橘京子の消失(プロローグ)
年始。 受験生にとってはこれほど厄介なものは無く、刻一刻と近づいてくる試験の恐怖に怯えながら、その不安を解消するかのごとく勉強に明け暮れる毎日であり、光陰矢の如く過ぎ去って欲しい時間の5指に上げられるといっても過言ではない。 何の能力もない一般人たる俺にとって、この持論は寸分どころかマイクロメートルの精度をもってしても違わず、恐怖に怯えながら様々な色のついたノートに目を釘付けにしている。 例え滑り止めの試験でも緊張するのは仕方の無いことであろうし、本命ならばなおのこと血管がはちきれそうになるほど心臓が高速運転をするんじゃないかと思うね。 ……おいおい、試験までまだ何日かあるんだ。今からそんなに緊張してどうするんだ。少し頭を冷やしたほうがいいな。水でもかぶってくるか……って、風邪を引いたらそれこそどうしようもない。 こう言うときは気晴らしに何か考えたほうがいい。これから送るであろうキャンパスライフや、これまで送ってきた高校生活の数々を思い浮かべて気分を一新させたほうがいい。 試験対策用にと購入したラバーグリップのシャープペンシルを机の上に置き、椅子の背もたれを最大限屈曲させ、大いに背伸びをする。 そして心を鎮めるため深呼吸を一つついて窓の外を見上げ、リラックスした状態で心に宿ってきたことを言葉にする……「橘京子と出会ってからろくな事がないな……」 真っ先に思い浮かんだ言葉がこれだった。 ……いや、何を今更と思うかもしれないが、高校生活で一番印象深いのがこれだから仕方あるまい。少々物悲しいことではあるが、全く思い浮かばないよりはいいに……決まってないかも…… ええい、こうなりゃヤケだ。奴との思い出を振り返ってやる。 初見は1年の時の冬。八日後から来た朝比奈みちるさん(俺命名)を連れ去り、アクションものの洋画にも引けを取らないカーチェイスをした後追い込んだあの時。 あの時の橘は憎悪の対象でもあり……そして、うかつに仕掛けることのできない、デキル女。そう思っていた。 2回目は、2年昇級直後の春。何を思ったのかあちらからいけしゃあしゃあとやってきて、勝手なお願いをし――そしてへんてこりんな事件に巻き込まれた。 この時もまだあいつの意図は不明で、こちらからのアクションが憚れた時期だ。 しかしこれ以降、橘は化けの皮が剥がれたかのように愉快な人物へと変わっていく。 俺の行動言動に不満があると言っては溜息を洩らし、自分の胸を大きくするつもりなのが逆に小さくなってしまっては憤慨し、そして陰謀渦巻く冬の合宿ではより多くの人間を敵に廻す。 退屈と言って人様に迷惑をかけ、暴走してより多くの人に迷惑をかけ、そしてそれが仇となって驚愕する様は、まさに『自業自得』だとといっても差し支えないだろう。 ……ま、自身が分裂しまくった件に関しては、あいつひとりのせいとは言い切れない部分もあるが…… ともかく、2年近くにもなるあいつとの付き合いで分かったことがある。それは何かというと、 ――触らぬ橘に祟りなし―― うむ、これ以上ない格言だ。 経験上、橘が関わった事件のうちおよそ十割が俺のに対し何らかの形で被害を被ることになるのだが、逆に考えれば橘との接点がなければ万事平安に暮らすことができるということになる。 家内安全商売繁盛は約束されたも同然。不景気だって環境問題だろうがどこ吹く風。地球は平和で争いの無いエリュシオンへ変わる事だって夢じゃないんだ。いや、間違いない。 以前古泉が言ってたことを思い出す。 主人公が事件に巻き込まれるからこそ推理小説やサスペンス映画は成り立っており、いくら名探偵であろうとその力を発揮することのできる状況――つまり事件だ――が無い限り、名探偵は凡人に成り下がってしまう。 名探偵は難事件が起こるからこそ名探偵としての面子を保っていられるのだ。 ――つまり。 橘京子に関わるから、俺は余計な事件に巻き込まれてしまい、そして収拾がつかなくなる。ならば橘京子との関わりを絶てば事件は発生し得ないのではないか? そう考えた俺は橘京子との交流を一切合財絶つことにした。 携帯電話の着拒はもちろん、自宅電話番号も変更し、怪しい郵便物は受け取らず、不審者が現れたら警察若しくは『機関』に連絡。こうすることで橘京子とのコンタクトを寸分の隙もなく絶つことにした。 少なくとも受験が終わるまでは俺も他のことに構っちゃいられない。世界の危機が俺の自宅の玄関をノックするような場合にならない限り、受験に集中したいのさ。そこんところは橘以外の人たちもご了承頂きたい。 そんな俺の考えに賛同したかどうかは知る由も無いが、特にコレといった事件が起こるわけでもなくしばしの時間が流れることとなり――俺の推論に瑕疵が無いことが証明された。 大学入試試験に向けて必死こいて勉強していたせいもあってか、ここ暫くは驚くほど暮らしが安定してきたのだ。 事件らしい事件は皆無。むしろ平凡すぎると言っても良いライフタイムが俺の周りを取り囲んでいる。 ……まあこれは、ハルヒの性格が穏やかになっているのも関係しているけどな。 橘と出会う前は、事件の発端となり得る全ての事象は涼宮ハルヒが発端となっていたのだが、逆に言うとそれ以降の事件は全てが橘絡みであり、ハルヒの影響は影をひそめてしまった。 橘のイタさを身に染みて理解しているためか、はたまた本心は意外と常識人であるという性格(古泉談)のためだろうか。ハルヒは以前と比べて著しく突発的変態行動はしなくなってきた。 人の振り見て我が振りなおせとはよく言ったものだ。橘が唯一俺達の役に立った部分といっても差し支えない。 今度会ったら偉いよくやったと誉めてやろう。うん。 さて、そんな訳で妹の文化祭以降橘京子に接触を絶っていた俺ではあるが、ここに来てふと一過性の記憶が蘇えり、冒頭部分へと繋がるのだが…… しかし、何故いきなり彼女のことを思い浮かべてしまったのだろうか? インパクトだけで言えば他の奴だって負けちゃいない。委員長と文芸部長のバトルは最新SF映画ですら太刀打ちできないし、タイムトラベル中の気持ち悪さは3割増の胸を堪能できたとしてもこちらの儲けはないだろう。 巨大なカマドウマと俺を揺さぶる朝比奈さんのコンビネーションはある意味凶悪なものだったし、凶悪といえば清楚なメイドさんが得意とする笑みはナイフでぐりぐりされるのをどっちが良いか本気で迷ったりするくらいだ。 途中ロングヘアーでポニーテールの体操服ハルヒと眼鏡で無口で気の弱い長門が脳内で二重らせんを描いていったが、それは別の意味で衝撃的だ。 そんな十人十色、千差万別の思い出が蔓延る中、どうしてあいつのことだけが記憶から呼び起こされたのだろうか。 二度目の背伸びと共にもう一度窓の外を見上げる。「そうか、この天気か」 思わず立ち上がり、言葉を洩らした。昼間だというのに、空は薄暗い、灰色単一色。 インターネットの天気予報によると、冬型の気圧配置が強まっており、この地方でも雪が降るかもしれないといったもので、それを反映したかのような空の色だった。 この空を見て思い出すことは2つある。 先ず一つは、言うまでも無くハルヒの閉鎖空間。 どこからともなく巨人が現れ、そしてどこからともなく紅玉が飛んでくる。この世界が現実の空間だったとしても、そう思えそうな、そんな色の空である。 そしてもう一つ。こちらは既視感……いや、むしろ未視感か。以前にも同じようなことがあったはずだが、何故だか記憶に残っていない。 いいや、正確には覚えているんだが、前頭葉の奥深くに根付いているせいか中々蘇らない。 しかし……体の一部はその時の記憶を覚えているんだろう。だからこそこの空を見て橘を思い出してしまったんだからさ。 ――閉鎖空間ではない世界で起きた、あの事件。 ――同じような季節、同じそうな空模様の下に起きた、ある事件。 気晴らしにちょうどいい。あの時の事件を振り返ってやろう。 あれは確か、去年の冬……というか早春。 前述の冬合宿が終わっておよそ一ヶ月が過ぎたあたりの事だったな―― ……… …… …
