足りない誰か
放課後、部室へと向かった俺はドアをノックする。 「どーぞ」 と返事が返ってきたのを確認してドアを開けた。部室にはもう全員揃っているみたいだ。朝比奈さんはメイド姿でお茶を用意し、古泉は一人で詰め将棋、団長様は団長席でネットサーフィンの真っ最中。いつも通りの風景。でも何故か俺は物足りなさを感じる。何かが…足りない…?「あんた何でこんな遅いのよ!もっと早く来なさい!」ぼんやりしていると団長様が睨みながら怒鳴った。「しかたないだろ。掃除当番だったんだから」俺が言い返すとフンっと鼻をならしながらパソコンの画面へ視線を戻し、またネットの世界へダイブした。おー、怖い怖い。 逆らうとすぐこれだ。「やあ、ちょうどよかった。一局いかがですか?」 ニヤケ面の古泉にすすめられ向かい側の席へ腰を下ろす。「やれやれ、お前も解らないやつだな。今のままじゃ俺には勝てないぞ」 「手厳しいですね。これでも努力して大分上達したんですよ」 そう言いながら古泉は対局の準備を始めた。そんなに自信があるのか?どれどれ、お手並み拝見…と。 「どうぞ。今日のお茶はいつもと違いますよ」 将棋を始めると朝比奈さんが机にお茶を置いてくれた。一口飲む。うん、相変わらずうまい。「ありがとうございます。おいしいですよ」俺が笑顔で言うと朝比奈さんはふふふ、と笑い椅子に座りお茶の本を読み始めた。勉強熱心な人だ。 本…?そういえば誰か本が好きなやつがいたな。一緒に図書館へ行ったような…誰だっけ。ダメだ…思い出せない。俺の思いはよそに、静かな午後の時間が流れる。やっぱり日常はいいな。普通が一番だ。でも…さっきから違和感がある。パズルで最後のピースがないみたいに…一人足りない気がする。4人全員揃ってる。間違いない。なのに…どうしてだろう…日が暮れるまで変な違和感は続いた。本当になんなんだ…「さあ、そろそろ終わりにしましょ。今日も帰りにいつものカレー屋に行くわよ」団長様はいつも着ているカーディガンを手にとるとパソコンの電源を切り、立ち上がった。「またかよ、ほんとお前はカレーが好きだな」「いいじゃない。おいしんだもの。あー、ずっとパソコンの画面見てると疲れるわー」 メガネを外して目をごしごしこすってる。そんなにこすったら目にバイ菌が入るぞ。みんなで部室を出て外に出ると、ゾロゾロとカレー屋へ向かって歩いていった。今日もいつも通りの一日だった。何かが足りないけど…気のせいだよな、きっと。
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