ながとぅーみー 第八話「しにがみのバレット」
<SIDE ・・・:街中にて>「あぁ・・・ぐぁっ・・・!!」「意識をしっかり持って!」苦しむ友達と支える。「大丈・・・夫、くっ・・・! はぁ・・・はぁ・・・・・!」「私は、何か出来る事があるかな?」「・・・貴女は、傍で私を支えてくれれば良い・・・」「解った」「はぁ・・・はぁ・・・少し、落ち着いてきた」「ちゃんと落ち着くまでは休もうね」「あと、どれくらいこれを苦しまなきゃいけないんだろう・・・」「解らない。けど、いつかきっと治るよ」「もしも治らなかったら、榊くんみたいになっちゃうのかな・・・」「大丈夫だよ・・・私が守るから。大事な友達だもん」「ありがとう」「当然だよ。それに私レスリング部だから負けないもん」「ふふっ・・・もう大丈夫」「そう? じゃあ、歩こうか、鈴木さん」「うん。進もうか、日向ちゃん」私たちは手を握り合って、歩き出す。 ながとぅーみー 第八話「しにがみのバレット」 <SIDE ・・・,alias HINATA:街中にて>鈴木さんがこうなったのは学校をみんなで脱出しようとした時。負傷していた榊くんが突然暴れ出したのがきっかけ。後々解ったけどこれは人から人へと移るものらしい。感染症なのかもしれない。よくあるゾンビ映画のような感じだろうか。とにかく、榊くんは異常な行動を起こして、気絶した。それを心配して近づいたところを噛み付いたのだ。今思えばあれは死んでいたのが蘇ったのかもしれない。鈴木さんの右腕に、榊くんの歯は深く食い込んでいた。それを後藤くんと荒川くんの二人掛りで引き剥がして、あとはみんなで逃げた。みんな散り散りに逃げたからどうなったかは解らない。まだ感染を知らなかったから私は鈴木さんの手を握ってひたすらに逃げた。そんな彼女に異常が起きたのはしばらくしてだった。榊くんのように苦しみ出した彼女を見て、私はそれを直感的にそれと感じた。鈴木さんに何故同じ現象が起きたのか考えて、それが感染することに私は気付いた。同時に恐怖した。ならば鈴木さんもあのようになってしまうのかと。だから、私は傍を離れずに友達を支え続けた。声を掛ければ気絶、もしくは死なないんじゃないかと思って。強く意思を持っていれば、どうにかなるんじゃないかって。そう思ったから。それは正解だった。だって、私の友達はまだここに居るんだもん。でもそれは治った事にはならない。たまに苦しみ出す事があるからだ。発作の間隔は段々と長くはなっているけど、でも、予断を許せない。「日向ちゃん、寝なくて大丈夫? 私は大丈夫だから少し寝たら?」私は学校を抜け出してからあまり寝ていない。それは友人を守るためだ。「ううん、大丈夫。眠たくなったら寝るから」物思いに老けていたのを中断させられて、私は目の前の友人に微笑みかける。一人になるほど怖いものはない。だから、私は守らないといけない。友達を失わないように。友達を助けるべく。そして、こう言ったらきっと鈴木さんには失礼かもしれないけど、自分の為にも。「歩こう。ホテルINABAに着けばゆっくり休めるよ」「マスターキーで開けて閉じれば外から入ってこれるのはいないもんね」「そうだね。でも、それだけじゃないんだよ。重要な事に、食べ物もある」「なるほど。それは確かに重要ね」友達はにっこりと笑った。 <SIDE MIYOKICHI:街中にて> 「はぁ・・・はぁ・・・」「ミヨちゃん大丈夫?」「はい、なんとか・・・」ゾンビ、というのでしょうか。あれらから逃げ回って私達は今物陰に隠れています。中には犬も居て、それから逃げるのが大変ですね。嗅覚は麻痺してるようですが、見つかったら物凄い速さで追いかけてきますから。今の私達を守っているものは使い方のまだいまいち解らない銃だけです。何故か道端に落ちていたんですよね。警察の方々のでしょうか。反動も凄くてとても使えるものじゃないですし、これはあくまで緊急用です。