涼宮ハルヒの運命
以前コンピ研からパソコンを強奪した事のあるハルヒが今度はゲームをかっぱらってきた。突然、立ち上がり、「あぁっもう、退屈よ!」と、叫ぶとともに部室をずしずしと出て行った五分後に「待ってくれ!まだそれはインストールしていないんだ」と言うコンピ研部長の悲痛な叫び声が上がったかと思うと「だったら、SOS団のパソコンにインストールしなさい」と言う、ハルヒの命令が聞こえて扉が開く。「何で僕が」と、言いながらハルヒの後を追ってきて中へと入ってきたコンピ研部長が聞けば、「あたしがやりたいからに決まってるでしょ」と、さも当然のことのようにハルヒが答えた。まったく、その自信はどこから沸いてくるのかね結局、ハルヒの暴力に屈し、しぶしぶゲームをインストールした部長は「何で僕が・・・」と、ぼやき、俺を睨んで退出した。何で俺が睨まれなきゃならんのだ。ハルヒは満足げな笑顔で団長席に腰かけてゲームを始めた。それから一週間、ハルヒは放課後に限らず、昼休みまでも部室で過ごすようになった。チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出して部室でゲームをする。初日のハルヒの「何よこれ、小説?」と言う感想と表情からはとても想像できない反応だ。一体何のゲームだ?まぁ、そこまでハマりこんでも授業をサボったりしてないから文句は言えないがな。しかし、いや、その代りにだな、ハルヒは何故か俺たちを部室から追い出すということをし始めた。きっかけは、と言うか、一番最初にそんなことをした時、ハルヒは顔面を真っ赤にしていた。何事かと思い近づこうとしたとき「キョン、出て行きなさい」と、思ったよりは冷静に命令し、俺が目で理由を尋ねた直後に「いいから!とっとと出ていきなさい!」と、力の限り叫ぶ。慌てて退出したが全くもって理由が分からなかった。それからというもの、突然俺を、時にはSOS団員全員を追い出すようになった。その度に朝比奈さんは大慌てで、長門は本を読みながら、古泉はニヤケスマイルで部室を出る。回を増すごとにハルヒは落ち着いて命令するようになった。最後に追い出された時は「あー、キョン。出ていきなさい」と、めんどくさそうに言っていた。その時にはすっかり慣れていた俺は「やれやれ」と呟きながらのんびりと出て行くようになっていた。「ねぇ、あんた、願いが何でも叶うとしたら何を願う?」ハルヒがそんなことを俺に聞いてきたのはゲームに飽きたのか、部室に飛んでいくようなことがなくなってから数日後のことだった。願いが何だって?「だから、願い事よ。大金持ちになりたいとか、女の子にもてたいとか」さぁね、世界平和かね「真面目に答えなさいよ。まさか、そんなこと本気で思ってるわけ?」まぁ、本気ではないがそうなってもいいとは思うな。「そう言うお前は何をお願いするんだ?」いつかの七夕を思い出しながらそんなことを聞いてみる。「あたしは、その・・・」このとき俺はてっきりハルヒのことだから「もちろん決まってるじゃない!この世界の神になることよ!」位のことは言ってのけると思っていた。が、ふたを開けてみれば、目を泳がせて、「いいじゃない、そんなこと」と言ってそっぽを向いてしまうだけと言う、何とも拍子抜けな反応だった。まぁ、とんでもない事を言い出すよりはいいけどな。 その翌日、俺は学校に到着してからようやく異変に気づいた。「誰も、いない?」そんな馬鹿なとは思ったが、教室にも校庭にも、よくよく考えてみれば登校中も誰も見なかった。何だ?またハルヒの仕業か?「おーい、誰かいないのか?」そう叫んでみたが、返事はない。誰もいない。まさか本当に俺しかいないのか?以前にも似たようなことはあったが、その時はハルヒもいたし、起きたら突然そこにいた、と言う感じだった。ますますおかしい。何が起こってんだ?「ようやく見つけたわ」後ろからハルヒの声が聞こえた。よかった、俺だけじゃなかった。そう思うと同時に「またハルヒと俺だけか」とも思ったが違った。ハルヒの隣には見たこともない変な男がいた。