エンドレス ヘイト
※このSSは鬱系、人物の性格が壊れ気味です。 苦手な人は注意してください。抜け出そうとあがいても、結局は何度も何度も繰り返すだけ。記憶だけがどんどん増えていき、たまらない孤独を感じる。記憶を共有する事ができず、新しいスタートを切る仲間達。そんなみんなと一緒にいても一人だけ取り残された気分だった。ぐるぐるぐるぐる同じ場所を回り続ける。そう、まるでメリーゴーランドのような夏の日々。「またか…」朝起きて一人呟く。八月十七日の始まりだった。何度目なんだろう。途中から飽きてしまい、数えるのはやめた。何百年単位で同じ時間を生き続けた私は、昔と大きく変わった所があった。人間でいうところの<感情>というものを持つようになったのだ。最初はただエラーが蓄積されていくだけだと思っていた。だがいつしか私は気づいた。これは人間の持つ<感情>だと。感情を出すようになった私を見て、みんなは最初戸惑っていたみたいだが、すぐに新しい私を受け入れてくれた。嬉しかった。感情を表に出すこともなく、いつも無表情でいた自分。人を暖かくさせたり元気づける笑顔にずっと憧れていた。仲間と一緒に笑ったり、感動して泣いたり…そして彼に対しては仲間以上の好意を抱いたり…幸せを感じていた。だがそんな気持ちも最初のうちだけだった。どれ程幸せな時間を過ごしても、みんなとの素敵な思い出をつくっても、たとえ彼と結ばれても…八月が終わると、なにもかもが振り出しに戻っていた。私は諦めずに終わらない八月を抜け出そうと努力した。しかし何をしても無駄だという事を理解してしまった。だんだん私は感情を持った事に嫌悪を感じるようになっていった。うまくいかない事への苛立ち、同じ時間を繰り返す退屈さ、元凶である涼宮ハルヒへの憎しみ。いつだったか古泉一樹が言っていた。普通の人間なら精神を壊すと…その通りだ。人間の感情を持った私の心が壊れるのは簡単だった。気づけば昔みたいに無感情、無表情に戻っていた。 「早く起きなきゃね…」布団から出て身なりを整える。今日は何が起こる日だったか…プール?バイト?もうどうでもよかった。何が来ても私の心を直してくれるものなどないのだ。私は工場の機械のように淡々と毎日を過ごす事が一番楽だと悟った。「長門…その話は本当なのか?」時間を繰り返してるのではないか、と言った彼へそれが事実であることを説明した。これまでに彼が気づくことは何度かあった。でもループを終わらせることはできない。無駄だと解っていても彼に状況を話す。もしかしたら壊れた心にも、まだ人間らしく希望が残っているのかもしれなかった。「わかった…なんとかしてみるよ」彼はそう言い残し喫茶店を出ていく。私はその後ろ姿をじっと見つめていた。花火、天体観測、お祭り…何をしても楽しいとは感じない。微妙な違いはあるにしろ、根本は変わらない日常。事務的に毎日を生きていくだけだ。そして八月三十日を迎えた。「ちょっと待ってくれ!そう、宿題だ!」喫茶店から出ていこうとする涼宮ハルヒを彼が呼び止める。今までにない行動に私は少しだけ驚いた。「はあ~?あんた何言ってんの!?」涼宮ハルヒは呆れたような顔をして彼に詰め寄る。そして明日、つまり運命の八月三十一日にみんなで宿題をすることになった。そのことに私は少しだけ希望を抱いた。もしかしたら…今度はいけるかもしれない、と。「何でこんな問題もわからないのよ!」彼の家で集まって宿題をしている。先程から涼宮ハルヒは彼に付きっきりだ。「うるさいな…ちゃんとわかってるって…」自分から言い出したわりには一番勉強を嫌がる彼。早々と宿題を終わらせた私は、涼宮ハルヒと一緒に宿題を見てあげることにした。今までない出来事に少しだけ顔が緩む。「ふー、なんとか終わったな。みんな、今日はありがとな」宿題を終え、彼の家の前でみんなと別れた。自分の家へ戻ると私は時計をずっと見ていた。「お願い…お願い…」自分でも気づかないうちに小さな声で呟いていた。時計の針が午前0時になる直前、私は目を閉じた。恐る恐る目を開けると時計の針はしっかりと午前0時過ぎを指している。「やった…よかった」泣きながら時計を抱きしめる。