冬×街灯×公園
ふぅ。一人歩きながら空を見てため息をつく。もうコートが必要な季節だ。空気は澄んでおり、いつもより気持ち星が良く見える。いつものバイトの帰り。なんとなく歩きたくなって『仲間』に断りを入れて歩いて帰る。幸い今回の現場は家からも近く、そう時間もかかるまい。 「そろそろマフラーも考えたほうがいいですかね」不思議だとは思うが、一人という空間は何かをつぶやきたくなる。 「おや」なんとなしに視界を動かすと公園が見えた。急ぐ理由もないので寄っていこうと足を向けた。ベンチを見つけたので腰掛ける。浅く座り、足をダランと伸ばし、体を弛緩させる。ふぅ。もう一度ため息。学校での自分ではありえない格好。知人には会わないだろうから、いいだろう。どうせこんな時間に公園を歩いている物好きは自分ぐらいだ。そっと目を閉じる。遠くからジ、ジジと街灯が切れかけている音がする。冬の夜は閉鎖空間と似ている気がする。一言で言うと『生命を感じない』のだ。閉鎖空間に存在するのは普段、僕らと神人のみであるから当然なのだが。 冬は春に向かって力を貯めている時期だから別に生命がないわけではないがそう感じてしまうから不思議である。この公園はどうだったかと気になって目を開ける。 「音からしてもっと遠くにあると思ったのですが」目を開けて最も生命力を感じたのは何故か切れかけの街灯であった。周りには樹が沢山溢れているというのに。笑ってしまう。無機物に生命を感じるなんて。 ---君は違うよ。といいたくなる。第三者から見れば、それは嘘偽りかもしれない。---いいや同じだよ。僕はもうすぐ死ぬんだ。せめてみんなのそばにいさせて。と聞こえる。しかし当人にして見れば真実であり、世界である。唯一の無機物、しかし自分の寿命に向かって走っている。街灯にとって自身は生命であり、公園を造る仲間の一員である。 「僕もそうなのかもしれないですね」機関にとっては『たまたま』接近役になった、ただの手駒の一つに過ぎない。僕の高校生活は接近しやすくする道具の一つだ。つまりダンボールと同等の価値なのだろう。機関から見れば偽りの生活。しかし僕にはそれこそ真実であり、世界である。機関の『たまたま』のおかげで大切な『仲間』を手に入れた。守りたいものができた。それが存在価値になった。何にも変えられない貴重な時間を得た。井の中の蛙、大海を知らず。本来の意味とは違うかもしれないがそんな感じである。機関が裏でどう考え動いているのなんか知らない。しかし「井蛙にもプライドはありますよ」「蛙なら冬眠でもしてなさい」と後ろから声がかかる。「あぁ森さん。こんな時間に一人歩きは危険ですよ」「大丈夫よ、ずっと貴方の近くにいたから」と言いながら暖かいコーヒーを手渡してくれた。これで今の気になった一言はチャラにしますか。弛緩していた姿勢を正して、プルタブを起こし一口飲む。いつの間にか体が冷えていたのであろう。体に染み渡る。「これを飲んだら帰りましょうか。途中までエスコートしますよ」そうね、いい加減寒いわ。との返答。それならばさっさと帰ればいいのにとは口に出さない。しばし無言。残り少なくなり、そっと森さんに声をかける。「もしかしたら、僕は機関を裏切るかもしれません」軽口、そうこれは軽口。だから僕は明後日を向いている。森さんはまだ暖が残っている缶を両手で抱えながら「『仲間』を裏切るのにはそれなりの理由が必要よ」僕に負けず劣らずそっぽを向いている。だから僕は笑いながら彼女を見て「『仲間』のためですから」と言う。彼女はこっちに笑いかけ「日本語って難しいわね。英語ならthisとかthatがつくのだろうけど… まぁいいわ。私英語苦手だから。さ、帰りましょ」といって歩き出す。僕はそっと空を見上げる。「井の中の蛙、大海を知らず。しかし、井戸の中で皆で幸せに過ごしました、とさ」
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