朝比奈みくるの秘密
This page was created at 2008.09.28
This page was modified at 2009.02.23 TAGにTIP埋め
【朝比奈みくるの秘密】 (避難所投下時のタイトルは「星に願いを」でしたが、同名のページが存在したため改題しました)
「張り切って観測するわよ! 流星群のピークは明け方近くだから、それまでは新星発見に重点を置きなさい」「新星発見ともなればSOS団の名は世界中に知れ渡るわ。 世界にSOS団の名を轟かせるのよ!」「さあ、みくるちゃん! がんばって新星を発見するのよ!」「はぃぃぃぃ、がんばりますぅ」新星発見の任を言い渡された朝比奈さんは、望遠鏡のハンドルをくりくりと回して星を探している。SOS団の名をこれ以上広めたいとは思わないが、新発見の栄誉なら悪名で無いだけましだろうか。「涼宮さんがあのようにおっしゃっていると、本当に発見するかもしれませんね」「まさかだろう。 世界中のアマチュア天文家が夜な夜な筒を覗いてるんだ。 未発見の天体なんてそうそうありゃしないさ」「本当にそう思いますか?確率論が当てはまる方ではないと思いますが」「あのぅ…… このぼんやり見えるのって星でしょうか?」マジかよ。 ちょっとご都合主義が過ぎやしないか?「ホントに見つけたの!? でかしたわみくるちゃん! 名誉一日団長にしてあげる!」一日団長ねぇ。 おおかた、『目立たなきゃダメよ!』とか言ってバニーコスプレさせたあげく、校門前でビラ配りだな。なんだ、いつもと同じじゃないか。 朝比奈さんにも予想が付くのか、ひえぇぇぇぇとかわいい悲鳴を上げていらっしゃる。「まぁまぁ、そう慌てずに。 ちょっと見せて」天文部 部長氏がやってきて筒を覗きこむと、つづいて部員Aが筒の脇に座り、なにやら数字を読み上げた。すると部員Bがこれまたなにやら興奮した声で、該当無しです。 と報告した。「観測を続けてみないと新星か小惑星か彗星なのかわからないけど、新発見の天体には違いないと思うよ」古泉のやつにひそひそと耳打ちされた。「さて、これは果たして偶然なんでしょうか?」俺が知るか。「発見者には命名権があるけど、どうする? 結構自由に付けられるよ。 『タコヤキ』なんて名前の小惑星もあるくらいだから」「なら、『朝比奈みくる』でもいいのね。 おめでとう、みくるちゃん! 名前が歴史に刻まれたわよ!」「ふえぇぇ? れ 歴史にですかぁ? そんなの困りますぅ……」未来人が過去の時代において名を残す。 というのはどうなんだろう。甚だしく禁則事項に該当するような気もするが、本気で困ることになるなら朝比奈さん(大)あたりが事前に何か言って来ただろうし、ここは素直に喜んでもいいんだよな。「いいじゃないですか。 鶴屋さんあたりが知ったら、『みくるはお星様になってしまったにょろ?』くらいのジョークを飛ばしてくれますよ。 きっと」「あのぅ、本当に、私が決めちゃってもいいんでしょうか?」部長氏がフォローを入れた。「まだ第一発見者の確認は取れてないけど、ここにいる人の中では朝比奈さんに命名権があるね」「そうだ、みくるちゃんの好きな人の名前を付けちゃいましょう! さぁ、みくるちゃん? 正直に吐きなさい! 一人や二人いるでしょう?」そういってハルヒは、朝比奈さんを後ろから抱きかかえた。「えっ? やっ! やだっ! 涼宮さん、そこだめえぇっ!」「ほらほら正直に言わないと、もぉっと凄いことしちゃうわよ?」「アッーーーー!」いいかげんにせいっ! ハルヒの脳天にチョップを入れる。「いったいじゃない! なにすんのよ、キョン!」「何度も言ってるだろ、朝比奈さんをおもちゃにするんじゃありません!」「ふーんだ、アンタだって興味あるくせに」いつものアヒル口でぶーたれるハルヒ。ふむ。 朝比奈さんの思い人か。 確かに、興味があると言えば無い訳じゃないが……考え込んでしまった俺を、ハルヒが興味深そうに見ているのに気づいた。なんだ?「べっつにっ」なんだ? 妙に嬉しそうだが。「天文台の確認が取れたよ。 やっぱり朝比奈さんが第一発見者だって」今の騒ぎの中で冷静に電話していたのか。 天文部 部長氏、ひょっとしたら大物かもしれん。「みくるちゃん、おめでと」天文部員からも賛辞と拍手が贈られた。