暦の上ではもう春になっているのだが、俺たち人類の解釈など知ったことかと言わんばかりにお天道様は雲で身を隠し、木枯らしを吹かせて嘲け笑うかのごとく過ごす日々がどれだけ続いただろうか。 身も心も寒々しいモノトーンの空を窓越しに見上げ、俺は自分の部屋の中でココアを飲んで漫画を読んでいた。 本日は休日――ではない。一般的に言うなら平日ど真ん中の水曜日である。 ならば春休み――これも違う。春休みまでにはまだまだ程遠い。 ではなぜ休日でも春休みでもない平日の昼間に家でのほほんと過ごしているのかというと、それは高校受験のための試験休みってやつがあるからだ。試験まであともう少しと迫ったこの頃は、おおよそ一週間ほど休みを頂ける。 ま、正確に言うと本当の休みとは少し異なり、自宅で自主学習をする日ってことになっているんだが……実質家でゴロゴロしてなさいってことだ。 さすがに繁華街なんかへ遊びに行くと補導員やら世間やらの目が厳しいからそれはしないが、それでも家でずーっと勉強しているってのもどうかと思うね。そんな奴がいたら是非紹介してもらいたい。 ……訂正。朝比奈さんを除く。 彼女ならやってそうだ。あの人は生真面目というか愚直というか……変なところで一生懸命だからな。そう言う性格が朝比奈さんの魅力でもあるわけだが。 さて、学校へ行くことを禁止されているということは当然部活動も禁止されていることになる。それは当方の部活――というかマイナー同好会レベルであるSOS団に対しても例外ではない。どれほど小さい枠組みであっても適用されるのだ。 とは言え、そんなグローバルルールも我が団長がそんな命令を遵守するわけもなく、それどころか自身の脳内のみ有効な超ローカルルールに仕上げるのは彼女の最も得意とする部分だ。 去年などは酷かった。 そんなのバレなきゃいいいのよと校則を思いっきり無視し、映画の予告編を作成するため近くの山や川やらで撮影をおっぱじめやがった。いやぁ、あの時はホント人目が気になって仕方なかったぜ。 特に主演の2人。朝比奈さんは例の如くミニスカフリフリピンクのウェイトレスだし、長門なんかは北校の制服そのまま。目立つことこの上ないし、通報された日にゃ言い訳なんてできやしない。 結局、通報されること無くその日が過ぎていったから幸いだったんだが、しかしハルヒを反省させる機会を失ったのは正直くやしかったね。 そんな出来事があったわけだから、どうせ今年も同じ事をするんだろうと高を括っていたのだが、しかし試験休み前日、部室に集まった団員の前でハルヒの口から出た言葉は思いがけないものだった。 『今年は試験休み中の団活、中止するわ。基本的に団活は全員参加だかんね。都合が悪くていけないんじゃ、その分損するじゃない。楽しいことは皆で分かち合うのよ』 恐らく朝比奈さんの試験を考慮しての措置なのだろう。高校入学当時のこいつの考えからすると偉い変わりようだ。やはりハルヒの中で何かが変わろうとしているのかもしれない。 奇異奇天烈な行動が減ることは、大宇宙に蔓延る高次元の情報集積体にとっては非常に残念なことに違いないような気がするのだが、その第一の手先たる寡黙な少女は『問題ない』と一蹴し、そして自分の腕よりも太い本に目を向け、再び沈黙した。 俺の真向かいでカードゲームに興じる男子高校生はと言うと、『涼宮さんが望んだことなれば、どのようなことでも従うのみです』と冷たく言い放った後『しかし、楽なことに越したことはありませんね』形相を一転、笑みを携えている。 この場にはいないが、いつまでたっても可愛いであろう部室のメイドさんも恐らく同じようなことを言うのだろう。 まあつまりは、おおよそ世界はいい方向に向かっているのだろうな―― プルルルル…… 携帯電話の着信音によって、去年の思い出話は頓挫された。「こんなときに誰だ? 一体」 七色のディスプレイ点灯は音声着信を表す。念のため着信元を確認。……OK、見知った奴からだ。 ベッドの上に転がっていた携帯電話を取るため毛布の上から着座、間髪入れず通話ボタンを押して携帯電話を顔に近づけた。「よう」 音声着信は必ず出るようになったのは、居留守を使うと不機嫌になる誰かさんを慮って身に付けた習性であるが、今回の相手はそいつではない。『やあ、キョン。暫くぶりだね。先月の合宿以来かな』 俺の知る、いつもどおりの口調で佐々木は答えた。「まあ、そんなところだろうな」 因みに先月の合宿とは、未来人宇宙人超能力者、おまけに神と崇められる人物がそれぞれ2倍に増殖して望んだスキー合宿の事だ。「どうしたんだ急に。突然電話なんかよこしやがって。何か用でもあるのか?」『用が無ければかける事なんてまずないさ。あるからこそキョンに電話をかけたんだよ。未来の結果というのは過去に起きた事象を元に構築されるわけだからね。この場合数分前の過去において僕が取るべき行動が、キョンに連絡を取るということだったんだ』 はあ……相変わらずだな佐々木。前回の合宿でキャラがずいぶん様変わりしたと思ったんだが、それも過去の話か。『いやあ……あれは全て橘さんのせいだから。どうも彼女といると、自分のコンディションが定まらないんだ』 諸手を上げて賛成しよう。あいつといると確かに自分の中のキャラクターが分からなくなってくる。我が精神の脆弱さが伺えるな。禅の修業でもして心を強化したほうがいいかもしれない。 「どうだ佐々木、今からうちの近所の寺に行って座禅でも組んでみるか?」『その提案はとても興味深いが、生憎今日はそのプランを実行する暇はなくてね。それより』コホンと咳を一つついて、『キョン、今から駅前の喫茶店に来てくれないか? 出来れば今すぐに』 「何があったのか?」 俺の返答に、佐々木は『いいから。どうせ勉強など微塵もせず暇を弄んでいるのだろう? 君は誰かに尻を叩かれなければ勉強しないタイプというのは解っている。平日で親御さんもいらっしゃらないだろうし、涼宮さんだって在宅ではないはずだ』 悪かったな。というかなぜハルヒが俺の家にいなければいけないんだ?『ともかく、例の喫茶店で待っているから。できれば10分以内に来ることを推奨する。それじゃ』 電話は一方的に切られた。というか内容も一方的だった。「……10分以内に来い、か」 身支度を整え、自転車に跨るまでどれだけ頑張っても7分。佐々木の所望している待ち合わせ時間にあと3分でいかなければならない。自動車のリミッター越えの速度を保持し、ノンストップで駆け抜けても間に合わない。絶対無理。不可能。インポシビルだ。 「やれやれ。佐々木の奴もハルヒに大分似てきやがったな……」 遅れて行って『罰金』だとか『死刑』とか言うのだけは勘弁な。