「キョン、サーヴァントはどこ?」サーヴァント?何のことだ?「とぼけないで!あんたもサーヴァントを召還したはずよ。クラスまでは知らないけどあんたのことだからライダーとかその辺でしょ」さっぱり意味が分からん。わかるように説明しろ「あぁっ、もう!白々しいわね。いいわ、あんたがその気ならこっちにも考えがあるわ」ハルヒは腕を組んでそう言うと右手を人差し指を立てて前に突き出し「アーチャー、キョンがサーヴァントを呼ぶまで徹底的に痛めつけてやりなさい」おいおい、マジかよ「めんどくさい命令だな。いいぜ、やってやる」そう言うと金色の鎧を着た男は指の関節を鳴らす。ヤバい、とにかく逃げたほうががよさそうだ。俺はあたりを見渡し、逃げ込めそうな場所を探す。用具倉庫、あそこなら・・・「とりあえず、死んじまえ」男はそう言うと剣を俺に向かって振り下ろす。俺はそれを何とかかわすことができた。「本当に殺しちゃだめよ、アーチャー。サーヴァントが出てくるまで待ちなさい」くそっ、ふざけるなよ。俺は全速力で走る。教室に呼び出された時のように体が動かなくなるようなことはなかった。「マスターも甘いな。あいつがいなけりゃわざわざサーヴァントと闘う必要もねぇのに」倉庫まではもう少し。中に閉じこもって扉を閉めれば襲っては来れないだろう。話はそれからだ。「ま、俺が最強だから関係ないけどな」そう言うのと、俺の体が吹っ飛ぶのは同時だった。強い衝撃がぶつかったかと思うと、俺の体は倉庫の中に放り込まれていた。幸いにもマットの上に着地したため怪我はない。俺は急いで扉を閉め、開かないようにモップを立てかけた。一旦はこれで大丈夫か?「おい、とっとと出て来い。出てこねぇってんなら倉庫ごと吹っ飛ばす」倉庫ごと吹っ飛ばすだって?冗談だろ、ってか、無理だろ。いや、ハルヒがらみだ。本当にやりかねん。くそ、誰でもいいから助けてくれ。朝比奈さんは無理としても、長門でも、古泉でも、この際朝倉だって何でもいい。とにかく誰か、誰か!その時、地面が光った。今度は何だ?まさか本当に吹っ飛ぶのか?「問おう」聞こえたのは女性の声だった。「あなたが私のマスターか?」目の前には銀の鎧を身にまとった、金髪の女性がいた。「マスター、って何だ?」そう言えばハルヒがそう呼ばれてたな。「あなたが私を召んだのでしょう」女性がそう言う。俺がよんだ?何時?俺が呆然と女性を見上げていると、コンクリートででき来た倉庫の壁に穴があいた。「何だ、いるじゃねぇか。・・・っと、セイバーか」セイバー?知り合いなのか?「なるほど、いきなりずいぶんと厄介な相手に・・・」そう言うと、女性は見えない何かを構えて、男に飛びかかった。「っと、相変わらずだな。やはりお前は俺にこそ相応しい」それを受け止めた男はたやすくそれをはじき返した。「黙りなさい、アーチャー。私はあなたのものになるつもりはありません」「ふん、まだそう言うか。ならば」空いた壁の穴の隙間からハルヒが駆け寄ってくるのが見えた。その顔は女性を見て驚いているようにも見える。「ならば、貴様のマスターごと消し飛べ!」男の背面から無数の武器が現れる。「くっ」女性は再び男に向かっていく。それを男はいともたやすくかわした。「甘いな、このまま貴様のマスターが死ねば問題ない」マジか?「頭の悪い貴様のサーヴァントを恨むのだな。死ね!」「駄目、殺したらだめ!」そう叫んだのはハルヒだった。「・・・っ!霊呪を使っただと」男は焦った様子でハルヒを見る。その隙を逃さず女性が切りかかった。気がつけば、男の首が、なくなっていた。そのままグロテクスな場面を見せられると思ったが、倒れることなく、それは消えてしまった。何だ?これは夢なのか?「嘘・・・」その奥ではハルヒが膝をついて青くなっていた。「聖杯・・・戦争?」大泣きしながら思う存分俺を殴ったハルヒから大体の事情と聖杯戦争のことを聞いた。冗談のつもりで、いや、ハルヒのことだから本気だったのだろうが、降霊の儀式を行なったところ、サーヴァントを召喚してしまったらしい。聖杯戦争については・・・まぁ、勝手に想像するか調べてくれ。