感情なんて無くしたはずなのに…涙が止まらなかった。泣き疲れた私は睡魔に襲われ、そのまま横になった。今日はゆっくり眠れそうだ…もう八月十七日の朝に怯えなくていいんだ…やっぱり彼はすごい…私が変えられなかった八月を終わらせてくれた。ありがとう…ありがとう、キョン…朝が来て私はゆっくりと起き上がった。待ちに待った九月。これからは知ることのない未来が待っているんだ…嬉しさに包まれながら、時間を確認しよう手元に置いてあった携帯電話を覗きこむ。その瞬間私は固まった。「…なんで…どうして…」携帯のディスプレイには八月十七日と書かれていた。「あれは…夢だったとでもいうの…」訳がわからない。確かにこの目で見たのだ。八月を越える瞬間を。「クスクス、起きた?」声がしたほうを向くと涼宮ハルヒがいた。「なぜ…ここにいるの?」「んー、ただの暇潰しよ」楽しそうに笑う涼宮ハルヒ。一体どういう事なのか、わからない…「あたしさ、すっごく退屈だったんだよね。だから有希、あなたに遊び相手になってもらおうと思って。だからあなたを連れて何度も夏休みを繰り返したの」遊び相手…何の遊び相手…?それに…なぜ時間が繰り返していることを知っているの…驚愕の顔をした私を見ながら涼宮ハルヒは笑いながら言った。「あたしが自分の力に気づいてないとでも思った?少し考えれば解る事よ…世界を変える力があるってね」「えっ…」涼宮ハルヒは知っていたのか…自分が持つ巨大な力のことを。頭の中が混乱する。何も言えず、ただ口をパクパクさせた。「おもしろかったわよ。あなたが変わっていくのは。にこにこ笑い出すようになったのにしばらくしたらまた無表情。 見てて飽きなかったわー。それにさっきの有希の顔ときたら…フフフ、ねえ、今どんな気分?」「なぜ…なぜ…こんな事を…」また涙が溢れてきた。顔をぐしゃぐしゃにしながら私は叫んだ。「なんで私にこんな仕打ちをするの!」「言ったでしょ?ただの暇潰しよ」世間話のようにさらっと涼宮ハルヒは言った。私は涼宮ハルヒが無意識的に何か物足りなくて時間を巻き戻してるものだと思っていた。でも違う。自分の意思で何百年も繰り返しているのだ。つまり…涼宮ハルヒが飽きるまで、この狂った八月を繰り返すしかないということだった。「さてと、今度は何をしようかなー。精神的ないじめは少し飽きてきたから、次は肉体的苦痛がいいかしら?どうせ死んでもまた戻せばいいんだし」「やめて…やめてください…」声を震わせながら私は訴えかける。「あら、ダメよ。有希にはまだ遊び相手になってもらわなきゃ。楽しみにしててね」にっこりと笑う涼宮ハルヒ。嫌だ…嫌だ!もう自分だけ記憶を持ったまま繰り返すのは嫌だ!「待って!私には何をしてもいい…せめて…記憶を消して!もう耐えられない…お願い…します…お願いします!」私はすがり付いて涼宮ハルヒに泣きつく。「ダーメ。二人の楽しい思い出を消したくないでしょ?あはは、またね」私を軽く振り払うと涼宮ハルヒは部屋を出ていった。一人部屋に残された私はぼんやりと座り、考え事をしていた。みんなに相談しようか…ダメだ、涼宮ハルヒはいつでも世界をリセットすることができる…相談しても気づかれた時点でアウトだ。打つ手はないのだろうか……涼宮ハルヒはなぜ何百年も繰り返して気が狂わないんだろう。普通だったら…普通?何を言っているのだ。彼女は進化の可能性であり、この世界の神だ。自分の力を使って思うまま楽しんでいるに違いない。決して普通の人間なんかじゃないんだ。私は不運にも神の暇潰しに付き合わされているただの人形だ。助けて…キョン…私は心の中で彼に助けを求める。でも返事はかえってくることはない。これから訪れる新しい苦痛に恐怖した。身体を小刻みに震わせながらふと思う。まるでメリーゴーランドに乗っているような気分だ。八月も悲しみも憎しみも…全て終わらない。何度も何度も…同じ場所を回るだけ…誰も止めることはできない、終わることのない憎しみの八月…「あは、あはははははは…」私は壊れた人形のように静かに笑い続けた。
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