「遅い。罰金!」 息を切らしながら喫茶店店内へと入ってきた俺を待ち受けていたのは、どこかできいたような言葉で俺の前に立ちはだかる……って。「……おい、何をやってるんだお前は?」「くっくっくっ……どうだい、似ているかな? 涼宮さんから頂いたんだよ。お古だけどそれがいい具合だ。プリティというよりキュアなカチューシャで恐れ入るよ」 ワザワザカチューシャまでつけて、どこかの団長さんのモノマネをするそいつ……佐々木はとても愉快そうに喉を鳴らした。 まさかそれがしたかっただけって訳じゃないだろうな。そんな下らんことで呼び出されるはおもわなかったぜ。しかもお前にな。「冗談だよ、冗談。そんなことで呼び出されたらたまったもんじゃないからね」 ニセ団長は近所の悪ガキに悪戯を教え込むような表情で、「実はね、橘さんがなかなか面白いことを思いついてね。その話が興味深かったからキョンもご一緒にどうかなと思ったんだ」 たちばな……だと?「顔が白いよキョン。大丈夫かい?」 あんまりよろしくないです。 もう何度となく口にしているが、橘京子と関わってハッピーエンドを迎えた結末など無いのだ。その橘がまたなにやら思いついたと聞かされれば、自然と血の気が引いてくることに誰が責められようか。 「佐々木、本気か? 今まで散々事件や揉め事を起こすだけ起こして、辛酸を舐めさせられるのは俺たちなんだぞ。お前だって結構被害迷惑を被っているはずし、そんなことも分からないわけじゃないだろう。良く平気でいられるな」 「今回は」一気にまくし立てる俺の言葉を遮って「リレーションが希薄だからね。キョンも、そして僕も。どちらかといえば彼女自身の問題なんでね」 リレーションがないならそれこそどうでもいい話だ。俺たちを巻き込むのはシャミセンの爪研ぎ以上に必要ないね。「そう邪険にしないでくれよ。今回の提案はモーストファンだったよ、少なくとも僕にとっては。理由を聞けばキョンだって納得するはずさ。だから橘さんに代わって僕が伝書鳩の代用をしたまでさ」 ともかくここで立ち話していると目立って仕方ない。早く自分たちの席に座って用件を話すことにしよう。皆がお待ちだ、そう言って佐々木は俺に背を向け、スタスタと店の奥へと歩いていった。 あれだけ忌み嫌っていた橘に対して、掌を返すかのごとく彼女の意見に賛同するとは……一体佐々木になにがあったのだろうか? そして一つ言っておきたい。目立つような事をしたのは自分からだぞ。 ハルヒの病気だけじゃなくて、橘の病気まで感染したんじゃないだろうな?
俺の歩幅で5歩ほど先を歩く少女。意図的にその距離を保ちながら付いていくと、迎えたのはこの喫茶店の一番隅の席だった。一面は壁で、それと直角を成す方向にはウィンドウが広がっている。 テーブルを挟んで3人掛けのソファーが2つ。その片方――壁側に、一組のカップルが座っている。佐々木の言う『皆』とはこいつらのことであろう。「……あ、こんにちは。お久しぶりです」「……ふん」 栗色のツインテールとふてぶてしい顔の未来人。言うまでもなく俺の見知った顔だ。 橘のことは佐々木から聞いていたが、まさか藤原までもここにいるとは思わなかった。俺のカンだが、藤原をここに招いたのは佐々木だろう。 その佐々木は今回の一件を説明するからと俺を壁際の席へと促し、1:3というどう見ても偏りすぎな配置で全員着座させ口を開こうとしたようだが、その前に俺から切り出してやった。「お前、一体何を企んでいる?」 「何も企んでないさ。張良や半兵衛のような奸計を企てる程僕は知識に精通していない。企んでいるのは」ポンっ、と肩を叩き「橘さんだよ」と言った。 俺はと言えば佐々木から橘の方に顔を向け、露骨に嫌な顔をしてやる。話の主導権を奪還できなかったことの、せめてもの反抗だ。「ちょっと! 何ですかその不満という不満を押し詰めたような表情は!」 だってなあ……人間、いや、生物としての条件反射だから仕方ないだろうが。橘京子の企て=ろくなもんじゃない。これは3大宗教の聖典のトップページにデカデカと書かれていることだぜ。 「うわぁぁぁん! 佐々木さぁぁん!! キョンくんがいぢめるぅぅぅ!!」「おー、よしよし。可哀相可哀相。ダメじゃないかキョン。橘さんをいぢめちゃ。弱いものいぢめは言語同断だよ」 弱いもの扱いする時点でそれもいじめになるんじゃないかというツッコミが思い浮かんだかとりあえず保留。「いいかいキョン。彼女だって必死に生きているんだ。まるで道端に咲くナズナのようにね。いや、ペンペン草といった方がよかったかな?」 いや、なんでもいいが……「佐々木、そろそろ教えてくれ。合宿までは橘を目の敵のように扱ってたお前がどうしていきなりこいつの方を持つようになったんだ?」 そう言うと佐々木は人差し指を立て、チッチッチッとメトロノームのように振り、「あの時は僕も若かった。自分の価値観に当てはまらない人間を排除しようと躍起になっていたんだよ。でもそれがおかしいことに気づき、僕は改心して心を入れ替え、彼女にも優しく接しているのだよ。見たまえ、聖母の如き彼女の出で立ちを」 うわー、絶対嘘だ。絶対何か隠してやがる。でなきゃあのちんちくりんな小娘をマリア様に例えるわけが無かろう。「そうそう、言い忘れてた」軽く手を叩いた佐々木はガラス越しの日の当たる場所まで行き、アイコンタクトをするようにを俺を見据えた後、「キョン。僕を見て何か気づくことはないかい?」 いや、特に。「いやあ、照れなくてもいいんだ。ほら、よく見てご覧。今までと違うところがあるはずだ」 ……うーん、さしあたって今までの佐々木と違うところは見受けられないが。「そんなことはないさ。ほーら、顔をよくご覧」 笑顔で答える佐々木。 しかし、俺は彼女の笑顔の奥に蠢く『何か』を感じ取った。形容し難い事この上ないその『何か』は、今はまだ表面に現れていないが、許容量限界、閾値レベルに達している。 ――このままでは、『何か』は暴発しかねない―― そう直感した。これは彼女との付き合いの中で培った俺流の空気の読む作法だ。橘とはこの辺が違うって事をよーく覚えていただきたい。 何か答えないとまずいことになりそうだ。しかし、何と答えればいいのか、そこが分からない。 トントン。 そんな折、俺の脇腹に軽く叩かれる感触があった。恐らく隣に座っている橘だろう。 