「キョンくん達、大丈夫かな・・・」「お兄さん達なら大丈夫ですよ、きっと」そう信じなければ私はきっと逃げられない。逃げていつかまた会うという信念無しには逃げられませんよ。体力の限界まで逃げられるのはお兄さんが心の中に居るからなんです。あぁ、お兄さん・・・。大好きですよ、お兄さん・・・。はっ! 私、また私を見失って・・・。お兄さんを思うといつもこれなんですよね・・・。「ミヨちゃん、あれ見て」ふとこそこそと耳打ちされて、私はその指がさしている方向を見た。「・・・人ですね、二人」「良かった。合流したら少しは楽になるかも。あれ? よく見たらキョンくんと同じ学校の制服だ」私達は急いで物陰から出て大声を上げた。まだゾンビの可能性は払拭し切れませんが、人だという可能性に賭けたいです。「すいませーん!!」すぐ様、二人はこっちに気付いたらしく顔をこちらへ向けた。 <SIDE HINATA:街中にて> 「あれは・・・子供?」声がして、そちらを向くと子供が二人居た。一人は小学校低学年で、一人は中学生か? いや、二人とも小学校高学年かも。どちらにせよ幼い女の子が二人そこには居た。「生存者だね。私達以外にも居たんだ」私達はすぐ様駆け寄った。生存者が大人であれ子供であれ、居るのは嬉しい。希望が持てるから。他にも沢山生き残ってる人が居るんじゃないかって。今まで学校を脱出してからゾンビしか見てないけど。「良かった。人でしたか」「あ、やっぱりキョンくんと学校と同じ制服だー」二人はとても嬉しそうに笑顔で言った。私は一人の―――子供っぽい方の―――子がいった言葉に反応した。間違いない。今、この子はキョンくんと言った。「えっと・・・キョンくんのお知り合いなのかな?」「わたし、妹でーす!」「私は、この子のお友達です。お兄さんとはお知り合いです」「なるほど」「キョンくんにこんな可愛い妹が居たとはねぇー」私はしゃがみこんで頭を撫で撫でした。それぐらい可愛い。なんていうか、うん。小動物的な可愛さがある。こう、抱き締めたくなる、みたいな。キョンくんの妹の友達は吉村美代子と名乗った。・・・小学校六年生の割には、うらやましい発達ね。・・・私もまだ頑張れば、まだ成長するかな・・・。はぁ・・・。「あの、どうかしましたか?」「え? ううん、なんでもないよ。よろしくね、ミヨちゃん」とりあえず、妹ちゃんに合わせて私もミヨちゃんと呼ぶことにしよう。ふと、私は妹ちゃんのポケットがやけにボコッとしているのに気付いた。その形は、何処かで見たことがある。膨れ上がってる分だけで判断するのはやや安易だけど、これはそれかもしれない。「ちょっと、妹ちゃんポケットの中の物見せて」「あ、これあげる。拾ったまでは良かったんだけど私達じゃ扱えなかったの」そう言って取り出したのは無邪気な笑顔に似つかわしくない代物。それは間違いなく銃だった。一回テレビで見たことがある。確か、ベレッタというブランドの銃だ。無駄なことばかり覚えている私に自分でため息が出る。しかし・・・これがあれば、奴らと出くわしたときにどうにかなりそうかな。「ねぇ、お姉ちゃん達は何処に行くところ?」ワクワクという表情でキョンくんの妹が私に首を傾げていた。「私達はホテルINABAで休もうと思って、向かってるところよ」「ホテルINABA行くの? いいなぁ。わたしも行くー!」妹ちゃんはぴょんぴょんと跳ね回ってはしゃいでいる。子供は純粋でいいなぁ・・・。私もこんな頃があったのかな・・・。って、今、そんな純粋な時代に逆戻りしたら死んじゃうよね。「どうするの、日向ちゃん」鈴木さんが横から私の顔を覗き込んで聞いてくる。答えは決まってる。「当然、守ってあげなきゃいけないでしょ」「うん、当然の判断ね。じゃあ、同行って事で決定かしら」「そうね」私達四人はこうしてホテルINABAに向かって歩き出した。・・・少し不安。 <SIDE KYON:ホテルINABAにて> 「・・・ふぅ」ホテルINABAのスウィートルームで休んでいる俺たち。いっそここに安住しても良いんじゃないかって思えてくるのは何でだろうな。解ってる。このゴージャスさのせいだ。何といっても極楽の広さだからな。だが、いつまでも定住するわけにはいかないのも解ってる。しかし、この世界を終わらせる解答が解らないのではどうしようもないだろうな。何とかここを出るまでに考えなきゃいけない。くそ・・・冷静に考えろよ。どこをどうしたらこの世界は終わるのか。「・・・はい」ふと目の前に缶のお茶が出される。「あぁ、すまん。ありがとう、長門」「どういたしまして」長門は俺の横にちょこんと座ると手に持っているカルピスを飲んだ。そんな姿は本当に可愛らしくて、守ってやらないわけにはいけないという使命感に駆り立てる。それぐらい可愛いんだぞ? 小さな口に両手でもったカルピスをちびちび飲む姿は。もうね、どんなものも比較にならない。見たことは無いが恐らく全裸の朝比奈さんや、ハルヒの数万倍の威力があるだろう。俺の中では長門こそがナンバー1だ。それだけ大切な存在なんだ。・・・しかし、男より女が強いというのも悲しい話だな。守るどころか守られてるしな。あぁ、本当になんてこったい。「・・・・・聞きたいことがある」「なんだ、長門」「貴方は、私を抱きたいと思ったことがある?」「ぶふっ! げほっげほっ!」いきなり何を聞きやがる、俺の長門。お茶吹いちまったじゃないか。「・・・私は、正直体も小さくて、胸もない。そんな私を好きだと言ってくれる貴方を私も好き。だから不安になる」「何をだ」「私は、貴方を繋ぎとめるだけの魅力があるのかと」きょとんとして、一秒。俺は思わず噴出してしまった。可愛くて、面白くてな。「・・・ぷぷっ。くくくっ・・・あはははははははっ! 愚問だな、長門。お前には珍しく愚問だ」「私はいたって真面目。笑うことは許さない」長門が少しむっとしたような雰囲気で呟いた。そんな様子も可愛い。「解ってる解ってる。あのな、長門。別に体なんか関係ないんだ。愛しいと思える人なら関係ないんだ」「・・・・・・・・」「お前は十分魅力的だ」「・・・良かった」俺はぎゅっと長門を抱き締めた。あぁ、本当に小さくて華奢な体だ。なんていうか、アレをしたら壊れてしまうんじゃないかってぐらい。んー・・・長門を俺が抱く。想像できないな。まぁ、いつか出来たら良いなとは思うけどな。少なくともこの世界でそんなことはせん。というか、しばらくは出来ないだろう。・・・そういやインターフェースと人間の間に子供っていうのは生まれるんだろうか。ちょっと待て俺。話しが早いぞ。あぁ、こら。長門の裸を想像するな、俺。思考を別の方向に向けなければ。ええい! とんだ話の作用だ、べらぼうちくしょうめ。「しかし、いきなりどうしたんだそんな事を聞いてきて?」「・・・さっき、生徒会長がピンクチャンネルを見ていたと古泉一樹が苦笑しながら言っていたのを聞いて」「・・・こんな時に何をやってるんだ、生徒会長・・・」「大爆笑していたと聞いた」解らない。何か大爆笑できるところがあっただろうか。AVで大爆笑できるところ・・・。解らないな。あぁ、解らない。どうやら生徒会長は俺とは次元がずれたお笑い感性の持ち主のようだ。「・・・ちょっと私は涼宮ハルヒの部屋に行ってくる」「成崎達も居る部屋か。解った。行ってらっしゃい」・・・今のうちに俺もピンクチャンネル見ようかな・・・。・・・やめよう。そんなこんなで部屋でごろごろしてると扉がノックされた。「誰だ?」扉の向こうの存在に声を掛ける。「キョンくん、私」それはどうやら長門のバックアップさんの声のようだ。何のようなのか。というわけで部屋の扉を開けた。「・・・朝倉か? 何のようだ。・・・と、喜緑さんも居ましたか」「えぇ、こんにちは」・・・眉毛とワカメ・・・凄いな、こうして見ると。「何か?」「何でもねぇっす」ふと喜緑さんの背中から古泉がひょこっと顔を出す。