。「他の人とは違うことができるんですぅ。私、ハッスルしちゃうのです」「過去?」長門有希が言う。「私はその過去からやってきた。過去には泥だらけの絶望しかない」「嘘だ、嘘に決まってます!」朝比奈みくるは怒ってわめく。「私はその過去からやってきた。」長門有希は穏やかに繰り返す。「過去には泥だらけの絶望しかない」すると、朝比奈みくるは女が誰なのかを悟り、泣き出す。
長門有希は自分を恥じる…皮肉なことに、感情は彼らから別れた後、情報統合思念体より完全にプログラムされていた。
朝比奈みくるは過去へ去る。そして、長門有希はただ単にそこに座っている。そして、微笑みを浮かべ、空を眺める。
惨めな『超能力者』は考える。過去がそんな風なのはもしかすると、私が超能力から逃げたからではないか。ただ単に、別の人に厄介事を押し付けたかっただけなのではないか。 彼女はみじめな超能力者である。赤の他人の事情を暴力的に、自分の意思に関係なく押し付けられる、みじめな超能力者である。
「あなたは、どうしたい?」草むらで泣いている超能力者の前に、人影がたった。いつの間にかかつての敵であった、周防九曜が横にいる。「できるならば…やめたい。こんなこと」「ならばーーーやめるべき」「…」
ほかの誰にも分かるはずがないその気持ちが、彼女には分かってしまう。だから、周防九曜は、目の前の友人を抱きしめる。
「情報結合、解除開始」
二人は、この世の中から消失した。幸せそうな笑顔と共に。
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