俺にはついていけん。とにかく俺は召んだ覚えのないサーヴァント、セイバーと共にその戦争に巻き込まれたらしい。「とにかく、あたしのアーチャーがいなくなったのはあんたのせいなんだから!責任とってあたしの願いを叶えなさい。いいわね」相変わらずの理不尽な要求だった。 「聖杯・・・戦争?」大泣きしながら思う存分俺を殴ったハルヒから大体の事情と聖杯戦争のことを聞いた。冗談のつもりで、いや、ハルヒのことだから本気だったのだろうが、降霊の儀式を行なったところ、サーヴァントを召喚してしまったらしい。聖杯戦争については・・・まぁ、勝手に想像するか調べてくれ。俺にはついていけん。とにかく俺は召んだ覚えのないサーヴァント、セイバーと共にその戦争に巻き込まれたらしい。「とにかく、あたしのアーチャーがいなくなったのはあんたのせいなんだから!責任とってあたしの願いを叶えなさい。いいわね」相変わらずの理不尽な要求だった。 さて、ハルヒの説明が終わり、俺たちは別のサーヴァントとマスターを探すべく学校を出た。「いい?あんたが死のうが何しようが私を守るのよ」死なない程度に守ってやるよ。「団員は身を呈してでも団長を守るものでしょう。大体、あんたが殺されそうにならなきゃあたしが勝ってたの。そのことをきちんと理解しておくこと。分かったわね」今度は負け惜しみか?「負け惜しみなんかじゃないの。あたしが勝ってたの」そんな強気なことを言いながらも、ハルヒははぐれないようにしっかりと俺の服を掴んでいた。まぁ、ハルヒでも自分が殺されるかもしれないと思えば怖いのかもしれんな。そんなことを考えながら歩いていると突然セイバーが立ち止まった。「マスター、気を付けてください。私たちの後ろから隠れてついてきているものがいます」何だ、早くも敵か?「分かりません。一人のようですが警戒するにこしたことはないでしょう」セイバーは真剣な目つきでそう言う。「誰かいるんならこっちから攻撃すればいいじゃない。先手必勝よ」ハルヒらしいというかなんというか。「いえ、先ほども言いましたが相手は一人です。迂闊に手を出してしまえばあなた方が危険です」そんなハルヒの提案に冷静な意見が帰ってきた。「まどろっこしいわねぇ。で?そいつはどこにいるの」「今はひとつ前の電柱の陰です。慣れているのかかなり上手についてきます」今度の相手はストーカーか。「ふーん。あの電柱の陰ね」そう言うとハルヒは立ち止まり、にわかに振り返り何かを投げつけた。「痛いっ」と言う聞きなれた声が聞こえる。「古泉君」「ははは、やはり涼宮さんには敵いませんね」古泉は笑顔で、両手を上げてこちらにやってきた。敵意はないってか?「警戒しないでください。僕はすでにサーヴァントを失っています」何かを構えるセイバーに古泉が言った。それでも警戒しているのか、セイバーは動かない。「安心しろ。こいつはそんな奴じゃない」「お言葉ですがマスター。そう言う人間ほど油断ならないものです」そんなもんなのかねぇ「ところで、涼宮さんのサーヴァントが見当たらないようですが?」古泉が訊ねた。「あたしは、バカキョンのせいで脱落しちゃったのよ」ハルヒがバツの悪そうに言った。「そうですか、では仕方ありません」古泉は手をおろして言った。「キョンくん。少々お話があります。こちらに来ていただけますか?」古泉は普段と変わりない態度で言った。「貴様っ!」警戒を強めたセイバーが言う。俺は手でそれを制して古泉の方へ歩き出した。古泉がそう切り出すときは何か重要なことがある時だ。特にハルヒ絡みのな。警戒を怠らずに進むセイバーの横にあふれんばかりの好奇心を体中に漂わせるハルヒが話しかける。それから少し離れた後ろで古泉の話を聞いていた。「つまり、今回マスターになってるのはSOS団のメンバーで、サーヴァントはランダムなんだな」「えぇ、そう言うことです」古泉が肯定する。「僕のサーヴァントはランサーでした。真名をきく前に消えてしまいましたが、宝具ですぐに分かりましたよ」古泉は肩をすくめて言った。 「武器はトライデント、そこからわかる正体はポセイドンです。