「こっちの部屋でUNOやりませんか?」「古泉も一緒か。・・・解った。今そっちに行く」長門が戻ってきた時の為に、置手紙を残しておこう。 <SIDE KUNIKIDA:ホテルINABAにて> 「ねぇ、由良さん」「ん?」「今更なんだけど僕と同室で大丈夫なのかい?」僕は気になっていた事を聞いた。そうだ。そうなのだ。もともと一人一室だったのだが、それでは心細いという意見が出て一室に数人入れる事になったんだ。一部屋に必ず二人以上で、キョンと長門さんは別として、男子は男子、女子は女子で部屋を分けする筈だった。そしたら、由良さんは僕との相室を願ってきた。勿論、僕は驚いた。驚天動地と言えばいいか。いや、奇想天外か。いずれにせよその場が物凄い勢いで凍ったのを覚えている。由良さんは、男の子と居た方が安心できるし国木田くんなら信用できる、って言ったんだよな。ちなみに生徒会長、喜緑さん、朝倉さん、古泉くんはこの意見に賛同してこの四人で一室にまとまってる。残りの涼宮さん、成崎さん、阪中さん、朝比奈さん、鶴屋さんはこのメンバーで一室に集まっている。余った部屋には厨房から運搬用エレベーターに積んで持ってきた食料がある。さすがスウィートということだけあって部屋には業務用冷蔵庫があるからね。最上階だから安全だし。と、僕としたことが物思いに老け込んでしまっていた。我に返って視線を由良さんに戻す。視線がぴったりと一致して何だか気まずいね・・・。「わ、私は大丈夫・・・だよ?」「そう? なら良いんだけど。僕は異性と一緒に居ると実は緊張するタイプだから気になってしまってね」僕がそう言うと、由良さんの顔が少し陰りを帯びた。ん、どうしたか。「え、えっと・・・もしかして、迷惑だったかな?」おや、そういう事か。そうか、そうとも聞き取れてしまうか。これは反省しなければならないね。人との会話は自身の印象の上下に関わってしまう。 「まさか。由良さんのような方にご指名していただきありがたく思うよ」僕がそう言うや否や由良さんの顔が一気にボンとなりそうなくらい真っ赤にボーンした。・・・何を言っているのか解らないけど、簡単に言うと凄まじい勢いで顔が赤くなったってこと。そうだなぁ・・・ポロロッカ現象みたいなものかな。あ、ポロロッカ星人じゃないですよ?「そういう言い方は照れちゃうよぉ・・・」「おやおや、恥ずかしがりやなんだね」「・・・・・よか・・た」ボソッと由良さんが何かを呟くが聞き取れなかった。「何か言ったかな?」「へ!? あ、ううん、何でもないよ」「ふふっ・・・そうかい?」慌てて首を振る由良さんを見て僕は面白くて少しだけ吹いてしまった。「う、うん、そうだよ。・・・えっと・・・国木田君って彼女いるの?」「僕かい? 僕は居ないよ。生まれてこの方できたこともない」「本当に?」「うん、本当に」「意外だなぁ・・・」「そう言う由良さんも彼氏ぐらい居るんじゃないのかな」「私? 私も同じだよ」「へぇ・・・可愛いのにね」「か、可愛い?」「あ、顔が赤くなった。うん、本当に可愛いね」「あ、あ、ありがとう・・・」「はははっ」しばらくこんな時間がすごせればいいのにな・・・。ん? どうして僕はそんな事を思うのだろう。何故かな・・・。あぁ、そうか。ゾンビとかで騒がしくて疲れてるんだな、僕は。 <SIDE HINATA:ホテルINABAへの道中にて> 「あー、もう! 走りながらじゃ照準が合わない!!」「当然でしょ! 落ち着きなさいよ、日向ちゃん」「でも鈴木お姉ちゃん、立ち止まったら犬に噛まれちゃうよ?」「そういう問題でもないんですけどね・・・」私達は犬に追い掛け回されていた。しかも数匹。立ち止まるわけにもいかない。これで立ち止まったら間違いなく噛まれる。それだけは避けなくてはいけない。「仕方ないから、INABA手前の交番でやりすごしましょう」「あそこなら拳銃もあるかもしれないしね」「そういうこと。