涼宮ハルヒの舞台裏 古泉一樹の想い
どうも、古泉です。このSSは本編では決して描かれる事の無い舞台裏を、妄想と情熱を持て余した作者による思考錯誤の果て考え付いた作品になります。心行くまでお楽しみ下さい。
さて、前置きはこれくらいにして本題に入りましょう。決して語られる事が無い我々、機関サイドの活動記録も含め此処に記したいと思います。少々記憶に古いかもしれませんが、僕が機関に所属する事になる前辺りから書き進めてみましょうか。
――古泉一樹の想い――
今から遡る事四年前。彼女、涼宮さんが情報爆発を起こしたその日。自らに与えられた重責、宿命、人知を越えた能力を僕は手に入れました。何故、これらを認識出来たかと言えば……、解ってしまう。としか言い様が有りませんね。しかしながら、人知を越える能力を手に入れたという事に歓喜する訳でも無く、ただ幼い僕には余りにも重過ぎる事実でした。
涼宮ハルヒの精神や心理にリンクしている事で、彼女の憂鬱な心境、怒り、悲しみ全てが脳に直接注ぎ困れる恐怖。とは言っても全てと言う訳ではないのですが。そうですね、水の中に墨汁を垂らした時の様な、そんなぼやけた感覚だったのですが。幼い僕には恐怖以外の何物でもありませんでしたね。実際、部屋の角で脅える毎日でしたから。涼宮ハルヒとリンクすると同時に、微かにですが自分と同じ存在がこの世界に十数人存在している事を認識する事が出来ました。他に同様の存在が居るという事に安堵を感じると同時に、自らが置かれた立場を共有する者として同情を感じざるを得ませんでした。
連日に渡り恐怖に打ちのめされそうになっていた僕は、親にすら怪奇な者を見る様な眼で見られ、親族にすら助けを求める事も許されない。親にも見放され、この世に生を受けてから十二余りの人生しか歩んでいない僕には余りにも残酷でした。
そんな辛い日々を重ね二ヶ月余り経った辺りですか、突如として今までに感じた事もない程の空間振動を感じました。この時の僕にはそれが何か理解していなかったのですが、確実に解っていたのは涼宮ハルヒが原因となっている事は解っていた、といってもこれについても解ってしまうとしか言い様がないのですが。僕は意を決して家を飛び出し、その空間振動の発生地へと向かいました。
この辺りからは回想してみましょうか。そこに着いた時、僕には空間に亀裂が入った様なそんな歪みを視認する事が出来た。余りに非現実的な出来事に言葉を失っていると、突然背後から声を掛けられる。「おや、迷子ですかな」声の方を振り向くと、黒いスーツを身に纏った中年男性が微笑んでいた。「迷子なんかじゃない、一体此処で何が起きてるんですか?」「おや?まさかとは思いますが……少年。この空間にある歪みが解るのですかな?」「何と無くとしか……」僕にはそう答える事しか出来なかった。「新川?どうしたの」此方に気付いた女性が駆け寄ってくる。どうやらこの人は新川と言うらしい。「森か、この少年がなこの歪みを感じ取り此処まで来たみたいなんだ。まさかとは思うが、この少年も能力者の可能性が」森と呼ばれた女性が僕を鋭い眼孔で睨み付けてくる。「こんな小さい子がね……、でも有り得ないという事は有り得ない。現在起きている事象から考えれば十分過ぎる程の状況証拠があるわね。ねぇ君、名前は?」突然名を聞かれ、戸惑いながらも答える事にした。「こ……古泉一樹です」「そう、古泉一樹っていうのね。ねぇ古泉君。君は真実を知りたい?」さっきの鋭さは無くなり、優しく微笑みながら彼女は諭す様に語り出す。「君が感じている空間の歪みは私達には感じ取る事は出来ないの。でもね、君達能力者はそれを感じ取り、私達が閉鎖空間と呼ぶ彼女が造り出した空間への扉を開ける事が出来るの」「閉……鎖空間?」「そう、彼女の負の感情が爆発する際に自ら造り出し破壊の限りを尽す。でも、それを止めなければ世界は無くなってしまうかもしれない。