橘は佐々木の死角になるよう、こそっと俺の太腿に指を這わせる。って、佐々木が目の前にいるのに何をしているんだお前! 睨み付けた俺に橘はぶんぶか首を振る。 ……え? 違うのか。 橘は人差し指を立て、先ほどよりも強く文字を書くように押し当て……って、ああ、なるほど。文字を書いているのか。(えーっと、そ……う い え は……×? 違うのか? ば? ……OK,続けろ……は……だ……が……き…… れ い に……た? な? なつた……ああ!) 「佐々木、そう言えば肌が綺麗になったんじゃないか?」 真向かいに立つ尽くすショートヘアの女性は「くくく……やっぱりそう思うかい? ここ最近、毎日ポリフェノールをとるようにしてたんだけど、そしたら肌の調子が頗る良くなったんだ。まるで赤ちゃんの肌のようにもっちりとした感覚で……」 ポリフェノールといえば、以前橘に喰わされたカカオ99%チョコレートを思い出すのだが……あんなくそ不味いもの、ずっと喰ってたらニキビがどえらいことになるような気がするが…… 「何か言ったかい、キョン?」「うあ……いや、何も」「ふふふふふ……僕の肌が綺麗だからといって、見とれちゃ駄目だからね」 妙に熱っぽい視線を送る佐々木。 ……おい、本気でキャラ変わってないか?「もう一度言う、用件はそれだけか?」 一応念のために言っておくが、今日は自宅学習期間なんだ。用も無く繁華街に行く事は禁止されているんだ。補導員に見つかって教師や両親に叱られるなんざゴメンだ。 「おや、キョンは休みじゃなかったのか。それは失敬。僕の学校では既に春休みに入っていてね。てっきりキョンも同じだと思っていたんだ」 私立と公立では休みの期間が違うからな。「うーん。それは残念ですね。今から面白いことをしようとおもったんですけどね」 そういやこいつが変な電波を受信したせいで俺がこんなところで佐々木と漫才をする羽目になったんだったな。何だかいつもと様子の違う佐々木に問い掛けても埒があかない。今回ばかりは橘に問い質したほうが早く事を終えそうだ。 橘、こんな時に呼び出して一体何をする気だったんだ?「実はですね。九曜さんの行動を尾行しようと思ったのです」 …………『はあ?』 声がハモった。ハモらせた人物のうち、一人は間違いなく俺であるが、もう一人は……「面白いことがあるから来てくださいといわれ、興味本位でついてきたのはいいが……あの宇宙人の尾行をするだと? ふっ、これだから過去の現地民と共闘するのは嫌なんだ」 自称未来人の藤原――この名前も自称だったな――は、あからさまに侮蔑の態度を取った。敵対する勢力に力を貸すほどこの未来人も甘くない、ってことか。「協力してください、お願いします!」 悲痛な叫びをあげながら、橘は藤原の手をギュウと握りしめて「もちオッケー」「やったぁ! ありがとうございます!」 ……訂正。橘には甘すぎた。それでいいのか未来人。「キョン。君もよろしく頼むよ」 慣れない仕草でウインク一つ。……佐々木。もしかして色仕掛けのつもりか?「うっ!」 うっ! ってまさか……「いやぁ……ははは、まさか。そんな事で堕ちるキョンだなんて微塵も思ってないよ。あはははは……」 乾いた笑いがむしろ説得力を増すのだが……「ま、まあまあ! ここは一つあたしに免じて!」 お前に免じてたらすれ違う人全員に土下座しなきゃいけなくなる。「く……やっぱり厳しいですね、キョンくんったら」「協力するのは理由を聞いてからにしようか。お前の言うことをそうそう素直に応じるわけには行かないんでね」「いいじゃないですか。佐々木さんだってあたしの意見に賛成してくれているんですから」「そうだよキョン。僕の見たところ、橘さんは先月までと打って変わってスマートな人になったんだ。ああ、スマートといっても痩せているという意味じゃなくて、賢いという意味だから間違えないでくれよ」 「橘」そう言って俺はそいつを睨みつけた「お前佐々木に何をした?」「何もしてませんって。本当に。ただ仲直りしただけですよ。ねーっ、佐々木さん?」「ええ、そうよね、橘さん」 佐々木の甚だしい変わりようを見れば素直に信じ難いのだが、何を言っても無駄のような気がした。 もういい、これ以上は突っ込まない。「えーと、それでは九曜さんを尾行する理由についてお話しますね。既にご存知だとは思うのですが、彼女、宇宙人なんです」 らしいな。「でも、かなり抜けていると思いません? 宇宙人ならもっと万能だと思いませんか?」 確かに九曜は頭のネジが6本くらい抜けているようなイメージではあるが、正直長門だってネジが取れてる……とまでは言わないが、緩みかけているような時だってあるぜ。 「でも、長門さんのお仲間は普通の人っぽかったじゃないですか。ほら、あの髪の毛がシーウィーズみたいな人」 シーウィーズ……確か海藻だったかな……って、声に出すのはやめておこう。万一にも聞かれたらそれこそどうしようもない。本来なら朝比奈さんと同じく受験真っ只中だろうが、あのお方ならば受験を押しのけてバイト先であるここに来てそうだ。 「それに長門さんも言うほど人間味がないお方ではないですからね。色々とあたしの相談にも乗ってくれましたし。今となっては良いお友達です」 ですが、と区切りをつけて「それに対して、九曜さんは何を考えているのか全然分からないんです」 あのままじゃこの星に来た九曜さんがかわいそうなのです。もっと地球人と触れ合って、いいイメージを持たせたいのです、あたしは。そのためには彼女を尾行して調査して、人となりをハッキリさせる必要があるのです。 ――橘が言わんとすることはわかった。「つまり、お友達になりたいんだな、お前」「……う、ま、まあ……ありていに言ってしまえばそうです」 やっぱり。 橘京子という人間はこう言う奴だったな、そう言えば。アレコレ深く考えてた自分が馬鹿らしくなった。 肩の力が抜けた俺は更なる気晴らしをするため、橘にちょっかいをかけることにした。「そう言えばお前、お友達いなかったもんな」「あう! そ、それは過去の話です! 今は友達たくさん増えました! 長門さんだってそうですし、それに佐々木さんだって!」 本当か、佐々木?「ああ、そうだね。出会ったばかりのころは知人というレベルに過ぎなかったけど、今となっては友人といっても差し支えないね。とは言え、キョンのレベルにまでは到底達していないけど」 「うう、頑張ります……それにキョンくんだって涼宮さんだってあたしのお友達リストに名を連ねています。あと九曜さんもそのリストに入ったら言うことなしなのです!」 ……勝手に俺の名を入れないで欲しいんだが。ん? 待てよ。「こいつは入ってないのか?」 俺は自分の手を見てはやたらニヤニヤしている未来人を指差した。 この藤原くん、そっけない態度を示してはいるが、何を思ったのかこのKYツインテールにお熱な状態で、彼のツンデレっぷりも橘にかかればただのデレデレとなってしまう。 彼の彼女への想いは一度聞いたことはあるが、逆はどうなのだろうか? 