流石は涼宮さん。そんなものまで呼んでしまうとは」ポセイドンって、海の神じゃねぇか「えぇ、性格は少しアレでしたが・・・」アレ?って何だ「第一声が『やらないか』でしたよ。驚きました」全く意味が分からん「それでいいと思います」古泉はそう言って笑った。何がおかしいんだよ。「で、相手は誰だったんだ?」「そうです。僕のサーヴァントが負けたのは、キャスターにです。そのマスターは長門さんです」長門か。その長門はどこにいるんだ?「それは僕にもわかりませんが、その相手のサーヴァントに少々問題が」問題?一体どんな?「そのサーヴァントと言うのが、その・・・」早く言え。気になる「長門さん自身なんです」長門が、サーヴァント?どうやら最大の敵はおそらく長門だな。と、俺は思った。「そしてもう一つ、今いる場所についてです」場所?何か罠があるのか?「いえ、そうではありません。すでにこの街がおかしいことにはお気づきですね?」あぁ、人っ子一人いないからな「そうです。誰もいません。以前そのようなことを経験したことはありませんか?」以前経験した?まさか・・・「そうです。ここは閉鎖空間です。いえ、正確にはよく似た空間ですね。コンピューター研究部の部長氏宅に発生したものの方が近いかもしれません。しかし、この空間は間違いなく涼宮さんが発生させています」ハルヒが?なんでまた「おそらく最近やっていらっしゃったゲームが原因ですね。かなり強く影響を受けたのでしょう。自分自身がそのゲームの登場人物になりたかった。そこで、この空間を発生させ、ゲームの続きを楽しんでいる、と言うことでしょう。このゲームが終わればおそらくこの空間は消滅します。我々も無事元の世界に帰ることができるでしょう。逆を言えば終了するまでは帰れません。とにかく、ほかの参加者を探すしかないようです」やれやれ、無理にでもあのゲームをやめさせればよかった。「そうかもしれません。しかし、この空間に神人は現れません。そのことを考えれば僕は少し楽ですね」そういえば、お前超能力は使えるのか?「閉鎖空間ほどではありませんが、可能です。サーヴァントを相手にして逃げきるくらいはできるはずです」そうか、俺にはよく分からんな「では、こう言いましょう。今力を使えばあなたを殺すことくらいは容易くできます」何だと?「冗談です。そんな事をすれば、いや、しようとすればその前に僕がゲームオーバーです」相変わらずのいやな笑顔でそう言った。よし、一発殴らせろ。 駅前の広場でいったん休憩し、その時にハルヒとセイバーに長門のことを話す。「確かに、サーヴァントがマスターになることは可能ですが、自分自身のマスターになるというのは初耳です」セイバーの感想だ。「何?じゃぁ、有希って魔術師だったの?」ハルヒ、お前は黙ってろ「とにかく、これからどうするかを考えましょう。まずは他のサーヴァントとマスターを・・・」「あのー、すいません」む、この舌足らずな喋り方は「やっと見つけました、キョンくーん」やはり朝比奈さんだった。もう大丈夫です、朝比奈さん。だから抱きつかないでください。胸が当たってます。いや、このままでもいいか。「ちょっとキョン!みくるちゃんから離れなさい。今すぐに」「マスター、危険です。早く離れて」二人がほぼ同時にそう言った。まぁ、二人で離れろの意味が違うんだろうな。「あ、あのあたし何が何だか・・・目の前に大きな男の人が現れて、妹ちゃんが来て、目の前で人がいなくなって・・・」と、言うことは朝比奈さんも脱落済みか。「あの、それで、今あたし追われてて」「追われてる?誰にです?」あ、古泉、俺が言おうとしたことを「あの、男の人と・・・」朝比奈さんの言葉をズシン、と言う音が遮った。何だ?地震か?そう思いながらあたりを見渡すとそこには3Mもあろうかと言う巨人がいた。「こ、この人です」このサイズなら間違いなく人じゃない。サーヴァントだな。セイバーは大男の前に立ち、戦闘態勢をとる。「マスター、いったん引きます。今のままで倒せる相手ではありません」何、そんなに強いのか「バーサーカーよ!間違いないわ。