「ありがとうございます、涼宮さん。 みんさんもありがとうございます」「それじゃあ、その、お言葉に甘えちゃいます」「名前、決まった?」「はいっ!」大きくうなずいて、元気よく応える朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。「名前は……」みんな、言葉の続きを待っている。「 ですっ!」聞こえなかった。 得意そうに叫んだはずの名前は、聞こえなかった。 ただ、口だけが動いていた。 あれは――声にならなかった。 そのことに気づいた朝比奈さんはしおれたようにうつむいて「……あれぇ…… どうしてだろ…… あっそうかぁ…… そうですよね…… ちょっと考えれば…… 馬鹿だぁ……」不思議そうな、みんなの顔が自分に向いているのに気づいて、慌てて場を取り繕い始めた。「あはっ! 冗談ですよ、みなさん。 ごめんなさい、見事にすべっちゃいましたね」いかにも失敗しちゃいましたぁ、と言うように、舌を出してみせる朝比奈さんは、あまりに痛々しかった。冗談なんかでないことは全員がわかっていた。 けれど、誰も追求しようとはしなかった。ハルヒは今までに見たこともないほど厳しい顔で、朝比奈さんを見つめていた。※※※※※※※※※※※※※※※※「まったく、一体どういうことなのよ」あのあと朝比奈さんは逃げるように帰ってしまい、新発見の興奮も冷め切った観測会を終えて、俺とハルヒは帰り道を歩いている。ハルヒは追いかけようとしたが、俺が止めた。 おかげでその後はピリピリし通しだったし、古泉には急なバイトが入った。「あれは洗脳とか、強力な暗示とか、とにかくそういう類の何かだったわ。 声に出せないよう、強制的にストップがかかったのよ」「みくるちゃんを洗脳するなんて、誰の仕業よ、絶対に許せない。 見つけ出してギッタンギッタンにしてやるわ」おまえ、よくあの場で噛みつかなかったな。「天文部の連中がいたからね」「なぁハルヒ、この件、見なかったことにできないか?」ハルヒが目を剥いて怒鳴った。「そんなことできるわけ無いでしょう!? 洗脳だの暗示だの、人格に対する冒涜よ!」俺は足を止め、ハルヒの肩を掴んで向き合った。「朝比奈さん自身が受け入れていたら? その上で話せないんだとしたら? 逆に朝比奈さんを苦しめるぞ」「俺はSOS団の外にいる朝比奈さんのことを何も知らない。 家族のことも、何もだ。 お前はどうだ?」バツが悪そうに横を向き、不本意そうにつぶやく。「……あたしも…… 知らないわ……」「きっと話せない事情があるんだ。 とはいえ、お前もこのまま何もしないってんじゃいられないだろう?」「そうね。 だって許せないもの。 腹が立つのよ」はっきりと俺の目をにらんで言い切った、意思にあふれたハルヒの顔。 だが俺はハルヒの意思を挫かないといけない。「だからな、一度だけ確かめろ。 それで、話せませんごめんなさいされたら、今は諦めろ。 話してくれるまで待つんだ」ハルヒは無言で横を向いた。 口が見事にアヒルになっている。やがて向きを変えて歩き出す。 俺もハルヒの肩から手を放し、後をついて歩き始めた。別れ際、ハルヒは「いいわ。 なんだか丸め込まれたような気もするけど、キョンの言うとおりにしてあげる」怒りのオーラを漂わせながら、立ち止まらずに言い残して去っていった。あのぶんじゃ、古泉に苦労かけそうだな。※※※※※※※※※※※※※※※※「さぁ、みくるちゃん。 たのしいお着替えの時間ですよ?」「ひえええぇぇ」「とっとと脱いだ 脱いだ!!」「すっ涼宮さっ! 待っ! 自分でっ 自分で脱ぎますからっ! アッーーーーー!」靴下に至るまで全部剥いて、隅々まで丹念になであげる。それにしてもきれいな肌してるわね。 それにいつみてもおっきなおっぱい。ん~~~~~~~~ えいっ! あ~~ やっぱきもちいいわ。「だめぇっ! もまないでぇっ!」「ふえぇぇぇぇん」ひとしきり柔らかい感触を楽しんでから手を止めて、みくるちゃんの耳元でささやく。「ねぇ、みくるちゃん」「ふぇ?」「あたしたちに隠してること、ない?」「ないですぅ 全部見られちゃってますぅ」そうじゃなくて「キョン君に見られるのはいやですぅ」なんでキョンだけ名指しでだめなのよ。 ってそうじゃなくて!