武器が必要になるわよ、これから。そんな気がするの」私達はとにかく走った。「あっ、ぐっ!」ふとそこで妹ちゃんがこけた。私は急いで駆け寄って手を差し伸べてあげる。「早く立ち上がって!!」「う、うん!」妹ちゃんのすぐ後ろに犬達が迫っている。どうする? 銃を撃つか。それしかないか。うん、それしかない!私は静かに狙いを定める。レスリングで相手をねじ伏せる機会を窺うのと比べればこれぐらい簡単でしょ、私。「・・・そこ!」引き金を、引いた。耳を劈く音がして、衝撃が腕を襲う。弾丸は犬の頭部を直撃した。それを見た瞬間に怖くなった。私は、生き物を殺してしまったんじゃないか、と。「まだ三匹居る・・・」「照準が、合わない。どうすれば良いの・・・!!」初めて撃った銃に、手が震える。銃を適当に連射しては妹ちゃんに当たる可能性がある。そんなのダメ。だけどもう三匹がすぐそこまで迫ってる。本当にどうしたら良いの。撃たなきゃいけないのに、何が怖いの。恐れたらいけないの。あれは生き物じゃない・・・生き物じゃないのよ、私。ふとそんな私の手に鈴木さんの手が重なった。「鈴木さん・・・」「落ち着いて、冷静に狙いを定めて・・・私も貴女の感じている罪を被るから」その声色にふっと心が楽になる。「・・・ありがとう」落ち着けば・・・撃てる。落ち着くの、冷静に・・・。引き金を引く。一匹を射抜く。犬が後ろに吹っ飛ぶ。「まだ・・・」引き金を引く。更に一匹。「最後!」外れた。もう一回。今度こそ当たって・・・!妹ちゃんの真後ろ。飛び掛らんと跳ねた犬を銃弾は貫いた。犬を撃退することに成功したようだった。ほっとして思わずヘナヘナと腰が抜けてしまったじゃない・・・。「よ、良かったです・・・」美代子ちゃんもへなへなと座り込む。「はぁ・・・はぁ・・・あぁ、銃ってしんどい道具ね・・・。ふぅ・・・ありがとう、鈴木さん」「どういたしまして」やっぱり頼れる友達っていいなぁ・・・と思う。 <SIDE KYON:ホテルINABAにて> 「・・・・・銃声?」それは俺の聞き間違いか。確かに銃声がした。古泉達とのUNOで繰り広げた死闘の後に部屋に戻り、俺は一人でベランダに出ていた。そうしたら、それは聞こえた。確かに、数発。もしかしたら罰ゲームを受けている喜緑さんの呻き声かもしれないがそれはないだろう。あの人がビリというのは意外だったが、今そんな事はどうでも良い。「もしかすると生存者が居るのか? 俺たち以外に」有り得る。どんなゾンビ映画にも生存者との合流ってのはよくある話だ。・・・それからだいぶ減りに減るのだが。まぁ、そんなセオリーがハルヒの改変して作ったこの世界に通用するとは思えないな。それよりも生存者が居るなら、それらを一箇所に集めた方が良い。そうすれば連携も出来るしな。いざという時の生贄・・・というわけではなくいざという時には助け合える。まぁ、チームワークをぶっ壊そうとする奴が居たら別だけどな。妹みたいに暴れまわる奴とかな。そういえば、妹はちゃんと逃げているだろうか。・・・あいつの事だから大丈夫だと思いたい・・・。「ここに集められるだろうか・・・」どうやったら良いか。どうしたら・・・。部屋の明かりがついてるぐらいじゃ来ないだろうし・・・。ん? ・・・待てよ。確かここは屋上に電光掲示板板があった筈だ。それを使えば。思い立ったが吉日。俺はいわゆるショットガンであるRDI ストライカー12を手に持つとさっさと部屋を飛び出た。「キョン、どこに行くんだい?」そして、飛び出るや否やこうして国木田に遭遇した。「国木田か。ちょうど良い。お前今銃を持ってるか?」「一応はね」そう言って見せて来たのはS&W M500。学校から脱出する際に渡した銃だな。「屋上の電光掲示板板をいじるぞ。もしかしたら俺たち以外に生存者が居るかもしれないんだ」「集めるのかい? なるほど。協力させてもらうよ」しかし、電光板掲示板設置している屋上に行くにはどうしたら良いんだ。