分かったらとっと逃げる」ハルヒは俺のネクタイをつかむと走り出した。おい、そんなに引っ張るな。古泉は男らしく朝比奈さんをかばいながら進んでいる。それは俺の役目だろ。セイバーは俺たちが逃げ始めてからも大男を相手にしていた。全力で走り、息を切らして立ち止まった。「だらしないわね!それでもSOS団なの?」ネクタイで途中首を絞めたのは誰だ「古泉君たちともはぐれちゃったし、どうすんのよ?」どうするたってなぁいろいろと考えてみるが何も思いつかない。いや、それより・・・「セイバーとはぐれちまったし、今誰かに会うのはまずいな」「どういう・・・」途中で俺の言いたいことに気づいたらしい。不安そうな表情になっていた。「大丈夫よ。もしもの時は霊呪使えば何とかなるし」霊呪?「さっき説明したでしょ。サーヴァントに命令を強制するためのものよ。あんたの左手についてるのがそれ」言われてから見てみれば確かに見たこともない模様が刻まれていた。「使えるのは三回。それがなくなったらサーヴァントもどっかに行っちゃうから気をつけて、慎重に使うのよ」三回か。少ないな「だから、変なタイミングで使わないの、いいわね」ハルヒはきつく俺にそう言うと歩き出した。「おい、むやみに歩かない方がいいんじゃないか?」「こう言うときは行動あるのみって言うでしょ」そう言うと勝手にどかどかと歩き始める。全く、本当に大丈夫か?そんな心配は的中する。ハルヒが角を曲がった瞬間だった。「キャァーッ!」ハルヒが悲鳴を上げて尻もちをつく。くそっ、言ったそばから「セイバー!」俺は左手に力をこめて名前を呼んだ。腕が焼けるように熱い。模様の一部が消えると同時にセイバーが目の前に現れた。「ハルヒ!大丈夫か」急いでハルヒに駆け寄る。ハルヒが見つめる方向を見るとそこにいたのはハルヒと同じように尻もちをついた朝比奈さんとそれを助けようとしている古泉だった。・・・おい、まさか「マスター、何事です?」緊張した面持ちでセイバーがあたりを睨んでいる。マズイ、言いづらいぞ。「キョン、あんた・・・」ハルヒが俺をにらむ。いや、言いたいことはわかるが俺はお前を助けようとだな「あれほど慎重に使えって言ったでしょう!バカ!」セイバーは状況が掴めないのか首をひねっている。朝比奈さんは「ごめんなさい、ごめんなさい」と、何度も繰り返し、その後ろで古泉が笑っている。さて、何と言ったものかと俺は頭をかいていた。「なぁ、だからそんなに怒るなって。仕方ないだろう、急だったんだから」なだめる俺をハルヒはそっぽを向いて無視する。「マスター、ハルヒの言うことは間違ってません。あまりにも軽率です」それをセイバーがさらに攻撃する。何だよ、そんなに俺が悪いか?「まぁまぁ、彼も反省しているようですし、そのくらいにしてあげては?」古泉、お前は俺に喧嘩を売ってるんだな「キョン君のせいじゃありません。あたしが悪いんです。あたしが驚かせたばっかりに」いえいえ、あなたのせいになるくらいなら喜んで自分が悪いと認めますよ。「と・に・か・く」ムッツリ顔のままハルヒが口を開いた。「今はバーサーカーの対策を立てましょ」その話を遅らせたのはハルヒ、お前がいつまでもすねているからだ。「では、そのことについては私が」セイバーが意見を述べる。「まず、バーサーカーは不死身です。前回の聖杯戦争で戦ったのですが、彼は七回殺さなければ死にません。ですから、正面から戦いを挑んでも勝ち目はないでしょう。」まさに化け物だな。「そこで、この街を利用して戦います。見たところ道は複雑に入り組んでいて、隠れる場所もたくさんあります。民家に多少の被害は出てしまうでしょうが、何故か誰もいないようなのでおそらく問題はないでしょう」要はゲリラ戦を仕掛けるってことか「そう言うことです。この作戦を成功させるためには誰かおとり役がいた方が楽なのですが・・・」俺はそれを聞いて古泉を見た。古泉は俺を見るとウィンクをした。気持ち悪い。「スミマセン、そのことなのですが」やはり古泉がおとり役か「僕にもっと素敵な提案があります」あ?何だって?