「洗脳とか、暗示とか、そういうことをされた心当たりはない?」「えっ?」みくるちゃんの体がぎくりぎくりと硬く震えた。あぁ、みくるちゃんは自覚してるんだ。「どうしてですか? 変です。 いきなりそんな話。 あるはずないじゃないですか、そんなこと」「とぼけなくていいわ。 あたしが知りたいのは、それがみくるちゃんを不幸にしてないか、どうなのかってことだけ」驚いて、少しおびえているみくるちゃんの目があたしを見つめている。「裸じゃ落ち着かないわね。 いいわよ、服着て。 注射針の痕とかもないようだし」「はい……」※※※※※※※※※※※※※※※※「星の名前を言おうとして言えなかったでしょ。 あのときのみくるちゃんはすごく悲しそうだった」「すぐ近くにあたしたちがいるのに、世界にたった一人取り残されたみたいに淋しそうだった」「あたしはあんなの二度と見たくない。 けど……」キョンと約束したから「教えて。 みくるちゃんはそれを解きたいのか、そうじゃないのか」「みくるちゃんが自由になりたいと思っているなら、あたしは解く方法を絶体に見つけてみせる」「そうじゃないなら、あたしは今回のことを全部見なかったことにして忘れる。 いつか、みくるちゃんが自分から話してくれる、その時まで」メイド服を着直したみくるちゃんは、あたしと正面から向き合った。いつものみくるちゃんとは違う、あどけなさの消えた真剣なまなざしにあたしも緊張する。「これは、今の私にとって必要なんです。 だから、ごめんなさい」「そう……」淋しい。 隠し事をされるのが淋しい。 誰にだって秘密の一つや二つある。 それが当たり前。わかっているのに、わかっていてもやっぱり淋しい。 はぁ、今の顔は誰にも見せられないわね。背中を向けると、みくるちゃんにそっと抱きしめられた。「心配してくれたんですね。 ありがとうございます。 話せなくてごめんなさい」「さあ? 何のことだかわからないわね。 全部見なかったことにして忘れたばっかりだから」背中に柔らかい笑みが伝わってくる。「ひとつ、甘えてもいいですか」あたしは床に毛布を敷いて、みくるちゃんに膝枕をしている。みくるちゃんは抱きつくようにあたしの腰に手を回して、あたまを押しつけてくる。 ちょっとくすぐったい。「とってもあったかいです。 とっても優しくて、愛情が深くて、それを押しつけない強さもあります」「涼宮さんはきっと、いいお母さんになります。 だから今だけ、ちょっとだけ甘えさせてください」お母さんだって。 あたしはそんな物になるつもりはないんだけど、それでも照れるわね。「キョン君は幸せ者ですね」「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??」「どうしてそこでキョンの名前が出てくるのよ!」「だって。 ううん、秘密です。 ふふっ」みくるちゃんはあたしを強く抱きしめてから、勢いよく起き上がった。「さ、みなさんのお茶を淹れなくちゃ。 二人とも廊下に追い出されて、きっと寒がってます」みくるちゃんが扉を開けると、キョンと古泉くんが入ってきた。「ずいぶん長い着替えでしたね。 ってメイド服のままなんですか?」「私がどんな格好してると期待してましたか?」「いや、どんなって言われましても」「よぅハルヒ」いきなり話しかけられて、あたしは逃げるように団長席のパソコンモニターに顔を隠した。今はキョンと顔を合わせたく、ない。みくるちゃんはそんなあたしを見て、くすくすと笑っている。キョンはそんなあたしたちを見て、安心したようなため息をついていつもの席に落ち着いた。古泉くんはボードゲームを取り出し、有希は最初からずっと本を読んでいる。いつもの風景。 いつまでも続いて欲しい、でも必ず終わる、だからこそ大切にしたい。みくるちゃんとはいつか、大きな別れが来るのかもしれない。ううん、みくるちゃんだけじゃなく、古泉くんとも、有希とも。あたしは沈みそうになる心に鞭を入れ、大きく息を吸って立ち上がった。未来は未来! 今は今! 未来なんて成るようになるわ!「さあ! みくるちゃんはさっさと星の名前を決める! 決まったら天文部へ遠征よ!」今をせいいっぱい楽しまなきゃ!fin.
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。