以前それを聞き出そうとした際、藤原くんが非常に愉快な生き物に豹変したことを思い出し、再び橘に問い質すことにした。もしかしたら藤原の新たなる一面が見られるかもしれない。 「僕はお前とはレベルが違うんだ」 しかし、返答は未来人自身からのものであった。「それすらわからないとは……ふ、文明レベルの低さが伺えるな」「彼の言うとおりなのです」橘は言った。「ポンジーくんはあたしの友人レベルじゃないです」『それ見たことか』と勝ち誇った顔をする藤原。別に悔しくないんだが……まあいい。「彼はあたしの使いっ走りですからね。友人なんてレベルにはフォークランド諸島からカムチャツカ半島を外回りで7周するくらい遠いのです」「がーん!!!」「くっくっくっ……」 一瞬とも思える絶叫が聞えたかと思えば、続いて佐々木の笑い声が聞こえた。俺も肩を震わせつつ、「そんなことだろうとは思ったよ。だとさ、藤原」「…………」 ……あ、白目むいて気絶してやがる。「まあそんな訳なのです。九曜さんと仲良くなるようお願いしたいのです」「キョン、僕からもお願いするよ。九曜さんと橘さんが仲良くなることは、僕達にとっても決してマイナスになることではないと思う。それに――」 佐々木は俺の耳元で『九曜さんと親密な関係を築くことができれば、橘さんを厄介払いできるじゃないか』 ああ、なるほどね。佐々木の魂胆はそこにあったのか。 橘の目論見と佐々木の目論見。双方がはっきりした。 確かに佐々木の言う通り、俺たちに被害はなさそうだし、橘を九曜に押し付ければ俺たちの生活も安泰を保てる。一石二鳥じゃないか。そう言うことならば喜んで賛同しよう。 「しゃーねーな。勉強が忙しいが手伝ってやる。ありがたいと思えよ」「はいっ!」 本日見せたの一番スマイルである。余計なことさえしなければこんなにも可愛く……なんでもない。「それじゃあ向かいましょう」 どこにだ?「九曜さんが通学している、光陽園学院にです!」
橘の『組織』に荷担する末端の外部協力者――つまり、光陽園学院に所属する生徒によると、光陽園学院は本日通学日であり、全生徒が学校に集合しているのだという。 ならばこちらから行こうじゃないかという意見を出したのが、頭にお花畑を咲き散らしている例の電波だ。「別に今日行く必要はないだろう。しかもわざわざ学校にまで乗り込むなんて」「いや、今日今からじゃないと駄目なんです。それにあたし、光陽園学院の中に入ってみたくて」「橘さん、奇遇だね。わたしも同じオピニオンなんだ」何故か橘の意見に賛成する佐々木はなおも喋り続ける。「あれだけ立派な校舎はこの近辺の高校じゃ見かけないし、教育・医療・福利厚生各施設とも一流でしょう。後学のために勉強したいと思ってるんだ」 そうかい。好きにしてくれ。俺は留守番してるぜ。「え? 駄目ですよ。キョンくんも来てください。九曜さんも喜びますよ」 男の俺をホイホイ侵入させる女子校がどこにあるんだ。どうせごっついガードマンか何かが門の前に立ってて、追い返されるのがオチだ。門前払いの意味を実感しようなんて思わないぜ。 「キョン。君の意見は少々外れている。光陽園学院といえばこの辺でも有名なお嬢様学校だ。男子は無論だろうが、お眼鏡に叶わなければ女子だって容易く侵入する事は許されないだろう。関係者でもない限り」 「じゃあお前達も侵入できないじゃないか」 学校のある日に侵入しようってのがそもそもの間違いだ。諦めて休日呼び出すか、でなきゃあいつが学校から出てくるのを待てよ。片時も離れず校門の前を見張ってれば来るはずさ。実績がある俺が言うんだから間違いない。 「徒に時間を費やすほどバカじゃありません、あたしは。ちゃんと秘策を練ってきたのです」 言って橘はテーブルの下に置いていた大き目のボストンバッグのチャックを開けて、「じゃーん! 光陽園学院の制服です!! 人様にはいえないルートから仕入れてきました!」 漆黒の色を呈したブレザーとスカート。そしてシャツとリボンは俺が通学中に見る制服に間違いなかった。 人様にはいえないルートって……多分『組織』のツテだろうが、捉え様によってはもの凄く卑猥なところから仕入れてきたように聞こえるから止めて欲しい。「これを着て侵入すれば間違いありません!」「橘さん、さすが用意周到だね。これなら問題なく侵入できるね。どうだいキョン。これで文句は無かろう?」 確かにこれならすぐさまばれる事はなさそうだ。しかし。「どっちにしろ俺は留守番決定だ。いくら制服があっても男の俺が来て乗り込むわけには行かない。このまま着ても気持ち悪いだけだし、第一すぐに異変に気付かれるだろうさ。俺をどうしても連れて行きたかったら、女装道具でも用意しておくべきだったな」 あ……と息を飲み、ジト目を向ける橘。悔しそうな顔に俺のいびりが加速する。「いやぁー、実は一度やってみたかったんだよ、女装って奴を。自分がどれくらい上手く化けられるか興味があったんだけどな。良い機会だと思ったんだが……仕方ないか」 もちろん嘘だ。信じてくれお願いだ。「あう……うかつでした」 落ち込んだ顔がしおらしいぞ橘。俺は橘のその表情を見れて満足だ、はっはっは。気の毒だがしかたあるまい。じゃ、俺は関係ないって事で帰るぜ――「……キョンくんってば、女装に憧れていたんですね!」 はあ? ――ガシッ。 声を上げる間もなく、俺は片腕を拘束された。「えーと、えーと。確かここに……」 やおら意味不明な言葉を発した橘は、やおらボストンバッグをまさぐり……って。もしかして……「じゃじゃーん! メイクセットとウィッグですー!!」 げっ!!「これであなたも立派に女装できますよー!」 バカヤロウ! 誰が好き好んで女装なんかするかぁ!」「さっきと言ってることが違うじゃないですか」 あれは嘘、嘘だ本気にするなこのイカレ電波!! KY!!「あたしが電波なのかKYなのかはこの際どうでも良いのです。それより、お望みどおり女装してください。男に二言はありませんよね?」「嫌だ! 女装は女形とお○エM〇NSだけで十分だ!!」「もう、嫌ですねー。女形はともかくお○エM〇NSは女装していないじゃないですか。メイクは得意ですけど。それとも身も心も女になりたいんですか?」 そんなわけあるかぁー! 女装させるならそこで真っ白に燃え尽きているこいつにやってくれぇ!「えー」 えー、じゃない!「ポンジーくんとキョンくん、どっちかといえばキョンくんの方が似合いますって。それに3着しか用意してないんですよ、制服」 それならなおのことポンジーに着せさせろー! 今なら無抵抗で着せさせることができるぞ!!「んもう、わがままばっかり言っちゃダメですよ、キョンくん」 わがままじゃなくてジェンダーとしての本能だぁぁぁ!!! だめだこいつはぁ! 話にならん!! もっとまともな思考回路を持ってる奴に助けを求めるしかない!!「た、助けてくれ佐々木!!」「…………」 さ、佐々木? なんだその微妙な笑みは??「……キョンはあくまで異性だ。僕はその対象としてみているつもりだ」 そ、そうだよな。