古泉の進言どおりにやってきたのは学校だった。「もうすぐバーサーカーもやってくるはずです」古泉が言う。その通りになった。大男は校庭のど真ん中であたりを見渡している。その腕には誰かが乗っていた。「あれって・・・妹ちゃんじゃない?」そうだ、俺の妹だ。あいつ、あんなところで何を「どうやら彼女がマスターのようですね」何だって?「つまりは、そう言うことでしょう」妹は腕から飛び降りると「ここにいるのはわかってるの、早く出てきてよ、お兄ちゃん」残念だがお断りだ。「早く出てきて、お兄ちゃん」その叫び声に呼ばれて出てきたのは俺たちではなく長門だった。「あ、有希っ子だ。ねぇ?お兄ちゃん知らない」「知らない」長門は何故か文化祭の魔女っ子の服を着ていたが、とりあえずは作戦通りだ。「ふーん、まぁいっか。有希っ子襲ってら出てきてくれるかな」おい、妹よ。お前はいつからそんな恐ろしいことを考えるようになったんだ。「やっちゃえ!バーサーカー」大男が吠える。おいおい、大丈夫か?古泉の作戦は次のようなものだった。まず、バーサーカーをキャスターの、つまりは長門の前に誘きだし遭遇させる。長門がサーヴァントだと分かればバーサーカーは当然闘うだろう。もしここで、妹がバーサーカーを止めて長門が勝利すればそれでよし。止めずに戦い、どちらかが消耗してくれれば万々歳。と言うものだった。「で?肝心の長門はどこにいるんだ?」俺の質問に対して古泉は「心当たりがあります。もし、彼女が移動をしていなければの話ですが」それが学校だった。つまり古泉は俺たちが戦っていた時に長門と闘い、ハルヒ同様サーバントを失ったのだ。だから、あの時セイバーが俺のサーヴァントってことを知ってたんだな。かくして、俺たちは校庭の隅に隠れて様子を見ているのであった。バーサーカーが長門にきりかかる。その手に握られた剣は、一件小さく見えるがそれはバーサーカーの大きさ故であり、実際はかなり巨大だ。校庭には巨大なクレーターができていた。長門はそれを想像できないほど華麗な動きでかわすと手のひらを突き出した。「サーヴァント・ヘラクレスを敵性と判断。情報結合の解除を開始」そう言うと何かを早口で唱える。まさに魔術師だ。中身は宇宙人だが。「バーサーカー、何してるの?」突然動きを止めたバーサーカーに妹が不安そうな表情を浮かべた。「終わった」長門がそう言うと、バーサーカーはそのまま消滅を始める。「そんな馬鹿な・・・」セイバーが驚いた様子で、その光景を見ていた。あぁ、ありゃチートだよ。昔、実は俺は一回刺されただけで死ぬぞー、と言った不死身キャラがいたがあれよりひどいな。「ウォぉォォぉォぉ」最後のあがきとばかりにバーサーカーが叫ぶ。同時に長門に向って剣を振りおろしていた。グシャリ。バーサーカーも呆気なかったが、キャスターも呆気なかった。これで聖杯戦争は終わりか。思いがけない展開に誰もが呆然としていた。俺は隠れていた場所から出て妹のもとに向かった。 妹は泣きそうな顔をしていた。「バーサーカーが、死んじゃった」「大丈夫だ。俺が守ってやる」俺は妹を軽く抱きしめた。緊張の糸が解けたのか妹はわんわんと泣き出してしまった。「一件落着ですね」古泉がそう言った。あぁ、そうだ、終わったんだ。「で?どうすれば元の世界に戻れるんだ?」「おそらくは聖杯に願いを叶えてもらうことが条件でしょう。原作では、聖杯が願いを叶えてくれることはありませんでしたが、涼宮さんのことです。きっと叶えてくれることになっているのでしょう」「お前、原作を知ってるのか?」「えぇ、涼宮さんがずいぶん熱心にゲームをされていたので念のため調べておきました」流石古泉だな。まさかこいつ、四六時中ハルヒを見てるんじゃないか?「妹ちゃん、大丈夫?」ハルヒと朝比奈さん、遅れてセイバーが駆け付ける。セイバーは何かを探すかのようにあたりを見回している。「ハルにゃん・・・怖かったぁ」俺を押しのけて妹はハルヒに抱きつく。冷たいな、おい。ハルヒは妹をやさしく抱きしめて落ち着かせていた。「で、古泉。聖杯は何所にあるんだ?」「分かりません。