普通の階段はいけないだろうし・・・。・・・そうか、非常階段なら。「よし、行くぞ国木田」俺たちは非常階段を開けて上へと続く階段を上り始めるのだった。「・・・今更だけど、キョン。電光掲示板って上で調節するものなのかな・・・」「・・・解らん・・・だが、上に行けば解る」「無駄足にならなきゃいいんだけどねぇ・・・」一歩一歩慎重に上がっていく。こつんこつん、と足音がするのがやけに響くね。 ―――こつん・・・こつん・・・こつん・・・ガサッ。 え・・・ガサッ?「・・・今、何か音がしたよね・・・」国木田がやや緊張した面持ちで言う。どうやら空耳では無さそうだな。「上の方からだな・・・どうする。引き返すか?」「・・・いや・・・」 ―――ズルッ・・・ズルッ・・・。 「近づいて来てる・・・よね」「・・・引き返せない、か」俺たちは銃を構えた。そして現れたのは、「・・・デカいな・・・」「これは、マズいかもね」とても巨大な、黒い蜘蛛だった。どうしようもないぐらいの大きさな。人間よりも大きいんだから相当のものだ。・・・しかし、こんな蜘蛛居るか?いや、考える暇があるなら今はこいつを殺す事を考えなきゃな。「国木田、撃ちながら下がるぞ」「了解」一発で頭を潰せればその必要も無いけどな。RDI ストライカー12の弾は12発。よもや使い切る事のないように祈りたいもんだな。何せ装填が面倒くさいし。そもそも弾持ってきてないし。「当たれ!」まず一発。引き金と共に鳴り響いた銃声は、非常階段内部で思いっきり響いた。巨大な蜘蛛の腹に穴が開く。だが、それでも進んでくる目の前の黒い物体に俺は古の生き物の誇りを見出したね。やっぱり昔から居る生き物は違うね。生命力というものが別物だ。よく家庭科室に出てきたゴキブリもそうだったな。頭潰れてなお動く黒い物体には恐怖を感じたのを覚えている。しかし、そんな頑張り見せられても困るんだ。そんなわけで俺はもう一発頭に入れた。そして、更に国木田が追撃する。こんな風に銃弾を数発食らった蜘蛛はピクピクと痙攣を起こし、止まった。「なんとか退治できたけど、しかし困ったもんだね・・・」国木田が腕を組んで目の前の蜘蛛の死体を見つめる。まぁ、困って当然だ。「これだけ大きいからな。これは通れない」「どうしようか・・・」「んー・・・仕方ない。一階に降りて、そっちで電光掲示板板を動かせるか調べるぞ」「ダメならこれをどかす事になるだろうけど、どうやってそれをするのかな?」「ジッポがあればどうにかなるだろう」「是非とも一階で動かせる事を祈りたいね」「あぁ、まったくだ」俺たちはそういう訳で一階に降りる事にした。勿論階段で、だ。結果から言えば、それが正解だった。一階にあるコンピューターで管理をしていたのだ。あのまま上に行ったら無駄足だった、って事だな。あの蜘蛛に救われたのかもしれないね、これは。電光掲示板の設定を変更して――と言っても俺じゃなくて国木田が――やっとこさ部屋に戻れる。「これは・・・キョン。これを見てくれ」突如国木田が少し焦り気味に俺を呼んだ。「ん? 防犯カメラのモニターか?」「そうだ。これを見てくれ」「・・・非常階段? ・・・・・別に何とも・・・・・これは」モニターに映ったのは夥しい数の蜘蛛の巣だった。そこには複数の人間が絡まっていた。ちょくちょく動いているのは気のせいじゃないだろうな。捕食され、全員ゾンビ化したのだ。これにより、あの蜘蛛もウイルスを所持している事が判明した。しかし、非常にえげつない映像だ。「・・・あの蜘蛛、非常階段に巣を作ってたんだ。そして、あと一匹、あそこには居る」モニターが別のカメラの映像に変わる。そこには蜘蛛が一匹、まだ動いていた。「危険だな」「うん、間違いなく危険だね。しかも、さっきのとは別型の蜘蛛だ」「別型、ね・・・これは非常階段のどこの映像だ?」「・・・すぐ後ろの非常階段だよ、キョン」国木田と目をあわせ、同時に後ろを見る。