それを止められるのは君達能力者だけ」衝撃の事実に僕は言葉を失い、只呆然と彼女の言葉を聞いている事しか出来なかった。「おい……森」「新川は黙ってて」困惑した表情を浮かべている新川さんを、森さんが制した。彼女は仕切り直す様に咳払いをした後、再び口を開いた。「古泉君、君はどうしたい?本当はね貴重な能力者だからこのまま無理矢理にでも協力してもらいたい所だけど。とは言っても君にも選ぶ権利はあるわ」その問いに答えるには余りにも時間が無さすぎた。だが、僕には明確な好奇心が有った。真実を知りたい……と。「僕は知りたい、真実を」その言葉に森さんは満足したのか、満面の笑みを浮かべ僕の頭を撫でてくる。「良く出来ました。じゃ、行くわよ」「何処に行くんですか?」「勿論、閉鎖空間に決まってるじゃない」そう言って僕の手を掴み、歪みが生じている場所に連れ行かれる。「確かこの辺りね。古泉君、歪みに触れてみてくれない?」僕は彼女の言う通りに歪みに触れた。その瞬間、目の前が真っ白になる。気が付くと灰色一色の世界に居た。ここは一体何だ?「ここが閉鎖空間よ、あれを見て」森さんが示す方角に視線を送る、そこには蒼く透き通った巨人が居た。「綺麗だ……」思わず口から率直な意見が溢れる。「あなた変わってるわね、私には彼女の負の塊にしか見えないわ」呆れた様な、そんな表情を浮かべている森さん。「僕は彼女が怖かった。それは今でも変わっていません。でも、あの巨人はとても苦しそう。彼女も僕と一緒で苦しんでいるんですよね」「そうね、でもその苦しみを与えているのは彼女に違いはないわ」「それは……、解っています。でもあんなにも純粋に綺麗なのに……」言葉を続け様とした時、蒼い巨人の周りに赤く光る光球が視界に入って来た。「森さん、あれは?」「あれは君と同じ能力者。あの巨人、私達が神人と呼ぶ者と闘う宿命に置かれた戦士達」真摯な瞳で語る彼女はどこか悲しそうな表情を浮かべていた。確かに、理由からしたら理不尽極まりない事かもしれない。だが、彼女には必要だから僕達が選ばれたのかもしれない。「解りました……。僕が此処に来た理由」僕の言葉に森さんは怪訝な面持ちをしていたが、僕の言わんとする言葉の意を汲み取ったのか、「そう。半端な覚悟じゃ生き残れないわよ。戦い方は解るわね」「はい、何と無くですが。解ってしまうと言うのも困りますね」「ふふ……強い子ね。君が決めた事なら何も言わない。でも、これだけは言わせて。必ず、生きて帰って来るのよ」「はい!」僕は森さんに一瞥した後、意を決して歩を進めた。そう、僕が此処に来た理由。此処にいる理由。『守りたいもの』があるから。この腐った世の中に僕はそれ程絶望していない。この大地に立つ者として、この大地を愛する者として、僕は闘う。彼女の心を救うために――
――こんな所で良いですかね?これが僕と機関の出会い、神人との闘いの始まりです。皆さんの中には僕の事を誤解している方もいらっしゃるかも知れませんが、僕にも殊勝な心意気があるのですよ。「古泉君?何黄昏ちゃってるのよ」「おや、涼宮さんいらしてたんですか?」「キョンの奴が今日は用事があるからっていうから、理由を問い詰めるのに時間が掛っちゃったのよ」彼も毎日大変ですね。さすがに同情したくなりますが、それが彼に与えられた役目であり、彼にしか出来ない事。「それで、どうされたんですか?」「知らないわよ、一向に口を割らないから諦めたわ。どうせ佐々木さん辺りと遊びに行く約束でもしてんじゃないの?あいつはSOS団の活動を何だと思ってるのかしら」彼に限ってその様な行動を取るとは思えませんが、そうですね。備えあれば憂いなしという事で一つ念を押しておきますか。しかし、どうやら進級早々に僕のバイトも忙しそうだ。おや、早速携帯が。そろそろ失礼させて頂きます。続きはまた今度と言う事で。
願わくば彼女に幸せの一時を。
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