ただ、おそらく涼宮さんがそれを知っているかと・・・」「いや、彼女は知らない。聖杯は涼宮ハルヒ自身」古泉の代わりに質問に答えた。が、全員がそれを聞いて血の気が引いた。答えの内容にではない、その声にだ。あり得ないとだれもが思っただろう。「嘘・・・」どちらについてなのかは分からなかったが、ハルヒが言った。「嘘ではない。事実」回答を返したのは紛れもなく制服姿の長門だった。「長門、お前・・・」そのあとに言葉を続けられない。おい、長門はさっき潰されたんじゃなかったのか?「潰されたのはサーヴァントとしての私」どういうことだ?「私はマスターとしてサーヴァントである私を召還した」「なるほど、そう言うことなら」納得したが、それでいいのか?セイバー。「それより、涼宮さんが聖杯と言うのはどういうことです?」古泉が流れをぶった切って質問した。「涼宮ハルヒの力と聖杯の性質は酷似している。だから彼女が聖杯である可能性が高い」だったらどうすりゃいいんだよ。「聖杯戦争の勝者が涼宮ハルヒに触れて願えば終わり」それじゃぁ、俺がハルヒに願いを叶えてもらえばいいんだな?「違う。願いをかなえるのは私」何だって?お前、サーヴァントを失ったはずじゃ・・・「問題ない。サーヴァントは私。そして、マスターも私」そう言うと、長門はもう一人の長門が潰された場所へ歩く。何をする気だ?「私はマスターでありサーヴァント」「私はサーヴァントでありマスター」気がつくと長門は二人になっていた。「待ちなさい、有希。あなたの願いは何なの?」ハルヒが長門に言った。長門は、どちらも無表情のままだ。「あなたには、言えない」長門が構えるのと、セイバーが飛び出すのは同時だった。遅れて古泉が光の球を作り出す。「ふんもっふ」それを二人の長門は容易くよけた。「一人目!」高く跳びあがった長門の一人にセイバーが切りかかる。長門は何か早口で呪文を唱えるとセイバーの何かを受け止めた。「っく!?エクスカリバーが、折れた?そんな馬鹿な」「折ったのではなく、消した。その武器は非常に厄介」愕然とするセイバーに、長門が淡々と答える。「セイバー!右よ!」ハルヒがセイバーに叫んで知らせる。次の瞬間にはセイバーは吹き飛ばされていた。「キョンくん、伏せて!」古泉の声がしたかと思えば頭の上を何かがかすめる。古泉の攻撃だ。「キョンくーん!私は何をすればいいんですかぁ」朝比奈さん、あなたは妹を連れて安全な所へ。どう考えても場違いです。「キョン、セイバーが」ハルヒに言われてセイバーを探す。セイバーは咳きこみながら片膝をついていた。マズイ、非常にマズイぞ。どうしたものかを考えていると小泉の叫び声が聞こえた。「涼宮さん!危ない!」今度はハルヒがターゲットか?「くそっ」俺はハルヒに飛びかかる。空中で伸びた背中の上を何かが通り過ぎた。そのままハルヒの上に覆いかぶさるような状況になる。こんな状況じゃなきゃ万々歳だ。「キョン!こんな時に何のつもり?ふざけないで」大真面目だよ、俺は「涼宮ハルヒ」長門が無機質に名前を呼んだ。「あなたはズルイ」・・・何だって?「あなたはいつも誰かが守ってくれる。信じてくれる」長門、様子がおかしくないか?「私は仲間にしようとした古泉一樹に全力で逃げられ、事情も聞いてもらえず、その上作戦と言う名目で利用され、ならばと、勝負を挑めばその他全員に攻撃される」・・・長門?「あなたは彼を殺しかけたにもかかわらず、仲間として迎えられ、その上、古泉一樹や朝比奈みくる、彼の妹までも手中に収めた。とても不公平」言われてみれば確かに・・・「えぇっと」ハルヒが何か思案するような顔で口を開く「確かに、有希は悪くないわね」「だから、私は・・・」長門の表情が見たこともないほど険しくなる。おい、いつものポーカーフェイスはどうした?「あなたを殺す」マジかよ。いくらなんでもそれは無いぞ。そんなことを言う暇もなく、長門がハルヒに向かってやってきた。「うぉぉぉぉぉっ!」それを息絶え絶えのセイバーがなんとか防いだ。「ふんもっふ」古泉がそれを援護するため長門を攻撃する。さっきの長門の話の後だと、何か罪悪感があるな。