なるほど、ここにも非常階段が設置してあったのか。「・・・やばくないか?」「間違いなく、危険だね」もう電光掲示板も済ませたし、早く戻ろう。と、決めた次の瞬間、後ろの非常階段入り口がぶっ飛んだ。「なんという馬鹿力だ・・・くそっ」俺が銃を構えると同時にいきなり蜘蛛が俺に向かって飛んできた。こいつ、ハエトリグモか。図鑑で見たことがある。跳ね回るあのうざったい奴。すぐに引き金を引いた。命中した衝撃で蜘蛛を若干弾く。蜘蛛は複数並んだ単眼がぎらりと俺をにらんでいる。捕食者の目に相違ないな。こいつはさっきのより何倍も強そうだ・・・。俺はもう一発打ち込んでさっと蜘蛛から国木田と共に離れた。受付前の、上まで突き抜けているロビー。こうして見ると本当にこの建物は大きいな。ある程度の距離を置かなければいつ再び飛び掛ってくるか解らない。弾はあと九発。まぁ、大丈夫だな。「あれは・・・キョン、上に何かあるよ」「何?」国木田に言われて俺は見上げた。ロビーの真上、天井にあるステンドグラス。そこに、何かが居る。あれは・・・なんだ? 影しかよく見えないが・・・あれは・・・・・。「・・・まさか卵のうか?」蜘蛛の糸で出来た卵のう。形だけの判断だが・・・間違いなさそうだな。目の前に居るのはハエトリグモ。階段で殺したのとは別物だ。階段で殺した奴と同じアレがもう一匹、異性が何処かに居る。だが、それをやっつける前にあれを燃やす必要がある。あの中には子供がうじゃうじゃしているのだから。でっかい蜘蛛の子供だ。子供といえど人間を殺すには十分な大きさだろう。「ランチャーで燃やせるかな」「使ったら中に居るのが飛び散るぞ」「あぁ・・・蜘蛛の子を散らすことになるわけだね・・・」「とりあえず今は目の前のこれを倒すことに意識を向けるべきだ」「賛成だね」ハエトリグモへ俺達は銃口を向けた。がむしゃらに撃つよりどれだけ少ない弾で倒せるか・・・。狙い目はどこだ。反動でほんの少しでも動けない・・・そうか。「・・・着地の瞬間に隙があるな」俺は銃を構えチャンスを狙う。・・・跳ねる。宙に飛ぶ。宙から降りてくる。着地。「今だな」着地の反動で動けないハエトリグモの頭を狙いぶっ放す。嫌な粘着質な音を立てて潰れる頭。だが、まだ動こうとする。本当に原初の生物っていうのは強いな・・・。ほとほと感心するよ。だが、「とどめだね」国木田がそう呟いて、その息の根を完全に止めた。何やらこれだけ大きい生き物を殺すと罪悪感が沸く。まぁ、仕方ないさ。やらなきゃやられるんだからな。少しぐらいはご勘弁を願いたいね。ご冥福ぐらいなら祈ってやるから本当に許せよ。「さて、あれをどうするか、だね」「そうだな・・・・・」俺と国木田はそんでもって上を見上げて巨大卵オブ蜘蛛を見ていた。「んー・・・ん?」見ていたのだが、ふと気付いたのだ。様子がおかしいんじゃねぇの、これ。何か蠢いているっていうか何ていうか・・・。繭が避けて、中から・・・うげっ!?「ふ、孵化した!?」「キョン、急いで上に上がろう! あ・・・その前に内線で各部屋のみんなに連絡しなきゃ!」「解ってるって!」俺と国木田はとにかく急いでロビーカウンターから従業員の部屋へと飛び込んだ。 《!WARNING!》次回予告《!WARNING!》町の中で蠢く奴らの影が~。本来ならさっさとこのホテルを出るべくなのだろうが、生憎居心地が良すぎて動きたくない。そんな俺達とは別の生存者達がこちらへ向けて歩き出す。ホテルINABAに居る俺達。ホテルINABAへやってくる奴ら。なんか人数増えすぎて収集がつかなくなりそうな気がするのは気のせいか。気のせいだ。次回、ながとぅーみー第九話「フラッグキャット」 *いまさらですが注意。 次回予告は予告無しに変更されるパターンがありますので、ご注意ください。
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