なら助け……「しかし……女装したキョンというのも、これはこれで十分楽しめそうだね……」 え゛……「橘さん、わたしも手伝うよ」 ガシッ。 もう片方の腕の自由も奪われた。「ええ。佐々木さん。理解をしてくださってありがとうございます」 え゛え゛え゛…………ちょ、ちょっと待ってくれ…… 本気でやばい。やばいぞ、逃げたほうがいい。三十六計逃げるに如かず! ここは強引にでも引き離したほうがいい。ケガをしてもお前達が悪いんだからな、恨むなよ!「さらばだ二人とも!!」 二人が拘束している腕に力を込める。二人掛りとはいえ男の力に勝てるわけも無く、腕は解放され、そのまま逃げ出す――つもりだった。 しかし俺の腕は未だ二人の手の中。うんともすんとも言わない。 こいつら……なんつう怪力だ? 然したる力をこめているようには見えないのに……「キョンったら、そんなに照れなくてもいいのに」「全くですね。恥ずかしいことなんてないですから」 泣きぐずる赤ん坊をあやすかのように、彼女達はさらに力をこめ――「くくくくく…………」「ふふふふふ…………」 ――これ、何て死亡フラグ!? 俺の内心の動揺を余所に、二人は二人だけの世界に足をズブズブとのめりこんで行く。「さあ、早くしよう。こんなところでグズグズしているとあっという間に昼になってしまう」「あ、そうですね。では急ぎましょう。ふふふっ、楽しみですね。キョンくんってば意外といいセンいけるんじゃないかなって思ってたんですよ」「くくくっ、それは奇遇だね。実はわたしもも同じ事を思ってたんだ。彼は目元をくっきりさせたら艶やかさが増すと前々から思ってたんだ。マスカラをたっぷりつけてあげたいね」 「あ、それいいですね! あたし的にはファンデーションで色を白くして、毛穴をふさげば完璧かと思ってましたが、確かにその方が良いですね。さすが佐々木さんです!」 「いやいや、橘さんのオピニオンも中々のものじゃないかな。よし、それじゃあ向かおうか」 俺にとっては異次元かつ異文化たる二人の会話だったが、しかし話を聞けば聞くほど身震いを覚えた。 背筋が凍りつきそうな悪寒があるくせに、体から噴出す汗は留まる事を知らない。 聞きたくは無い。だが聞かなければいけない。 俺はカラカラに乾いた喉に鞭打ち、論告求刑を受ける被告の如く声を絞り出した。「えーと……ど、どちらに……いかされるんでしょうか……」 二人は微笑……もとい、歪んだ笑みを携えてこう言った。『もちろん、化粧室に決まっているじゃない!』 い……「いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」 ……… …… …
「つきましたぁ!」「噂には聞いていたけど、中々豪奢な佇まいだね。さすがエグゼクティブやディレクターのご令嬢達が集う学校だ。少々行き過ぎているかもしれないが、彼らの面子を考えるとそれも致し方無いのかもしれないね」 「ええ、ホント。何か腹が立つくらい荘厳な建物ですね。九曜さんが羨ましいです。一体どんな学園生活を送ってるのですかね。さっそく調べてみましょう」「ええ、そうね。……ほらキョン、中に入るよ……っ」 …………。「くく……キョン、聞いているのかい?」 …………。「おいおい……くくっ……ここまで来て、あはっ……『やぱっり嫌だ』は無しだよ……くくくっ、分かっているね……くはははっ……」「さ、佐々木さん……笑いすぎ……ぷぷぷぷっ……キョンくんの心情も考えなきゃ……あははははっ!!」「おい、お前ら……」「ああ、すまないキョン。決して君の姿が奇異というわけじゃないんだ。ただ何というか、思ったよりはまり役で……イケてる感がこう、滲み出てね……くっくっくっくっ……」 「いやー、キョンくんってば結構女性顔だったんですねぇー。ここまで似合うとは思いませんでしたよ。町を歩く男性の十人中八人くらいから声を掛けられますよ! よかったですね!」 ……………………。 橘と佐々木の計略によって見るもおぞましい姿に変化させられた俺は、この2人と一緒に光陽園学院の校門前に立っているのだが……もう、逃げ出したい気分だ。女装した男が女子高に侵入したら間違いなく逮捕だぞ。 「大丈夫なのです。その格好を見ても誰も不審に思う人はいないのです。安心してください!」 俺と同じく黒服の制服に身を包んだ橘が、同情とも励ましともつかぬ言葉を口にした。「女性である僕から見てもキョンのその姿は恨めしく思うよ。それだけ背が高くてスタイル抜群な人には中々お目にかかれないからね」 そして橘と同じ制服を着込んだ佐々木がその後を追う。 ……ったく、自分達がやっておいてよく言うぜ。 彼女らは用意していたブラジャーに布や綿を詰め込み、腰を矯正ベルトで思いっきり締め、そして思い思いに俺にメイクを施し……完成したのが今の俺の姿だ。 上半身に身に付けた制服とブラジャーがやたらキツイのに対し、スカートはやたら短くてスースーする。そして生足だから寒いことこの上ない。『タイツを用意するの忘れたので、コレを限界まで伸ばして我慢してください』と渡されたニーソックスがあるおかげでまだマシなのだが……しかし完成した姿を見て途方に暮れたね。 「そんなに落ち込まないで下さい。ほら、ウィッグから伸びるロングヘアーはポニーテールにしておきましたから」 言って橘が付け毛を手から離す。……おお、正直コレはアリかも知れん……って、自画自賛しいる自分を見て更に落ち込んだ。 ええい、こうなりゃヤケだ。開き直るしかない。「行くぞ、二人とも。さっさと会ってさっさと要件を済ますぞ」 この辱めを解放するにはもうコレしかない。そして橘。お前が隠し持っているデジカメは没収しておくからな。この姿を広められたら俺はもう生きてはいけん。「ちっ……気付いてましたか」 当たり前だ。お前に盗撮癖があることは知ってんだ。 不承不承ながらも橘は隠し持っていたデジカメを俺に渡し、「これでいいでしょ」 そして絶対他の人に言うなよ。「わかってますって。安心してください!」 ……橘の『安心してください』ほど不安なものは無いね。 そうそう、ずーっと白目向いたまま気絶していたポンジーこと藤原くんだが、橘はレシートを彼に押し付け、先行ってますからお会計よろしくお願いしますねと言い残してその場に放置してきた。 しかしまあ……男性陣への思いやりってのはないらしい、二人とも。 そうこうしながらも俺達は校舎内に侵入し、九曜のクラスへと目指していた。一番心配であった誰かに見つかるということも無く、ほぼ順調に歩みを進めている。 ほぼ、というのは他でもない。この短すぎるスカートが、階段を上がるたびにヒラヒラと舞うもんだから気になって仕方ない。いくら下に穿いているからとは言え、そしていくら俺が男だからとは言え、羞恥心を誘う事この上ない。 よくこんな短いのを穿いて平気でいられるな、お前ら。「全く気にならないかというと嘘だけど、でもここは女子校だしね。獲物を狙うハイエナの如き視線というのはまずないだろうから、そう言った意味では安心だね」 「ええ、そのとおりなのです。