カレンダー(H-side)
「キョン、そこ間違ってる。」「何処だ?」「ここよ、ここ。」「ああ、そこか。」 あたしは今、キョンの自宅でキョンに数学の勉強をさせている。本当は部活の前に学校でやりたかったんだけど、あいつが教室でやるのは勘弁してくれって言うから仕方が無くここにしてやった。あくまでも仕方が無くであって、間違ってもキョンの部屋で二人っきりになりたかったなんて事はないんだからねっ!って、あたしは何でモノローグで言い訳してるのかしら?まあ、いいわ。 「そろそろ終わった?」「ああ…。よし、終わり。」「どれどれっ…。」 あたしはキョンから自作の予想問題を取り上げ、採点を開始した。 「――まる、まる、まるっと。まあ、こんなもんね。今日はここまでにしましょ。いい、出来れば次の中間までこのことを覚えてること。復習も忘れずにね。」前にも言った気がするけど、こういうことは何度でも言わないとね。じゃないとこいつすぐに忘れるんだから。全く困ったものね。「はいはい。」何か気に食わないわねその返事。「『はい』は一回でいいの。」あたしがそう言うとあいつは顔をしかめた。あらら、機嫌を損ねたかしら。あんたは子供?その時、偶々キョンの後ろにあるカレンダーが目に入った。4月―日に丸が付けてある。何かしら?「4月―日って何の日だっけ。」キョンは一瞬だけ考える仕草をして、「いきなり何だよ。」当然な返答をしてきた。「なっ、別になんでもないわよ。なんとなくよ、なんとなく。いいから答えなさい。」あたし何焦ってるんだろう。何だか気まずいわね。とりあえず引き続きカレンダーを見とくことにする。「さあな、別にただの平日だろ。そんなに気になるならネットで調べて見ればいい。」実にキョンらしい答えね。でも、あたしが聞きたいのはそういうのじゃないのよ。「そうじゃなくて、あんたにとって何の日なのかを聞いてるの。」「なんだよそれ。」あーもうっ!じれったいわね。「い、い、か、ら、早く言いなさい!」「わかった、わかった。だからいきなりこっちを睨むな。」それなら最初っから言いなさいよ。全く。「確かその日は去年の始業式の日だろ。」「そうだっけ?」あたしは余程間の抜けた顔をしてたんでしょうね。目の前のキョンは明らかに呆れた顔をしてる。 あたし達の間を約10秒沈黙が支配した。「何であんた去年の始業式の日覚えてんのよ。」「さあな。多分あの日のお前の自己紹介があまりにもインパクトがあったからじゃないのか。」「ふーん。」怪しいわね。別に嘘は付いて無さそうだけど、何か釈然としないわ。何でまた始業式の日なんかに丸を付けてるのかしら?そんな事を考えてると、キョンはやっとあたしが何を見てるのかに気づいたみたいで慌てて後ろを振りかえってる。遅いわよ、ば~か。「あたし知らなかったわ、あんたが始業式にそんなに思い入れがあったなんて。」キョン、今度はそっちが間抜け面になってるわよ。「カレンダーに丸を付けるほどに。」間抜け面もそこそこにキョンはすぐにむっつり不機嫌顔になったが何時ものことなのであたしは気にしない。「もっと面白いことかと思ったけど期待はずれね。まあ、キョンの記念日だしそんなものかしら。」「悪かったな。」口調と表情とは裏腹にキョン奴ほっとしてる気がする。やっぱり怪しい。「そんなことより下におりようぜ。そろそろ晩飯も出来るだろう。」キョンの奴あからさまに話を逸らそうとしてるわね。もしかして、記念日の確信に触れることが今までの会話にあったのかしら。例えば、始業式そのものが記念じゃなかったとしてもそれにかんけいする何かが記念的出来事だったとか。それなら、ここで逃がすわけにはいかないわっ!「ちょっと待ちなさい、キョン。」「なんだ。」あたしは顔が引きつってるキョンにじわり、じわりと近づいていく。「どうもおかしいのよね。勉強嫌いのあんたが、始業式を自分の記念日にするなんて。まだあたしに隠してることがあるんじゃない?」例えば、去年の始業式の日にあたしの知ら無いうちに誰かさんと運命的な出会いをした、とかね。