長門は古泉の攻撃をひらりと交わし、着地する。「これで終わり」何だ、次は何が来る?「あっれ~、霊呪なくなっちゃったぁ」全員が緊張の面持ちで長門を見つめる中、そんな気の抜けた声が聞こえた。「あはは、有希っ子めがっさ強いからかてるかなぁ~、と思ったのになぁ」そんなことを言いながら唐突に茂みから緑髪の女生徒が現れる。鶴屋さん?一体どういうことですか?「あはは、有希っ子から事情聞いて、あたしがマスターとして契約したんさ。こけおどしのつもりで有希っ子にいろいろさせたらそれで霊呪なくなちゃった」・・・はい?「あー、面白かったよ、ハルにゃん。さ、ささっと願いを叶えたまえキョンくん」愉快そうに笑う鶴屋さん以外は全員鳩が豆鉄砲を食らったようになっている。ハルヒ、セイバー、さらには朝比奈さんまでもが明らかに怒りをあらわにし、鶴屋さんを睨んでいた。「ええぇっと、やっぱ怒ってる」鶴屋さん、ある意味当然です。俺は飛びかからんとするハルヒの肩に手を乗せて願った。『さっさと俺たちを元の世界に戻してくれ』白い光に包まれる中見えたのは、鶴屋さんに馬乗りになって殴りかかる朝比奈さんの姿と「ちょっと、何か忘れてない?」と言って、慌てた様子で話しかける二人組の姿だった。 さて、元の世界に戻ってからの話をしよう。まず、ハルヒはあの一件を夢だと思ったらしい。自分とアーチャー(真名はギルガメッシュと言うらしい)が俺たちのサーヴァントをけちょんけちょんにしたと言う武勇伝を自慢げに話し、古泉を苦笑させていた。朝比奈さんは、最後に見た姿が間違いだったのかと言うほど鶴屋さんと仲良く話している。時折、鶴屋さんがおびえたような表情になるのは俺の気のせいだ。長門はいつもの無表情でハードカバーを読んでいる。あれはやっぱり鶴屋さんにやらされていた演技だったんだな。古泉は相変わらずの笑顔でハルヒの話にあいづちをうっていた。俺がその役をやるはめにならずにすんでよかったよ。俺はため息をついて朝比奈さんの入れたお茶をすする。もう二度とあんなことはご免だな。「ところで、少々気になりませんか?」ハルヒからようやく解放された古泉が俺に話しかけてきた。「長門さんの願い、ですよ」長門の?「えぇ、そうです。体裁上、鶴屋さんの命令で言ったことになっていますが、もし、本当に彼女に何かしらの願望があるとすればそれは興味深いことです」あぁ、そうか。勝手に妄想してろ「あなたは興味がありませんか。あなたなら何か答えてくれると思ったのですが・・・」残念そうに肩をすくめると、古泉は詰め碁を始めた。やれやれしかし、長門の願望か・・・。気にならなくはないな。ぼんやりと考えながら長門を見る。 窓際で分厚い本を読む長門の表情はいつになく満足げに見えた。 柊 ~舞台裏~ねぇ、アサシン。ひどいと思わない?最後の最後で長門有希と涼宮さんの彼をしとめようと思ったら出番なしのまま終了よ?しかも、誰も私たちの存在に気付かないまま。そもそも、後半部分なんてぐだぐだもいいところじゃない。夢だと思った涼宮さんはそれでいいんでしょうけど、これはSSよ?期待して読んでくれてた住人さんに悪いと思わなかったわけ?しかも、初めから出すつもりはなかったみたいな流れだし。いつからあたしは空気キャラになったの?空気は谷口で十分よ!・・・え?国木田?誰それwまったく、次こんな扱いだったら許さないわよ。あなたも何か言いなさいよアサシン。アサシン?聞いてるの?あー、もう。しょせんあたしはバックアップなんだろうけど、バックアップとしての仕事すらないじゃない。無能な上司のいやだけど、有能すぎる上司はもっといや!いいから出番をよこしない!何?扱いづらいですって?さっさと消失読みなさいよ!そもそも原作チェックせずにSS書くなんてあなた一体何を考えてるの?反省しなさい!何?あと三行?この行含めて?嘘、ちょっと待ちなさい!セット片づけないで!あーもう!覚えてなさいよ 語り手:朝倉涼子+空気 fin
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