それよりもキョンくん、あたし達のを覗かないで下さいね。一番危ないのはこの界隈ではあなたなんですから。男の子はスケベで困るわ」 こいつに言われるとむかつくな。だから言ってやった。「俺が先頭を歩いているから覗こうにも無理に決まっている。それにア○パ○マ○の下着なんか見たくない」「そ、それは……せっかく忘れかけてたのに、あたしの古傷に触れるなんて酷すぎます!」「なんだい、ア○パ○マ○の下着ってのは?」「ああ、こいつこの年になってア○パ○マ○の下着を穿いてやがるんだ。失笑モノだろ?」「さ、佐々木さん! それには深い理由があるんです!」 慌てふためく橘に、しかし佐々木は「……何で、キョンは橘さんの下着を存じているのかな? まさか橘さん、あなたキョンに色仕掛けを……」「えええっ!! 悪いのはあたしなんですかぁ!! 見たのはキョンくんですよーっ!!」「いいや、橘さんだから信用できないね」「ひ、ひどいのです……」 とまあ、こんなくだらない会話をしつつ九曜のクラスまで到着。「さ、中に入りましょう!」 おいおい、まだ授業中だろ」「大丈夫です。この時間、九曜さんのクラスの人はここにいませんから。ほら、見てください」 言われるがままに窓ガラスからクラスを覗き込むと、確かに人の気配は見られない。代わりといっちゃ何だが、個々の机の上には制服が鎮座している。つまり制服以外の服に着替えてこの場を離れていることになる。 「前もって得た情報によりますと、今ごろ体育をやっていはずです」 確かに、うちの学校でも同じような光景だ。しかし服をそのまま机の上に置いたりするのは女子校の特権だな。うちじゃそんな訳にもいかないだろうからな。……おいおい、下着まで脱ぎっぱなしかよ。 「授業が終了するまであと10分くらいあります。早速調査に取り掛かりましょう!」 取り掛かるといっても何をするんだ? 九曜の生態系を見守るじゃなかったのか? そのためにはどこか隠れるようなところが必要だが、少なくとも掃除ロッカーのような隠れる場所は見当たらないぜ。 「ちっちっち。見守るだけが調査じゃありません。こちらから先手を打つ事も重要なのです。実はこの高校に忍び込んだ諜報員から面白い話が聞けたのです 橘は語った。 ――周防九曜は登校して下校するまでの間、片時も自分の席から離れることはないという。休憩時間はおろか、昼休みですら自分の席から立つことなくその場に鎮座しているらしい。 彼女らに食事とかトイレの概念があるとは思えないから、暫くはその行動に疑問ももたず調査を続けていたのだが……しかしある日、諜報員は九曜の異様な行動を目にした。 九曜は何日かに一回、彼女の机の中を覗き込んでいる。彼女の唯一の行動だ。 何をしているのかは死角となって見えないらしいし、ほんの数秒程度のことだから普通に考えれば机の奥にある何かを取ろうとしているようにしか見えないのだが、だか普通ではない彼女にとってその行動はむしろ奇異なものである。 さらに調査を進めていくと、彼女が机の中を覗き込むのは完全なランダムではなく、ある一定の周期毎に覗き込んでいる事も分かり――「……その時間がそろそろなのです。普段は授業中だったり、また休み時間でも席を離れることの無いお方ですから、この机の中に何が入っているか不明でした。しかし計算の結果、今日この体育の時間に九曜さんが席を覗き込む日があることを知ったのです!」 読めた。その机の中を調べることで、九曜が隠しているであろう何かが判明できる、ってわけだな。「そのとおりなのです。これで九曜さんのリアクションがどのようになるかは分かりませんが、それでも彼女に変化をもたらすことは可能でしょう。あわよくばあたし達に協力してくれるかもしれません! だからこの時間を選んだんです」 安直な考えだが、言わんとしていることは分かった。「だが、その机の中に何があるかわかんないんだろう? 危険なモノだって可能性もある。最悪お前がこの世から消えてしまう可能性だってあるんだぜ」「それは大丈夫だと思うよ、キョン。九曜さんはこの惑星……もっと言うなら情報を無尽蔵に創生、あるいは改窮できる人物に目をつけてやってきだんだろう? その人物に近しい人であろう彼女を、そう易々と亡き者にすることはないんじゃないかな」 さあ……な。九曜が考えていることは良く分からんからどう答えて良いかもわからん。 何をしてもいいが、油断だけはするなよ。「わっかりました! では早速……」 ……って、油断するなと言ったのにいきなり覗き込むな!「大丈夫ですって! 何が出るかな、何が出るかな……」 やれやれ。そう言えば『橘の耳に念仏』っていう諺を忘れていたよ。「……んー。特におかしいものはありませんね……というか九曜さん、机の中に何も入れてませんね。あたしは非常食を入れてないと落ち着かないんですが……」お前のことなどどうでもいい。「はいはい、それは失礼しましたわねー……って、んん?」 どうした橘?「……これは……??」 ――何か見つけたのか? そう言おうとした瞬間。 バチン! 雷が落ちたような激しい音と閃光に見舞われた。「……おい、大丈夫か、橘、佐々木!?」 目がくらんで何も見えないほど、かなり強力な閃光だった。光を浴びた俺は一時的に視界を奪われた。 二人の姿も見えない。俺より間近にいた気がするが……大丈夫なのか?「ぼ、僕は大丈夫……ただ、激烈な閃光で視覚障害が発生している。恐らく一時的なものだからすぐに見えるようになるはずだ」 俺と同じか。しかし無事でよかった。「橘、お前は無事か?」 呼ぶ声に返答はない。「おい、橘、いるなら返答しろ! それとも気絶しているのか?」 なおも返答はない。あの爆発のような閃光の間近にいたから、もしかしたら耳がやられているのかもしれない。 よもやと思い、手探りで辺りを捜索する。固い感触は予想通りのところにあった。九曜の机だ。恐らくこの近くにいるはずだ。「橘……どこだ、橘?」 予想に反し、橘らしき感触は見当たらない。「床に倒れこんだか?」 そう思って今度は机の下、椅子や床をまさぐり始める。「キョン……」弱弱しい声が俺の脳に響く。「僕の視界、だいぶ回復してきたよ……うっすらだが、大体のものは判別できるようになってきた」 そうか、ならちょうどいい。橘はどこにいる? 俺の視界はまだ回復してなくてな。わかるんなら探り当ててくれないか?「それが……見当たらないんだ」 は?「橘さんらしき姿は……ここにないんだ」 ちょ、ちょっと待て。さっきまでここにいたんだぞ? そんな一瞬のうちにどうやって消えたというんだあいつは? まさか……「あの閃光で体ごと……爆発した……?」 想像して体が震えた。「いや、キョン。その考えは少し違うようだ」 どういうことだといわんばかりの顔をした俺の表情はもう判別できるようになったのだろうか、「あの閃光が爆発によるものだとすれば、橘さんはおろか、僕やキョンだって無事では済まされないだろう。おそらくあのクラスの爆発ならば、この教室が吹き飛ぶくらいの威力があったんじゃないかな。