悲痛
「よかったら…………持って云って」またあの夢だ。あの世界はもうないんだ。全部解決したはずだ。それなのに!気付けばあいつのことを考えている俺がいる。俺はあの世界ではなくこの世界に戻ることを選んだんじゃないのか!恥ずかしがり屋で内気な文学部の少女ではなく寡黙な対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースを選んだのは俺だ!部室のすみで本を読む長門を見るたびに、騒ぐハルヒの後ろにたたずむ長門を見るたびに、朝比奈さんにお茶をもらう長門を見るたびに、俺の心はかき乱される。おどおどとした気の小さい長門、目を泳がす長門、ちいさなちいさな力でそっと俺の袖をつまむ長門、俺の返した白紙の入部届けを震えながら受け取る長門、薄く、だがはっきりと微笑む長門……。長門よ、お前はとんでもないものを盗んでいったな。それは俺の心だ。幾多の名台詞の中でこれほど俺の心情を表わすセリフは無い。長門。こんなことをお前に話すわけにはいかねぇ。ハルヒなんてもっての外、朝比奈さんにも話さない。古泉ならもしかしたらわかってくれるかもしれないが。いいや駄目だ。この想いは俺と長門だけ、いや俺だけの問題だ。もし俺に力があれば、能力があれば、俺はこの世界を変えてしまうだろうか。もう一度あの世界の長門に会いに行くのだろうか。
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