「何のことだ?」逃げるキョンに追うあたし。さあ、何時まで逃げれらるかしら?「さぁて、何のことでしょうね。」当たり前だけど、狭い部屋でそんな追いかけっこが続くはずも無く、キョンはベッドに引っかかってそのまま倒れた。チャーンス!すぐさまキョンの上に跨り、「ふふふ。追い詰めたわよキョン。さあ、さっさと始業式の日のあんたの記念的出来事とやらを白状なさい。」「お前のかんぐり過ぎだって。」嘘ね。顔にちゃーんと描いてあるわよ。「あくまで白を切るつもり?だったらこっちにも考えが…」あたしは即座にキョンを問い詰める秘策を六つ程思いついた。さて、どれから試そうかしら…、ちょっとキョンそんなに暴れないでよ。「ちょっ、往生際がわるっ、きゃ。」 バタッ あたし達の間を再び沈黙が支配した。キョンが変にもがいたせいで、あたしはキョンに覆いかぶさってしまったみたい。キョンは耳まで真っ赤だった。おそらくあたしもそうだと思う。顔が熱い。先に正気に戻ったのはあたしだった。まだあたしの心臓はうるさく鳴っているけど、キョンのはもっと凄い。それがあたしに妙な気まぐれを起こさせた。「いい加減何の記念日なのか教えなさいよ。」文章じゃあ伝わら無いでしょうけど、この時あたしはキョンの耳元で少しだけ色っぽい声色で囁きかけていた。効果は抜群みたい。キョンは今まで見たことも無いくらい動揺してる。もう少しかしら。 ドクン 「キョン。」ドクンもう一押しとばかりに、今度は名前を囁きかけてみる。ドクン キョンの表情が何かを決意したそれになる。ドクン 「あのな…、ハルヒ。」ドクンきたっ。「何?キョン」ドクン 「4月―日は…、」ドクン「4月―日は?」もうちょっと。ドクン 「4月―日は、お…」 だっだっだっだっだっだっだっ バタンッ 「キョンく~ん、ハルにゃ~ん。ご~は~ん~だ~よ~♪」「妹ちゃん呼びにきてくれたのね。ありがとっ。」「へへ~。うんっ?ねえ~キョンくんどうしたの?顔赤いけど熱でもあるの?」「なっ、何でもない!」「ふ~ん。まあいいや。キョンくん、早く着替えておりてきてね。ハルにゃん行こっ!」 バタンッ だっ だっ だっ だっ だっ あたしは妹ちゃんと一緒に食卓に着いた。「きょんくん、きょんくん、ま~だ、かな~♪」しかし、おしかったわね。もうちょっとあいつ白状しそうだったのに。『4月―日は、お…』お、の後何て言おうとしたんだろ。「は~やくこないとさ~きにたべちゃうぞ~♪」 ―確かその日は去年の始業式の日だろ― ―さあな。多分あの日のお前の自己紹介があまりにもインパクトが あったからじゃないのか― 『4月―日は、お前と初めて初めて出会った日なんだ。』ふと、あたしの脳裏にそんなセリフが浮かんだ。これはありえないわね。なんたってキョンだし。「ハルにゃん、かんがえこと?」気が付くと妹ちゃんはあたしの顔を覗き込んでいた。「ちょっとね。」「あっ、わかった。きょんくんのことかんがえてたんだね。」す、鋭い。「な、ちち違うわよ。べ別にあいつの事なんて考えてないわよ。」「ふ~ん。」妹ちゃんは珍しく微妙そうな顔をしてる。あたし何かまずい事言ったかしら。 キョンがおりてくるまで特にすることの無かったあたしは携帯を開き、メールを一つ打つこことにした。あて先はもちろんあいつ。「こんなもんかしらね。」 本文 0/10000――――――――――晩御飯食べたら延長戦するんだからね!覚悟してなさい! 「送信っと。」あいつメールに気付くかしら?まさかマナーモードにしてるなんてことないわよね。 「きょんくんおそいな~。」「多分、もう少しでおりてくると思うわよ。」いくらなんでも、そろそろショックから立ち直ってるでしょ。「ほんとう?」「ええ。」 ダッ ダッ ダッ 「ほら。」「あっ、ほんとだ。」 さて、あいつはどんな顔して入ってくるのかしら?そんなことを考えながらあたしは扉へと視線をうつした。 Fin
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