それなのに僕達は無事だ」 説明を聞いている間に、俺の視界も徐々に正常を取り戻していく。真っ白で何も見えなかった教室だが、明暗くらいは分かるようになってきた。「加えて閃光の中心であっただろうこの机も、かすり傷一つついていない。つまりは爆発の類ではなかったってことさ」 なら、一体何が起きたって言うんだ?「詳しくは分からない……が、彼女なら答えられるはずだ」 彼……女……?「ほら、あそこ」 佐々木と思われる輪郭から伸びる長細いものが、俺の右方向をさしているのが分かった。恐らく指を差しているのだろう。 そう反射的に考えた俺は彼女の示す方向へと顔を向けて――「――――」 黒い何かが、俺のすぐ近くまで差し迫っていることに気付いた。「九曜……そこにいるのか……?」 ソレは何も答えなかった。おい、九曜!?「九曜さん、興味本位であなたの机の中を捜索したことは詫びます」 俺に代わって喋りだした佐々木。声がかすかに震えているような気がした。 ――その理由は直ぐにわかった。「……でも、彼女を消してしまうことはないんじゃないかな?」「な……!」「――――」「橘さんが消える直前、わたしは見たのよ。ちょうどあなたが帰ってきたのを。一瞬あなたを注視したせいであの閃光を直視することは免れたんだけどね……さて、できればわたしの問いに答えて欲しい。彼女はどこにいったの?」 「――――」 なおも九曜は答えない。佐々木も必死に説得を続けるが、しかし九曜の口は堅く閉ざしたまま。 いい加減俺が何か言ってやろうかと思った、その時。「――貴様!」 藤原!? ……追いついてきたのか? 今の会話を聞いたのだろうか。ふてぶてしくも冷静な感のあるあいつが、取り乱しているように見えた。「あいつを――橘を……どうしたって言うんだ!?」「おい、ちょっと落ち着け……」 俺の制止も聞かず、藤原は九曜の襟元に手をかけた。「やめるんだ!」「うるさい! これが黙っていられるか! 確かに人のプライバシーを侵害するのは軽侮な好意だ。しかしそれで命の灯火を消されるほど僕達の生命は軽薄なものじゃない!」 『…………』「答えろ! 事と次第によっちゃあタダでは済まさん! 僕達にだって切り札があるんだからな!」「――――」「さあ、彼女を元に戻せ!」 しばしの沈黙。そして。「――ごめん……なさい――」 彼女が発した第一声がそれだった。「彼女……遠いところ――戻れない――」「ここじゃないどこかにいるってことか?」「――殆ど――不正解を撤回……」 相変わらず意思疎通しにくいが、何となく意味は通じる。「そこから戻すことは?」「……可能――」「ならさっさと元に戻せ!」「……不可能――」 どっちなんだ!?「ゆっくり考えるんだ。九曜さんは元に戻すことは『可能』と言ったけど、すぐに戻すことは『不可能』といったんだ。さしもの九曜さんも骨の折れる仕事って事なんだろう」 「そう――」「ならば九曜さん。どれくらい待てば橘さんが帰ってくるのかい?」「――早くて――523億年から……836京年――」「幅広すぎ!」「てかそんなに長く生きられない!」「むしろ太陽系すら存在してないぞ!」 できれば今日中くらいに帰ってくる方法を教えてくれ!「――――」 九曜は自分の机を黙って指差した。「――次元断層の入り口……彼女は――旅立った……」「つまりこの中を模索すれば橘さんが見つかるというわけだね?」「――不正解を撤回……」 これはこいつの言う『その通り』って意味なんだろう。きっと。「皆で……行けば――怖くない?」「探しに行けば見つかるという意味で良いんだな? なら行くぜ、僕は!」「僕も異論はないよ。彼女にはまだまだやってもらわなければいけないこともあるからね」 橘には散々苦渋をなめさせられたが、だからと言ってこのままサヨナラってのも寝覚めが悪い。ここは一つ、恩を売ってあいつの変態行動を黙らせたほうがいい。 「あーゆー……れでぃ――?」 よし、頼むぜ九曜。橘が待つところまでかっとばしてくれ。位置はわかるのか?「あなたが――基調……」「……え? わたし?」 突然の申し出に佐々木は戸惑いながら、「そのまま――――ああ……暖かい――場所――――」 毒気を抜かれたままの表情で立ち尽くす。そんな佐々木の姿を見ながら、九曜は「距離算出――ローレンツ収縮補正……タキオン粒子捕捉――反転吸収――反物質生成……」 長門と同じく意味不明の言葉を繰り返した後。「――見えた!」 本日二度目のホワイトアウト。しかしこちらは直ぐに治まった。「――この先で……手招きしている――」 先ほど橘京子が覗いていた机から、白い光が発せられている。「彼女の――情報クラスターを――――トレースした……橘京子が行ったのは――平行世界の一つ……」 平行世界?「パラレルワールド、ってことだね」佐々木は言った。「全く同じ世界かも知れないし、どこかで違ったり……もしかしたら全て逆の世界かもしれない。とにかく、この世界を基調とした他の世界のことさ」 橘はその世界に飛んだということか。「恐らくね。数多あるパラレルワールドの中から彼女を救い出すってのが僕達の目的。そういうことだよね、九曜さん?」「――不正解を撤回……」 だが、数多あるパラレルワールドの中で、どの世界に橘が飛んでいってしまったか分からない。「彼女の――望んだ……世界――そこで……待っている――」「なるほど。『基調』の意味も分かったよ。不肖このわたしが考える『彼女の望んだ世界』に、橘さんがトリップしてしまったと。こういいたいんだね、九曜さん?」 「――不正解を撤回……」 何故だか生き生きと語りかける佐々木に、九曜も鷹揚に頷いた。「ならば、早速行こうじゃないか! 諸君!」「ああ」「――――」 佐々木の言葉に、俺達の意志が一つになり……「ちょっと待ってくれ」「どうしたんだい? まさか君はここで留守番するとか言わないだろうね?「いや、そう言うわけじゃないが……少し確認したいことがあってな」 藤原は俺を指差して、そしてこう言った。「こちらの美しいお嬢さんは一体どこのどなたかな?」 ――ポンジーのKYな発言に、本人除く全員がずっこけた。「いやー、ここに来てからずっと気になってたんだ。橘もかなり魅力的だけど、君もなかなか素晴らしくてね。どうですか、今度お茶でも。……って、おーい、聞いてますかー?」 「…………」「…………」「――――」 あまりにもノーコメントな発言に、俺は一人で勝手にナレーションを続けた。 ――周防九曜が机の下に隠していたのは、なんと次元断層の入り口だった!?―― ――橘京子はその無鉄砲さで次元断層内に飲み込まれてしまった!?―― ――橘京子が飛んだのは、パラレルワールドの一つ。どんな世界が待ち構えているのか!?―― ――果たしてこのメンバーで、元の世界に連れ戻すことができるのだろうか!?―― ……無理かもしれない。※ 橘京子の消失(前編)へと続く
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